矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2023.12.04

IT業界 2023年を振り返るならもちろん生成AI

Salesforce World Tour Tokyo

2023年11月、セールスフォース・ジャパンはSalesforce World Tour Tokyoを開催した。米Salesforceの創業者で会長兼CEOのマーク・ベニオフ氏が6年ぶりに来日し、基調講演に登壇する、ということもあり、イベントは25,000人以上が登録をする盛り上がりであった(現地開催とオンラインのハイブリッド型イベント)。

2023年のテーマは「誰もがアインシュタインになれる」。ここでいうアインシュタインは学者のことではない。SalesforceのAIエンジンのことである。もちろん、実際に自分がAIエンジンになれるわけではない。基調講演ではCRM向け生成AI「Einstein 1 Platform」および対話型AIアシスタントのデモンストレーションが披露されたが、非常にわかりやすく、導入企業側であれば、優れたUIで簡単にAIを活用することができそうであったし、消費者側であれば効率も含め、ストレスのない個客体験を得られるであろうと感じた。

「Einstein 1 Platform」はあらゆるデータを安全に結び付け、AIを活用したアプリをローコードで構築するプラットフォームである。AIの活用にデータは不可欠で、それが散らばっていては思うような施策を打てず、また効果も出ないだろう。データを結びつけること(一元化)はユーザーが求めていることのひとつで、同サービスはそれに応えるものである。

ここで注目したいのが「生成AI」というキーワードである。セールスフォース・ジャパンの会長兼社長の小出氏も、生成AI、対話型AIの製品を世に出していく、と言及したように、今冬、既に複数の生成AI製品/サービスが同社から提供される予定である(例えば、「Work Summaries」/カスタマーサービスにおける、オペレーターと顧客の会話内容の要約をAIが生成や「Sales Email」/CRM内の情報を活用し目的に即してパーソナライズされたメールをAIがワンクリックで自動的に生成など)。

生成AIに関しては、Google Cloud Next '23やAWS re:Invent 2023でも重要なワードのひとつになっており、2023年のIT業界を振り返る上で、外せないトピックスのひとつだろう。

ユーザー企業の関心も高い生成AI

矢野経済研究所では、2023年10月に『2023国内企業のIT投資実態と予測』を発刊した。本資料はユーザー企業に対するアンケート調査をベースとした資料で、2023年は538社の協力を得ている。

本資料では、「自社のIT戦略や経営に大きな影響を与えそうなもの」について尋ねた(複数回答/n=508)。結果は、「サイバーセキュリティ」が46.1%でトップ、次点が「生成AI」(40.9%)であった。生成AIに対するユーザー企業の関心の高さがうかがえる。また、3位は「画像認識」(生成AIを除く)(23.6%)となっており、AIそのものに対する関心も増加していると言える。

【図表:自社のIT戦略や経営に大きな影響を与えそうなもの(2023年)】

【図表:自社のIT戦略や経営に大きな影響を与えそうなもの(2023年)】

出所:矢野経済研究所『2023国内企業のIT投資実態と予測』(2023年10月)
※全21項目のうち上位5項目のみ表示

生成AIについて、ITベンダに話を聞くと、ベンダ内でも、どのようなところに利用できるか、勉強中である、という話が多い。また、ベンダにとっての顧客(エンドユーザー)からも生成AIを活用したいという要望が非常に多いという。もっとも、この生成AIに関しては、現状、懸念点もある。情報漏洩をはじめとしたセキュリティ的な問題であったり、著作権など知的財産権を侵害する可能性であったり、がそれである。ただ、生成AIについては政府も開発、利用を促進するという方向性を示しており、開発や活用に関する国内向けのガイドライン(指針)の作成に向かった動きは始まっている。

しかし、国内向けのガイドラインがあったとしても、ビジネスで利用するのであれば、各社、自社内におけるガイドラインの設定を考える必要はあるだろう。自社では良くても取引先ではNGというケース、顧客が否定的というケースもしばらくはありそうだ。そのため、DX(デジタルトランスフォーメーション)の進展と同様、まずは業務効率化など、いわゆる「守りの生成AI」が進んでいくと予想する。例えば、チャットボット的な利用がそのひとつである。

だとすれば生成AIもDXのように緩やかに進んでいくのか。この点については否だと考える。そもそもDXが広い概念で、生成AIの活用もDXのひとつと考えられることから、これらを比較の対象にすることが誤りとも言える。ただ、日本企業と新しいITテクノロジーのこれまでの関係をみると、企業規模や業種に関係なく、積極的に取り入れられていったものは少ない。ChatGPTに無料版があり、しかもそこそこに使えて、使うための技術はいらない。そうしたサービスであるからこそ、生成AIに対する敷居は下がり、企業規模や業種に関係なく利用が急速に広がろうとしている(ChatGPTに限るものではない)。

生成AIは既に一部自治体でも導入されている。相模原市(神奈川県)では、国産生成AIの導入を決定した(開発はNEC)。国産生成AIは、日本語に特化して開発されていることから、行政の専門用語に対応し、また、データセンターを国内に設置するため、情報管理を国内で行えるというメリットがあるという。例えばパブリッククラウドの利用では、メインで外資系のサービスを利用し、ところによって国産クラウドを活用する、というスタイルも多い。日本語に特化して、というのは現時点では大きなメリットであるように思うが、外資系生成AIも日本語を学習していくと思われ、今後生成AIがパブリッククラウドなどと同じ道をたどるのか、国産生成AIが存在感を示せるのか、非常に楽しみである。

小山博子

関連リンク

■レポートサマリー
国内生成AIの利用実態に関する法人アンケート調査を実施(2023年)
国内企業のIT投資に関する調査を実施(2023年)
ITベンダーの先端技術活用に関する調査を実施(2023年)

■アナリストオピニオン
つい期待してしまう驚き
Salesforce World Tour Tokyo
生成AI、XR、メタバース……DX時代における先端技術の事業化戦略

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小山 博子(コヤマ ヒロコ) 主任研究員
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