セールスフォース・ドットコムは2014年12月4日、ザ・プリンス パークタワー東京および虎ノ門ヒルズフォーラムにおいて「Salesforce World Tour Tokyo」を開催した。同イベントは、今日のクラウド、ソーシャル、モバイルの世界において、企業がどのようにSalesforce Customer Success Platformを活用し、すべてのアプリケーション、データ、顧客データを一つにつなぐ環境を実現しているのかを学ぶことができるグローバルイベントと位置付けられている。
同社の役員ならびにスペシャルゲストによる基調講演、業界に特化した様々なブレイクアウトセッション、最先端テクノロジーのライブデモへの参加など事前登録者は8,500人以上、またライブストリーミングでの参加者は30万人以上に達し、顧客との新しい形の関係構築について注目の高さがうかがえた。
そこで今回は同イベントの基調講演の概要を筆者が感じたことと共に述べることにする。
最初に登壇したセールスフォース・ドットコム代表取締役会長兼CEOの小出伸一氏は、今年同社が創業15年目を迎えたこと、米セールスフォース・ドットコムがForbesが選ぶ「最も革新的な企業」で1位を獲得したこと(4年連続)、FORTUNEが選ぶ「最も働きがいのある会社ベスト100(米国内)」にランクインしたこと(6年連続)などとともに同社が社会貢献にも注力していることを改めて述べた。
同社が行っている社会貢献活動は1/1/1モデルと言い、社員の就業時間の1%、製品の1%、株式の1%をボランティア活動に費やす。2014年の日本における社員のボランティア活動は1万時間を超え、支援提供するNPOも500団体に達した。同社は今後もNPOと連携し、各地域のコミュニティに利益を還元していくと共に、1/1/1モデルを国内の顧客とパートナーに広げていく考えである。これに関連しNGOヒューマン・ライツ・ウォッチ日本代表の土井香苗氏が登壇しセールスフォース・ドットコムのツールを寄付活動のために活用していることを語った。
小出会長は日本市場に対する3つのコミットメントとして「イノベーション」「信頼」「IT企業への投資」をあげた。
「イノベーション」とは新製品、新機能、そして機能の拡充である。ここで米セールスフォース・ドットコムが2014年10月に発表した新製品が紹介された。「Salesforce Analytics Cloud」はBIツールだが従来のBIツールのように専門家だけが扱えるようなツールではなく、いつでも、どこでも、誰でもが直感的に多彩な分析を行うことができる。また「Salesforce1 Lightning」はモバイル、ウェアラブルなどデバイスが増殖していく中で、デバイスごとにアプリを作るのではなく、部品を組み合わせることで迅速なアプリ開発を可能にするモバイルアプリ開発ソリューションとなっている。
「信頼」は同社が信頼性の高いサービスを提供し続けたことで顧客数が順調に増加、これに伴いデータ量も増大した。そこで国内二番目となるデータセンターの開設が発表された。当該データセンターに対する詳細な発表は2015年前半の予定だが、これによりバックアップデータをすべて国内に持つことができるという選択肢を顧客に提供できるようになる。
「IT企業への投資」は日本のクラウドマーケットを発展させる責務の一つとして、日本のベンチャー企業2社に新たに投資を行うことを発表した。この度の投資でSalesforce Venturesによる国内ベンチャー投資は20社となった。今回対象となったのは店舗内マーケティングとディスプレイ最適化、画像解析技術を提供するABEJAと、営業最適化のクラウドソリューションを提供するWEICである。同社のエコシステムは引き続き拡大の様相を見せている。
米セールスフォース・ドットコムのChairman&CEO マーク・ベニオフ氏は登壇すると日本法人の前社長、宇陀栄次氏のもとに歩み寄り感謝の言葉を述べた。宇陀氏はクラウドを後ろから読むとドウラク。これからは道楽に勤しみたいと会場を沸かせた。宇陀氏は今後、先端医療などの分野でITに関する知見を活かしていく予定だ。
ベニオフ氏はその後「いま我々が置かれている環境は変化が大きい」と語り、変化にいかに早く反応できるかを無視しては成功できない、変化に対応できるようお手伝いしたいと力強く語った。
そしてクラウド、モバイル、ソーシャル、ビッグデータという四つがの革命が起きていることを示しながら「この四つの革命によってビジネスがどう変わるのか、変わる用意ができているのかを考えて欲しい」と米国Uberの事例などを紹介した。
さらに顧客は常にネットワークとつながっているが、企業やブランドとのつながりは薄く、顧客と企業の間にギャップがあることについて述べた。こうしたギャップを埋め顧客とのエンゲージメントを生み出すのがモバイルエクスペリエンスで、企業は顧客中心のカスタマーカンパニーを目指す必要があるなどと語った。
同社が提供するカスタマーカンパニー実現のためのツールが「Customer Success Platform」である。同ツールはあらゆる業種、規模の企業にSoR、SoEの両方を提供しOne to One カスタマージャニーの構築などの全てを一つのプラットフォーム上で実現する。
同社の最新技術を活用したユーザー事例としてGEキャピタル、損保ジャパン、コニカミノルタの3社の事例が紹介された。GEキャピタルの事例では「Wave」を活用し顧客の状況を分析した上で提案を行うデモンストレーションが行われた。同ツールでは誰もがあらゆるデバイスで短時間にアナリティクスを展開できる他、モバイルアナリティクスのカスタムアプリを構築することなども可能である。1億件以上のソーシャルデータからヒントを探しグラフが自由自在(波のように変化するところから「Wave」)に変化する。損保ジャパンの事例ではスマートデバイスを活用し子供が怪我をした現場に駆けつけるサービスのデモンストレーションが行われた。登壇した損保ジャパン日本興亜ホールディングス社長 櫻田謙悟氏は、日本の人口減少に伴い保険ビジネスが右肩下がりになることは避けられないとしながら差別化のため、安心・安全につながる付加サービスを拡充することを語った。こうしたサービスを提供するために必要な情報を迅速かつ正確に入手するためセールスフォースを活用していくようだ。コニカミノルタの事例では遠隔医療など医療・介護分野で活用するモバイルアプリをSalesforce1 Lightningで短期間に開発するデモンストレーションが行われた。
セールスフォース・ドットコムの川原均社長兼COOはセールスフォースが他のプラットフォームと比較して5倍も生産性が高いと言われているがSalesforce1 Lightningを活用することでさらにスピーディーに(まさに稲妻のように)開発が可能になると語った。多くの分析ツールは20年以上前に作成されたものだが、同社の分析ツールはクラウド活用が前提になっている。Analytics CloudはあらゆるOS、デバイスをサポートし、オラクルやSAPのデータと瞬時に連携することもできると述べた。
最後にベニオフ氏はモバイルやソーシャル、クラウドはめまぐるしいスピードで変化している。引き続き企業の変革を手伝う役割を果たしていきたいと意気込みを語り講演を締めくくった。
IaaS市場のコモディティ化が進み、クラウド基盤の主戦場はPaaSへと移りつつある。矢野経済研究所調べではセールスフォース・ドットコムは国内IaaS/PaaS市場で16.4%(2014年)のシェアを占める見込みである。同社はエコシステムを拡大させながら引き続き高成長を続けていくものと推察する。それを支えていくのは進化性、モバイル対応、開発スピードなどである。今後も同社から発信されるメッセージからは目が離せない。
※本掲載内容は、あくまで筆者がSalesforce World Tour Tokyoに参加した感想である。
(小山博子)
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