前回に引き続き、ジャパンモビリティショーで印象に残った企業を紹介します。今回は Global Mobility Service株式会社(以下、GMS) です。
■GMSの技術とサービス概要
GMSは2013年に設立された企業で、モビリティと金融を融合したFinTechサービスを提供しています。中核となるのは、車両に搭載する遠隔通信制御機器であるIoTデバイス 「MCCS」(Mobility Cloud Connecting System) です。このデバイスは遠隔起動制御機能を備え、走行状況や速度などの車両データを収集します。さらに、金融機関と連携して取得した支払い状況などの金融データと組み合わせて分析することで、ドライバーの信用力を可視化します。
この仕組みにより、従来の与信審査に通過できなかった人でも、MCCSを設置することを条件に、ローンやリース契約が可能になります。契約者が支払いを滞納した場合には、車両を安全に遠隔制御し、支払い完了後に再び利用できる仕組みとなっています。
■サービスがもたらす価値
このサービスは、単にお金を借りやすくするだけではなく、車を使えるようにして生活や仕事の選択肢を広げます。具体的には、契約者・金融機関・販売店のそれぞれにメリットがあります。
・契約者:車を持てなかった人が車を利用できるようになり、仕事や生活の選択肢が広がる
・金融機関:貸せなかった層に融資でき、貸出機会が増える
・販売店:売れなかった車が売れることで販売台数が増加する
結果として、車の利用により仕事ができる幅も増えるなど所得向上や生活改善につながる可能性があります。GMSはこうした課題解決を目指し、すでに海外法人を設立するなど、グローバル展開にも力を入れています。
■盗難防止への応用
MCCSは、車両盗難防止にも活用できるとされています。GMSは、株式会社Secualと三井住友海上火災保険と提携し、「Secual Smart Security」という新しいセキュリティサービスを共同開発したと発表しています。背景には、近年急増しているとされる電子的な盗難手口があります。例えば、車両の電子制御信号を不正に操作してドアを開けたりエンジンを始動させる「CANインベーダー」と呼ばれる手法などです。警察庁によると、2024年の自動車盗難認知件数は6,080件で、その7割超が施錠中の車両を狙った犯行とされ、最短1分で盗まれるケースも報告されています。
また、損害保険の支払いも増加しており、日本損害保険協会によれば、2024年には1件当たり平均281.5万円の支払いが発生したとのことです。こうした状況を踏まえ、3社は「防犯×モビリティ×保険」による新たなモデルで、盗難ゼロ社会の実現を目指すとしています。
■展示会での印象
GMSの取り組みは、「車を持てない人に持つ手段を提供する」という社会課題解決型のビジネスと言えます。払えないから諦めるのではなく、どうすれば使えるようになるかを考え、その利用が生活改善につながる仕組みを構築しているように感じました。経済的な理由で車を持てない層にとっては、こうした仕組みが新しい選択肢になり得ます。また、生活だけでなく、仕事や移動の幅を広げるという点で、GMSの挑戦は非常に興味深いです。(小田 沙樹子)
2025年10月29日(水)、ジャパンモビリティショーに参加しました。本コラムでは、展示会で印象に残った企業の取り組みを紹介します。今回は Cuebus株式会社 です。
■Cuebus社の技術とは?リニアモータで実現する新しい物流システム
Cuebusは、リニアモータを活用した都市型立体ロボット倉庫 「CUEBUS」 を提供しています。この技術の核となるのは、床面に設置したリニアモータユニットによって棚を直接動かす仕組みです。これにより、棚側にはモータやバッテリーが不要となり、耐久性が高く、メンテナンス負荷も軽減されます。さらに、通路を不要とし、天井ギリギリまで収納できるため、倉庫スペースを極限まで活用できます。
加えて、すべての棚を即座に動かせることで、ピッキングや入出庫の処理速度を飛躍的に向上させる「高スループット」性能を実現。複数の棚を同時に、最短経路で移動できるため、従来のロボット倉庫よりも効率的です。
この技術は倉庫内の効率化にとどまらず、物流全体の仕組みを変える可能性を秘めています。背景には、荷物の小口化による取扱量の増加や、ドライバー不足、さらに2024年問題に伴う労働時間規制の影響で輸送力の低下が懸念されるといった課題があります。
■従来の発想との違い
こうした状況に対して、これまで物流の効率化といえば、自動運転の実現に向けた取り組みが一般的でした。私自身も、輸送力不足への対応はこの方向が中心だと思っていましたし、場合によっては鉄道や空路など、既存の代替手段を組み合わせることも検討されていると考えていました。実際、こうした取り組みを進める企業もあります。
しかし、Cuebusの提案は全く異なります。「移動体を使わず、荷物そのものを専用レーンで動かす」という発想です。リニアモータで貨物を直接搬送する仕組みは、物流の概念を根本から変える可能性があります。
■自動物流道路構想との接点
今回の展示でCuebusが紹介していたのは、国土交通省が構想する 自動物流道路(Autoflow Road) への技術応用です。自動物流道路とは、道路空間に物流専用レーンを設け、クリーンエネルギーを電源とする無人・自動化輸送手段で貨物を運ぶ仕組みを指します。もしこの仕組みが実現すれば、ドライバー不足の解消や荷待ち時間の削減、積載効率の改善に加え、CO₂排出ゼロによる環境負荷低減が期待されます。さらに、専用レーンと電力供給が整えば、24時間稼働による幹線輸送の効率化も可能になります。
■展示会での印象
正直、「荷物だけを動かす」という発想は目から鱗でした。国交省の構想とCuebusの技術が結びつけば、物流の未来像は大きく変わるかもしれません。インフラ整備やコスト回収など課題はあると思いますが、今後の動向を注視したい企業の一つとなりました。
2025年10月16日、PayPayは対象加盟店で利用可能なデジタル商品券を友達や家族に送れる「PayPayギフト」の提供を開始した。
https://about.paypay.ne.jp/pr/20251016/02/
送り手はPayPayアプリの「送る・受け取る」機能から、プレゼントしたい加盟店の商品券の金額を1円単位で自由に設定し、任意のメッセージとデザインとともに送ることができる。送られたPayPayギフトは「PayPay商品券」として受け取ったユーザーのアプリ内の支払手段に自動登録される。1度の利用で使い切る必要はなく、余った分は次回の支払で利用できるほか、PayPay商品券以外の支払手段との併用も可能になっている。
友人や家族に気軽にギフトを送れるサービスとしては「LINEギフト」がある。私自身も同サービスでギフトを送ったり、貰ったりした経験があるが、LINEの連絡先さえ知っていれば送ることができるため利便性が高く、若年層を中心にかなり定着している印象を持っている。
現状、今回発表された「PayPayギフト」の送り先としては、「PayPayの連絡先を知っている(≒過去にPayPay残高を送受したことがある)」または「電話番号を知っている」相手となっており、個人的にはLINEより若干ハードルが高いように感じる。送ってから利用されるまでのプロセスがPayPayで完結し、日常の決済と同様の操作で簡単に利用できるという価値を通じて、個人間ギフトの新たな定番となれるか、今後の利用状況を注視したい。
当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
10月27日、JR東日本は平均通過人員が1日あたり2000人に満たない“ご利用の少ない線区”の経営情報を開示した。対象となった36路線71区間の収支はすべてが赤字であり、総額は789億円に達する。コロナ禍後の移動需要の戻りやインバウンド効果もあって24区間で改善が見られたものの、54区間で営業費用に対する収入比率が10%を下回った。
航空業界も国内路線は実質赤字状態だ。燃料費、資材の高騰、新幹線やLCCとの競合、利益率の高いビジネス客の減少が収益を圧迫、国際線の利益でこれを補う。路線バス会社の経営も深刻だ。コスト高と運転士不足を背景に2023年度には総延長2496㎞ものバス路線が廃止に追い込まれた(2025年版交通政策白書)。道路、橋梁の老朽化も進む。離島振興法の対象となる254の離島と本土を結ぶ286の定期航路(2022年4月時点)の苦境は言わずもがなである。
採算のとれない地方の公共交通はどうあるべきか。長年この問題に取り組んできた両備グループ(岡山)を率いる小嶋 光信氏は、“補助金に依存しない欧州型の公設民営化が有効”と訴える。この4月、滋賀県の近江鉄道は上下分離方式による公有民営方式の鉄道として新たなスタートを切った。存続ありき、廃止ありきではない。鉄道、バス、BRT(Bus Rapid Transit)、LRT(Light Rail Transit)、それぞれについて費用便益分析を行った結果である。10月1日には両備グループ傘下の両備バスの2路線の公設民営化も実現した。市民、行政、事業者が一体となった取り組みを応援したい。
さて、JR東日本が“ご利用の少ない線区”の経営情報を発表する意図はどこにあるのか。同社は「地域の方々にご理解いただき、建設的な議論を進めるため」と説明する。とは言え、“モビリティと生活ソリューションの二軸によるヒト起点のライフスタイル・トランスフォーメーション”を掲げる同社の経営ビジョン「勇翔2034」のトップメッセージに「地方」というワードは見当たらない。20の赤字路線を7つの黒字路線で支えることで岡山県内の路線バス網を維持し続けてきた小嶋氏の覚悟と凄みは感じられない。公共交通は文字通り公共財であり、社会資本である。地方の縮小が急速に進む今、一企業、一業種、一自治体を越えた次元で国土の未来を構想し、国全体のシステムとして公共交通ネットワークを再設計する必要がある。JRグループこそ、その主役であって欲しい。
今週の“ひらめき”視点 10.26 – 10.30
代表取締役社長 水越 孝
ウイングアーク1stは2025年10月15日、生成AIを全面的に採用したBIツール「MotionBoard」の新バージョンを同年12月20日より提供すると発表した。
新バージョンは、自然言語で指示するだけでAIが最適なダッシュボードを自動生成する機能を核としている。これにより、従来は専門知識が必要でユーザの大きな負担となっていた、データの可視化や分析方法を考えるプロセスを大幅に簡略化する。同社は、生成AIが出力する結果の揺らぎや高コストといった業務利用上の課題に対し、画面生成時にのみAIを呼び出し、一度生成したレイアウトは保存して再利用する独自のアーキテクチャを開発した。これにより、表示の安定性とコスト効率の両立を実現した。さらに、システムの構造化データと現場の非構造化データを統合し、データ入力機能も強化することで、単なる可視化ツールを超えた「データ活用基盤」としての進化を目指す。
「業務アプリなBI」を志向するMotionBoardは提供開始から約14年が経過し、累計導入社数も3,900社を超えた。既存ユーザの多くはオンプレミス版での利用だが、近年同社はクラウド版での導入・刷新を進め、順調にクラウド版が増加している。この生成AIが組み込まれたMotionBoardでは、2026年度で500社の導入目標を掲げ、クラウド版での利用がさらに拡大するだろう。
ブレインパッドは2025年10月16日、第三者検証を手掛けるベリサーブと共同で、生成AIプロダクトの品質を定量的に評価するテストフレームワークについて発表を行った。
この取り組みは、ブレインパッドが提供するAI検索サービス「Rtoaster Gen AI」の品質保証プロセスで実践されたものである。生成AIは、その確率的で予測困難な性質から、従来のソフトウェアテスト手法では品質の網羅的な担保が困難という課題があった。今回ベリサーブの協力を得て行ったテストでは、まず生成AIを用いて多様な入力データを自動生成し、テストケースを大幅に拡充する。次に、出力内容の正確性や関連性、有害性、法令遵守といった複数の観点から自動でスコアリングを行い、客観的な評価を行う。これにより、テストの網羅性を30倍以上に高めつつ、人による確認作業を効率化し、AIの品質を社内外に説明しやすくなった。
生成AIの社会実装が加速する中、その品質と安全性をいかに担保し、企業としての説明責任を果たしていくかは喫緊の課題である。この定量的な評価手法はAIプロダクト開発におけるリスクを管理し、過度なリスク懸念から活用に踏み出せない企業の背中を押す可能性を秘めている。
2025年10月15日、ハードウェアの第三者保守を主力事業とするブレイヴコンピュータ株式会社は戦略発表会を開催した。
一般に第三者保守には、保守パーツの調達やマルチベンダーサポートといったメリットがある。それに加えてブレイヴコンピュータの「つなぎ保守」では、3~5年の保守契約が可能、自社拠点・自社エンジニアによる対応といった強みも持っており、2011年の設立以来、累計75,000台・700社超の保守実績を積み上げ、さらに近年は新規引合数も増加傾向にある。
しかしながら第三者保守の実態として、海外では第三者保守が保守サービスにおける主要な選択肢のひとつである一方、日本では活性化し始めているもののいまだ十分に活用されていない。
このような状況を受け、ブレイヴコンピュータは一般社団法人ひとり情シス協会と提携し、第三者保守の活用シナリオ等を発信することで、認知向上や利用促進を図っていく。
第三者保守に対してユーザー企業が抱くイメージは様々であろうが、ブレイヴコンピュータは真摯な姿勢で第三者保守事業に取組んでいる。今回、あわせて見学させていただいたカスタマ・テクニカルセンター「BRAVE BASE」では、保守パーツの管理・取扱いの現場を目の当たりにし、そのひたむきさを垣間見ることができた。今後の日本における第三者保守のイメージ向上に期待したい。
2025年10月14日~17日に幕張メッセで開催されたCEATEC 2025に参加し、16日に損保ジャパンのセミナーを聴講しました。セミナーでは、「安心・安全・健康・行動で溢れる未来へ」というグループビジョンのもと、SDV(Software Defined Vehicle)、自動運転やライドシェアの社会実装をキーワードに、次世代モビリティ領域における取り組みが紹介されました。
セミナーでは、交通事故の約95%が人為的要因に起因しているという現実や、都市部にまで広がるドライバー不足の課題が示されました。こうした課題に対し、損保ジャパンは保険会社の枠を超えた支援体制を構築しているとのことです。例えば、自動運転専用保険の開発のほか、整備工場との連携によるインフラ支援や事故対応体制の整備など、社会実装に向けた包括的な取り組みが展開されている様子が語られていました。
さらに、セミナーでは、損保ジャパンが10月から展開を開始する次世代モビリティ領域の統合ソリューション「SOMPO MobineX」について詳しい説明がありました。MobineXは、事故の未然防止から事故時対応、事故後の復旧までを包括的に支援する仕組みであり、安心・安全なモビリティ社会の構築を目指すサービスとして設計されています。
具体的には、同社はMobineXを通じて以下のような多様なソリューションを提供していきます。
• 自動運転車両の導入支援(SOMPO ALCS)によるリスクアセスメントや緊急時対応
• ライドシェア導入をワンストップで支援するサービス
• 通信型ドライブレコーダーと車両管理BPOを組み合わせた運行管理
• モビリティデータの利活用による都市計画支援
• EVレスキューサービス
これらの取り組みは、グループ内外の総合力とパートナー企業との連携によって実現されており、交通空白地やドライバー不足といった社会課題の解決に向けた有効な手段として位置づけられていました。
損保ジャパンが保険の枠を超えてモビリティ領域で包括的なソリューションを提供する姿勢は、次世代モビリティ社会の実現に向けた挑戦として非常に印象的でした。
当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
10月18日、トランプ大統領の強権的な権力行使に対する抗議デモが首都ワシントン、ニューヨーク、シカゴなど全米50州、2700か所以上で開催された。スローガンは「NO KINGS(王様はいらない)」、700万人を越える米国民が「反トランプ」を訴えた。とりわけ、この2週間前、州兵の派遣が承認されたシカゴでは20万人もの市民がデモに参加、政権による権力の乱用を非難した。
首都ワシントン、ロサンゼルス、メンフィス、、、治安悪化を理由に次々と州兵の派兵が承認される。「犯罪と暴動が蔓延、制御不能な無法状態にある」とされたシカゴもまた然りだ。とは言え、今年上半期の殺人事件は前年比3割減(米刑事司法評議会)、重大犯罪は減少している。結果、裁判所はシカゴへの派兵を差し止めた。しかし、これに懲りる王様ではない。居並ぶ軍の高官を前に「派兵は“内なる敵”との戦いだ。騒乱を鎮圧するためにこれらの都市を訓練場として使いたい。納得できない者はクビだ」などと演説した。
派兵対象となった州・都市はいずれも民主党の地盤である。トランプ支持者はNO KINGSデモを「反米集会」と呼ぶ。政権の意に添わない国民は非国民というわけだ。英国訪問を終えた帰路、トランプ氏は自身に批判的な番組の司会者を名指ししたうえで、そうした番組を放送するテレビ局は免許を取り上げられるべき、と発言した。王様はもはや自身の独裁的志向を隠そうともしない。
米国防省は新たな報道規制に同意しない報道機関の記者証を剥奪した。米国土安全保障省も外国人記者のビザの有効期間も現行の5年から240日に短縮するという。情報は統制され、フェイクがフェイクのまま正当化され、強制される。これこそ強権国家の常套手段だ。国家機密を盾に歴史を隠ぺいしたい政府と真実を国民と共有することこそ国益と信じる記者たちとの戦いを描いたスティーブン・スピルバーグ監督の映画「ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書」(2018公開)の一場面が思い出される。最後に“輪転機”は回った。はたして世界はそこに抗い続けることができるか、他人事ではない。
今週の“ひらめき”視点 10.19 – 10.23
代表取締役社長 水越 孝
富士通は2025年10月6日にソニー銀行の新勘定系システムにおいて、機能開発への生成AI適用を2025年9月から開始したことを発表しました。
2026年4月までに、すべての勘定系システムの機能開発に生成AIを適用していく予定です。
https://global.fujitsu/ja-jp/pr/news/2025/10/06-01
システム開発に生成AIを活用する取り組みは既にあちらこちらで始まっていますが、「銀行」「勘定系システム」という点で市場にインパクトを与えそうです。
システム開発に生成AIを活用する取り組みは今後さらに広がり、開発効率の向上につながっていくと考えます。(小山 博子)
今回のレポートでは、注目動向のひとつに人的リソースへの対応を取り上げました。取材にご協力いただいたベンダーの皆様にも、ユーザー企業の人手不足や人員確保の課題に対する不安の声が届いているようです。その中で進展しているAIによる業務効率化や自動化は、人手不足の観点からも歓迎できる一方、人材育成をどのように行っていくかという問題を突き付けるかもしれません。中・長期的な視点が必要なトピックであり、今後もユーザー・ベンダーの取組を注視したいと考えています。(佐藤 祥瑚)
2025年10月9日に「2025 CAD/EDA市場の実態と展望」を発刊しました。
昨年に引き続き内容のリニューアルを行い、製造業に焦点を当てたCAD/EDA市場に関する調査結果をまとめています。
3D CAD移行、クラウドシフト、AI機能実装が着実に進むとともに、注目が集まる半導体の設計ツールであるEDAが伸長していることで、市場は堅調に推移しています。
今回のレポートでは、世界市場規模および機械系CADにおける業種別・ユーザー規模別の分析を追加しました。マーケット分析やソリューション選定にぜひお役立てください。(佐藤 祥瑚)
https://www.yano.co.jp/market_reports/C67113800
株式会社justInCaseは2025年10月1日、「ソニー少額短期保険株式会社」へ社名を変更した。これは2024年12月にソニーフィナンシャルグループの子会社となったことを受けた社名変更である。
「株式会社justInCase」から「ソニー少額短期保険株式会社」への社名変更について | News|ソニー少額短期保険株式会社
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「わりかん保険」で注目を集めたjustInCaseは、少額短期保険の枠組みの中で、ベンチャーならではの柔軟な発想と機動力を活かし、革新的な商品を展開してきた。スマホ保険や健康行動連動型の「歩くとおトク保険※新規受付終了」、短期加入型のケガ保険など、従来の保険の常識にとらわれない設計は、業界内でも一目置かれる存在だったといえる。
そのjustInCaseが昨年12月、ソニーフィナンシャルグループに買収されたことは、ベンチャー企業としての「成功」といえるだろう。そして今回、社名を「ソニー少額短期保険株式会社」へと変更したことで、ソニーフィナンシャルグループの一員であることが明確になり、ブランド力や信頼性の面では大きな強化が図られる。
一方で、柔軟な発想を活かした商品づくりが続くかどうかは今後の課題となるだろう。大手グループの一員となったことで、リソースやチャネルは広がると思うが、意思決定のスピードや商品開発において、従来の機動力が保てるかが問われる。ソニーの名を冠した新体制のもとで、次なる「わりかん保険」のような革新的な商品が生まれるか。今後、どのような商品が打ち出されるのか、気になるところである。(小田 沙樹子)
当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
漫画家でイラストレーターの江口寿史氏に対する“トレパク”批判がSNS上で過熱している。トレパクとは第3者が権利を有する写真やデザインを無断で“トレース”して商用利用する、つまり、他者の作品を“パクる”行為を言う。発端はルミネ荻窪のイベントポスターであるが、Zoff、デニーズ、セゾンカード、桜美林大学とのコラボ作品でも疑惑が指摘される事態となっている。
同様の問題は2020東京オリンピック・パラリンピックの公式エンブレムの選定プロセスでもあった。佐野研二郎氏がデザインした作品に模倣疑惑が生じると、氏の過去作品に遡って“元ネタ”との対照画像がネット上で次々とアップされた。結果、氏のデザインは採用中止となった。所謂“特定班”と呼ばれる匿名の有志たちによる“正義”の成果とも言える。しかしながら、結局のところ一人の作家を陽の当たる場所から遠ざけただけで、創作と模倣に関する議論が進んだとは思えない。
芸術作品では、第3者の知的財産の利用を一定程度認める“フェアユース”と第3者の知的財産をベースに新たな表現や価値を生み出す“アプロプリエーション”という概念がある。しかし、これらは常に著作権と表現の自由の間でせめぎ合う。この問題では写真家ゴールドスミスが撮影した肖像写真をもとに製作されたアンディ・ウォーホルの作品がゴールドスミス側から訴えられた裁判が有名だ。一審はウォーホル側が勝訴、二審はゴールドスミス、最高裁はゴールドスミスの訴えを認めた。
横に倒しただけの男性用小便器を「Fountain」(泉、1917)と名付けて展示したマルセル・デュシャンの作品を思い出していただきたい。国旗を描いた絵画なのか、国旗そのものであるのか、を問いかけるジャスパー・ジョーンズの「FLAG」(1954-1955)もまた創作と引用、創造と模倣の境界が主題である。今、デジタル技術の急激な進歩と普及により著作物の加工、修正、編集、複製に特別な技量は必要ない。誰もが著作者になれるし、同時に権利侵害者にもなり得る。それだけに“トレパク”問題を契機に生成AI時代における創作と権利に関する丁寧な議論を期待したい。著名な作家を追い込み、謝罪させ、留飲を下げるだけでは問題の本質には届かない。
今週の“ひらめき”視点 10.12 – 10.16
代表取締役社長 水越 孝
2025年9月30日、NTTドコモビジネスは2025年度事業戦略に関する説明会を開催した。
近年、モバイル競争の激化等事業環境に変化がもたらされる中、同社は改めて事業戦略を見直し、大企業のみならず地域・中小企業も含めて、すべての法人顧客に価値あるソリューションを提供し、競争力強化や地方創生等の課題解決に貢献する”産業・地域DXのプラットフォーマー”を目指すことを打ち立てた。
そのベースとなるものが自律・分散・協調型社会を支える「AI-Centric ICTプラットフォーム」である。同社は今後このプラットフォームを進展させるとともに、キードライバーとして位置づけたAI、IoT、デジタルBPO、地域・中小DXという4つの領域を事業強化する。
AI-Centric ICTプラットフォームの中核は”NaaS(Network as a Service)”である。NaaSの特長は、AIの自律性に対応できる柔軟でリーズナブルなネットワークサービスの展開にある。NaaSの活用により顧客は、従来システムインテグレーションにより実現してきたような様々な機能を必要な時に安価に利用できる。また例えば、エンドポイントセキュリティを導入することが難しい産業機械等IoT機器においても、AI技術を活用したネットワークに用いることで普段と異なる通信を検知する等のセキュリティ対策が可能となる。
NaaSになじみのない企業も現在は多いだろうが、IoTセキュリティやAIインフラ基盤等をネットワークテクノロジーで支援すると考えるとその意義が理解しやすく、多くの企業が抱える課題を解決しうる可能性を感じる。今後の広がりに期待したい。
日本生命は2025年9月26日、学研ホールディングスと資本業務提携を締結したことを発表。教育・福祉分野に強みを持つ学研との連携により、介護・保育・医療福祉領域でのサービス強化に加え、事業者への経営支援サービスの拡充や新たな事業モデルの構築を目指すとしている。
20250926.pdf
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日本生命は、ニチイに続いて学研とも手を組むことで、介護・保育・教育・福祉領域での事業基盤を広げている。学研といえば教育のイメージが強いが、実際には保育園や学習塾に加え、高齢者住宅や認知症グループホームなど、福祉分野にも幅広く展開している。こうした福祉領域への取り組みを踏まえると、今回の提携は単なる教育分野の強化にとどまらず、介護や高齢者対応まで視野に入れた、より包括的な展開につながる可能性がある。
人口減少と高齢化が進む国内市場では、保険会社は保険だけに頼らず、周辺領域でも事業の柱を立てていく必要がある。日本生命は、ニチイや学研といった業界大手と連携することで、介護・保育・教育・福祉といった保険以外の領域でも事業を広げている。また、同領域は保険との相性も良く、チャネルとしての活用も期待できる。こうした領域と早期に結びついた企業は、保険契約者との接点を多様化させたり、付加価値のあるサービスを組み合わせたりすることで、保険事業の展開において有利に働く可能性もある。
今後、他の生命保険会社がどのような動きを見せていくのかも気になるところである。(小田 沙樹子)
オラクルがOracle Fusion Cloud ApplicationsのHCM領域に新しいAIエージェントを追加することを発表しました(米国発表2025年9月16日)。
この発表を受けて、日本オラクルは人事におけるAIエージェントの最新動向に関する説明会を同月29日に開催しました。
すでにリリースされているだけでも相当数の機能があることを改めて知る機会になりました(圧巻でした)。
今回追加されるAIエージェントももちろん複数で、そのうちのひとつが「キャリア・エージェント」です。
本エージェントは、従業員の経験と関心に基づいて募集中の職務と従業員をマッチングし、その職務に対する従業員の適格性を評価した上で、他の候補者の中で際立たせるための推奨事項を共有します。
AIエージェントの生み出す効果といえば、生産性向上などが想起されますが、同社のAIエージェントは業務の質をも向上させると同社は言います。
当該領域への投資は今後も進むとみられ、今後どのようなエージェントが追加されていくのかも楽しみです。(小山 博子)
今回のレポートでは、注目動向のひとつに人的リソースへの対応を取り上げました。取材にご協力いただいたベンダーの皆様にも、ユーザー企業の人手不足や人員確保の課題に対する不安の声が届いているようです。その中で進展しているAIによる業務効率化や自動化は、人手不足の観点からも歓迎できる一方、人材育成をどのように行っていくかという問題を突き付けるかもしれません。中・長期的な視点が必要なトピックであり、今後もユーザー・ベンダーの取組を注視したいと考えています。
本日、2025年10月9日に「2025 CAD/EDA市場の実態と展望」を発刊しました。
昨年に引き続き内容のリニューアルを行い、製造業に焦点を当てたCAD/EDA市場に関する調査結果をまとめています。
3D CAD移行、クラウドシフト、AI機能実装が着実に進むとともに、注目が集まる半導体の設計ツールであるEDAが伸長していることで、市場は堅調に推移しています。
今回のレポートでは、世界市場規模および機械系CADにおける業種別・ユーザー規模別の分析を追加しました。マーケット分析やソリューション選定にぜひお役立てください。
2025年9月25日、ワークスアプリケーションズの事業戦略説明会が行われました。
ERPも機能では差異化が難しくなっていますが、今回、同社の説明会に参加し、これは差異化のポイントになっていくだろうと思った点がいくつかありました。
そのひとつが、「Delivery Lead Timeの圧縮」です。AIをはじめ、発展していく機能に導入スピードが追い付けないのでは顧客にとって損失です。
案件次第とのことですが、いま、平均12-18カ月かかっている導入期間について、同社は4割程度削減することを目指しています。
できるだけ早く製品の価値を実感し、成長につなげたい気持ちは各ユーザー共通の思いのように考えます。(小山 博子)
住友生命は2025年9月22日、健康増進と資産形成を一体的に取り組める新商品「ドルつみVitality」を発表した。2026年1月より販売を開始する予定で、米ドル建て積立保険に健康増進プログラム「Vitality」を組み合わせた仕組みとなる。
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住友生命のVitalityシリーズは、これまで保障性の高い保険商品との組み合わせが中心だったが、今回は資産形成の色合いが強い外貨建て保険との組み合わせとなっており、これまでとは異なる切り口で展開されている印象を受ける。最近は「資産形成」という言葉を耳にする機会が増えているが、健康増進プログラムと組み合わせることで、保険の新たな価値提案につながるように思われる。
Vitalityは健康に関心のある層が取り組むものという印象が強かったが、資産形成というインセンティブが加わることで、これまで取り込めていなかった層にも利用が広がる可能性がある。加えて、Vitalityの仕組みに魅力を感じて、同社の外貨建て保険を選ぶという動きが生まれることも考えられる。
健康と資産形成の両立を可能にする設計が、保険選びの新たな軸になっていくのか、今後の利用状況や市場の反応を見ていきたい。
当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
9月30日、文部科学省は今年4月に小学校6年生と中学3年生を対象に実施した全国学力・学習状況調査の都道府県別、政令指定都市別の集計結果を発表した。対象教科は小学生が国語・算数・理科、中学生が国語・数学・理科。正答数によってA層~D層に分類、総じて大きな地域差は認められなったものの、D層の比率がもっとも高い地域と全国平均との差は最大で1.5倍、最小の地域とは同2倍の開きがあった。また、世帯の所得と両親の学歴を指数化した社会経済的背景(SES、今回は「家にある本の冊数」で代替)と学力との相関は地域別以上に顕著であり、とりわけ、算数、数学にその傾向が強く表れた。
では、世界の中で日本の児童・生徒の学力はどのレベルにあるのか。国際教育到達度評価学会(IEA)が58ヵ国・地域の36万人の小学生、44ヵ国・地域の30万人の中学生を対象に実施した調査「TIMSS 2023」によると日本は小学生の算数が5位、理科が6位、中学生の数学が4位、理科は3位、4年ごとに実施される調査において理科は若干順位を下げたものの、初等教育における理数科目の“平均点”は依然として世界のトップレベルにある。
ところが大学レベルになると突如見劣りする。大学進学率こそ6割に迫るものの人口100万人あたりの修士号取得者数は592人、英の13%、米の23%にとどまる(NISTEP、2019年度)。世界大学ランキング(英Times Higher Education)では東京大学ですら28位、慶応が601-800位グループ、早稲田が801-1000グループという有様だ。
高度人材の枯渇は国力低下に直結する。野依良治氏(ノーベル化学賞、2001年)は「社会の新陳代謝の鍵は動的平衡すなわち構成員の流動性にある」とし、「多様な“異”との出会い、他人と異なることへの好奇心が大切」と既存社会への埋没を戒める(CRDSコラム(66)より)。世界の留学生は560万人(2020年)、うち日本の受け入れ数はわずか4%だ。同20%の米国が知の自由と移動に規制を課しつつある今、日本は先端分野における教育研究体制を世界レベルに引き上げる絶好のチャンスである。
今週の“ひらめき”視点 9.28 – 10.2
代表取締役社長 水越 孝
2025年9月19日、ユニクロは独自の決済サービス「UNIQLO Pay」の終了を発表した。9月末から10月中旬にかけて新規会員、支払方法の登録・変更の受付を終了し、2026年1月中旬から末に順次サービスを終了する予定としている。
https://faq.uniqlo.com/articles/FAQ/100006473
UNIQLO Payは、銀行口座やクレジットカードを登録すれば、ユニクロのスマホアプリの会員証を提示するだけで決済まで行えるサービスとして、2021年1月より提供されてきた。しかし近年は、ユニクロの店舗でさまざまな決済サービスが利用可能になる一方で、UNIQLO Payの利用は伸び悩んでおり、サービスを終了するに至った。
近年では、小売・流通業界を中心に事業者が「ハウスペイ」と呼ばれる独自の決済サービスを導入するケースが増えている。その多くは顧客の囲い込みを目的として、高還元率での自社ポイントの付与をはじめ、自社の決済サービスを利用することのメリットを前面に押し出し、利用を促している。
一方でUNIQLO Payではポイント還元などは行っておらず、あくまで「会員証の読取のみで決済まで完了する」という手間の解消を訴求ポイントとしていた印象がある。そのため、顧客側が他の決済手段と比較してUNIQLO Payを利用するメリットを感じにくく、利用が伸びなかったものと考える。
UNIQLO Payのサービス終了は、ユニクロのスマホアプリ戦略にとって一つの転換点になると言える。今後ユニクロアプリがどのようなアップデートされるか、日常的にユニクロを利用する顧客の立場としても楽しみである。(都築 励)
相模鉄道は2025年9月17日、三井住友カードの公共交通向け決済システム「ステラトランジット」を採用し、2026年春から相鉄線全線でクレジットカードなどのタッチ決済サービスを順次導入することを発表した。
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相模鉄道の取り組みについては、以前5月23日にも紹介した。かつて沿線に居住していた元ユーザーとして、つい注目してしまう。今回は、クレジットカードによるタッチ決済の導入の発表である。
恐らく2027年に開催予定の国際園芸博覧会も見据えた対応とも受け取れるが、訪日客への配慮だけでなく、日常利用者にとっても利便性が高まる可能性がある。切符購入や交通系ICカードへのチャージといった手間が減ることで、利用のしやすさが向上することが期待される。
導入は2026年春以降とされており、まだ少し先の話ではあるが、すでにJR線・東急線との相互乗り入れを開始している相鉄において、乗り入れ先との決済連携がどのように進めていくか注目したい。
なお、タッチ決済は他の路線でも導入が進んでいるものの、実は私はまだ試したことがない。今回の発表をきっかけに、実際に利用してみたいと思っている。(小田 沙樹子)
SBIホールディングス社は、音楽フェスティバル「MUSIC CIRCUS」を主催するMUSIC CIRCUS社を連結子会社化すると発表した(9月10日)。
https://www.sbigroup.co.jp/news/2025/0910_15722.html
SBIグループは「メディア・IT・金融の融合」という戦略的構想に基づき、「プラットフォーム×IP・タレント×先端技術×制作機能」を掛け合わせたドメインにおいて「発掘」「拡散」「投融資」を連動させるネオメディア生態系の構築を目指すとしている。
今回の連結子会社化によるシナジーの一つとして『Web3技術を活用した「ネオメディア生態系」のリアルイベントへの実装』が挙げられている。イベントチケットをNFT化し転売防止や付加価値を提供したり、デジタル通貨やNFTを活用した会場内キャッシュレス決済、来場証明やデジタルグッズとしてのPOAPの発行など、リアルとデジタルを融合させた次世代イベント体験創出を狙っている。
一時期の勢いを失ったWeb3であるが、米国などでは仮想通貨が一定のポジションを築くなど足元では広がっているようにも見える。まだまだ使いきれてない魅力をいかに体現していけるかに懸かっているのだろう(忌部佳史)
今回は4年ぶりの発刊ということで、初めて本テーマを担当させていただきました。
業界動向を把握するうえでは、インターネット上の情報収集ももちろん参考になりますが、やはり市場に参入されている皆様のお声を直接伺うことが、何よりの学びにつながります。それこそが、弊社の強みでもあると改めて感じました。
今回は17社にご取材させていただき、その他にも意見交換の機会を多くいただきました。ご協力いただいた企業の皆様、またご検討いただいた企業の皆様に、心より感謝申し上げます。
さて、今回のレポートでは、特にデジタコと動態管理ソリューションに焦点を当てています。
もともとデジタコやドライブレコーダーなどのデバイスベンダーは、機器販売を中心に事業を展開していましたが、近年では業務支援インフラとしてのソリューション提供へと領域を広げつつあります。一方で、動態管理ソリューション事業者も、SIerや専業ベンダーに加え、損害保険会社など異業種の参入が進んでおり、両者の境界が徐々に曖昧になってきている印象です。
ユーザー側に目を向けると、トラックや営業車、社有車などにおいては、法制度対応だけでなく、安全運転管理や業務効率化の観点からもニーズが高まっています。また、日本郵便の点呼問題なども含め、システムによる課題解決が求められている状況です。
こうした中、市場はレッドオーシャン化が進み、各社のサービスや機能が拮抗してきているように感じています。
市場が活性化することは非常に良いことですが、その一方で、差別化の難しさも感じています。今後、各社が拮抗したままなのか、それとも頭ひとつ抜け出す企業が現れるのか——。
初めての担当ではありましたが、今後の市場動向から目が離せません。
当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。
埼玉県八潮市で起きた下水道管路の破損による道路陥没事故から7か月、国土交通省は腐食しやすい箇所など優先的に実施すべき約813kmに対する特別重点調査の結果を発表した。原則1年以内の対策を必要とする「緊急度Ⅰ」の延長は約72km、応急措置を実施したうえで5年以内の対策を実施すべきとされた「緊急度Ⅱ」は約225kmに及んだ。また、対応済の4箇所を含め6箇所の空洞も発見された。インフラ老朽化の深刻さは想像以上だ。
下水道管だけではない。高度成長期以降に建設、整備された社会インフラの老朽化が加速する。2040年3月には道路・橋の約75%、トンネルの約52%、河川管理施設の約65%、港湾施設の約68%、そして、下水道管渠の約34%が建設後50年を越える。国交省は不具合が発生してから対応する事後保全に要する2048年度の費用を最大12.3兆円、一方、発生前に予防措置を講じる予防保全費用を同6.5兆円と推計している。コスト的にも予防措置が圧倒的に有利であり、悲劇を繰り返さないためにも対策が急がれる。
とは言え、人手が足りない。建設業の就業者数は1997年の685万人をピークに減少、2024年には477万人へ、1997年比で約3割、208万人減少している。そして、高齢化だ。65歳以上の高齢従業者はこの20年で約2倍、昨年時点で80万人に達する。また、発注側である地方公共団体の土木部門の職員も1996年度の19万4千人から2024年度には13万9千人へ、こちらも約3割減少している(総務省)。
昨年4月、建設業にも罰則付き時間外労働規制が適用された。加えて、猛暑だ。国交省は地方整備局発注の土木工事を対象に「夏季休工」制度を導入する方針だ。安全性を高め、多様な働き方を認め、人手不足の緩和を図りたい考えだ。とは言え、工期の延長は避けられない。少子高齢化、働き方改革、地方、財政、そして、気候変動、、、社会インフラの老朽化は “時代”が抱える構造問題の縮図だ。一方、この時代ゆえの武器もある。ICT、AI、ドローン、ロボットなど、先端テクノロジーを活用した現場のスマート化をどこまで実現できるか。産官学一体となった取り組みが急務である。
今週の“ひらめき”視点 9.21 – 9.25
代表取締役社長 水越 孝
本日、2025年9月26日に『2025年度版 業務用車両向けテレマティクスサービス市場の実態と展望 ~デジタコ・ドラレコを中心とした動態管理システムの動向分析~』を発刊いたしました。
本レポートは、2021年10月に発刊した『2020年度版 商用車テレマティクス/コネクテッドカー市場予測』のリニューアル版となります。
今回は「業務用車両向けテレマティクス」という観点から、デジタルタコグラフやドライブレコーダーなどのハードウェア(デバイス)と、それらを活用してGPSと通信により位置情報を把握するシステムの両面に着目しました。この位置情報を把握する仕組みは、すでに動態管理ソリューションとして機能しており、近年ではその役割が広がっています。具体的には、安全運転管理や日報作成など、業務効率化を支援する機能が加わり、より高度な業務支援インフラとしての側面も強まっています。さらに、物流業界では働き方改革や法改正の影響により、運行実態の把握がますます重要視されるようになっており、こうした背景からデジタコの有用性が改めて評価されています。
本レポートでは、事業者の取り組みに焦点を当てることで、各社の動向がより明確に見える構成とし、弊社独自の視点による比較分析も実施しました。
加えて、デジタコの出荷台数に着目し、市場規模の推移や出荷台数シェアについて弊社推定に基づき整理しています。
車両を活用する企業・組織に向けて、テレマティクス関連のサービスやソリューションを提供されている市場関係者の皆様にとって、本レポートが少しでもご参考になれば幸いです。
PayPayは、2025年9月中旬以降より、中国のキャッシュレス決済サービス「WeChat Pay」との連携を開始することを発表した。WeChat Payは、月間アクティブユーザー数14億を超える中国のコミュニケーションアプリ「WeChat」の中で提供する決済機能であり、今回の連携によりWeChat Payのユーザーは、日本国内のPayPay加盟店にて同サービスを利用した決済が可能になる。
https://about.paypay.ne.jp/pr/20250904/01/
中国本土からの訪日外国人は、2025年上半期の累計で470万人以上を記録している。今後も、2025年10月13日まで開催している大阪・関西万博や、中国・中華圏における旧暦の正月である春節の期間中などにおいて観光客の増加が見込まれている、
PayPayは、インバウンド需要の取り込みを目指す加盟店への支援を目的として、サービス提供開始時から海外キャッシュレス決済サービスの利用者がPayPay加盟店で決済できる環境の整備を進めてきた。現在は、WeChat Payを含めて14の国と地域・26サービスと連携可能となっている。
訪日外国人が普段利用している決済サービスを日本国内でも利用できる環境は整いつつあることから、今後はそれらを利用できることの認知度の向上が課題と考える。海外のキャッシュレス決済アプリに日本国内のPayPay加盟店で利用できるクーポンを配信するなどの施策が実施できれば、訪日外国人による決済はさらに拡大すると予想する。
2025年8月29日、デジタル庁はGビズIDの民間サービスでの活用事例等の募集および実証的接続実験の実施に関する公募結果を公表した。7グループ(13社)を実証的接続実験採択者として年度末まで実証を行う。
https://www.digital.go.jp/news/f4060720-b504-4849-8d8b-7d865863e763
GビズIDは、事業者(法人・個人事業主)が1つのアカウントで様々な事業者向け行政手続システムへのログインすることを可能にする認証基盤である。2025年3月末時点でアカウント発行累計数は125万者、接続サービス数は210サービスに達しており、補助金申請、社会保険手続等の行政手続サービスへの共通ログイン手段として活用されている。
一方で民間サービスとの接続は行われていなかったことから、民間サービスとGビズIDとの実証的な接続実験を行うべく公募を行っていた。
GビズIDは、ID発行時に一度だけ代表者の身元確認を行えばその後の各手続での本人確認書類提出が不要になるなど、普及すれば利便性は高いと思われる。個人の共通IDと同様に事業者の共通IDに対する需要はあると考えられ、実証の結果に期待したい。
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