矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2015.01.27

Apple Payの動向と決済ビジネスに与えるインパクト

Apple Payの概要

2014年9月9日、Appleは「Apple Pay」を発表し、2014年10月20日からアメリカでサービスを提供している。Apple Payは、iPhone6、iPhone6 PLUS等で利用可能であり、指紋認証の「Touch ID」と「トークン・システム」の組み合わせで、安全性を高めただけでなく、ワンタッチでの決済を実現しており、非常にユーザビリティの高いサービスとなっている。決済プロセスのすべてのステップを暗号化する「トークン・システム」が使用されているため、不正利用や情報流出が起こりにくい、非常に実用的なスキームとなっている。

Apple Payの利用可能店舗

Apple Payは、PayPass、payWaveなどのNFCを活用した非接触IC決済サービスに対応している店舗であれば、特にアクセプタンスの必要がなく、アメリカではコンタクトレス決済に対応する全米約220,000店以上(2014年11月現在)の店舗で利用できる。

Apple Payに対応している国際ブランド、カード会社

American Express、MasterCard、Visaの国際ブランドに対応しており、サービス開始時にApple Pay利用可能カード会社は、①American Express、②Bank of America、③Capital One Bank、④Chase、⑤Citi、⑥Wells Fargoとなっている。今後は、Barclaycard、Navy Federal Credit Union、PNC Bank、USAA、U.S. Bankが順次対応する見通しである。

Apple Payのビジネスモデル

Apple Payの収益モデルは、クレジットカードイシュアが負担するApple Payの利用手数料による収益である。クレジットカードイシュアは、決済金額に対して手数料率をAppleに支払うビジネスモデルとなっている。

日本への参入で想定される課題

日本においてはスマートフォン端末におけるiPhoneのシェアが高く、Appleにとっては、「魅力的」な市場である考えられる。しかしながら、実際にApple Payを日本市場で普及させるためには「クレジットカードイシュアのコスト負担」「加盟店インフラ整備」「決済ネットワーク」の課題がある。

①イシュアが負担するコストの問題 Apple Payが日本に参入する際に、まず課題となるのがクレジットカードイシュアのコスト負担がどの程度あるのかが見えない点である。決済時の手数料率の負担に加え、ネットワーク接続コストがどの程度になるか、Apple Payにクレジットカードを載せた際に、セールスプロモーションに関するコストをどの程度負担する必要があるかなどは、現時点では不透明な部分が多く、今後のイシューとなるとみられる。

②加盟店インフラの問題 日本においては、すでにコンタクトレス決済が普及しており、現時点では、フェリカの端末ではNFCを読み取ることは出来ない。Apple Payが利用できる環境を整備するには、PayPass、payWaveに対応した決済端末の整備が急務である。

③決済ネットワークへの対応 Apple Payでは、TOKENの技術を使って情報が伝達され、その代替番号を従来のカード番号に変換することができるのは、(現在のアメリカのスキームにおいては)国際ブランドのみである。それ故、日本のスイッチングセンターでは、アクワイアラーからイシュアへのスイッチングが出来ない可能性がある。日本において決済ネットワークを国際ブランドが担うようになるのか、それとも現状のネットワークを活用しながら、TOKENを活用していくのか、これもイシューとなるだろう。

今後の展望

Apple Payが日本で普及するための課題は多いが、本格的に導入されれば、日本市場に与えるインパクトは大きい。Apple Payが導入された場合、決済ネットワークが大きく変化することが予想されている。日本においては、従来の決済ネットワークではなく、国際ブランドの決済ネットワークが活用される可能性があり、クレジットカード会社の役割も大きく変わるとみられる。
特に、クレジットカード会社等の発行者(イシュア)は、従来のBtoCのビジネスに加え、Appleのようなペイメントサービスプロバイダーが間に入るBtoBtoCのビジネスが加わり、ペイメントサービスプロバイダーとのコミットメントが重要になる。カード会社にとって、日本で一番初めにApple Pay対応イシュアになることが重要な要素となり、Appleに手数料を支払ってでも、他社との差別化に繋げていくことが求められるだろう。
これはAppleが国際ブランドに近いポジションになり、国際ブランドがネットワークカンパニーとしてのポジションにシフトしつつあることを意味している。クレジットカード会社のアクワイアリング事業においても、コンタクトレス決済に関するソリューションやそれに対する投資が必要となるが、アクワイアリングを行うクレジットカード会社にとってはチャンスとなるとみられる。

いずれにしても、日本の決済マーケットにおいて、Apple Payを活用するメリットは大きく、クレジットカード会社もApple Payを軸にしたプロモーションも増えていくことが予想されるため、従来のおサイフケータイとは全く異なる拡がり方をするだろう。
それぞれのアクターに必要以上のコスト負担がかからないような形での決済インフラの整備が求められている。

高野淳司

関連リンク

■レポートサマリー
国内コンタクトレス決済(非接触決済)市場に関する調査を実施(2020年)
国内キャッシュレス決済市場に関する調査を実施(2021年)
国内コード決済市場に関する調査を実施(2021年)

■アナリストオピニオン
製造業が提供する金融ビジネスを考える。
BNPLはクレジットカード市場にとって脅威となるか
Apple Pay、2016年中に日本で導入か?
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