矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2012.11.22

法人向けスマートデバイス利用はタブレットが開花させる

法人向けでは、タブレットが優位に

矢野経済研究所では、2012年11月19日に、「スマートデバイスに関する法人アンケート調査結果2012」を発表した(内容の掲載は、2012 国内企業のIT投資実態と予測)。

詳細はリリースに譲るが、簡潔にいえば2012年調査において、法人向けスマートデバイスの導入率は、タブレット端末がスマートフォンを上回ったことが分かった。
2012年における法人向けタブレット端末の導入率は2011年調査の9.2%から18.4%へと2倍になった一方、スマートフォンは2011年調査の11.0%から6.8ポイント増の17.8%にとどまったためだ。

また、同リリースでは、それぞれの導入目的を明らかにしている。スマートフォン、タブレット端末の導入目的をみると、「Eメール閲覧」、「社内情報(グループウェア、社内SNS、社内ポータルなど、メール除く)」が上位にきている点は同じだが、スマートフォンでは「販売活動(販売用カタログ、販促用デモ、販売実績データなど)」が14.0%にすぎないのに対し、タブレット端末ではおよそ3.3倍の45.6%になっている。

タブレット端末の導入率がスマートフォンの導入率を超えたのは用途の多様性にあり、連絡手段以外の用途における広がりがない限り、法人向けスマートデバイスの主力はタブレット端末になる可能性があると結んでいる。

それにしてもスマートデバイスの導入の速さは目を見張るものがある。スマートフォン、タブレット、ともにいわゆるアーリーアダプター層へと突入し、この勢いは止まりそうにない。
普及率16%超えのことを、キャズムを超えたなどともいうが、そういう解釈は不要だろう。スマートデバイスは一般消費者市場において確固たる地位を築いており、既にイノベーティブな製品としての認知は進んでいる。逆にいえば既に普及製品になったのちに法人市場へ移行しており、イノベーター、アーリーアダプター、アーリーマジョリティなどと区別する必要はない(つまりはキャズムはないがごとく)と考えられるためだ。瞬く間に普及製品となったスマートデバイスは、今後は当たり前のウィンドウのひとつとして、より自由に利用されていくのだろう。

BYOD 前向きなのは約4割

2012 国内企業のIT投資実態と予測では、BYOD(Bring Your Own Device)についても調べている。BYOとは、一般的には、レストラン等において、客側が自分のワイン等を持ち込むことができる制度・習慣を指す言葉だ。これを“デバイス”に当てはめ、「自分が所有するノートPCやスマートフォンなどを会社業務に利用しよう」とする動きをBYODと呼ぶ。

自分が所有している端末を会社業務においても活用できるようにすれば、出勤不能な状況に陥ったり、また、会社から貸与されているノートPCを自宅へ持ち帰っていない場合でも、インターネットにさえつながればどこでも事業継続が可能になるため、東日本大震災などをうけ、現在大いに注目されているのはご承知の通りだ。

今回の調査によれば、BYODについて「現在、認めている」が17.5%、「今後、認めていく」が18.3%、「今後も認める予定はない」が39.6%、「分からない」が24.6%となった。ざっくり書けば、推進派4割弱、否定派4割、不明2割強、といった構図だ。これをどう見るか微妙なところであるが、まだまだ保守派が多い、というところだろうか。

【図表】個人所有端末の業務利用
【図表】個人所有端末の業務利用

矢野経済研究所推計
国内企業のIT投資実態と予測2012から(一部編纂)

否定派は4割というのは大きく見えるが、こうしたアンケート調査を行えば、かなりこなれたものでも2割程度は否定派にまわる。そうした感触からすると、この4割は見かけほどの強さを個人的には感じていない。業務側のルール整備や仮想スマートフォンのようなセキュアなシステムなどの普及とともに、広がりを見せるのではないだろうか。
 

業務改革の誕生が待たれる

業務利用という側面では、こうしたデバイスを使い、どのような業務改革が行われるのか、どのようなアプリケーションが登場するのか、という点がテーマだろう。ERPベンダーはじめこぞってスマートデバイス対応を進めているが、それらは表示端末としての対応がほとんどだ。PCからでもスマートデバイスからでも閲覧できるというのはハードルとしては最低限のことでしかない。閉塞する経済状況が続いているが、スマートデバイススは久々に登場した誰もが認めるイノベーティブな製品だ。たいした根拠があるわけではないが、何かを変えてくれるのではないかと期待させるものがある。
今後、ユーザーの要求は次々と高度化していくことだろう。期待も現実に変わるだろうし、不便な側面も見えてくるだろう。それでも多機能端末はどのような働く姿を実現するのであろうか。今後の発展が楽しみな市場である。

忌部佳史

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忌部 佳史(インベ ヨシフミ) 理事研究員
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