矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2024.08.02

日本におけるキャッシュレス決済の変遷

今回、YzFLASH通巻100号発刊という事で、キャッシュレス決済の変遷を見て行きたいと思う。YzFLASH第1号が発刊された2001年9月頃は、キャッシュレス決済という言葉はあまり使われておらず、クレジットカードによる決済が主流であった。そのクレジットカード決済の取扱高も2022年度においては、17兆円程度の取り扱いであった。

電子マネーの台頭

2001年、日本の電子マネーの歴史は大きく動き始めた。2001年11月に、JRが発行する交通乗車券に電子マネー機能を付加した「Suica」とビットワレット(現楽天Edy)が発行する「Edy」が誕生し、電子マネーが脚光を浴びる事となった。電子マネーの利用は陸マイラーと呼ばれる層を中心に拡がった。当時ポイント還元率が高く、マイルを貯めやすいというメリットがあったため、陸マイラーにとって魅力的なツールとなっていた。
電子マネーは、脚光を浴びたものの普及拡大へのブレイクスルーが求められていた。2007年にセブン・イレブンで「nanaco」、イオンで「WAON」が利用できるようになり、国民の生活に密着した企業が電子マネーを導入した事で、利便性や利得性が認知され、利用者の増加に伴い電子マネーが本格的に普及するフェーズに入っていった。

クレジットカード決済の2桁成長神話の終焉と決済分野におけるイノベーション

クレジットカード決済は2000年半ばより2桁成長を堅持してきたが、2010年に入り、クレジットカード決済の2桁成長神話が終焉し、成長率の鈍化がみられた。その要因は、改正貸金業法の施行で収益が著しく悪化した事に加え、リーマンショックを背景とした景気停滞の影響が大きかった。

決済分野におけるイノベーション

2010年に入り、厳しい経済環境の中で、従来の枠にとらわれない新決済サービスが次々と誕生し、キャッシュレス決済に新たなテクノロジーを持ち込むようなスタートアップが台頭していた。具体的には、PayPalやSquareなどの新決済サービスが生まれ、キャッシュレス拡大の機運が徐々に高まっていた。この頃は、次にどのような決済サービスが生まれるのか、楽しみで仕方がない時期でもあった。Stripeのようなコードを張り付けるだけで簡単にオンライン決済が導入できるサービスが立ち上がるなど、画期的なサービスが生まれる環境が整いつつあった。

政府の成長戦略に初めてキャッシュレスが盛り込まれる

2014年、政府の成長戦略においてはじめて、キャッシュレスという言葉が盛り込まれたことは、キャッシュレス業界においては大きな転換点となった。当時は、キャッシュレスを使って何が出来るのか、なぜキャッシュレスなのか、経済成長とキャッシュレスの関係性が十分に理解されていない時期でもあったため、キャッシュレス推進に懐疑的な見方もあった。しかし、キャッシュレス化の機運を本格的に高めるきっかけとなる出来事であった。

コード決済の台頭

政府の成長戦略にキャッシュレスが盛り込まれ、キャッシュレス決済の機運が高まり、クレジットカード決済の成長率が拡大基調に転換した。その頃、中国でコード決済が急速に広まり、存在感を高めていたこともあり、AlipayやWeChat Payの利用環境を日本で整備する取り組みが進んだ。同時に、日本国内においてもOrigamiなどのコード決済サービス提供事業者が台頭してきた。しかしながら、利便性等を考慮すると「コード決済はコンタクトレス決済を超えることは出来ない」という風潮もあり、コード決済サービス提供事業者のマネタイズが難しく、淘汰再編が相次いだ。

コード決済の本格普及

コード決済での事業拡大は難しい、という見方を180度変えたのが、PayPayである。圧倒的な資本力と営業力で、急速に加盟店を整備し、利用者への利得性を訴求する事で、急成長を実現していった。時間とコストをかけてコード決済文化を醸成するという、PayPayが果たした役割は非常に大きいものであった。PayPayの取扱高も2023年度では10兆円を突破し、プレゼンスを高めている。今後はサービスの拡充やPaaS領域の拡大により、さらなる成長が期待されている。

キャッシュレス決済は対2002年度比約8倍まで拡大

2014年から始まったキャッシュレス決済の波は、さらに加速している。政府の推進やイノベーション、事業者や消費者の意識変化が相まって、2023年度のクレジットカード決済は100兆円(2002年度の約5.8倍)を超え、キャッシュレス決済全体では、2022年度時点で130兆円(2002年度の約8倍)を超える水準まで拡大している。
今後も顔認証を活用した手ぶら決済のほか、AIやビッグデータによる最適な決済方法の提案など、新しい決済サービスが台頭する事になるだろう。20年後の未来におけるキャッシュレス決済はどうなっているのだろうか、我々が想像さえできないような決済サービスが登場する事になるであろう。支払いという概念さえなくなっている可能性もある。今後のキャッシュレス決済の進展が楽しみでならない。

高野淳司

関連リンク

■レポートサマリー
クレジットカード市場に関する調査を実施(2023年)
国内コード決済市場に関する調査を実施(2022年)
国内キャッシュレス決済市場に関する調査を実施(2021年)

■アナリストオピニオン
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