矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2023.11.17

5Gスマホを復活させたHuaweiは再び浮上するか?

Huaweiが5Gスマホ販売を再開

2020年秋、米中貿易摩擦の影響で(中)華為技術(Huawei)は米国商務省から「エンティティリスト」に登録され、5G無線通信に対応した半導体及び半導体製造装置の同社への売却を禁止された。現在では更に(中)ZTEも制裁対象に加えられ、2022年11月以降、米国市場では中国企業の通信機器全般の販売が禁止されている。(一部例外あり)

米国による制裁措置の結果、Huaweiは2020年10月以降、同社製スマートフォンに搭載するチップセット(SoC)の調達が不可能となった。更に(米)Google「AndroidOS」のアップデートを含むサポートも受けられなくなり、同社のスマートフォンは西欧、東南アジアをはじめとする世界市場での出荷停止を余儀なくされた。 Huaweiは影響を最小限に留めるため、同社が若年層向けに展開していたサブブランド「Honor」を別会社化した上で売却する措置を取ったものの、Huaweiは西欧市場をはじめとする世界の主要市場からの撤退を強いられた。最終的には中国市場など一部市場にて独自OS「HarmonyOS」を搭載した4Gスマートフォンを販売継続する程度となった。Huaweiのスマートフォン出荷台数はピーク時の2億2,000万台から4,000万台への縮小している。
同時にHuaweiの基地局ビジネスも影響を受けたが、影響は西側諸国の一部の契約を失った程度に留まり、減少分は中国国内5G投資に充てられ、結果的に5G向け基地局の設置数は2022年には300万局を超え、世界トップの5G市場となっている。

Hisilliconが7nmプロセスSoCを開発

2023年9月に発表されたHuaweiの最新スマートフォン「Mate60」「Mate60Pro」は5G・衛星通信に対応し、更にHuawei傘下のHiSilicon製の新型SoC「Kirin 9000s」を搭載したことが大きな話題となった。当初、政治情勢を考慮したのか新型SoCの存在は伏せられていた。新SoC「Kirin 9000s」は7nmプロセスで製造されたものとみられている。今回、存在が表面化した新SoCは新設計ではなく、規制前に製造されていた「Kirin 9000」シリーズの派生型とされる。当初5Gに対応したSoCの製造は5年以上掛かるとみられていたのにも関わらず、僅か3年で対応してきたことに対し、市場では大きな驚きをもって迎えられている。

対応出来た最大の要因として、HisiliconからSoCの開発・製造を受託している(中)中芯国際集成電路製造(SMIC)が同業の世界最大手である台湾積体電路製造(TSMC)から上級エンジニアを含む開発チームをヘッドハンティングしたことが挙げられている。
更に上級エンジニア経由で半導体製造に必要とされるオランダASML社製の極紫外線ソグラフィ(EUV)、深紫外線リソグラフィ(DUV)といった米国から禁輸措置に指定されている機器を入手したとされ、新SoCはヘッドハンティングされた開発チームに拠って開発されたものと予測されている。

Huaweiはスマートフォン市場で再び浮上することが出来るか?

Huaweiは約3年間、5G対応スマートフォンの新製品発表を行ってこなかったが、最新スマートフォン「Mate60」「Mate60Pro」は最新トレンドを一通り網羅しただけでなく、衛星通信に対応する等、高い競争力を有した製品に仕上がっている。
一方で、搭載OSは同社独自のHarmony OSとなっており、AndroidOSは搭載していないことから、西欧を含む海外市場での販売は意図されておらず、輸出も適わない可能性が高い。特に西欧市場や日本ではAndroidOSを搭載し、Googleサービスが利用出来ないことには消費者や販売店、通信事業者、コンテンツプロバイダ等から支持されないのも確かである。

嘗て年間1億台以上のスマートフォンを販売していた中国市場にて5Gスマートフォンの販売再開に漕ぎつけた意義は大きい。しかし、2023年末時点でSoCの供給がクリアになった確証は無く、今後更に5Gスマートフォンのラインアップ及び出荷台数が拡大するのかを見守る必要がある。また、今回存在が明らかになった新SoCに続く製品が開発できるのか? 最大手のTSMCやSAMSUNGは3nm、2nmプロセスの製品を2024年から2025年に掛けて順次市場に導入する見通しであり、恐らく中国政府が主導する最先端半導体の国産化プロジェクトに於いて、米国による制裁が続く状況下で競合に追いつくのは至難の業であることに変わりはない。

Huaweiが低迷している間にOPPO、vivo、Xiaomi、Honorといった中国メーカー各社が海外市場を開拓し漁夫の利を得たものの、OPPOはライセンス問題から西欧市場からの撤退を余儀なくされた。更にインド市場はスマートフォン市場が本格的な普及期に入る一方、ロシアは制裁の影響で中国メーカーの製品が幅を利かせるなど、ここへきてスマートフォン市場の市場環境は大きく変化している。スマートフォン市場全体が低迷する中、Huaweiが再び息を吹き返す事でどのように市場が変化するか、大いに注目していきたい。

賀川勝

関連リンク

■レポートサマリー
世界の携帯電話契約サービス数・スマートフォン出荷台数調査を実施(2023年)
世界の携帯電話サービス契約数・スマートフォン出荷台数調査を実施(2022年)
中国のスマートフォンメーカー7社の調査を実施(2020年)
5G(第5世代移動体通信システム)の世界市場に関する調査を実施(2019年)

■アナリストオピニオン
Huawei(ファーウェイ/華為技術)の行方
危機的状況にあるHuawei(ファーウェイ/華為技術)の現状と市場見通し
5G導入を目前に控える国内市場と相次いで参入する中国メーカーの見通し
スマホ市場における中国メーカーの躍進

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