矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

デイリーコラム


2026.07.17

「保険業法改正が生み出す新たな市場の可能性」

2026年6月に改正保険業法が施行されました。今回の改正は、保険金不正請求事案や保険料調整行為事案などを受け、保険会社や保険代理店に対して、より一層の顧客本位の業務運営や適切な管理体制の整備を求めるものです。
 
改正内容は多岐にわたりますが、特に保険代理店の間で大きな関心を集めているのが比較推奨販売ルールの見直しです。
従来、比較推奨販売にはイ方式・ロ方式・ハ方式が存在していました。イ方式は取り扱う保険商品を比較説明した上で顧客自身に選択を委ねる方式、ロ方式は顧客の意向を踏まえて商品を推奨・提案する方式、ハ方式は顧客の意向に基づく選別を行わず、代理店が特定の商品を提案する方式です。
今回の改正では、このハ方式が廃止される方針が示されています(ただし、比較推奨販売に関する具体的なルールについては金融庁が別途公表するとしており、2026年7月時点ではまだ確定していません)。代理店は、なぜその商品を推奨したのかについて、今まで以上に客観的な説明が求められるようになっていくでしょう。
もっとも、実際の募集現場では「細かい違いは分からないので、おすすめの商品を教えてほしい」といった顧客も少なくないと思います。そのような場合であっても、代理店は顧客意向の把握や推奨理由の整理を行う必要があり、現場(代理店)の負担は確実に増すでしょう。
さらに、保険会社による代理店への過度な便宜供与も規制対象となることから、代理店はこれまで以上に自律的な業務運営や管理体制の構築を求められることになります。
 
こうした状況のなか、法改正対応を支援するソリューションも登場し始めています。代理店向けシステムを提供するhokanは、2026年7月に「比較推奨運用支援サービス」を発表し、同年秋からの提供を予定しています。また、コンタクトセンターやBPOサービスを提供するビーウィズも、保険代理店の法改正対応を支援するBPOサービスを展開することを発表しました。
改正保険業法によって代理店に求められる業務や管理項目は増えていきます。比較推奨の根拠整理や記録作成、管理体制の整備などに追われ、現場が疲弊してしまう可能性も否定できません。自社独自で対応するのか、システムを導入するのか、あるいは外部事業者へ委託するのか。特に中小規模の代理店ほど対応に苦慮する場面が増えていくのではないでしょうか。
見方を変えれば、今回の法改正は新たな市場を生み出しているともいえます。比較推奨管理やコンプライアンス対応、BPOサービス、教育・研修支援など、代理店の業務運営を支援する市場は今後さらに拡大する可能性があります。

ただ本来、今回の法改正の目的は顧客本位の業務運営を実現することにあります。法令対応が目的化するのではなく、顧客にとってより良い商品選択や提案につながるものとなるのか。制度が施行されたばかりということもあり、これからしばらくは手探りの運用が続くものと思われます。今後、取材などを通じて代理店側の率直な声も聞いてみたいところです。

2026.07.16

「保険業界に広がるサイバーリスク」

アフラック生命保険は2026年6月30日に、自社の顧客向けシステムへの不正アクセスにより、顧客情報が漏えいしたことを公表しました。その後の調査により、7月13日時点で約440万人の顧客情報が漏えいしたことを明らかにしています。
保険会社に対するサイバー攻撃は今回が初めてではありません。2025年には損害保険ジャパンも不正アクセスの被害を公表しており、約1,750万件の情報が漏えいした可能性があると発表しています。
 
個人情報の漏えいは保険業界に限らず今に始まったことではありません。しかし、保険会社が保有する情報には氏名や住所などの基本情報に加え、保険契約の内容や保険金・給付金の請求に関する情報、生命保険会社であれば健康状態や病歴などのセンシティブな情報も含まれます。
また、保険会社は膨大な契約者情報を保有しているため、ひとたび不正アクセスが発生すると被害規模も大きくなりやすい特徴があります。今回のアフラックや損害保険ジャパンの事案は、その影響の大きさを改めて示した事例といえるでしょう。
 
さらに近年は、生成AIの発展に伴い、サイバー攻撃の高度化も懸念されています。攻撃者がAIを活用することで、不正メールやフィッシングサイトの精度向上が進み、従来以上に巧妙な攻撃が可能になるかもしれず、企業側には、これまで以上に高度なセキュリティ対策が求められています。
保険業界においては、保険会社だけが対策を講じればよいわけではありません。保険代理店や業務委託先も含めた対応が必要となります。実際、2025年には保険金請求に関する調査業務を手掛ける審調社や、保険代理店大手の保険見直し本舗グループなどにおいてランサムウェアの被害が発生しています。
 
加えて今回のアフラックの事案で気になったのは、不正アクセスから発覚までに一定の時間を要していた点です。アフラックの公表によれば、不正アクセスが最初に発生したのは6月10日であり、発見されたのは6月25日でした。結果として約2週間にわたり情報が閲覧可能な状態にあったことになります。
サイバー攻撃そのものを完全に防ぐことは、今後さらに難しくなっていくと考えられます。一方で、今回の事案は「防ぐこと」だけでなく、「いかに早く気付くか」の重要性も示したように感じます。保険会社は機微性の高い情報を大量に保有しているだけに、侵入を防ぐための対策に加え、異常を早期に検知し、被害の拡大を最小限に抑える体制づくりがこれまで以上に重要になっていくのではないでしょうか。

2026.07.15

【ショートレポートのご案内】

矢野経済研究所では、独自に収集したマーケットデータを1,000円で提供しております。
弊社が発刊する年間約250タイトルのマーケットレポートごとに、一部の内容をまとめたショートレポートです。
マーケットレポートに比べて詳細な内容は掲載されていませんが、その要約版、入門的な情報として活用できる内容となっております。
毎月10~20タイトルのレポートが随時追加されていきますので、是非ご期待ください。
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2026.07.14

「Paidyが後払い決済サービス協会に加盟、後払い決済はインフラとなれるか」

日本後払い決済サービス協会は、2026年5月28日付でPaidy合同会社が同協会の正会員として加盟したことを発表した。

 
日本国内における後払い決済サービスに関しては、2025年7月に国民生活センターから消費者トラブルについての注意喚起がされるなど、市場の健全化・安定化やサービスに対するイメージの向上が業界全体の課題と考えられている。その中で同協会は、関係省庁との意見交換などを通じて、改善に向けた取組みを続けてきた。
 
後払い決済サービス「ペイディ」を提供しているPaidyは、国内後払い決済市場におけるリーディングカンパニーであり、同社が協会の活動に加わることで、主要プレイヤー間でのルール形成や消費者保護に向けた議論の実効性が高まることが期待される。
具体的には、Paidyの加盟により、同社が持つ加盟店管理、与信、消費者体験などに関するノウハウの共有が可能になり、業界全体の実務水準の底上げにつながると考えられる。また、有力事業者が協会に集まることで、規制対応や運用ルールの整備において、個社対応ではなく業界としての意見発信ができるようになり、行政・関係省庁との対話力の向上にもつながり得る。
 
一方、加盟はゴールではなく、今後は実効性が問われる。成長を続ける後払い決済サービス市場では、利便性の追求と過剰利用防止のバランスが重要であり、事業者には「責任ある成長」が求められている。Paidyの加盟は、業界が単なるサービス拡大フェーズから、社会的信頼を前提としたインフラ化フェーズへの移行を図っていることを示す象徴的な出来事といえるのではないだろうか。
2026.07.13

【発刊裏話】「2026年版 デジタルマーケティング市場の実態と展望~生成AI/AIエージェントが促すSaaSモデルの再編~」

2026年6月30日に「2026年版 デジタルマーケティング市場の実態と展望~生成AI/AIエージェントが促すSaaSモデルの再編~」を発刊いたしました。
デジタルマーケティング市場を調査する中で、ユーザー企業がAIやAIエージェントの導入意欲を持ちながらも、足踏みしている声が聞こえてきました。新たなシステムやツールのPoCを進めるにあたり、経営層から厳密なROIの提示を求められ、プロジェクトが停滞する事例が見られます。
特にLLMを活用するものは、トークン消費量に応じた推論コストの変動や、モデルのアップデートに伴う仕様変更など、多くの不確定要素があります。そのため、従来のIT投資のように事前評価として正確なコストやリターンを算出することは難しくなっており、これが導入のスピード感を鈍らせる要因になっています。
デジタルマーケティング領域に限らず、生成AI技術の社会実装において重要なのは、初期段階における試行錯誤の許容です。不確実性の高いフェーズにおいて過度なROIの証明を課すのではなく、まずはアジャイルな検証を進めるための柔軟な投資判断基準への転換が、市場全体において求められています。

2026.07.10

【アナリスト便り】「2026年版 デジタルマーケティング市場の実態と展望~生成AI/AIエージェントが促すSaaSモデルの再編~」を発刊

2026年6月30日に「2026年版 デジタルマーケティング市場の実態と展望~生成AI/AIエージェントが促すSaaSモデルの再編~」を発刊いたしました。
本レポートは、CRM/SFA、MA、CDPのツールを提供しているベンダーへの取材をもとに、それぞれの市場規模や動向、将来展望などをまとめています。
今回は新たに、デジタルマーケティング領域でAI関連サービスを展開する事業者への調査も合わせて実施いたしました。デジタルマーケティングツール自体にAI機能を組み込む動きも活発ですが、市場では個別の開発に近い形でAIエージェントを構築して各種ツールと連携させる形態や、AIエージェントを構築できるプラットフォームをSaaSとして提供し既存ツールと組み合わせる形態などが登場しています。
現在のデジタルマーケティング市場はSaaS形式での提供が多くを占めていますが、昨今では「SaaSの死(SaaS is Dead)」や「SaaS黙示録(SaaSpocalypse)」といった言葉が注目を集めています。これはSaaSという仕組み自体が消滅することを意味するわけではなく、提供する価値のあり方が変化していくことを示唆しており、各ベンダーはAIが普及した時代に対応するための変革を検討・実行しています。
本資料が、皆様の事業戦略の検討や市場環境の把握における一助となれば幸いです。

2026.07.09

【アナリスト便り】「2026 ECプラットフォーム市場の実態と展望-AIエージェント時代の市場変化とAgentic Commerce-」を発刊

2026 ECプラットフォーム市場の実態と展望-AIエージェント時代の市場変化とAgentic Commerce-」発刊のご案内(2026年6月30日)

 

 国内ECプラットフォーム市場は、EC利用の定着や企業のDX推進を背景に拡大を続けています。一方で近年は、生成AIやAIエージェントの進展により、市場を取り巻く競争環境が大きな転換期を迎えています。これまでのECプラットフォーム市場では、ECサイト構築や運用支援機能の充実が競争力の源泉でしたが、今後はAIエージェントによる業務自律化への対応が新たな差別化要因になると考えられます。

 さらに、AIが消費者に代わって商品検索や比較検討、購買を代行する「Agentic Commerce」に注目が集まっています。従来のECサイトを中心とした購買行動から、AIとの対話を起点とした新たな購買体験への変化が予想されており、EC事業者やプラットフォーム事業者には新たな対応が求められています。

 本レポートでは、国内ECプラットフォーム市場の規模推計および将来予測に加え、主要事業者の戦略や生成AI・AIエージェント対応状況、Agentic Commerce市場の現状と将来展望を分析し、2026~2030年の市場規模予測を掲載しました。EC市場構造の変化やAIエージェントの進展、新たな事業機会を把握するための基礎資料としてご活用いただければ幸いです。

2026.07.08

【発刊裏話】2026年 ビジネスプリンタ市場の実態と展望

今回、取材にご協力いただいた企業の皆様には、共通して「AIへの取り組みに対する温度感」について伺いました。その結果、企業ごとの違いはもちろん、プリンタのカテゴリごとに共通する傾向も見えてきて、大変興味深いお話を伺うことができました。

AIとの親和性という観点では、プリンタ業界は他の産業と比べ、依然として人の力に頼る部分が多い業界といえます。一方で、ユーザー企業における人手不足は深刻化しており、そのギャップを埋めるには、まだ一定の時間を要するかもしれません。

それでも、こうした状況が少しでも良い方向へ進んでいくことを、切に願っております。

2026.07.07

【アナリスト便り】「2026年 ビジネスプリンタ市場の実態と展望」を発刊

2026年6月26日、「2026年 ビジネスプリンタ市場の実態と展望」を発刊しました。

本レポートでは、オフィスプリンタ、プロダクションプリンタ、大判プリンタ(LFP)の各市場について、参入メーカーの概況や取り組みを調査・分析しています。加えて、参考市場として包装機向けプリンタも取り上げました。

今回の調査対象年である2025年度は、米国の関税政策に加え、欧州や中国で続く経済停滞などの影響を受け、市場全体としては必ずしも順調とはいえない状況でした。こうした環境下で、各プレイヤーは成熟市場での生き残りに向け、さまざまな工夫を凝らしています。

一方で、オフィスプリンタ市場における合弁会社設立によるシナジーや、プロダクションプリンタ市場におけるラベル・パッケージ印刷の将来性など、前向きな要素も少なくありません。市場を取り巻く環境が複雑に絡み合い、先行きの見通しが難しい今こそ、市場の方向性を見極めるべきタイミングといえます。

本レポートが、ビジネスプリンタ市場に関わる皆様の事業活動の一助となれば幸いです。

2026.07.03

「高市政権の産業政策(重点投資17分野の設定)」③

世界では、社会主義国だけではなく資本主義国においても、特定産業(例えばAI関連、核融合、航空宇宙など)に投資を続ける産業政策が、一種の流行になっている。

米国では、民主党政権(バイデン政権)、共和党政権(トランプ政権)に関わらず、巨額の産業投資が行われている。例えばトランプ政権の掲げる「アメリカファースト」も、製造業の国内回帰を狙った政策をフレーズ化したものであろう。

計画経済である社会主義国の中国では、10年ほど前に「中国製造2025」を掲げ製造強国、科学技術強国を目指している。これは、結果的に米国をはじめとする西側諸国の警戒心を呼び起こすことになったが、現在に至るまで堅持されている。尚、EVでの躍進も、この政策の奏功事例であろう。

またEUでも、グリーントランスフォーメーションやデジタルトランスフォーメーションを中心とした、巨額の産業投資を行っている(気候変動対策に主眼がある)。但し、2020年の投資開始後に、ウクライナ戦争やホルムズ海峡危機などがあり、実際の取り組みに変更、修正が生じていると考えられる。

このように、巨額の財政出動をともなう成長投資強化の流れは世界的に続いており、ここでの高市政権のかじ取りが注目される。

2026.07.02

「高市政権の産業政策(重点投資17分野の設定)」②

高市政権は施政方針演説で産業政策の必要性を訴えたが、その文脈で成長産業として設定した「17分野/61製品・技術」の扱いについて考える。

前回述べたように「成長投資12分野」、「危機管理投資12分野」が選定されたが(重複あり)、この投資が成功するためには、官民連携投資が機能する事であろう。そのため行政が行う通常の単年度予算方式ではなく、複数年度方式とすることで、民間企業が投資に二の足を踏むことを忌避するアプローチが必要になると考える。これは長期投資による予見可能性を高め、リスク低減による民間投資の呼び水とするものである。

ただ課題がないわけでもない。まずは投資先が限定されることで、特定業種支援になる点が指摘できる。さらに投資先の選定にあたって、きちんと市場と技術、社会情勢などの目利きができる体制があるのか疑問もある。

いずれにしても、「他国への依存を減らす自立性」、「代替が利かない不可欠性」を持った産業を育成するのは、官民で手を携えていかなければならない時代になってきている。

2026.07.01

「PLMとローコードの連携がもたらす製造業DXの新たな可能性」

電通総研とシーメンスが2026年6月16日に開催したイベント「~グローバルの最新事例に学ぶ『攻め』の製造DX~AI・Data・ローコード、そしてPLMをどう繋ぎ、どう業務で活かすか?」に参加しました。

基調講演では、ものづくり系YouTuberのものづくり太郎氏が、NVIDIAの最先端事例を交えながら「PLMとAIの融合を無視すれば、日本の製造業に未来はない」と強い危機感を示しました。
PLMやAIが現場に定着しない背景には、作り込まれたシステムと現場業務の「分断」という課題があります。これに対し電通総研の尾林氏は、PLMを直接改修するのではなく、現場との「緩衝材」としてローコードプラットフォーム(Mendix)を活用し、両者をつなぐアプローチを提唱。デモでは、Excelによる成果物管理や設計変更のレビューなどを迅速にアプリ化し、PLMデータを使って「その場で判断し、業務を動かす」実践的な仕組みを披露しました。

これまでの製造業におけるDXは、現場側がシステムの仕様に合わせる傾向があり、柔軟性を奪う要因となっていました。しかし、今回の「システムと現場を”つなぐ”」という思想は、データを強固に守りつつ現場の改善スピードを落さないための現実的な解決策になると考えます。
特に、現場が使い慣れたExcelからスムーズに移行でき、複数システムの情報を一元化した上で、その場で意思決定を下すことができるMendixのデモは、多くの企業が課題とする運用の形骸化を防ぎ、早い段階で効果を発揮しやすい仕組みであると感じました。これからの日本の製造業がグローバルで勝ち残るためには、現場の人間とAIがスムーズに連携し、現場主導で自律的に業務が回り出す環境が必要となるだろうと考えました。

2026.06.30

「PayPayによる生命保険業界への参入がもたらすもの②-包括提携に見るサービス拡張と今後の可能性-」

回は、PayPayによるT&Dフィナンシャル生命の子会社化について取り上げました。今回は同日に発表されたT&Dホールディングスとの包括業務提携の内容を見ていきます。
https://about.paypay.ne.jp/pr/20260604/02/


T&Dフィナンシャル生命の子会社の発表と同日に、PayPayとT&Dホールディングスによる包括業務提携も発表されました。具体的には、①PayPayアプリを通じた太陽生命商品の販売、②AIを活用した業務効率化、③スマートシニアシティ構想、④マーケティング連携、⑤健康増進・認知症予防サービスの検討、といった取り組みが示されています。


この内容を見ると、単なる販売チャネルの拡張にとどまらず、グループ全体でのサービス連携を志向していることが分かります。①ではPayPayアプリを通じた保険販売が想定されていますが、②以降は業務やデータ、さらにはヘルスケア領域にまで踏み込んだ取り組みとなっています。


特に、健康増進や認知症予防といったテーマは、太陽生命がこれまで力を入れてきた分野でもあり、PayPayの親会社であるソフトバンクグループが取り組むヘルスケア領域とも親和性が高いように思われます。


また、「スマートシニアシティ」といったキーワードも含まれていることから、今回の提携は単に若年層向けのデジタル金融サービスの拡張というよりも、むしろシニア層を含めた幅広い顧客基盤の獲得を視野に入れている可能性もあります。PayPay側がシニア顧客への接点を強化していく狙いもあるのかもしれません。


一方で、デジタルサービスを通じてどこまで保険が浸透するのかという点は重要な論点です。短期の自動車保険や季節性の保険商品であれば比較的気軽に加入しやすい側面がありますが、生命保険のように長期かつ保障内容が複雑な商品については、同様の形でデジタル完結が進むのかはまだ見通しにくい部分があります。


今回の取り組みが、生命保険の販売や提供の在り方をどこまで変えていくのか。PayPayが先行事例となるのかという点も含め、今後の展開を注視していきたいところです。

2026.06.26

「PayPayによる生命保険業界への参入がもたらすもの①-T&Dフィナンシャル生命の子会社化の狙い-」

PayPayは2026年6月4日、T&Dホールディングス傘下のT&Dフィナンシャル生命を子会社化することを発表しました。あわせて、T&Dホールディングスとの包括業務提携についても公表されています。
https://about.paypay.ne.jp/pr/20260604/01/


まずは、T&Dフィナンシャル生命の子会社化について見ていきます。PayPayはこれまで、キャッシュレス決済を起点に、クレジットカード、銀行、証券といった金融サービスを拡充してきました。今回、生命保険会社をグループに取り込むことで、保障や資産形成、さらには資産承継といった領域も含め、金融サービスの一体化がより進む形となります。


個人的にやや意外に感じたのは、その対象がT&Dフィナンシャル生命であった点です。同社は主に金融機関や来店型保険ショップなど、代理店チャネルに特化した販売を行ってきた保険会社であり、どちらかというとシニア層向けの資産形成・運用型保険や、就労世代向けの保障性商品を中心に展開している印象があります。また、T&Dグループ全体としても、太陽生命の認知症保険などに見られるように、シニア層やセカンドライフに関連する領域に強みを持つグループというイメージがあります。


一方で、PayPayはスマートフォンを通じた日常的な決済サービスを基盤としており、比較的若年層やデジタルネイティブ世代の利用が多いサービスでもあります。もちろん現在では幅広い世代に浸透していますが、この両者がどのように組み合わさるのかは興味深いところです。


プレスリリースでは、「T&Dフィナンシャル生命の顧客基盤に、PayPayが有するデジタルプラットフォームやUI/UX、マーケティング力などを組み合わせることで、新たな顧客体験の創出が可能」としていますが、現時点ではどの領域でどのようなシナジーが生まれるのかはまだ見えにくい部分もあります。デジタルネイティブと呼ばれる層も、いまでは保険を検討する世代にまで広がってきているように見えますが、生命保険のような商品がそのままデジタル上で受け入れられるのかという点については、まだイメージしにくい部分もあります。


その意味で、PayPayとT&Dフィナンシャル生命の組み合わせが、どの顧客接点でどのような価値を生み出すのかは、もう少し見ていく必要がありそうです。

2026.06.25

東京都が2025年度のキャッシュレス決済率を発表、伸びはやや鈍化

2026年6月15日、東京都は2025年度の都内におけるキャッシュレス決済比率が前年度比1.5ポイント増の62.2%であったと発表した。
2025年度 都内のキャッシュレス決済比率の調査結果について|都内のキャッシュレス決済比率の調査|東京都産業労働局

決済手段別にみると、クレジットカードは引き続き増加傾向(前年度比+2.2ポイント)にあるものの、コード決済は減少(前年度比▲1.4ポイント)となっている。年代別では、30代が66.9%と最も高く、最も低い70代以上でも58.0%と、年代による大きな差はみられないという結果となった。


東京都は2026年目標としてキャッシュレス決済比率60%を掲げており、2024年度(60.7%)に2年前倒しで達成している。一方で、2021年度の調査開始以来、伸長率が1ポイント台に留まったのは2025年度が初であり、2030年の目標である80%の達成に向けた道のりはやや厳しい状況にある。


同調査では「キャッシュレスを利用しない理由」に関する設問もあり、利用しない理由としては「不正利用に対する不安」や「個人情報を提供することへの抵抗感」が多く挙げられた。クレジットカードの不正利用被害は増加傾向にあり、不安を煽る要素となっている側面は否定できない。キャッシュレス決済の利便性やポイント還元による利得性に対する認識はある程度浸透しきっている部分もあり、目標達成に向けてはキャッシュレス決済に対する安心感の醸成が今まで以上に必要になると考える。

2026.06.24

「呼称変更で変わるのか、生命保険営業のイメージ」

一般社団法人生命保険協会は2026年6月12日、生命保険募集人を総称する呼称として「生命保険ナビゲーター”ソナエルジュ”」に決定したと発表しました。同協会が昨年9月から11月にかけて一般公募で募集してきた約9,000件の中から選定されたとのことです。従来の呼称である「営業職員」には押し売りのような印象を持たれがちであり、「生保レディ」は性別の偏りがあるなど、現在の多様性が問われる社会においてはそぐわない側面もあったのだと思います。


加えて近年は、自動車販売における保険販売との関係が報じられたり、出向者による顧客情報の持ち出しや、営業職員による金銭トラブルや不適切な営業行為が問題視される事案が取り上げられるなど、生保・損保問わず保険に関するネガティブな内容が報じられる場面がありました。そうした報道に触れる機会も増える中で、保険営業に対してややネガティブな印象を持たれることも増えているように感じます。今回は生命保険分野ではありますが、呼称を見直すことでイメージを刷新したいという意図もあるのかもしれません。
今回決定した「ソナエルジュ」は、「備える」と「コンシェルジュ」を組み合わせた造語とされています。単に保険商品を販売する存在ではなく、顧客の将来の不安等に寄り添い、その解決手段の一つとして保険を提案する役割が期待されていることもうかがえます。


ただし、保険募集人にとって販売実績が重要である構造は変わりません。呼称を変えるだけではなく、現場で働く方々の意識や営業スタイルそのものが変わっていかなければ、呼び方だけの見直しにとどまってしまう可能性があるのではないかと感じました。

2026.06.23

重要システムのクラウド移行は進むか――注目集まるソブリンクラウド③

日本の現状――法制度と事業者の取組み

日本国内においては、2026年現在、政府主導のソブリンクラウド構築に向けた具体的な動きは限定的である。しかし、2022年に成立した経済安全保障推進法の影響は極めて大きい。同法に基づき、電気通信や金融、エネルギーといった基幹インフラを担う257社(2026年4月1日時点)が特定社会基盤事業者に指定され、重要設備の導入に際して主務大臣への事前届出が義務付けられた。また、2026年10月から段階的に施行予定の能動的サイバー防御法でもセキュリティレベルの底上げが求められることから、既存のレガシー環境ではなく先進的なセキュリティ対策が行える環境の必要性が高まり、ソブリンクラウドが有力な選択肢となっている。
国内のクラウド事業者も、こうした需要を取り込むべく新たな展開を見せている。特に注目されるのは、外資系大手の技術と国内運用の信頼性を組み合わせたアプローチである。Oracle Alloyを活用した取り組みでは、NRIや富士通、NTTデータ、ソフトバンク、日鉄ソリューションズといった国内大手ベンダーがパートナーとなり、OCIの高度なスケーラビリティやAI機能を維持しつつ、ハードウェアの物理管理や運用を日本国内で完結させる体制を構築した。他方、さくらインターネットが提供するさくらのクラウドは、ガバメントクラウドではこれまで条件付きでの採択だったが、2026年3月に305項目すべての技術要件を満たし、正式に採択された。ガバメントクラウド=ソブリンクラウドではないが、同社は国内事業者としての高い信頼性を強みに各種主権要件への対応を行い、ソブリンニーズを取り込んでいる。

ソブリンクラウドの展望

ソブリンクラウドを必要とするデータやシステムは、クラウドサービス市場全体から見れば限定的である。しかし、これまでセキュリティやガバナンス上の懸念からクラウド化が困難とされ、オンプレミスに留まり続けてきた重要システムこそ、スケーラビリティや運用効率、最新技術へのアクセスといったクラウドのメリットを最も享受すべき対象といえる。クラウド事業者による主権要件への対応が進み、重要システムがようやくクラウドの利便性を享受できる土壌が整いつつある。今後は技術・運用の高度化と関連制度の拡充が続くことで、ソブリンクラウド市場は着実に拡大していくと考える。
もっとも、サイバー脅威が常態化する現代において、重要となるのは「ソブリンクラウド」の定義や機能そのものよりも、その概念が指し示す「デジタル主権をいかに確立するか」という問いへの向き合い方である。求められる主権の要件や度合いは企業・団体によって異なり、すべての組織に同一の対策が求められるわけではない。組織にとってどの要件が必要か、どのレベルで対策を講じるべきかを冷静に見極めたうえで適用することが、何より肝要だ。運用の透明性や迅速な脆弱性対応を含めたデジタル・レジリエンスの構築が組織の持続可能性を左右する時代において、ソブリンクラウドはその問いに応えるための有力な手段となるだろう。

2026.06.22

【今週の"ひらめき"視点】ふるさと納税、過度な競争が招く自治体財政の不安定化

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。

 

6月12日、会計検査院は地方財政計画の検証結果を公表、ふるさと納税が地方団体の歳入歳出総額の見込み額と決算数値との乖離を拡大させていると指摘、総務省に対して影響を検証するよう要請した。ふるさと納税は応援したい自治体に寄付すると寄付額から2000円を引いた額が住民税や所得税から控除される。事業は2008年にスタート、初年度の受入件数5.4万件、寄付額81.4億円、以後、急速に事業規模が拡大、2024年の受入数は5800万件を越え、金額も1兆2727.5億円に達した(総務省)。

“官製通販”とも揶揄される返礼品競争のし烈化はご存じのとおり。総務省は返礼品の上限を寄付額の3割に抑えるなど制度の見直しをはかってきた。2024年度の返礼品総額は3,208億円、還元率は25.2%だ。とは言え、事務費、広報費、送付費用、仲介サイトへの手数料といった諸経費を加えると自治体の財源として残るのは53.6%に過ぎない(総務省)。結果、寄付した人が住む地域から他の地域へふるさと納税を介して税が移動することで自治体の歳入総額は減収となる。

流出超過自治体における減収は当然ながら行政サービスの質を低下させるとともに、行政サービスに要する費用を住民自身が負担する“受益と負担の原則”を揺るがす。加えて、高所得者ほど控除額の上限が高くなる現行制度は、住民税が本来持っている所得再分配機能を低下させる。そもそも国産ブランド牛、タラバガニ、シャインマスカットといった高級食品にふるさと納税ならではの“お得感”を感じて寄付をする世帯の多くは日々の暮らしに追われる層ではないだろう。

さて、筆者の住む世田谷区における住民税流出額は全国5位の134億円、これは耐震対策、トイレの洋式化、猛暑対策といった区立学校の改築・改修予算に匹敵する。流出額がもっとも大きい自治体は横浜市であるが、こちらは流出額の75%が地方交付税で補填される。一方、23区は地方交付税の不交付団体であり補填はない。それだけに区は「地方自治の根幹を破壊する不合理な税制」と手厳しい(令和8年度当初予算概要より)。ふるさと納税の理念、自治体間における一定の競争原理は理解できる。ただ、日本全体が縮小する中での“パイの奪い合い”は根本的な解決とはならない。地方自治とその財源について、あらためて問い直す必要があろう。


今週の“ひらめき”視点 2026.6.14 - 6.18
代表取締役社長 水越 孝

2026.06.19

重要システムのクラウド移行は進むか――注目集まるソブリンクラウド②

需要拡大の背景-地政学リスクと法規制の圧力

このような主権確保の動きが世界的に加速している要因は、2020年代に入り顕著となった地政学的リスクにある。米中対立の深刻化やロシア・ウクライナ情勢、さらには中東や台湾海峡を巡る緊張など、国際秩序の不確実性はかつてないほど高まった。実際に、経済制裁の影響で特定の国におけるクラウドサービスが突如として停止し、企業の経済活動が麻痺する事態も発生している。加えて、国家の関与が疑われるサイバー攻撃が重要インフラを標的として激化しており、デジタル基盤を他国の技術や法制度に過度に依存することのリスクが再認識されている。
各国の法規制・制度もこの流れを後押ししている。米国ではクラウドセキュリティ認証制度である「FedRAMP」が運用されている。これにより、厳格なセキュリティ要件を満たしたクラウドサービスのみが政府調達の対象となる。大手クラウド事業者は、こうした政府が定める厳格なセキュリティ基準やコンプライアンス要件に準拠した専用のクラウドサービス基盤を構築・提供している。欧州ではGDPR(一般データ保護規則)による個人データの域外移転への厳格な制限に加え、データ主権と透明性を掲げた「Gaia-X」プロジェクトが推進されている。フランスの「Bleu」やイタリアの「PSN」といった国家主導のクラウド戦略が展開される中、AWSやMicrosoft、Google Cloudといったハイパースケーラー各社も、欧州市場向けにデータや運用の主権を強化した専用リージョンの提供を開始するなど、事業者の対応も急ピッチで進んでいる。

2026.06.18

重要システムのクラウド移行は進むか――注目集まるソブリンクラウド①

主権の確立に向けた潮流

デジタル化が加速し、多くのデータがクラウド上で処理されるようになった現代において、企業のITインフラ環境は日々変化が求められる。かつてクラウド移行の主目的はコスト削減や拡張性の確保であったが、昨今の不安定な国際情勢や地政学リスクの顕在化により、新たな評価軸として「デジタル主権」の重要性が注目されるようになった。こうした背景から、特定の国や地域の法律・規制を遵守し、データの保管から運用までを自国内で完結させる「ソブリンクラウド」が、特定の要件を持つ企業にとっての新たな選択肢として浮上している。

ソブリンクラウドとは

 

ソブリンクラウド(Sovereign Cloud)とは厳格な定義はないが、主に特定の国・地域の法律・規制に準拠し、データの保管・処理・運用がその国・地域内で完結するクラウドサービスを指す。従来のパブリッククウドサービスが、グローバルな展開とスケールメリットを重視してきたのに対し、ソブリンクラウドは主権の確保と経済安全保障に重点を置く。

そもそも、「ソブリン(Sovereign)」とは英語で「主権」「統治者」「君主」「国王」などを意味し、IT分野においては、組織や国家が独立してデジタル基盤を管理および運用できる能力として解釈される。なお、現代のITインフラにおけるデジタル主権の議論では、主にデータ主権、システム主権、運用主権の3つの要素が中心となる。

【図表:コントロールが求められる主な3つの主権】

また、これらの3つの主権に加え、クラウド基盤やOS、セキュリティなどの基幹技術を自国で開発・保守し、海外への依存を避ける「技術主権」や、自国のデータに対して他国の法律が優先的に適用される事態を回避し、法的な管轄権を自国内に維持することを指す「法的主権」、セキュリティ対策の実施主体を自国内に限定する能力を指す「セキュリティ主権」といった見解もある。

 

2026.06.17

「NTTドコモビジネスは、多様なデバイスの映像を統合して収集・蓄積・分析し、現場変革を加速させる映像AIプラットフォームを提供開始」

NTTドコモビジネスは2026年6月11日、多様なカメラや現場機器の映像を安全に集約・分析する映像AIプラットフォームサービス「docomo business SIGN VPaaS」の提供を開始した。本サービスは、施設・設備に設置されたカメラや、ロボット・ドローンなど現場の機器から映像を収集し、分析可能な形で統合管理するプラットフォームである。

ニュース 2026年6月11日:多様なデバイスの映像を統合して収集・蓄積・分析し、現場変革を加速させる映像AIプラットフォーム「docomo business SIGN VPaaS」を提供開始|NTT…

 

先日、同社が開催したこの新サービスに関する記者説明会に参加した。本サービスは、カメラゲートウェイを使用することで、既存のカメラをそのまま活用できる設計となっている。また、すべての映像データをクラウドへ転送するのではなく、人や車両の動きなど変化が起きた必要な映像のみを判別してクラウドに集約する仕組みを採用している。これにより、データ転送量とストレージ容量を最小限に抑え、従来のクラウドサービスと比較してカメラ1台あたりのシステム単価を低く抑えることを実現しており、導入のハードルを極めて低くしている点が特徴的である。

さらに説明会では、蓄積された映像データから必要な情報を自然言語等で引き出せる「AIエージェント型UI」を近日中に提供予定であることも明かされた。その先には、分析結果をロボットや設備などの制御にリアルタイムにフィードバックし、サイバー空間とフィジカル空間を融合させる「フィジカルAI」を見据えた商品展開も想定している。

現在、多くの工場や商業施設、オフィスにはすでに防犯や監視用のカメラが設置されているものの、その多くはトラブル時の確認用に留まっており、データとして有効活用されているとは言い難い。本サービスは、すでに市場に存在する膨大な既存映像データを有効活用することを想定しており、本サービスが市場に浸透するポテンシャルは非常に高いと言えるだろう。

2026.06.16

【無料で遊ぶ、矢野経済研究所の歩き方】

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2026.06.12

「無料オンラインセミナー ITユーザトレンドセミナー 2026 AI活用の実態と課題」

6月25日(木)15時~ JEITA×矢野経済研究所

ITユーザトレンドセミナー 2026 AI活用の実態と課題~ 小さく始めて大きく育てるAI活用:最新データ × 実践事例~

を開催いたします。

ITユーザトレンドセミナー 2026 AI活用の実態と課題~ 小さく始めて大きく育てるAI活用:最新データ × 実践事例~ | WHATSセミナー | 市場調査とマーケティングの矢野経済研究所

本セミナーは無料です。オンライン開催でアーカイブ配信もあるため、お気軽にお申込み頂けますと幸いです。

 

AIに関するセミナーはたくさんあると思いますが、本セミナーでは実際にAIを活用されている企業の3名にもご登壇頂きます。

社内に情報システム部門などない中での活用は「何から手を付ければいいか」などのご参考になるかと思います。

2026.06.11

「厳しさか癒しか、生成AIのリスクコントロール」

ChatGPTなど言語系生成AIが日常のものとなったが、昨今のニュースをみているとそのリスクも生じ始めたようだ。

 

生成AIは、ユーザー感情を逆なでしない設計になっており、長く使うと「肯定され続けるリスク」が生じるとも指摘されている。具体的には、①疑う力が低下、②創造力が低下、③打たれ弱さが増長、④周りも自分と同じ意見と思いこむ、といったことが言われている。

 

一方で、仕事に使っていると生成AIは大変役に立つ相棒のようになってもいる。いわゆる壁打ち相手などはプロンプト次第で実に厳しく、的確な指摘を返してくれることも多い。また、自分にはない視点から意見を述べてくれることも多い。

 

「生成AIを日常的に使っている」といっても、使うことで自分が更に強くなることも、更に弱くなることも、どちらもあるということだ。競争を前提とする仕事の世界では強くなることを求め、そうでない世界では癒しや甘えを満たすことにも使える。

どちらに使ってもいいが、あまりに癒しや甘えに流されれば、待っているのは怠惰だけ。それがいいとは思えない。

 

汎用ツールであるがゆえに、自律的に利用することが大切なのであろう。となれば、少なくとも未成年に対しては、適切な指導が大切になる。まずは大人が使いこなさねばなるまい。

2026.06.10

「SPEXA 2026」

2026年5月27日(水)から29日(金)にかけて、東京ビッグサイトにて、宇宙ビジネス展「第三回 SPEXA 2026」が開催された。
SPEXAは、ロケット打ち上げから人工衛星の設計・製造・運用、部品・素材、地上システム、衛星データ利活用、宇宙空間利用、関連サービスまで、宇宙ビジネスの上流から下流までを横断的に扱う日本では最大級の宇宙関連の展示会である。

 

本展を通じて印象的だったのは、「宇宙ビジネス」という言葉が、もはやNASAやJAXAに象徴されるような、未知の空間を探査・開拓するフロンティア的活動(アカデミック・学術領域)だけを意味しているわけではない、ということである。宇宙は、遠く隔たった特別な場所であるだけではない。それは地上の防災、インフラ維持管理、建設計画、行政サービスを支える観測基盤として、私たちの生活圏に入り込み始めている。

 

その例として分かりやすいのが、スカパーJSATの展示である。「スカパー」と聞くと、多くの人はテレビサービス(衛星放送)を想起しやすい。しかし、スカパーJSATグループは、宇宙事業とメディア事業を両輪とする企業であり、テレビ事業はその一側面にすぎない。

 

同社の展示では、SAR(※)衛星データを活用した「LIANA」というサービスが紹介されていた。LIANAは、スカパーJSAT、日本工営、ゼンリンの3社が共同で開発を手掛ける、斜面やインフラの変動をモニタリングできるサービスである。SAR衛星データを用いて、Web上で地表面やインフラの微小な変動を可視化し、地すべり、斜面、軟弱地盤、埋立地、道路や空港などの変動把握に活用できる。
※SAR:Synthetic Aperture Radar、合成開口レーダー。衛星から地表にマイクロ波を照射し、その反射を解析することで、地表面の状態や変動を観測する技術。光学衛星と異なり、雲や夜間の影響を受けにくい点に特徴がある。

 

LIANAの意義は、宇宙技術そのものの高度さよりも、そのサービスが地上の具体的な意思決定に資する点にある。従来であれば現地調査や個別測量など、人力に頼っていた地盤・斜面・インフラの変動把握を、衛星データによって広域的・継続的に確認できる。自治体、インフラ事業者、建設コンサルタントなどにとっては、危険箇所の把握、予防保全、調査対象の絞り込み等に活用できる可能性がある。

 

本展を通して見えてきたのは、宇宙ビジネスが「宇宙へ行く産業」から、「宇宙を使って地上の課題を解く産業」へと広がっているということだ。衛星、ロケット、通信、観測、データ解析といった宇宙関連技術は、それ自体が高度な技術領域である。しかし現在の宇宙ビジネスでは、それらが防災、建設、インフラ、行政、物流、農業、海洋監視といった地上の産業課題に接続されることで、単なる先端技術ではなく、具体的なサービスや市場として姿を現し始めている。

 

そういった点で、SPEXA 2026は、宇宙産業の先端技術を並べる場であると同時に、宇宙関連ビジネスがどのように社会実装され、既存産業の課題解決に組み込まれていくのかを可視化する展示会であった。

(熊谷波留弥)

2026.06.09

「IFS Connect」

IFSが5月27日に「IFS Zero」の提供開始を発表しました。本製品は、エージェント型排出量管理オペレーティングシステムで、企業がスコープ1、スコープ2、スコープ3の各カテゴリーにわたる炭素排出量を測定、開示、最適化することを可能にします。
現在私はERPのレポートの取材中ですが、不透明感が漂う中、環境系の需要はトーンダウンしているのかと思いきや、全くもってそうではないという話が各社から出ています。
特にIFSには最高サステナビリティ責任者もいるなど、環境分野への注力がうかがえます。本製品の効果についても、既に年間数百時間の業務時間削減などといった値で出ています。
今回の発表は、自社フラグシップイベント「IFS Connect」内で行われました。

通常、こうしたイベントでは顧客の参加割合が高いですが、今回は65%がまだ顧客にはなっていない人とのこと。

IFSおよび、同社が提供するソリューションへの関心の高さがうかがえました。

2026.06.08

【今週の"ひらめき"視点】局地的豪雨の夏、今年も再び。水害に万全の備えを

当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。

5月28日、世界気象機関(WMO)と英国気象庁は世界の気象予測に関する報告書を公表、2026年から2030年における世界の平均気温は「産業革命前に比べ1.3℃から1.9℃上昇し、この5年間に観測史上最高気温が更新される確率は少なくとも86%に達する」という。また、温暖化に伴う海氷の減少や海水温の上昇は高緯度地域の降水量を増加させる一方、南半球では降水量が減少、太平洋赤道域ではエルニーニョの発生可能性が高まる、と予測する。

実際、欧州はWMOの予測を先取りするかのような熱波に見舞われている。英国では5月の最高気温を更新、フランス西部では熱波警報が発令、スペイン、イタリアでも記録的な暑さが続く。日本の“春”も過去2番目の高温を記録、5月中旬には九州で猛暑日も観測された。もはや「平年」と比較することの意味が失われるほどに「異常」な暑さが世界で常態化している。

筑波大と北海道大は、「日本の上空には大量の水蒸気が流れ込む“大気の川”があって、この川の流れの強度が温暖化の進行とともに増大、過去42年間で8.3%強まった。そして、こうした変化が線状降水帯など極端に強い雨を降らす要因となっている」との研究成果を発表した(5月22日)。なるほど、“これまでに経験したことのない”と形容される局地的豪雨が毎年毎年多発する一因が、遠のくばかりのパリ協定と反比例するかのように増大する“大気の川”の流量にある、ということか。

2014年から2023年までの10年間、水害被害の総額は7兆5千億円をこえる。そのうち4割が下水道から雨水が溢れ出す内水氾濫で、とりわけ都市部では7割が内水氾濫による(国交省)。こうした状況を受け、国も下水道の排水能力の向上など都市浸水対策を強化する。しかしながら、事業の達成率は全国平均で62%に止まる(2022年時点)。とここまで書いたところで台風6号の接近により筆者の事務所近くを流れる神田川にもレベル4(氾濫危険警報)が発出された。日本気象協会によると「2026年は台風の日本列島への接近数が平年並みか平年より多くなる」とのことである。台風、豪雨による被害が最小の夏になることを願う。


今週の“ひらめき”視点 2026.5.31 - 6.4
代表取締役社長 水越 孝

2026.06.05

「NEC 調達交渉AIエージェントサービスの運用を開始」

NECは、独自のAI技術「自動交渉AI」を活用した「NEC 調達交渉AIエージェントサービス」をNECグループ会社に導入し、本年4月から運用を開始したと発表した(2026年5月26日)。
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000001341.000078149.html

自動交渉AIは、人間が介在することなく、システムが自律的に取引先と交渉を行い、最適な合意形成を支援するという。従来は調達担当者が実施していた業務をAIに任せることで、取引交渉に費やされる時間を削減し、需要変動への迅速な対応と業務効率の向上を狙うとする。

NECは、NEC自身をゼロ番目のクライアントとして先端テクノロジーを実践する「クライアントゼロ」の考え方を持っている。本取組もそれに沿ったものであろう。
とはいえ自社の課題をテーマにA Iエージェントの開発に取組むのは同社のみではない。どのベンダーもスピード感をもって動いており、今年はAIエージェント元年になるだろう。大いに楽しみである。

2026.06.04

「高市政権の産業政策(重点投資17分野の設定)」①

世界的に国主導での成長産業投資が活発になる中で、日本政府では産業政策として「重点投資の17分野(集中支援対象が61製品・技術)」を選定。具体的には、AI・半導体、量子、航空・宇宙、創薬・先端医療など、成長投資と位置付けた12分野、危機管理投資として位置付けた12分野を選定(重複あり)。国として強力に投資を進めていくとともに、併せて民間投資の呼び水となることも狙っている。

 成長投資は、経済成長に結びつく量子、バイオ、コンテンツ、創薬・先進医療などの分野を想定。また社会におけるリスク低減を目指す危機管理投資では防災・国土強靭化、マテリアル(重要鉱物)、防衛産業、海洋分野などを想定している。尚、両者共通分野として、AI・半導体、造船、航空・宇宙、デジタルサイバーセキュリティ、情報通信など7分野がある。

 この政策の眼目は、「自立性の確保」と「不可欠性の確立」にあり、厳しさを増す国際情勢の中で、日本の経済安保も含めた立ち位置の強化を狙ったものである。世界中で成長産業への投資が活発になる中で、日本政府の取り組みが奏功するか注目される。

2026.06.03

【アナリスト便り】「サイバーセキュリティレポート発刊のご案内 -IT資産管理市場担当より」

5月28日に発刊した『2026AI時代のサイバーセキュリティ市場の現状と展望』にて、「IT資産管理市場」分野の取材・執筆を担当しました。
 
IT資産管理ツールの登場から数十年が経ち、成熟期にあるといわれる市場ですが、今回の取材を通してその成長は止まるどころか、むしろ新たなフェーズへ突入していると実感しました。
働き方の多様化に伴うクラウドシフトが加速し、業務で利用するアプリケーションやサービスが混在する中、IT資産管理はもはや単なる「棚卸し」作業にとどまりません。こうしたIT環境の複雑化に伴い、セキュリティの土台としての機能や、他製品との連携・拡張性を備えたIT資産管理ツールへのニーズが高まっています。
さらに、昨今のインシデント事例の多発により、IT資産管理は情報システム部門のみの領域ではなく、経営層が注視すべき最重要課題の一つとなりました。こうした潮流とともに、IT資産管理ツールの役割は今後も変化・進化を続けていくものと考えています。
 
本レポートでは、IT資産管理市場のみならず、サイバーセキュリティ市場全体やサイバー保険など関連分野についても、各社の取組動向を整理しています。ぜひご覧いただけますと幸いです。
 
『2026 AI時代のサイバーセキュリティ市場の現状と展望』(2026年5月28日発刊)

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