米国政府は通商法301条に基づく対中関税について、中国製BEV(バッテリー搭載電気自動車)は100%へ、半導体、太陽電池に対して50%への大幅引き上げを発表した。
同制度はトランプ前大統領在任中の2018年7月に中国製品を対象に課した追加関税で中国の知的財産、技術移転などに関する行為・政策・慣行が不合理・差別的で米国の商業に負担や制限を課しているとの判断から導入され、1万品目以上の中国製品に対して最大25%課税されてきた。(今回の措置でレアメタル、医療製品、バッテリー、鉄鋼、アルミニウム等が従来からの最大税率25%へ引き上げられている)
米国政府に拠れば今回の発表で対象となるのは、対中輸入総額約4,272億ドルの4%(約180億ドル)に留まるとされているが、制裁理由としてWTO協定の不履行を挙げているが主なものとして
一般的によく知られることだが、中国では「外商投資参入投資管理措置」(2002年1月施行)が制定されており、中国でビジネスを行う場合、現地企業と折半出資の合弁会社設立及び国内での製造を求められる。2021年には同制度の廃止を発表したものの依然として適用が続いている。
中国で制定された外資規制や不平等な商慣習について、米国政府はこれまで何度も中国政府に対して修正を求めてきたものの、無視され続けてきた。今回の中国製BEVに対しての関税100%課税は米国政府に拠る報復となっている。
一方、中国製BEVについて品質面、バッテリーの経年変化や、車輛そのものの耐久性などに於いて信頼性が担保しきれていないことが報道によって明らかになっており、仮に米国市場に中国製BEVが大量に流通した場合、将来的に大量リコールや人命を脅かす脅威となる。またコネクテッド機能を搭載するため、スマートフォン、基地局設備等と同様のリスクを抱え込むこととなる。100%関税はそうした不安から国民を守る事も考慮されているものと推察される。最も厳しい対応を取る米国に追随する形でEUについても、中国政府が中国自動車メーカーに対して過度な資金援助や税制優遇措置を行っていることを名目に2024年内に関税を課す見通しとなっている。(中国生産のTESLAも対象)
日本に於いても中国製BEVに対する報道は従来からの礼賛一辺倒のものから変化しつつある。特に品質面における課題や日本市場におけるユーザー嗜好など実態に即した報道が見受けられるようになってきた。そういった状況もあり、日本市場に参入した中国メーカー製BEVも新エネルギー車に適応される補助金・税制優遇の対象となっているものの、2024年度の見直しに拠り補助金は縮小されるケースも出てきている。
移動体通信関連では米国は2018年に(中)Huaweiのスマートフォン、基地局設備について、米国への輸入を禁止し、更に同社への米国企業に関連する知的財産、半導体製造装置、半導体の販売を禁止する厳しい措置を講じた。(ZTEも対象に追加)結果、Huaweiは5G対応SoCの調達とAndroidOSのサポートが受けられなくなり、5Gスマートフォンの製造が不可能となったことで出荷台数が大きく減少した。Huaweiはスマートフォンビジネスからの軌道修正を余儀なくされ、ウェアラブル、PCなどの製造に舵を切るのと併せ、OSの独自開発や電動車・コネクテッドカー向け車載プラットフォームの開発に注力している。
その後、2022年にグループ会社にて独自の5G対応SoCの開発を成功させ、中国市場向けに5Gスマートフォンの出荷を再開しシェアを急速に回復させているものの、依然として海外市場での展開は不透明である。
端末ビジネス以上のダメージが懸念された基地局ビジネスは西欧市場での商談は破談となったものの、中国国内に於ける旺盛な需要に対応することや基地局装置製造に於いて制裁の影響を最小限に抑えられた結果、基地局ビジネスは堅調に推移している。
EU市場に於いてNOKIAの特許を侵害し、2022年にドイツ、フランス市場から撤退を強いられたOPPOは2024年2月にNOKIAと和解が成立し、同社との間で5G関連のクロスライセンス契約を結んだことで、ドイツ、フランス市場への再参入を計画している。
一方、OPPOに限らず他の中国メーカーもインド市場や、日本企業や他の企業との間でも特許侵害や貿易関連でのトラブルについて幾つかの問題を抱えており、総じて中国メーカーはコンプライアンス面での問題を抱える傾向にある。
米国政府にとって安全政策上、通信インフラを抑えられることは阻止出来、国際的ビジネスから孤立させることには成功したものの、中国企業が抱える闇は今後も移動体通信業界に於いて避けて通る事が出来ないものとなる。
今後、宇宙開発ビジネスの進展と共に拡大が見込まれる衛星通信ビジネスに於いて、現在の中国は遅れた状態にあるものの、今後は怒涛の勢いで盛り返してくることは確実で、新たな火種となることは想像に難くない。
中国はWTO加盟国でありながらも自国に優位な対応に終始した。特許侵害、少数民族の虐待、国有企業への過剰な金融支援、知財・技術の窃盗、人材引き抜き等、数え切れないほどのコンプライアンス違反を犯している。更に2023年7月には改正「スパイ防止法」が施行され、中国に進出する外資企業にとってリスク要因となっており、人件費高騰が発端となり中国に進出した製造業の脱中国が進むこととなる。
中国が世界経済に於いて決して無視できない巨大な力を持つ現在、中国の権威主義的な振る舞いは米国、EU、日本等の西側諸国にとって相容れない存在である。中国経済は現在、輸出の伸び悩み、国内不動産市場の悪化、高速鉄道網建設に伴う債務拡大、地方自治体の財政破綻等多くの問題を抱えている。せめてWTO加盟国であるが故にルールを批准し、コンプライアンスを遵守してくれるようになれば改善の兆しはあるかもしれないが、中国共産党による一党独裁体制が継続する限り改善は望めないかもしれない。となれば、国際ルールに則って制裁を科す以外の方法が無いのかもしれない。
中国が台湾に対する圧力を強めているが、台湾経済は半導体製造に於いて世界的に存在感を高めており、仮に中国経済が行き詰まり、その打開策として「台湾有事」が起こった際には、日本への飛び火も含めて極めて甚大な影響が出るのは明白である。
中国を下手に追い込み過ぎてしまうと暴発してしまうリスクを持ち合わせていることを私たちは意識しなくてはならないだろう。
(賀川勝)
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