矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2008.09.30

米モトローラ社復活への道

Motorolaの携帯電話事業はなぜここまで落ち込んだのか?

(米)Motorolaの携帯電話事業が低迷している。2006年には2億台超の出荷を記録したが、2008年は(韓)SAMSUNG電子、LG電子、SonyEricssonに抜かれ、5位に転落する見通しであり、出荷台数は1億台を切る公算が高い。Motorola低迷の理由は大きく分けて2つある。

(1) 方向性の欠如
(2) 市場トレンドへの乗り遅れ

2007年、(米)Motorolaでは携帯電話部門をリードする役員の退社が相次ぎ、舵取りができない状況に陥っていた。また、業績悪化に伴い、Motorolaでは従業員解雇を含むリストラを断行しており、もともと弱いとされていた製品開発力がさらに落ち込んでしまったのが決定的であった。結果、Motorolaは市場のトレンドにも乗り遅れてしまっている。具体的にはHSDPAを含む3G対応、音楽・カメラ機能を前面に押し出した製品の開発、スマートフォンなどである。

Motorola最大の失敗は「RAZR」のマーケティングである

2005~2006年にかけてのMotorolaの躍進は2004年に発売した「RAZR」シリーズ(累計出荷:約7,500万台)の成功に起因しており、Motorolaが弱いとされた欧州市場においてシェア拡大に成功したが、Motorolaは「RAZR」を足掛け4年間の長期にわたり生産を続けた。その間、3G、3.5G、CDMA2000対応版など多くのバリエーション製品を導入したがデザインはマイナーチェンジ程度に留められ、新鮮味が薄れてしまった。

また、Motorolaは「RAZR」をフラッグシップとして、スティック型、スライド型のバリエーションモデルを相次いで導入したものの、販売面においても「RAZR」の実績には遠く及ばない。Motorolaは「RAZR」をあまりにも大きなブランドにしてしまい、自らその呪縛に嵌ってしまったといえる。

また、Motorolaが強みを発揮していた発展途上国におけるローエンド端末の販売競争において戦略モデルとして導入した「MOTOFONE F3」が競合するNokia製品にまったく歯が立たなかったことも大きな痛手となった。さらに200ドル~300ドルの価格帯に属する「ローエンドプレミアム」市場にMotorolaが導入したモデルは通信事業者が客寄せとして低価格で販売されている「RAZR」と競合する結果となり、Motorolaの商品戦略は根本から崩れてしまった。

Motorolaは携帯電話部門を分社化した上で売却する方針を打ち出したものの、有力な買い手が見つからず、自らの手で再生の道を歩まざるを得ない状況にある。

Motorola復活の前に立ちはだかる3つの課題

Motorolaは2009年の復活に向け、新製品の開発を進めているが「基幹モデルをODM発注」するなどこれまでは考えられなかった手法を採用している。これまで大手メーカ各社は基幹モデルの生産をEMSに委託するケースはあったものの、設計・開発は自社で行なってきた。しかし、Motorolaは今回、低価格機、高級機を含む3.5G対応の携帯電話、スマートフォンのほとんどを台湾のEMS、ODM企業各社(Foxconn(CMCSを含む)、CompalCommunication、Qisda(BenQの生産部門、2008年7月に設立))に発注した。

台湾のEMS、ODM企業としても待ち望んでいた3G端末のODM案件であり、Motorolaとは「一蓮托生」の関係であることからODM企業にとっても生き残りを掛けた重要なプロジェクトとなっている。懸念材料として

(1) ODM企業各社には3G開発経験が乏しいこと
(2) スマートフォンに代表される次世代機の開発 
(3) ブランド力の回復

が挙げられるが、(1)ついては台湾企業として経験がある(米)Qualcommのプラットフォームを積極的に採用することで解決の見通しを立てている。(2)についてはMotorola自身もさまざまなコンソーシアムに参加しているものの、リソースが不足している状況では多くを期待できない。

(3)がいちばん大きな課題である。Motorolaは市場で「不人気ブランド」としての評価が定着しており、消費者のイメージを覆すのは並大抵のことではない。また競合するNokia人気は絶対的なものがあり、SAMSUNG電子、LG電子、SonyEricssonとの差別化を図るのは難しい作業である。

結局のところ、Motorolaが市場で輝きを取り戻すには携帯電話事業全般を牽引するリーダーの存在が不可欠であり、それを具現化するデザインチームと商品戦略もまた同じである。ODM企業各社がMotorola本体に欠けている部分を補完できるかは不透明であり、その役割を現時点で演じられるのはFoxconnのような企業なのかもしれない。

現在、Motorolaに求められているのは「RAZR」(=過去)の呪縛から逃れることであり、2009年モデルの出来が今後のMotorolaの動向を占う上で重要な位置を占めるのは間違いない。

賀川勝

賀川 勝(カガワ スグル) 上級研究員
新興国が先進国に取って替わり世界経済を牽引している現在、市場が成熟化するスピードも早くなっています。そのような状況下でお客様にとって本当に価値ある情報を最適なタイミングでご提供出来る様、常に心掛けております。

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