矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2021.07.07

コロナ禍だからこそシフト管理

小売業や飲食業、コールセンター、宿泊施設、ジム、アミューズメント施設など、新型コロナウイルス感染症の影響で、これまで通りの人数、スタイルで営業を続けることが難しくなった業界は多い。こうした業界でいま、注目されているのがシフト管理システムである。リモートワークが進み、営業時間にも柔軟性が求められる昨今、リソース分配計画の重要性が高まり、管理や作業工数の削減など、シフト管理を効率良く行い、生産性を向上させることへの需要が拡大している。

以前、筆者は「アルバイト・パートの不足が深刻化」や「シフト管理システムでつくる働きやすさ」でシフト管理に関するサービスを紹介した。紹介したサービスのいくつかについて、直近の動向を簡単にみておく。

進化するアールシフト

オーエムネットワークが提供する小売業、サービス業に特化した統合シフト管理システム、「アールシフト」は、進化を続けており、導入店舗数も1万店を超えた。シフト自動作成だけでなく、生産性向上も得られるシステムで、近年はシフト自動作成の精度も大幅にアップし、自動作成後の手修正0も実現したという。2021年は日本小売業協会や日本チェーンストア協会に加入しており、所属事業者からの引き合い等も増えることが予想される。

ワクチン接種も支援するSHIFTEE

システムサポートが提供する「SHIFTEE」は、小売業、飲食、コールセンター、宿泊施設など、あらゆる業種で利用できるクラウド型のシフト管理システムである。2021年5月には、スマートフォン向け管理者用月次シフトについて、情報量を集約して画面を最適化したことにより、管理者がスマートフォンからでもシフトの確認・管理が行えるようになるなどのアップデートを行った。同時期には新型コロナウイルスのワクチン接種会場でワクチン接種に係る医師、看護師など医療従事者のシフト作成をサポートするクラウド型シフト作成システム「SHIFTEE(医療従事者向け ワクチン接種会場シフト版)」の提供を自治体や医師会向けにスタートさせている。月額費用が医療従事者の登録人数でなく、ワクチン接種会場数×10,000円(税込11,000円)/月である点が特徴のひとつである。

freeeと業務提携したAirシフト

リクルートが提供する「Airシフト」は、シフト表と一体になったチャットを使ってスタッフとやりとりができるため、シフト作成・管理はもちろん、急な調整や連絡なども本サービスひとつで完結できる。2021年6月には同社のAirレジなどをはじめとしたAirビジネスツールズとfreeeのプロダクト/サービスが連携した。これにより、小規模事業者のバックオフィス業務の一層の効率化を期待できる。なお、Airシフトは、人事労務freeeとAPI連携した。

ユーザ側の状況をみると、新型コロナウイルス感染症が業績に大きな影響をもたらしたところも多い。予算やリソース面などからサービスの導入は困難と考えるところもあると見られ、今後は安価で誰でも運用できるようなサービスが成長していくと予測する。もっとも、価格はある程度わかって導入することになろうが、運用はそうはいかないところがある。導入しただけ、にならないよう、サービス選定の際は運用定着までの道筋を考える必要がある。考えるための参考のひとつになるのが事例だろう。

~店舗運営のムリ・ムラ・ムダをなくす~  最強のシステム

運用の定着までの道筋を考えるにあたり、参考になる1冊がある。先に紹介したオーエムネットワークの代表取締役、大野勝氏が2021年1月に出版した書籍、『~店舗運営のムリ・ムラ・ムダをなくす~最強のシステム』である。本書では、ロフトやラウンドワンなど、成功企業の改善事例が紹介されている。ただ、こうした著名な企業の成功事例では、うちでは参考にならない、と思うユーザも少なくない。しかし、本書で紹介されている事例は、そうした企業の成功事例だけではない。筆者は、本書籍の魅力はここにあると考える。

例えば業界別の考慮点。業種特性や人員の配置について何が重要で、どのようなシフト管理を構築していくのかについて、気付きを得ることができる。また、理想的な勤務シフト表と一口に言っても、誰かにとっては理想的でも、別の誰かにとってはそうでないこともある。この点についても、本書は会社・店舗管理者・従業員の視点で触れられている。もちろん、同社のアールシフトの機能や可能性についても言及はあるが、システムの宣伝という印象はあまりなく、ノウハウがわかりやすく可視化されており、具体的なイメージを持ちやすい。あくまでも現場ベースで書かれており、アールシフトの導入を検討しないユーザであっても参考になることは多いだろう。

本書は、最初にLSP(レイバー・スケジューリング・プログラム)※1 やマンアワー※2など、聞きなれない単語が出てくる。ここで離脱してしまうのはもったいないので、リアルな現場を想像できる第3章から読み進めても良いように思う。

※1:誰が、どれだけの時間で、どの作業を、どの程度行うかを決める計画。
※2:その仕事を、1人ですべて行ったと仮定した場合の作業時間を表す単位

運用の定着はシフト管理システム以外のシステムにおいても課題のひとつであることが多い。身近な事例に触れることで運用の定着、そして結果につながることを期待したい。

小山博子

関連リンク

■レポートサマリー
ERP及びCRM・SFAにおけるSaaS利用状況の法人アンケート調査を実施(2020年)

■アナリストオピニオン
シフト管理システムでつくる働きやすさ
アルバイト・パートの不足が深刻化

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小山 博子(コヤマ ヒロコ) 主任研究員
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