近年日本における金融教育に対する懸念の声を耳にする事が多い。特に若年層においては、金利の計算に関する知識がない人の割合が相対的に高い事などの事実があり、金融教育は必須ではないだろうか。日本における金融教育の可能性を考察したく、横浜市立南高等学校附属中学校における金融教育について取材を行った。
南高等学校附属中学校では、毎年8月上旬に、サマーセミナーを実施している。その時の担当教師が生徒にとって、重要だと考えるテーマを10テーマ程選定し、生徒が選んで授業が受けられる。その中で、キャッシュレス決済によって人々やお店にどのようなメリットがあり、役に立つようになるかを知って欲しいという想いから、キャッシュレス決済をテーマとした金融教育が今年度組み込まれた。
その講義はNPO法人である企業教育研究会とキャッシュレス決済の知見を有するソニー株式会社と楽天ペイメント株式会社の社員によって行われた。参加した生徒は中学1年生16人であった。まずは、授業内容についてみてみる
まずは、知っている支払い手段について質問したところ、以下の回答があった。電子マネーに関しては十分に認知がある状況であった。
タッチ決済ができる電子マネーにフォーカスを当てると、SuicaやnanacoなどのFeliCaを活用した電子マネーのマークについては、十分認知されていて、かざすだけで電車やバスに乗れることは把握していた。
では、電子マネーなのに電源がないのはなぜか?どうやって電気を通しているのか?という問いに対しては、さすがに答えられる生徒はいなかった。
FeliCaカードの内面を模したカードを、端末に近づけた時にLEDライトが光るかどうかという実験を行い、LEDが光る現象がなぜ起こるかについて、解説。金属線を円形上に束ねた「コイル」の中心に向かって磁石を近づけていくと、コイル内に電気が流れる現象、いわゆる電磁誘導の原理を利用しているという難しい内容であったが、生徒たちも、なるほど、とすんなりと理解できていた。
ところで、キャッシュレス決済って、お金はどうやって取り出すのか? という質問には、回答に困っている様子であったが、キャッシュレスとは何か? についての説明を通して、徐々に理解が進んでいった。キャッシュレスとは「お金に関する記録」であるという説明の元、どういう記録が付くかについて、整理をした。
クレジットカードのクレジットって何かわかるか? という問いに対しては、「信じる」などの回答があり、信用や信頼に基づいて発行されているカードという説明で、決して魔法のカードではない、という事が伝わったようだ。
キャッシュレス決済のいい所をきいてみると、下記の回答があり、かなり的を射ている。
講師からの補足で上記以外では下記があげられた。
残高がどのように確認されるか知っているか? という問いに対して、「PASMOの利用履歴は切符売り場で確認したことがある」という回答があった。
実際の記録は紙で見たり、アプリやWeb上で確認したりすることが出来る。実際の残高と利用履歴を見せることで、いつどこでいくら使ったかが把握できることが理解でき、利用だけではなく、その人の行動パターンまで何となくつかめる事まで理解できているようすであった。
お店にとっていい所は何か?という問いには下記の様な回答があがった。
講師からの補足では下記が上げられた
という言葉で授業を締めくくった。
今回の授業への取材を受けて感じた事は主に2点。1点目はキャッシュレス決済が魔法のカードという言葉で表現したことである。中学生ながらにキャッシュレス決済を活用する事が非常に手軽で魅力的である反面、利用が出来るからと欲望のままに使ってしまうケースが予見しているところが興味深い。もう1点は、キャッシュレス決済は大人の政治の世界で堅いもの、子供達には少し遠い存在と考えている点である。今回キャッシュレス決済の授業を通して、キャッシュレスがお買い物をどれだけ便利にするか、お店の煩雑なオペレーションがどれだけ楽になるか、を意識することが出来て、より身近なものと感じてもらえたのは大きな前進である。
キャッシュレス決済を活用する事で生じる経済効果は計り知れない部分があり、DXの推進に寄与するものである事は間違いない。その中で、利用者の自己責任の意識を醸成すると同時に、決済サービス提供事業者の社会的責任を明確にしていく必要がある。この中学生たちや将来を担っていく子供たちが、安心・安全に利用できる環境を作っていく事が決済サービス提供事業者の社会的責任である。オンラインでの利用をはじめとした不正利用対策はもちろんであるが、利用者の使い過ぎを期待するようなマーケティング施策に対しても、見直しを行っていくべきである。自己責任という言葉で片付けるのではなく、適正な利用を見守っていく姿勢こそ、決済サービス提供事業者の社会的使命ではないだろうか。キャッシュレス決済の将来を考える大変貴重な機会であった。
(高野淳司)
■レポートサマリー
●クレジットカード市場に関する調査を実施(2023年)
●国内コンタクトレス決済(非接触決済)市場に関する調査を実施(2020年)
■アナリストオピニオン
●金融経済教育における保険会社の取組状況
●BNPLはクレジットカード市場にとって脅威となるか
●存在感を増す携帯キャリア系のクレジットカード
●キャッシュレスによる店舗等の支援を
●キャッシュレス4.0~デジタル通貨の台頭によるキャッシュレス社会の進展~
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