2023年も残り数か月となったが、DXをはじめとする昨今のITによる経営革新の流れが急激に冷え込んでいるような印象を持っている。もう少し正確にいえば、IT投資そのものはすこぶる堅調だが、DXなどのバズワードに対する期待感が急速に剥がれ落ちているような気がするのだ。
具体的な調査事実に基づけば、最新の法人ITユーザアンケート結果(「2023 国内企業のIT投資実態と予測」)では、DXへの意識は確実に浸透しているのが実態だ。決して実需としてDX投資が緩んでいるわけではない。とはいえ浸透が進むということは、レイトマジョリティ層へと普及していくことを意味しており、それは同時に意欲ある先行ユーザ層にとっては“期待”と称するものではなくなっていることも意味している。
このようなことはこれまで何度もあった。SaaS、クラウド、ビッグデータ……などなど。ITベンダのマーケティング用語だなどと呼ばれることもあるが、技術的転換を分かりやすくインパクトあるキーワードで表現することは個人的には悪いこととは思ってない。実際にITの移り変わりは恐ろしく速いのに対し、相変わらずユーザ企業の多くは腰が重たいからだ。実際の導入は慎重でも構わないが、せめて概念や考え方くらいはスピーディに展開できないと日本中が停滞企業に満ちてしまうのではないかとすら感じる。
前述した通り、期待感が剥がれたからといって、実態としてそれが悪いことを示すとは限らない。剥がれた理由の第一は、DXの認知が多くの企業で進んだためであり、相変わらずITベンダは忙しい状況にある。期待から実践へと推移したがゆえにバズワードが萎んでいくのは当然の結果といえよう。
しかし、剥がれた理由には、DXなど他社もできてないではないか、という落胆ないしは安堵によるものも一定数ありそうに感じている。心配なのはこのケースだ。
ずいぶん昔、SaaSやクラウドなどが登場する前には、ERPなど3文字英語がITマーケットをけん引していた。そのころはERPパッケージを買えば会社が変わると思っていたのに変わらなかった、という嘆き節があった。背景には、他社も入れてるからウチも入れよう、でも業務を変える気は更々ない(だからERPパッケージの導入効果も限定的)というものだ。とはいえ、そもそもERPは今日では非競争領域という扱いだ。非競争領域のIT化であれば、導入して思ったより効果がでなかったとしても、そこは割り切ってしまう見方もできるだろう。
しかしDXは事業の中核に影響するものだ。本質的に他社横並びで比較するものではない。「あの会社は力を入れてやってるようだが、どうも投資した効果は出せてない」「DXと騒いだあの会社、結局何も変わってないではないか」こういう目線で見ること自体、本質的にはDXとの相性が悪い。つまり、後者の剥がれた理由には、自社の事業がよく見えていないのではないか、という危険を感じるのである。
まとめれば、期待感が剥がれ落ち、だれもが知るキーワードになった今こそ、自社にとってのDXとはなんなのだという原点回帰が重要になると感じている。
DXを具体化できているか否かは別にして、経営者にとって、自社はDXと呼べるような変革に取り組めたか/できなかったかと区別して認識できる土壌がうまれたのは意義深い。なかにはアナログな方法で差別優位性を維持する企業もあるだろうから、DXを選択しない企業があっても構わない。意志を持ってDXを選択しないのも正しい判断だ。
閉塞感続く日本経済においては、変革へ向け未来志向で戦略検討してきた苦労にこそ価値があると信じている。実利を得なければ意味がないという意見もあるだろうが、ビジョンの弱さは昔から指摘されていたことだ。多くの企業がDXを契機にそこへ意識を向けられたことは否定するものではないだろう。
さて、そうはいっても私自身はIT分野のアナリストである。興味本位でDXの次はどのような波が襲ってくるだろうかと期待してしまう。個人的にはデータドリブンの概念を煮詰めて、なにか新たなバズワードがでてくるような気がするがどうだろう。データドリブン、ここでは人を介さずデータが次のアクションのトリガーとなる動きのことを指しているが、今後はそうした仕組みの実現があらゆる分野で求められていくと感じている。そこで主役になるのは生成AIであろうか。それとも別のものであろうか。
(忌部佳史)
■レポートサマリー
●国内企業のIT投資に関する調査を実施(2023年)
●国内企業のIT投資に関する調査を実施(2022年)
●DX(デジタルトランスフォーメーション)に関する動向調査を実施(2020年)
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