矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2021.06.16

Huawei(ファーウェイ/華為技術)の行方

Huawei(ファーウェイ/華為技術)端末ビジネスの状況

2020年の携帯電話市場最大の関心は新型コロナウィルス(COVID-19)の影響と中国の大手通信機器メーカーHuawei(ファーウェイ/華為技術)の動向だった。Huaweiは端末ビジネスと基地局を含む通信機器インフラビジネス、パソコン、ウェアラブルデバイス等を展開する総合メーカーである。

Huaweiの2019年における携帯電話出荷台数は、約2億4,000台でAppleを上回り市場シェア2位に躍り出た。首位のSAMSUNG(サムスン)を射程に捉え、早ければ2021年には世界シェアトップを伺う勢いだったが、既に大きな問題が生じており、米国政府の圧力の一環で(米)GoogleがGMS(Google Mobile Service)のサポート対象からHuaweiを外した。結果、日本や欧米市場ではHuawei離れが進んだものの、中国市場では元からGoogleは排除されており、OS関連の問題は発生していないどころか、米国政府の圧力に対抗する形で国民がHuaweiを応援するために積極的に同社製品を購入した。

2020年における出荷台数は約1億8,000万台で、前年比で約25%減少した。競合他社と比較してHuaweiの減少ぶりは際立っている。Huaweiの出荷台数減少の要因としてCOVID-19の影響が大きいが、それ以上に深刻だったのは米国商務省に「エンティティリスト」に登録され、2020年9月に同社向けに高付加価値半導体の出荷が禁止された事が挙げられる。
結果、競合各社がクリスマス商戦に向けて新製品を導入する中、同社は新製品発表したものの、市場の需要を満たすほどの供給が行えなかった。結果的にHuaweiの出荷が滞ったことで他社の回復を手助けする形となった。特に欧州市場では同じ中国のXiaomi(シャオミ/小米科技)、OPPO(オッポ/欧珀)が大きく躍進を果たしている。

Huaweiのスマートフォンにはグループ会社HiSiliconが設計・開発した「kirin」プロセッサを搭載しているが、HiSiliconはファブレス企業であり製造技術は持ち合わせておらず、生産を台湾・TSMCに委託している。
5Gスマートフォン製造に不可欠な5nmプロセスで製造された半導体を製造出来る企業はTSMCとサムスン電子に限定されている。米国由来の技術や設備を使用することを禁止された為、Huaweiは米国以外の企業にアクセスしたものの、悉く断られている。自社の製造設備立ち上げを表明したものの短期間での設置は非現実的であり、同社の端末ビジネスは事実上息の根を止められたと言っていい。

Huaweiは水際対策として若年層向けサブブランド「Honor」を2020年11月に売却するのが精一杯だった。Honerブランド製品は2019年に約6,000万台を出荷しており、Huawei全体の1/3を占めていた。

2021年におけるHuaweiの出荷台数は売却したHonorの減少分を含めて7,000万台程度に減少することが予測されている。同社の端末ビジネスに於いて、4GLTE規格迄のチップセット調達は米国商務省に認可されているものの、5G対応チップセットの調達は不可能となっている。2020年以降、スマートフォン市場は5Gへの移行が急速に進んでおり、同社の端末ビジネスは年を追う毎に尻すぼみになるのは確実である。

基地局ビジネスの状況

一方、Huaweiのもう一方の柱である基地局ビジネスについて、2019年の世界シェアは約35%に達していた。2020年は4Gインフラの設備投資がひと段落した一方で中国市場で5Gの投資が急増したこともあり、約44%に達した。
同社は2020年2月時点で世界の90社以上の通信事業者との間に5G網構築の契約を交わしていた。しかし、米国商務省にエンティティリストに指定された事を受け、西側の先進国市場を中心に既存の4G網に加え5G網7構築に於いてHuawei排除の動きが活発化した。特に英国、ドイツでは4G対応のHuawei製基地局網が大規模に構築されており、撤去も含めて膨大な再投資の必要に迫られている。
西側諸国を中心に大口契約の多くを失ったHuaweiだが、2020年に関しては中国市場向けの導入を優先させることで売り上げを大きく伸ばした。2019年11月に5G商用サービスを開始した中国では、開始時点で全国に20万局の基地局を設置されていたが、2020年12月末時点で全国に約78万局の設置を完了させている。

しかし、制裁によりHuaweiの基地局設備向けのチップセット調達の目途が立たず、2021年以降の出荷が相当厳しい状況に置かれてしまうのはスマートフォンと同様である。
しかし、中国政府としては一帯一路の戦略上、Huaweiの通信インフラの存在が不可欠であり、ダメージは非常に大きい。米国の影響が強い西側諸国は別として、Huaweiと契約していた通信事業者は5G網構築を全面的に見直す必要に迫られ、導入スケジュールの遅延に加え、コスト負担の増加を強いられる形となる。

Huaweiが関心を集めた最大の理由は米中貿易摩擦の渦中に米国商務省から「エンティティリスト」に登録され、同社製品の米国への輸入禁止及びHuawei、同社関連企業を含めて米国企業製の半導体の購入、米国企業の関連技術を使用した機器の使用禁止といった厳しい制裁措置を受けたことに由来する。当初は抜け道を利用する事で制裁を回避できるといった楽観論が出ていたものの、商務省の制裁は徹底しており、抜け道の可能性が取り沙汰されれば、更に追加制裁を発動する徹底したものであった。

Huaweiは過去にイラン、アフガニスタン、シリア、北朝鮮などに通信インフラを輸出してきた点が問題視されてきた。米国政府からは再三に渡り「中国政府の意向を受け、サイバー攻撃やスパイ行為に加担している」と指摘され、その後米国政府調達品、大手企業での不採用が進んだものの、明確な証拠が見つかったわけでは無い。
しかし、5Gに於いてHuaweiは競合のNokia(ノキア)、Ericsson(エリクソン)に対し、2~3年の技術格差があると言われるほどの技術的なアドバンテージと、2~3割安価とされるコスト競争力があるとされる。また5G関連の保有特許が多く、標準化団体で強い発言力を持つ。5GでHuaweiに主導権を握られると、情報通信分野のみならず国防面からみてHuaweiを脅威とする論理は決して的外れなものとは言い切れない。
中国政府は米国の対応に対し真っ向から対立しているが、当の中国市場は世界で最も参入障壁が高い市場であり、Appleを除くGAFA(Google、Amazon、Facebook)は中国市場から排除されてしまっている。

2020年は米国大統領選挙が実施され、トランプ共和党政権からバイデン民主党政権への政権交代が起こった。政権交代による対中国政策の変化も見込まれたものの、蓋を開ければバイデン新政権は前政権の政策を引き継いでおり、Huaweiの置かれている状況は改善の兆しが見られなかった。

米国がHuaweiを徹底排除に至った理由は多岐に渡り、主だったものとして

  • Huaweiは創業のバックグラウンドについて、中国共産党・人民解放軍との繋がりが深い。
  • 同社製スマートフォン・基地局にはバックドアが仕込まれ、個人の行動、通信記録、プライバシー情報が筒抜けである(公式には確認されていない)。
  • 今後、世界で普及が進む5G網構築に於いて、Huaweiは価格競争力・技術力で相当優位な状態にある。世界市場を席捲する可能性が非常に高く、安全保障上のリスク要因となる。
  • 中国政府が推進する通商政策「一帯一路」に於いて、情報通信分野をHuaweiが担っている。一帯一路は多方面で語られており、Huaweiを封じ込めることによる抑止効果が非常に大きい。

等が挙げられる。

まとめ

これまで中国は世界の製造工場として機能してきたが、中国国内の人件費上昇に加え、中国リスクが高まっており、中国離れが徐々に加速しつつある。特に情報通信分野では中国ローカルルールの影響が大きくなっており、生産拠点としてインド、ベトナム等へ移転する動きが加速している。

米国商務省によるHuaweiへの半導体及び米国製半導体製造装置によって製造された半導体の供給禁止措置は、中国政府に待ったなしで「自国技術・自国の知的財産による新たな半導体製造」という大きな課題を突き付ける形となった。

先日の先進国首脳会議(G7)での首脳宣言では中国に対する内容が目立った。東シナ海や南シナ海への海洋進出、新疆ウイグル自治区の人権問題や香港情勢、台湾問題に加え、中国の巨大経済圏構想「一帯一路」への対抗を表明している。

Huaweiの問題は通信機器メーカー1社の問題に留まらず、米中関係、更には世界の安全保障問題にまで発展してしまった。中国の通信企業では他にZTEも同様の扱いを受けているが、米国商務省に対し膨大な和解金を支払っている分、端末ビジネスではHuaweiのような厳しい制裁を受けていない。
他の中国端末メーカーは2021年現在、制裁対象になっておらず今後も制裁対象となる可能性は低い。現にOPPOからスピンオフしたOnePlusは2020年に米国市場への進出を果たしている。

Huawei問題は多分に政治的な要素を孕んでいるが、米中摩擦は当面収まる可能性はなく、今後よりエスカレートする危険性を持つ。今後は半導体問題に付随してTSMCを擁する台湾の扱いがより重要視されてくるのは確実である。

日本の部品メーカーにとってHuaweiは大口顧客であり、その影響は計り知れないものがあった。しかし、Huaweiの凋落に合わせて他メーカーからの調達が増加しているとされるが、今後は中国メーカーを対象に部品、素材、製造設備等のビジネスを行う企業は難しい舵取りを強いられることになると思う。

賀川勝

関連リンク

■レポートサマリー
中国のスマートフォンメーカー7社の調査を実施(2020年)
世界の携帯電話契約サービス数・スマートフォン出荷台数調査を実施(2023年)
世界の携帯電話サービス契約数・スマートフォン出荷台数調査を実施(2022年)
5G(第5世代移動体通信システム)の世界市場に関する調査を実施(2019年)

■アナリストオピニオン
5Gスマホを復活させたHuaweiは再び浮上するか?
危機的状況にあるHuawei(ファーウェイ/華為技術)の現状と市場見通し
5G導入を目前に控える国内市場と相次いで参入する中国メーカーの見通し
スマホ市場における中国メーカーの躍進
急速に進化するスマートフォンの高速充電技術と課題
スマートフォン搭載インターフェイスの大きな変化と意味するもの

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