矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2019.12.25

5G導入を目前に控える国内市場と相次いで参入する中国メーカーの見通し

国内携帯電話市場環境の変化

国内の携帯電話市場は2019年10月に施行された「電気通信事業法の一部改正」とそれに伴う省令改正により、端末の販 売手法や通信事業者の料金プランが大きく変わることとなった。主な改正内容として下記が挙げられる。

  • 端末代金と利用料金の分離義務化
  • 端末購入を条件とした一定期間の料金割引プランが廃止
  • 端末割引の上限設定(最大で2万円迄)
  • 2年縛りの廃止と、解除料の大幅引き下げ

実際の市場では大手通信事業者各社は夏季に上記新制度を見越した新料金サービスを導入しており、10月以降、抵触する部分を変更した程度に留まり、大きな変化は無いのが実情である。
また、通信事業者各社が取り扱うスマートフォンに関して、販売価格を抑えたミドルエンドクラス製品に重点を置き始めた。スマートフォンのコモディティ化により基本性能が大きく向上したことに加え、ワンセグなど使われない機能をそぎ落としたことで消費者は適切な製品をリーズナブルな価格で手に入れられるようになり、寧ろ健全化したと言える。

中国大手メーカーの相次ぐ日本進出

SIMフリー化により、日本市場に幾つかの海外メーカーが参入を果たした。そんな中で2018年には中国OPPOが、そして2019年12月には同じく中国のXiaomiが日本市場に進出している。両社は世界市場でトップ5に入る大手メーカーでありながら、携帯電話市場に参入して日は浅く、OPPOは約11年、Xiaomiは約7年の新興企業である。両社はそれぞれ異なるアプロー チで市場を開拓してきたが、共通している点として中国市場での厳しい競争下で、自らのブランド力を高めつつコストパ フォーマンスに優れたスマートフォン製品で消費者の支持を集めたことが挙げられる。
現在は中国市場が飽和していることもあり、インドをはじめとするアジア、ASEAN市場と欧州市場の開拓に注力している。

両社が日本市場に進出した理由として

  • SIMフリー及び格安スマホ市場の拡大
  • 電気通信事業法の一部改正
  • 日本メーカーの弱体化
  • コストパフォーマンスに優れた製品が求められるユーザーニーズの変化
  • SNSが普及し、カメラ機能を重視する風潮がブランドコンセプトと一致

などが挙げられる。
また日本市場でファーウェイ(Huawei)が一定の市場を獲得したことや、サムスンがミドルレンジクラスの製品を市場導入し、通信事業者向け及びSIMフリー市場で成功を収めていることも彼らが参入するのに値する市場であるとの判断が働いたものと思われる。
特にOPPO、Xiaomiはコストパフォーマンスの高いミドルエンドスマートフォンに強味を持っていることに加え、リアル店舗の展開で市場を獲得してきた経緯から日本の家電量販店との相性の良さを計算にいれたのかもしれない。

OPPOは2019年10月に「おサイフケータイ」に対応した戦略モデル「RenoA」を導入したが、同社は人気タレントをCMに起用するなど海外で成功を収めたプロモーション戦略を日本市場にも持ち込んだ。OPPOは既に楽天モバイルでは主力メー カーとして複数の製品が取り扱われており、2020年以降は大手通信事業者への採用を目指しているとされる。OPPOは2020 年には5Gスマートフォンの日本導入、フラッグシップモデル導入、防水対応等、日本市場への対応を表明している。

Xiaomiが2020年度の日本市場参入を目指していたが、2019年12月に前倒しした。日本市場参入にあたり1億画素カメラを搭載した「Mi Note 10」「Mi Note 10 Pro」の2機種を導入した。同時にウェアラブルデバイス「MiBand4」やモバイルバッテリー「パワーバンク3」を同時に発売し、同社の特徴であるIoT家電との連携も早々に打ち出している。

中国リスクの影響は?

しかし、両社とも中国企業であり今後ファーウェイと同様、米中貿易摩擦の影響を受けるリスクを抱えている。
ファーウェイではグーグル「GMS」(Google Mobile Services)の利用が受けられなくなったスマートフォンが出始めている。その対応策として独自の「HMS」(Huawei Mobile Services)の開発を開始すると共に、同社が掲げる「1+8+N」戦略 や独自OS「Harmony OS」を日本市場でも推進する方針を表明している。

現在、両社は規制対象から外れているものの、米中の動向次第ではこれら企業がターゲットとされる可能性は否定できず、日本の大手通信事業者向けOEMビジネスの実現にも大きな影響を及ぼすとみられる。
また、中国メーカー製品を使用したユーザーからは既存のAndroidOSとは異なるインターフェイスの癖を持つ点に不満が上がっている。特にOPPO製品は顕著で、独自のカスタマイズに違和感を持つユーザーが多いことには留意する必要があ る。

2020年以降、日本市場でも5G商用サービスを開始

2020年春には大手3社が揃って第5世代移動体通信サービス(5G)を開始する。サービス開始当初は東名阪を中心にエリア構築が進められ、対応スマートフォンも春から夏にかけて複数のメーカーから発売される見通しとなっている。その際にはサムスン電子、シャープをはじめとするメーカーから製品が導入される可能性が高い。
動向が注目されるのは(米)Apple「iPhone」の次期モデルが5G対応となるかどうかである。日本では4GLTE普及の際にも iPhoneが大きな役割を果たした経緯があり、5Gでも同様の期待が集まるのは想像に難くない。

一方で総務省は大手3社に対して早期に5G網をMVNOに開放するように求めている。インフラ整備との兼ね合いもあるが 、MVNOへの開放はSIMフリー製品の動向とも密接に関連してくるため、導入初期は開発力のある大手が有利にビジネスを展開する筈である。  

第4の通信事業者として免許を交付された「楽天モバイル」は大手3社がほぼ横並びでサービス拡大を図るのに対して大きく出遅れる事が予想される。既に複数の行政指導を受けており、首都圏エリアに於いても品質が確保されていない状況に於いて期待する事は先ず不可能であり、これまでの新規事業者以上に苦しい戦いを強いられるのは間違いない。

中国メーカーの可能性

国内の携帯電話市場は成熟化が進む中、大手通信事業者各社は安定した顧客基盤を元にビジネスを展開している。MVNOによる「格安スマホ」は普及は進むものの、総務省が想定する13%前後の普及率には程遠く、未だ8%前後に留まっている 。
今後、契約数の伸びが期待できるのは、自動車へのDCMモジュール搭載をはじめとするIoTカテゴリであり、特にコンシューマ市場では大きな伸びを期待するのは難しい。

端末ビジネスについても「iPhone」が絶対的な強さを発揮するものの、高額であるが故に今後はリーズナブルな製品に乗り換える動きが加速するかもしれない。しかし、国内のスマートフォンメーカーは開発力が減退しており、シャープを除き出荷台数が年々減少傾向にある。中国メーカー各社は国内メーカーの弱体化に呼応する形で市場を拡大させていくのではないかと予測する。特にOPPO、Xiaomiの2社はプロモーションやブランド構築に投資をする可能性が高く、早期に家電 量販店に専用コーナーを設置して販売人員を大量投下してもおかしくはない。少なくとも現在の国内メーカーにそういった投資を行う余力があるとは到底思えない。

賀川勝

関連リンク

■レポートサマリー
中国のスマートフォンメーカー7社の調査を実施(2020年)
世界の携帯電話契約サービス数・スマートフォン出荷台数調査を実施(2023年)
世界の携帯電話サービス契約数・スマートフォン出荷台数調査を実施(2022年)
5G(第5世代移動体通信システム)の世界市場に関する調査を実施(2019年)

■アナリストオピニオン
5Gスマホを復活させたHuaweiは再び浮上するか?
Huawei(ファーウェイ/華為技術)の行方
危機的状況にあるHuawei(ファーウェイ/華為技術)の現状と市場見通し
スマホ市場における中国メーカーの躍進

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