矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2018.10.24

アルバイト・パートの不足が深刻化

シフト管理システムで人の定着

最近、アルバイト・パートの人員不足を理由に閉店を余儀なくされたり、営業時間や営業スペース、また提供サービスの縮小を迫られたりする店舗が増加している。この要因のひとつには人口の減少があると考える。

であれば、せっかく集まった人材を手放すことは避けたいのが店舗側の心理であろう。しかし人が定着しやすい店舗、しにくい店舗はある。この点、定着のしやすさは作り出すことができ、それに貢献するツールのひとつがシフト管理システムだと筆者は考える。

例えば、休日に突然出勤を依頼されるケースを想定して欲しい。最近はメールアドレスを持たないアルバイト・パートが増加しており、システム未導入の店舗では電話で出勤依頼をすることも多い。こうした電話での依頼はお願いするにも断るにも「申し訳ない」という気持ちが働き、店舗・アルバイト・パートのいずれにとっても心的負担になっている。しかしシステムによっては1対1の会話を通さず出勤依頼ができ、また断るのもボタンひとつというものがある。出勤を断りたいときに断りやすい、という点は人の定着につながる要素のひとつといえる。

もちろん、アルバイト・パートの事情ばかりをみていては、店舗が成り立たない。しかしシフト管理システムの導入は、店舗にとってもメリットが多い。現状、シフトは店長などが自分の経験や勘などをもとに作成しているケースが多く、また考慮すべき事項も人間関係や人件費、出勤や休日の希望など多岐にわたる。そのため、シフト作成に費やす時間は、想像よりも膨らんでいる。システムを導入すればこの工数を大幅に削減することができ、かつ、コンプライアンスの遵守やアルバイト・パートの勤務に対する公平感を生み出すことにも役立つ。

今回、シフト管理システムが人材不足に貢献するのではとの考えからシフト管理システムを提供する5社に取材を行った。システム導入には、想定通りの効果もあったがそれ以上にアルバイト・パートにとっては働きやすさを、店舗にとっては利益を生むツールであると感じた。

それでは以下で、今回取材を行った5社のシフト管理システム/サービスについてみてみたい。

LINEでするシフト管理~クロスビット

クロスビットはシフト管理をLINEで行うことができるツール、「らくしふ」を提供している。同ツールを導入することで、ユーザは、シフト回収~作成~共有業務工数の大幅削減、ヘルプによるリソースの創出などのメリットを享受できるが、同社が注力しているのは生産性の向上である。労働人口の減少は不可避のため、労働者の生産性向上は今後市場においてますます重要なテーマになっていくだろう。

同ツールの強みのひとつは、後発であることだ。既に他のツールを利用し、思うようなことができなかったユーザの声などがツールの開発に活かされている。また、同社はサポート体制も差異化要素になっている。同社のサポートの特筆すべき点は対応可能時間で、平日・土日・祝日の8時~24時である(2018年9月末現在)。店舗が閉店してからシフトを組む管理者も多い。そうなればツールの操作に困り、問合せをしたい時間が深夜になることも予想される。深夜でも対応してもらえることは(受付のみではない)、ツールの使い勝手向上につながっているだろう。なお、この8時~24時も目安であると同社は言う。当該時間以外でも対応してもらえることがあるようだ。さらに、料金設定も「1店舗あたり」の料金体系とわかりやすい。

次に、ユーザについてみる。およそ7~8割が外食系、以外ではアミューズメントや人材など導入業種は多岐に及ぶ。

同社はツールの今後の方向性について、現場が使いやすいものを追求していきたいと言う。同ツールは口コミなどでも広がりはじめており、今後どこまでユーザ数を拡大していくかが注目される。

顧客ニーズを組み込んだシフト管理システム~システムサポート

システムサポートが提供する「SHIFTEE」は、現場ヒアリングのもと、120以上の要望・改善を組み込んだクラウド型のシフト管理システムである。ユーザは、同製品を導入することで、大きく3つの効果を得ることができる。その内容は、①スタッフとのコミュニケーションロスを最小化、②スタッフのスキルなど、シフトを組む条件の可視化、③脱エクセルで、どの管理者でも同じレベルでシフト作成可能の3点である。これら3つの効果はユーザにも喜ばれている効果で、製品の強みにもなっている。

本製品には日次シフト管理画面やヘルプ募集など様々な機能があるが、シフト提出依頼から希望提出、希望をもとにシフト作成するところまでをワンストップでできる機能などに対する人気が高い。

シフト管理市場は開拓すべき余地が大きいため、エクセルと比較し、便利であることを決め手に導入するユーザも多いと同社は言う。また、業種でみると小売や警備、不動産、コールセンターなどでの導入例が多いようである。

同製品にはLight版とFull版とがあるが、ユーザの9割以上がFull版を利用しているとみる。Full版であっても、1名あたり月額400円(500名未満)という価格設定で利用しやすい。

注目は、2018年3月に追加された新機能「シフトAI自動作成」である。本機能では事前に設定した条件とスタッフが提出したシフト希望に基づき、AIがシフトを自動で作成する。最近は連続出勤日数や月間労働時間などコンプライアンス遵守に対するユーザの意識が高まっている。スタッフの希望に沿ってシフトを作成していたらあるスタッフの月間労働時間が基準を超えてしまっていた、などという経験を持つ管理者は多い。本機能へのニーズは高いだろう。

同社は、ICTを活用したシステムのコンサルティングや企画・開発・構築、運用・保守などに強みを持っている。そうした同社のコンサルティング力や開発力が顧客ニーズを製品に迅速に盛り込むことにつながっている。

吉野家×エクサウィザーズ×セコムトラストシステムズ

セコムトラストシステムズが吉野家およびAIベンチャーのエクサウィザーズとともに、AI自動作成機能とAIリコメンド機能※1 といった2つのAI機能を搭載した勤務シフト自動作成サービス「セコムかんたんシフトスケジュール」を開発した(2018年10月販売開始予定※2 )。特に、AIと社会心理学を活用した点は、国内で初めての事例として注目されている。

AIリコメンド機能についてみる。本機能は、吉野家の店舗運営ノウハウと社会心理学に基づき開発した簡単なアンケートを事前に店舗管理者、スタッフに対し実施し、一人ひとりの性格や志向を分析。欠員箇所に対してAIがスタッフの性格や勤務状況、応援実績などをもとに補充候補を抽出する(応諾しやすい順番に表示)。次に、スタッフの性格などに応じた依頼要領のアドバイスまでも管理者に示す。今のところは吉野家のデータがベースであるが、今後色々な店舗、業種への導入が広がることでAIは学習し、リコメンドの精度が高まるだろう。もちろん、セコムはもともとシフト表自動作成エンジンを持っており、本サービスにはそのノウハウも活かされている。

本サービスは人員確保の難しさなどを開発の背景としているため、シフトの調整支援機能(応援/応募)や、1日複数回勤務の登録ができるといったヘルプ機能の充実にも特徴がある。さらに、キッチンの人数は足りているがフロアの人数は足りていないなど役割ごとに不足が可視化できる。

製品のターゲットは、母数の多い飲食店などが中心になると見られるが、同サービスは汎用性があり、小売など、幅広い業種への展開が検討されている。同社は、リリース(2018年6月)の反響が大きかったと言う。この反響への対応が落ち着くころ、AIがどこまで学習しているか、楽しみである。

※1.オプション。
※2.2018年9月末現在。

最適な人材管理ができるシフト管理サービス~リクルートジョブズ

リクルートジョブズが提供するシフト管理サービス「シフオプ」は、主なターゲットを中堅~大手としたアルバイト・パートスタッフの最適配置・最適活用を支援する。

本サービスの強みのひとつはシフト管理に特化しているところである。市場には勤怠管理システムやPOSシステムにシフト管理機能がある製品も多い。しかし特化した製品であることできめ細やかな設定ができたり、操作面が優れていることは容易に想像がつく。また、最適配置にフォーカスした製品であることは差異化要素のひとつになっている。シフト管理サービスは、シフト作成の手間を削減することを導入のメリットとするものが多い。しかし、経営視点では業務負荷改善よりも最適配置を行うことでのスタッフの管理の方がユーザに刺さると同社は言う。今後人手不足が深刻化していくことは間違いなく、だとすれば過不足ないスタッフ配置の重要度は増していく。

同製品はこうした点が考えられているため、どのように欠員を埋めるか、などといった点にフォーカスした機能も多い(例えば他店舗ヘルプ機能など)。

ユーザをみると、飲食業やサービス業をメインターゲットとしているように見受けられる。中には、シフト希望収集や変更連絡などの煩雑なやりとりを効率化でき、シフト管理業務時間を72%削減できた事例もある。

また、同製品は労務コンプライアンスの強化や、店舗指標(例えば人件費率など)のコントロールといったことも可能であることが口コミなどで広がり、2017年一年分の新規顧客が2018年4月~6月で獲得できたなど、急成長している。

さらに、同製品にはサポートセンターがあり、利用が滞っているユーザに対し定期的に電話でのフォローを行うといった取組みも実施している。こうした取組みがシステムの継続利用や新規顧客の獲得につながっているのであろう。

“納得感”向上を追求~リクルートライフスタイル

リクルートライフスタイルが提供する「Airシフト」は、やりとりも作成もラクになるシフト管理サービスで、アルバイトの2人に1人がダウンロードするシフト管理アプリ「スタッフボード」※3と連携している。

同サービスは、シフト表の作成はもちろん、スタッフとのやりとりも容易になるシフト管理サービスだ。例えば、急な出勤依頼の電話は店舗管理者が心苦しいのはもちろん、スタッフも断りにくく、また断ったとしても申し訳なさが残ることが多い。しかし本サービスは、こうしたやりとりもチャットででき、店舗管理者およびスタッフの心的負担を軽減することができる。また、チャットの内容をそのままシフトに反映することもできるため、転記漏れなどの防止にもつながる。このチャット機能は、同サービスの強みのひとつといえよう。

さらに同サービスは、Airシフトの開発者が数多くの店舗管理者と接することで得た具体的な現場情報を元に自社開発しており、店舗管理者目線のAIによる機械学習に基づいて、スタッフの希望に沿ったシフトを自動作成する※4。同機能は、シフト作成工数の軽減を図れることはもちろんだが、それ以上に店舗・スタッフ両方の納得感を重視している。そのためには、単純に営業時間、人数、各スタッフが働ける日時を組み合わせているだけではなく、様々な観点を考慮する必要がある。例えば、スタッフのスキルレベルや、相性などだ。同サービスでは、自動作成されたシフトに対する店長の修正履歴を機械学習させることで店舗ごとに存在する最適解を提案する。本機能により、使えば使うほど納得感のあるシフトができあがり、結果スタッフの満足度につながっていく。

同サービスは、使いやすさはもちろん、リクルートブランドに対する安心感・信頼感などが決め手となり導入しているユーザが多い。今後、簡易な勤怠管理の機能が設けられる予定があるなど、スタッフ・店舗にとって業務支援・使い勝手の向上となる機能のリリースが続くことが予想される。本サービスは楽しく、また効率的に働くことを支援するサービスといえよう。

※3.シフトボードをダウンロードしていないスタッフがいても利用可能。
※4.自動作成したシフトを修正することもできる

小山博子

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小山 博子(コヤマ ヒロコ) 主任研究員
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