矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2013.09.17

スマートフォンを活用した決済端末ソリューションの普及に向けて

Squareのインパクト

2010年以降、スマートフォンの普及に伴って、スマートフォンを活用した決済端末ソリューションが拡大している。スマートフォンを決済端末として活用する取組みは、2010年ごろに始まり、2013年5月23日に、米国で年間取扱額が110億ドルを超えている「Square」(スマートフォンにドングル型のカードリーダーをつけるだけでクレジットカード決済ができるサービス)が、日本市場に参入した。それにより、日本における決済サービスに大きなインパクトを与えている。

■スモールビジネスへのインパクト
小売業等がクレジットカードを導入するには、オーソリゼーションや売上処理、伝票作成などを行うための決済端末が不可欠である。しかしながら、規模の小さい事業者には、決済端末にかかる初期投資額が大きく、クレジットカードの導入を見送る事業者も多かった。Squareの台頭により、「決済サービスを導入したくても出来ない」という課題を抱えた事業者が、無料で、早く、簡単にクレジットカード決済サービスを導入できる環境ができた。そのインパクトは大きい。現在、小規模の事業者や個人事業主を中心に、ドングル型のスマートフォン決済端末のニーズが高まっている。今後は、小規模の事業者だけでなく、大規模な事業者にもインパクトを与えていくだろう。

■カード会社の加盟店審査へのインパクト
加盟店審査に対する考え方は、日本とアメリカで大きく異なっている。日本は、厳しいチェックを受けて許可された加盟店以外は、簡単に加盟店になることは出来ない。そういう体制をとることで、不適切な加盟店を排除し、不正利用を防止している。一方、アメリカでは、入口の段階で厳しく規制するのではなく、一旦加盟店にして、問題があると考えられる加盟店を、厳格な途上審査で、すばやく検知し、排除することで、不正利用を防止しているといわれている。
日本においては、個人事業主や店舗を持たない事業者が、クレジットカード加盟店になるという考えがなかったため、途上審査に関するノウハウが蓄積されていないという指摘もある。そのため、今まで経験したことのないモバイル決済サービスが普及しようとしている今、日本のカード会社は、早急に新たな審査ノウハウを積み上げる必要がある。

■手数料3.25%が加盟店の手数料率に与えるインパクト
Squareが5月23日に日本市場に参入し、加盟店手数料率を3.25%でサービスを開始すると発表した。その発表以降、競合となる楽天、コイニー等は、相次いで、Squareの手数料率を下回る水準である3.24%まで引き下げた。
Squareが手数料率3.25%を発表したことにより、競合他社の手数料率の引き下げだけでなく、カード会社と加盟店の情報の非対称性を解消し、クレジットカード会社が加盟店に提示する手数料率にも影響を与える可能性がある。
カード会社が加盟店契約を結ばなかった小規模な事業者が、3.25%の手数料率で、クレジットカードを導入出来るようになると、加盟店手数料率に引き下げ圧力がかかる可能性がある。そうなれば、リアル店舗に続き、EC加盟店においても、手数料率の引き下げ圧力がかかる可能性がある。一方、3.25%以下の手数料率でカードを導入している企業においては、手数料率の引き下げ交渉が難しくなるという側面もある。現時点では、カード会社のアクワイアリング事業に影響は出ていないが、スマートフォンを活用したドングル型の決済端末ソリューションが拡大すると、様々な側面で、アクワイアリング事業にインパクトを与えるだろう。

スマートフォンを活用した決済端末ソリューションの普及に向けて

ドングル型の決済端末ソリューションは、上記のように、業界全体に様々なインパクトを与えているが、普及に向けて、不正利用やEMVへの対応など、取組まなければならない課題はたくさんある。その中で、もっとも取組まなければならない課題は「コミュニケーション」ではないだろうか。Square、コイニー、楽天といったサービス提供事業者と加盟店(導入事業者)のコミュニケーション、そして、加盟店(導入事業者)と顧客(エンドユーザ)のコミュニケーションが的確に行われることが、スマートフォン決済端末ソリューションの普及には欠かせない。
人間はどうしても、初めて利用するサービスに対して、抵抗感や警戒感を持ってしまう。サービス提供事業者は、加盟店(導入事業者)との十分なコミュニケーションと信頼関係を構築し、本当の意味での安心感、利便性を伝え続けなければならない。そして、加盟店(導入事業者)は、決済端末を単なる決済手段として位置づけるのではなく、顧客とのコミュニケーション手段であり、信頼関係を構築するツールであると考える必要があるだろう。信頼関係と円滑なコミュニケーションがあってはじめて、顧客は安心してクレジットカード決済をするようになる。不信感があると(特にはじめて使う顧客は)クレジットカードの利用をためらうだろう。
日本人は、新サービスになじみやすい傾向にあるが、ただ単に「早い、安い、簡単」という理由だけで普及させることは難しいだろう。それぞれのアクターの絶え間のないコミュニケーションと信頼関係の構築があってはじめて、普及するサービスであり、本当の意味での新決済ソリューションといえるのではないか。

スマートフォンの普及拡大により、従来規模が大きい事業者しか受けられなかったサービスを、あらゆる人が利用できる時代が到来しようとしている。おそらく、この流れは止まらないだろう。今後、様々な決済サービスが出てくるとみられる。時代の流れを察知し、ユーザの心に刺さるサービスを提供できる決済サービス提供事業者のみが勝ち組となるだろう。

最後に、我々が経験したことのない決済サービスにより、全く想定していないような利用のされ方や問題が発生することもあり得るかもしれない。それぞれの問題に対して、業界全体で厳格に対応すると同時に、時代の潮流にあった決済サービスのあり方を見通した対応を講じて欲しい。

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高野 淳司(タカノ ジュンジ) 主任研究員
数多くの取材を通して得ることの出来た「生の情報」を元に、お客様が抱えている問題にしっかり耳を傾け、もっとも効果的な解決方法を発見できる調査を提案することをモットーとしています。

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