近年、ビル等の管理を行うシステムの市場が成長している。BEMS(ビルエネルギー管理システム)やBAS(ビルオートメーションシステム)といった言葉も以前より耳にするようになった。市場成長の背景には、首都圏を中心に大規模なビルや施設が増加していることや、大型ゆえの投資金額から当該ビル・施設を管理する需要の高まり、さらには環境負荷の低減やSDGsの推進などといった動きがある。特に、環境やSDGsに関する意識は、今後も世界レベルで広がっていくことが予想される。こうした流れに伴い、本市場は今後も順調に成長していくと予測する。
システムは未だオンプレミスが中心で、利害関係人も多いため、けしてDXの歩みが早い市場ではないが、それゆえに今後、市場がどのように変化していくのか、という点での注目度、期待は大きい。
ここでは、本市場を牽引するベンダのうちいくつかのシステムについて紹介する。各社ともビジネスは好調で、今後が楽しみである
ジョンソンコントロールズが提供する「Metasys®」は、最大管理点数10万点まで拡張できるWebベースのBEMSの機能を兼ね備えたビルオートメーションシステムである。
本システムは、同社が1990年代から提供する基幹製品のひとつで、汎用パソコンによる中央監視を世界で初めて実現し、ビル管理の在り方を一変、今もなお進化を続け世界中の超高層ビルなどで利用されている。
同社は、オープンプロトコルを活用したインテグレーションや、グローバルでの知見などを強みにする。北米の開発チームは、今やデファクトとも言えるBACnetの規格化にも携わっており、深い知見に基づいた提案は、ニーズに応える姿勢などとともに、顧客からの高い評価につながっていると推察する。
また、同社の本システムは国内でも中・大規模ビルに多く採用されているほか、小規模施設においては、タブレット端末を用いた省スペースで省人化が可能なラインナップもそろえており、幅広い顧客のニーズに対応している。
また、本システムは、設備のエネルギー管理や施設保全管理、エネルギー使用量解析など幅広い業務をサポートする各種アプリケーションも用意している。これにより、効率の良い施設運用や、省エネの促進また、テナントの快適性向上などの効果を期待できる。近年、市場ではエネルギー管理等に対する関心が高まっており、こうしたアプリケーションによるカスタムソリューションの提案は、顧客獲得につながる一要因であると推測する。
このほか、顧客は、24時間365日、遠隔監視する同社のリモート・オペレーション・センターと施設を連携させることで、ハイレベルな施設管理が可能となり、適切な技術サポートで設備の機能を最大限に発揮できる。
さらに、本システムは、シンプルで使いやすいUIも備え、熟練したビル管理担当者でなくとも直観的な操作を可能にしている。こうしたUIなどについても、同社では継続的に機能拡張を展開しているようである。
本市場ではオンプレミスが主流ではあるが、一部機能のクラウド化を進めるなど、同社は、グローバルで培った知見や技術力を発揮し、将来、クラウド化が進んだときにアドバンテージとなるような取り組みも進めており、同社システムの販売は右肩上がりの成長を続けると予測する。
東芝インフラシステムズが提供する「SMART EYE SENSOR MULTI™」は、人の軽微な動きをセンシングでき、在/不在やおおよその人数、活動量など、人の行動データを取得し、ビルの新たな価値創造に貢献する。
本ソリューションの強みのひとつは、東芝独自の車載向け画像認識プロセッサ「Visconti™」を搭載し、エッジ処理が行える多機能画像センサにある。一般的な赤外線センサではφ5m程度の範囲のセンシングに留まるのに対し、本センサを活用することで、9m×9mの広範囲のセンシングができる。
本ソリューションは、システムを納品する形であるにも関わらず、設置後でもLAN経由でセンサ本体のソフトのアップデートで最新機能を後付けできるところが、一般的なセンサとは一線を画す特長である。
本ソリューションは、照明や空調、エレベーター、防犯設備などとの連携や、混雑・密集状況の可視化など、さまざまな利用シーンが想定される。さらに、高さ8mまでの高天井の下でも歩行者のセンシングが可能なため、例えば工場の現場作業員をセンシングして、必要時のみ空調機を稼働させることで、省エネと作業環境の快適性向上に貢献する。この高天井に対応できる点が一般的な人感センサと差異化できる強みのひとつにもなっており、倉庫やエントランスホールにおける導入が進む一要因になっている。また、最近の状況をみると、工場や倉庫におけるニーズは増加傾向にあることが見込まれ、同社は、大規模オフィスビルなどと同様に、工場や倉庫での需要も獲得していくことを目指している。
さらに、本ソリューションは、働き方改革にも応用できる。例えば、画像センサを用いて座席にどのくらい長く滞在していたかを可視化することで、おおよその就業時間を把握できる。在宅勤務の増加により出社率が下がったオフィスにおいて在席率をデータ分析することで、固定席を減らしてフリーアドレスを増やすなど、空間の適正利用に活かせる。また、工場において作業員の動線やエリアの利用状況を分析して、無駄なエリアを可視化し適正なレイアウトに改善することで、生産性や安全性の向上に役立つ。
本ソリューションは、BACnetを介してさまざまなメーカのファシリティとも接続可能である。マルチベンダに対応できることから、柔軟なシステムの構築につながる点も強みのひとつであり、同社ソリューションの販売は拡大していくと予測する。
パナソニック ライフソリューションズ社が提供する「ESU-BA」は、参考延床面積10,000m²以上の建物に適した中央監視システムで、ターゲットも大規模オフィスや官公庁などであると推察する。
本システムは中央監視設備、照明制御設備の監視機能を一体化した統合型の装置で、運用管理面の統一化を図るなど、管理者が操作しやすいUIを実現している。
ユーザは、本装置で、照明、電気、空調、動力、防災、入退出設備など、すべての建物内設備の監視・制御ができる。同社は、長年、建物内設備を手がけており、本システムは、そうした中で培ったノウハウや、気付きが詰め込まれた操作性、利便性の高いシステムである。
本システムの主な特長には、コスト低減(センター装置が1台のため、イニシャルコストの低減が可能)や、シンプルなエネルギーマネジメント(BEMSやBMS機能の搭載により、サブシステムの設置が不要)、なども挙げられる。
また、特に照明制御に関しては、さまざまなセンサと連動し、外光の明るさの変化や人の在/不在などに応じたきめ細かな自動点滅・調光制御が可能なだけでなく、複数の照明を一括で制御するグループ制御、間引き点灯パターンなど、複数の照明点滅パターンを容易に設定・切り替えできるパターン制御など、多彩な制御が可能となっている。
機能面では、熱線センサや画像センサと運用条件の組み合わせで、空調機器をよりきめ細かく制御し、これまで以上の省エネや快適性を実現する高機能連動制御機能や、安心・安全を高めるネットワーク機器監視機能など、利便性・快適性を追求する機能だけでなく、安心・安全を約束する機能も設けている。
加えて、本システムは、柔軟性も兼ね備えており、オプションで、建物入居者の汎用パソコンやタブレット端末、スマートフォンから照明、空調の設備機器の監視・制御ができるサブシステム(テナントBAサービスシステム)も利用できる。
同社は、今後、SDGsへの取り組みを発端に環境・省エネに関するところで力を入れていく企業も増えると見込んでおり、本システムの販売も順調に伸びていくと予測する。
三菱電機が提供する管理点数3,000点以上のビル・施設の設備管理/エネルギーマネジメントを行うのに適したシステムがFacimaである。本システムは、ビルの設備を一括管理し、省エネや省人化を支援しながら、人に寄り添った心地よい空間を提供する。
主なターゲットは大規模、中規模オフィスと推測する。
本システムは、BACnetに対応しているため、メーカも導入時期も異なる空調・照明・電力などのビル設備を一元的に効率良く管理・運用できる点が強みのひとつになっている。
中央監視システムとしての役割の他に、電力監視システムとしても機能し、きめ細やかな監視・制御が可能な点なども特長に挙げられる。さらに、同社製の空調コントローラーAE-200Jなどとはインターフェイスが構築されており、BACnetを用いるよりも容易に連携できる。
大きな強みは、サポート体制であろう。本システムは、アフターサービスに対する顧客からの評価も高い。その理由のひとつが、情報センターをはじめ資材センター等、全国に約280ヵ所のサービス拠点のネットワークの活用である。また、三菱電機ビルテクノサービスとファシーマサポート契約を締結することで、エネルギー使用量の増減等を顕在化し、管理業務をサポートするファシーマレポートや、遠隔監視などのサービスも受けることができる。
機能面では、あらかじめ設定された時刻パターンに基づき、設備の起動や停止、設定値の変更が可能なスケジュール制御機能や、入退出管理システムとの連携により、最終退室(館)時の照明、空調の消し忘れを防止するなど、さまざまな機能が揃っている。こうした豊富な機能も強みのひとつと言えるだろう。
同社は、ユーザのシステム導入意欲の高まりを感じており、今後さらにシステムの販売が伸びていくとみている。同社では、管理点数1,000点程度の中小ビル・施設向けのBuilUnityも提供しており、こうした提案の幅がFacimaだけでなく、BuilUnityの販売拡大にもつながっていくと予測する。
(小山博子)
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