2010年全世界の移動体通信端末の出荷台数実績は13億2,983万台だった。スマートフォンの出荷台数増加によりメーカーシェアにも大きな変動が生じ、新興メーカーが急成長を遂げる一方、(韓)サムスン電子をはじめとする大手メーカーが(米)GoogleのAndroidOSを搭載したスマートフォンを導入し、激しい販売競争を繰り広げている。
一方でこれまで携帯電話市場の底辺を支えてきたローエンド市場にも大きな動きが見られ、中国、インドなどのアジア圏を中心に新興メーカーが急速に台頭した。
ローエンド市場では新興国・途上国を対象にした超低価格機が導入され、Nokiaがブランド力と販売力を背景にシェアを拡大させてきた。近年では欧米で成功を収めたサムスン電子、LG電子も更なるシェア拡大を目指し、ローエンド市場に参入した。さらに、(中)華為技術(Huawei)やZTE(中興通迅)が通信事業者向けOEM供給でシェアを拡大させ、中堅メーカーとして足場を固めつつある。そしてここ1~2年、中国・インドなどの民族資本による新興メーカーが急速に勢力を拡大させて注目を集めている。具体的には中国(香港系)のG‘FIVE(基伍国際)、K-TOUCH(天語)、インドのMicroMAX、RageMobileなどである。これらのメーカーは商社、販売代理店、ベンチャーなど企業の成り立ちは様々であるが、製品開発のベースとなったのは山賽機(ノーブランド携帯電話)である。山賽機は2000年代中期より台湾のファブレス半導体メーカーMediaTek社が開発したGSM携帯電話チップセットをベースに携帯電話が製造され、ピーク時には年間1億5,000万台の山賽機が流通したとされる。山賽機メーカーは政府機関に法人登録(製造認可)を得ずに無許可で製品を製造販売していたが、現在は取り締まりによって減少傾向にあり、それらの一部が正式に認可を得て端末メーカーとして再出発したとされる。
新興メーカーのビジネス展開のスピードは凄まじいものがあり、中国、インド、ASEAN諸国などのアジア圏を手始めに、既に中南米、中近東、アフリカ諸国にも進出している。中でも2008年に設立されたG‘FIVEの出荷実績は2009年には僅か277万台だったが、2010年には2000万台を越える出荷を記録し、携帯電話の世界シェアのベスト10に食い込む勢いである。
新興メーカーの台頭に対し、大手メーカーも手をこまねいておらず、G‘FIVEはNokiaから知的財産権の侵害で訴えられている。新興メーカーをはじめとする中国メーカーは模倣文化の中で育ってきたため、国際社会における著作権や特許など国際ルールへの配慮は無いといえる。今後、新興メーカーがグローバル市場で経済活動を行なっていく上では国際ルールを学習することが求められるのと同時に、デザインを含めた独創性が求められる。
新興メーカー各社はビジネス規模の拡大により今後、サービス、サポート体制の強化が求められ、コスト増加のリスクが伴う。また、競争力を維持するためにはR&Dの機能も必要となる。そして、市場が成熟するに従い、「ブランド力」がモノをいうが新興メーカーが手をつけてこなかった分野である。
新興メーカーが築いてきたビジネスモデルはやがて行き詰まり、いずれ転換を迫られる。今後、規模の拡大に伴い自社のリソース拡大を図るのか、それとも徹底したアウトソースと最小限のリソースによって会社機能を最小限で維持するのかが注目されるが少なくとも「ブランド力」を高めるには多大な投資が必要なのは言うまでもない。
中国市場では沿岸部で経済が発展した結果、消費者の所得が上昇し携帯電話についてもブランド品への嗜好が強まっており、中国メーカーのシェアは減少傾向にある。また中国政府が山賽機への取り締まりを強化したことが追い討ちをかけ、メーカー自体が減少傾向にある。。実はG‘FIVEは中国市場には未参入であり、今後中国市場へ参入する計画を持っている。参入にあたっては3Gへの対応とハイエンドモデルの導入を中心とした自社ブランドの強化を図る予定だが、同社がこれまでやってきたことと対極のビジネスモデルであり、これまで以上にシェア確保は高いハードルである。
既存メーカーは新興メーカーの攻勢に対してどのように対処すべきか?最も参考になる事例は韓国企業のブランド戦略である。サムスン電子やLG電子などの韓国企業はこれまでブランド周知とブランド強化を徹底的に行なってきた。世界的スポーツイベントへの協賛、空港や都市部での広告投下、そして現在、アジア圏のみならず欧州でもブームとなっている韓流タレントについて韓国企業は自社ブランドのイメージ向上に利用している。一方で彼らはデザイン力を磨き、競合他社との差別化を図るために半導体産業を育成し、自社製品の競争力を向上させてきた。中でもサムスン電子はディスプレイ、カメラ、メモリだけでなくメインCPUの内製化に成功した。結果的にサムスン電子やLG電子は「ものづくり」を徹底的に磨いたことで新興メーカーの台頭においても惑わされない強靭な体力を身につけたのではないかと考える。
成熟市場に足を踏み入れつつある中国においては、サムスン電子、LG電子が採ってきた施策は実を結びつつある。しかし、インド以下の新興国や途上国が成熟するには暫く時間が掛かる。それまでの間は新興メーカーの攻勢を上手くかわしながら自らのビジネスを確実に遂行していくことが求められるろう。
(賀川勝)
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