矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2020.10.26

急速に進化するスマートフォンの高速充電技術と課題

スマートフォンのバッテリー対策

スマートフォンの大画面化、高機能化が進むのに合わせ、搭載されるバッテリー容量も増加傾向にある。

スマートフォンが人々の生活の中で使用する頻度とアプリケーションも増加の一途を辿り、通話、データ通信、SNS、ゲーム、カメラに加え、最近ではスマホ決済でも使用されるようになり、バッテリー切れはユーザーにとって死活問題となる。
一方、メーカーにとってもユーザー満足度を大きく左右するため、重要度は高まるばかりである。端末メーカーのみならず、半導体メーカーもスマートフォンの低消費電力化の取り組みを行ってはいるものの、ユーザーの要求がメーカーの取り組みを上回っている状況が続く。

スマートフォンのバッテリー問題への取り組みは大きく3つに分類される。

●半導体ベース・製品設計段階での取り組み
半導体では、発熱量を抑える目的でプロセッサ製造プロセスの微細化が開発が進んでおり、最新プロセッサでは5nmを採用した製品が2021年春頃に登場する。また自ら発光しない有機ELの搭載も低消費電力化の一端と言える。またスマートフォンの筐体にアルミが使用されているのも放熱効果を狙ったものである。
●バッテリー搭載容量の拡大
バッテリー自体の性能向上は進んでいるものの、革新的な技術が登場しない限りバッテリー搭載量の大容量化は今後も続く。昨今のスマートフォンの多くは6.0インチ以上の大型ディスプレイを搭載する製品が多く、その傾向に拍車を掛けている。
●高速充電技術の搭載
そして、バッテリーの大容量化によって顕在化する問題が「充電時間の長さ」であり、充電時間の長期=顧客満足度の低下に直結するため、充電時間の高速化が必要になってくる。

規格が乱立する「高速充電規格」

【図表:端末メーカー独自の高速充電技術(ケーブル接続)】

図表:端末メーカー独自の高速充電技術(ケーブル接続)

2020年10月現在 矢野経済研究所作成

現在販売されているスマートフォン製品の充電端子はApple「Lightning」コネクタもしくは「USB Type-C」(以下USB)のいずれかに統一されている。Apple「Lightning」に関してはサードパーティ製品を含めて全てAppleの管理下にあり、出力が異なる3種の規格に加え、後述する「USB PD」と互換性が確保されている。

一方、USBの高速充電規格は統一規格が存在するものの、端末メーカー、半導体メーカーが独自に策定する技術が存在する。USBの高速充電規格は主に3系統に集約される。

  • USB統一充電規格
  • 半導体メーカー独自の高速充電技術
  • 端末メーカー、サードパーティ独自の高速充電技術

USB統一充電規格としては、USB Battery Charging、USB Type-C Current、USB Power Delivery(USB PD)の3種が存在するものの、高速充電規格として成立しているのはUSB PDでiPhone、Androidほぼ全てのスマートフォンに加え、タブレット、ノートPCでも使用可能である。安全性の問題から9V/2A、12V/1.5A(ともに18W程度)に抑えられており、メーカー各社の高速充電技術はこれを更に強化したものである。

Androidスマートフォン多くの製品に搭載される(米)QUALCOMMのCPU(SoC)で使用可能な高速充電技術が「Quick Charge」で最新仕様は5となる。4以降の規格ではUSB PDと互換性が確保されているものの、USB Type-C(CtoC)ケーブルを含めた対応ケーブルである必要がある。Amazonで高速充電対応製品を検索するとQuick Chargeに対応したサードパーティ製品が数多く扱われている。
台湾MediaTekも独自の高速充電技術PumpExplessを発表している。DIRECT CHARGING技術により20分で70%迄充電可能としている。

端末メーカー独自の高速充電技術は主に端末内部での処理で対応するものが中心となっているが、その多くは中国メーカーに拠る技術である。中国ではスマートフォンが生活に占める割合が高く、消費者のバッテリーに対する要求はよりシビアであることが大きく関係する。

【図表:端末メーカー独自のワイヤレス高速充電技術】

図表:端末メーカー独自のワイヤレス高速充電技術

2020年10月現在 矢野経済研究所作成

上記で取り上げたのはケーブル接続による高速充電だが、現在はワイヤレス充電の普及も進んでいる。ワイヤレス充電はコネクタ脱着の面倒がないものの、コスト高であることに加え、充電出力が5W~15Wに抑えられているため充電速度が遅い。また充電中の使用がほぼ不可能などの欠点を抱えるものの、車載用途では欠点の多くが解消されるため、普及が進んでいる。

こうした中、ワイヤレス充電においても端末メーカー独自に急速充電技術が発表されている。2020年10月に小米科技(Xiaomi)が発表した「80W Mi Wireless Charging Technology」ではワイヤレス充電によって20分で100%充電を可能としている。同社は2019年に40Wのワイヤレス高速充電技術を発表しており、今回のものはアップデート版に位置づけられる。Xiaomiはワイヤレス高速充電技術を戦略的技術に位置づけているが80Wの出力があればUSB Type-C接続並みの充電能力となる。

因みにApple iPhone12シリーズに合わせて発表されたMagSafe充電器での充電能力は最大15Wに留まっており、iPhoneの競合製品を発売するメーカーにとっては大きなアピールとなる。

スマートフォン急速充電技術の見通し

スマートフォンメーカー各社が独自の急速充電技術を採用する背景には、ディスプレイ、カメラ、CPU等のスペックが横並びになりがちで差別化が難しい中、高速充電技術はコネクタ・ケーブル類の互換性が確保されていることに加え、顧客満足度維持に効果が大きく、競合他社と明確に差別化できる点にある。

最近は充電器、ケーブルが付属していないスマートフォン製品が増加し、ユーザーが旧いケーブルや充電器をそのまま使い続けることで急速充電技術を生かしきれない環境下で使用しているケースが見受けられる。

ワイヤレス急速充電技術を採用したスマートフォンが増加すると、充電器の買い替え需要が増加し、サードパーティ製品を中心に盛り上がりを見せ、技術面の成熟化と普及が進むことが期待されるが、Qi規格の高速充電対応が進んでおらず能力不足は否めない。このままではワイヤレス高速充電についてもメーカー独自技術ばかりになる恐れがある。

また、最近の自動車はコネクテッド化に合わせ車内のUSB端子と出力が増加する傾向にある。更に一部メーカーではQiを積極的に搭載しているが、独自のワイヤレス充電技術が増加すると、消費者が不利益を被る懸念が生じる。それを防ぐためもワイヤレス急速充電技術についても業界標準技術を逸早く策定して普及させる必要があると考える。

賀川勝

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■アナリストオピニオン
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