矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2019.05.29

危機的状況にあるHuawei(ファーウェイ/華為技術)の現状と市場見通し

Huaweiの躍進と米国の禁輸措置による衝撃

2019年5月、米国トランプ大統領はアメリカ企業が安全保障上の脅威がある外国企業から通信機器を調達することを禁止する大統領令に署名し、禁輸措置対象リストに中国の大手IT企業Huawei(ファーウェイ/華為技術)が掲載され、同社に対しアメリカ製ハイテク部品やソフトウェアの供給を禁止した結果、Huaweiの移動体通信端末、ネットワーク機器のビジネスが窮地に立たされている。これまでHuaweiはスマートフォンのバックドア問題や5Gにおける機器導入問題、同社副会長兼CFOのカナダ司法当局による逮捕といった問題を抱えていた。

Huaweiは2018年のスマートフォン出荷台数が2億台を超え、四半期ベースの出荷台数では既に(米)Appleを超える世界シェア2位のメーカーとなっており、世界シェアトップのサムスン電子も視野に入り始めていただけに今回の問題は同社にとって大きな痛手である。

【図表:スマートフォン世界出荷台数推移】

図表:スマートフォン世界出荷台数推移

矢野経済研究所推計

Huawei製スマートフォンの仕向地別の構成比は中国が約9,000万台で全体の44%に達する。米国市場は元々少なく2018年はごく少数に留まっている。一方、日本、ASEAN諸国、インドを含むアジア市場や欧州市場等でもシェアを急拡大させており、存在感は高まるばかりであった。

【図表:Huawei(ファーウェイ/華為技術)の2018年出荷台数 地域別構成比】

図表:Huawei(ファーウェイ/華為技術)の2018年出荷台数 地域別構成比

矢野経済研究所推計

Huawei製スマートフォンが市場で出荷台数を伸ばした背景には、
①販売力
②商品力
③ブランド力
の全てが備わっていた訳だが、今回の件で商品力とブランド力は大きく毀損した。
またスマートフォン以外にタブレット、Wi-Fiルーター、WindowsモバイルPCなども手掛けており、今後はスマート家電分野への進出も計画されていた。

報道されているように、Googleとの取引が不可能となったことでAndroidOSについて、今後発売が予定されている新製品へのAndroid搭載が不可能となった。また既存製品のOSのアップデートが出来なくなる可能性や、Googleが提供する各種サービスが使用できなくなる可能性も指摘されている。また、同社製品が数多く搭載する(米)Qualcomm製チップセットの調達も不可能となり、市場へ競争力のある製品の導入が難しくなった。
更に追い打ちをかけるように(英)ARMのCPU製造におけるライセンス供給の停止に加え、SDアソシエーションの会員名簿からHuaweiの名前が削除されており、ハードウェア製造においても大きな影響が出始めている。今後、更に他のライセンスを使用できなくなる懸念も生じる。

Huaweiも既に対策を講じており、部品在庫の積み増しを図っているもののあくまで短期的なものである。またOSやチップセットも自社開発を表明しているが実現性に疑問が出始めている。

一方で中国国内ではHuaweiを擁護する動きが活発化しており、同社製品の購買運動や同社の元従業員が無償で働くといった本来、中国人には希薄だった団結感や愛国心が生まれている点は注目に値する。

混迷するスマートフォン市場 各国の状況は

Huaweiが市場から排除される事による市場への影響だが、政治的要因があまりにも強い事から全く見通せない。

同社にとって最大市場である中国市場ではApple製品の不買運動が懸念される。一方で制裁を逃れた中国メーカー各社は漁夫の利を得るべく攻勢をかける筈でXiaomi(シャオミ/小米科技)、OPPO(オッポ/欧珀)、Vivo(ヴィーヴォ、ビボ)といった大手メーカーは恩恵を得られる可能性が高い。

米国市場では既にHuaweiは排除されており、影響は軽微である。日本市場では大手通信事業者各社が夏季商戦向けに採用を強化していたところなので出鼻を挫かれた格好である。MVNO各社も新製品の販売延期を発表しており、他社製品での穴埋めを迫られている。

ASEAN、インド市場ではHuaweiはサムスン電子、OPPO、Vivo、Xiaomiといったメーカーと厳しい競争を強いられており、後退を余儀なくされる。

欧州市場では、サムスン電子、Apple、LG等にとって有利な状況なものの、OPPO、Xiaomiが進出し始めており、新興勢力が大きくシェアを伸ばすチャンスとなるかもしれない。

アフリカ市場ではHuaweiは先行するTRANSSION(伝音)を追撃すべく攻勢を掛けていたが、やはり後退を余儀なくされる。一方で途上国では価格が優先されることもあり、自社開発のOS、チップセット開発に成功し、上手く製品に反映されれば芽はあるかもしれない。

スマートフォン市場は出荷台数が頭打ちの状況にあり、Huaweiの問題が市場にどのような影響を齎すかは読みにくい状況にあるが、もしHuaweiのスマートフォンが市場から消える状況になれば市場バランスは大きく変貌することになるかもしれない。

Huawei問題が誘発するインフラ構築の停滞

今回のHuawei問題は米国政府から嫌疑をかけられた中国共産党政権との癒着についてHuawei側が明確な回答をしなかった(出来なかった)ことが消費者に多大な不安を与えてしまったのは事実で、仮に制裁が解除されたとしても、同社製品に向けられた疑惑を晴らさない限り信頼を回復する事は難しい。
今回はトランプ大統領の強権発動によって事態はより世間の関心を集めてしまっているが、米国の貿易赤字のみならず、米国企業のIT企業(Google、Facebook、Twitter等)が中国市場から事実上排除されている現状を考慮すれば米国の対応を一方的に糾弾できないのも確かである。

しかし、端末以上に大きな影響となっているのは5G(第5世代移動体通信システム)のインフラ構築で日本を含む世界の通信事業者で同社製品を採用する見通しだったこともあり、スケジュールの遅延、調達価格の高騰、ネットワーク品質の低下といった問題が起こっている。5Gに関してHuaweiは多くの特許を有している事も大きく影響してくるかもしれない。
5Gは様々な産業分野への波及効果が期待されており、これまでIT産業の覇権を誇ってきた米国にとって、通信システムを中国企業に牛耳られることは安全保障の観点からも大きな懸念を持っていた事は容易に想像できる。実際、Huaweiは排除されてしまうだけの力を身に着けていたのも事実である。今回は単純な貿易摩擦の問題として片付けられないのも確かである。

賀川勝

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