昨年こちら(2018年10月24日 アナリストオピニオン)でシフト管理システムについて執筆したところ、予想以上に反響を頂いた。人材不足に悩む店舗は拡大の一途をたどっており、効率の良いシフト作成、柔軟なシフト作成に対する需要はますます高まっている。また、厚生労働省でも、「働き方改革実行計画」(平成29年3月28日 働き方改革実現会議決定)を踏まえ、副業・兼業の促進を図っており、実際にこれを認める企業も増加基調にある。今後、アルバイト・パートの働き方もこれまで以上に多様化していくだろう。
もっとも、ユーザ側にしてみると、シフト管理システムを導入することが人の確保にはつながらないとして、未だエクセル等でシフト管理を行っているところも多い。しかし、人の適正配置機能を用いることで、人件費の見直しを図りながら、過不足ない人の配置ができたり、スキマ時間を活用できる機能で確保できる人の数を増やしたり、など、システムも単にシフトを作成/管理するだけのものではなくなってきている。この流れは今後、さらに加速していくだろう。
今回は他システムとの連携やスキマ時間の活用などに強みを持つシフト作成/管理システムを提供する3社に取材を行った。それでは以下で、今回取材を行った3社のシフト管理システム/サービスについてみてみることとする。
オーエムネットワークが提供するシフト管理/作成システム「アールシフト」は、シフト管理/作成において、各業種の特性を考慮して開発されたクラウド型のシステムである。同社は、創業以来、小売業・サービス業を中心に基幹システムの開発を行っており、特にこれら業種に対する業務知識の豊富さがユーザから選ばれる理由のひとつになっている。
同システムは、レイバースケジューリング(LSP)理論や統計分析手法、数理最適化などを活用し、シフト管理/作成の高度化を図るとともに、誰が使用しても素早く高精度なシフト表が作成できるよう、マウスだけで基本的な操作が行える直観的なインターフェースなど、UIも工夫している点に特徴がある。また、月間シフト自動作成といった基本機能の他、スマートフォン連携システムなど、オプションも豊富に取り揃える。注目すべきはPOSデータ連携システムで、POS実績から来店客数とレジ開設台数の予測を行うことができる。同機能の提供は、同社が小売業を強みとしているがゆえのものであるといえ、実際に利用者も多いようである。加えて最近は、各店舗のマンアワーを一元管理できる機能の利用も増加基調にあり、人手不足対策への需要をうかがうことができる。なお、同社は今後、より導入や継続利用が容易になるような機能の提供を行っていく意向である。
また、業務知識以外の面における強みのひとつには、カスタマイズの柔軟性が挙げられる。同社のユーザには大手企業が多く、勤怠システムなどとの連携が求められたり、帳票など、独自デザインへの対応を求められたりすることもあると同社は言う。基幹システムの開発で培った技術力がこうした柔軟な対応を可能にしているのであろう。
さらに、同社は運用面でも利用者に寄り添う。シフト管理/作成システムは導入したからといってすぐに結果が出るものではなく、利用開始後、期間が浅いうちはこれまでとは勝手が違うことに戸惑う企業もある。そのため、同社は導入企業においてシステムの稼働が浸透するまでの期間、専門スタッフが疑問や活用方法等について、きめ細やかなサポートを行っている。こうした点が、システムの継続利用につながっているとみる。
同社は、自社が持つノウハウと利用者に寄り添う姿勢で、スマートなシフト管理/作成をユーザに提供し、働く人のモチベーション向上を図っている。
Donuts(ドーナツ)が提供する「ジョブカン勤怠管理」は、同社が提供するジョブカンシリーズのひとつで、2019年2月末時点で提供されている6サービスの中で最も歴史がある。
また、同サービスの提供形態はクラウド型で、シンプルでわかりやすいUI、豊富な機能、充実したサポート体制、導入実績3万社以上(2019年2月末時点)などが強みになっている。
同社によると300以上あるとされる機能のうちのひとつがシフト管理機能である。この機能数はユーザニーズに応え続けている結果といえる。シフト管理に関する機能をみると、シフト申請やシフト作成はもちろん、時間帯・仕事内容ごとの必要人数を設定、参照しながらシフトを作成できたり(人員の過不足判定)、シフトに対して、実際の労働時間の比較が可能であったり(予実管理)、予算を設定し、概算給与と比較しながらのシフト作成、時間帯ごとの手当、研修期間を設定する(予算管理)などといった機能もある。ユーザからは日をまたぐシフトにも対応できるか、といった問い合わせもあるようだが、最近寄せられる質問は、既に該当機能があるケースが多い。
シフト管理機能があることは、「ジョブカン勤怠管理」導入の一因にもなっているようである。シフト管理システムを利用しているユーザの多くが勤怠管理システムとの連携を望んでおり、連携なしで勤怠管理もシフト管理も行える点は、ユーザにとって大きな魅力のひとつとなっている。もちろん、勤怠管理を利用しているユーザの全てがシフト管理も利用しているわけではない。しかし、飲食業を中心に勤怠管理ユーザのうち3~4割程度がシフト管理も利用していると推察する。
ユーザを規模でみると中小企業のボリュームが多い。しかし、最近は大手企業も増加基調にあると同社は言う。
今後は展示会なども活用しながら広く全国にサービスを拡販していく考えを同社は持っている。中長期的には、ジョブカンシリーズに新たなシリーズが加わる可能性もあるようだ。シフト管理まわりでみても、AIの活用意向があることがうかがわれ、より複雑なニーズにも応えていくことが可能になることが予想される。
総合人材サービス、パーソルのグループ企業であるパーソルキャリアが提供する「Sync Up(シンクアップ)」は、店舗間のアルバイトスタッフシェアリングを実現するクラウド型のヘルプシフト管理サービスである。最近は人材不足に悩む企業も多い。一方でアルバイト・パート側は、予定が不規則で事前にシフト提出ができないために働けない、短い日数・短い時間であれば働きたい(スキマ時間の有効活用)、などといった事情を抱えている。同サービスは、こうした両者の悩み解決の一助となるサービスである。なぜなら、アルバイト等はヘルプとして好きな時間、好きな店舗で働くことができるため、人手の足りていない店舗のシフト稼働を上げることができ、また融通の利くシフトを実現することで、アルバイト等の離職防止・定着率の向上を図ることができるからである。このスキマ時間の活用、という観点が、他のシフト管理/作成システムとの大きな差異化要素のひとつとなっている。もっとも、他社のシフト管理/作成システムを利用しているユーザが本サービスも導入しているケースも多く、他のシフト管理/作成システムが競合とは言い難い状況にある。今後、同社はサービスにシフト作成機能も設ける予定となっており(2019年2月末現在)、他社からの乗り換えも含め、サービスの成長が期待される。
同サービスの強みは、法人・アルバイト等がともに直感的に利用できるUIや、シフト作成に関するやりとりの時間を省力化できるところなどにある。また、ユーザ(企業)からは、シフト作成に関するしくみをアルバイト等に伝えるコスト(工数)を削減できる、店舗間マネジメントができる、などといったところに対する評価が高い。特に店舗間マネジメントについては、ベテラン店長と新米店長の間に交流のきっかけをつくり、人材育成にも貢献している。
同サービスのユーザは、大手を中心に飲食業や小売業などが多い。同社は今後、中心となる飲食業・小売業などに加え、介護・医療系にもサービスを広げていくことを考えており、まもなく提供開始となる(2019年2月末時点)OB・OG活用機能がこれらの業種に刺さることが見込まれる。介護や医療は特に経験が重要な業種である。経験者に対し、呼びかけができる本機能は、新たに未経験者を採用するよりも企業にとって効率が良い。同社のサービスは、リソースを最大限に有効活用できるサービスといえよう。今後、働き方が多様化していく中で、同サービスへの需要は高まっていくことが予想される。
(小山博子)
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