最近、オフショア開発の活用動向や、ユーザー企業の海外IT投資動向に対するITベンダーの関心が高まっている。
オフショア開発についてITベンダーの動きをみると、現地拠点を持つ国内ITベンダーや現地ITベンダーとパートナーシップを締結するケースが多く、外資系ベンダーであれば海外リソースを活用する、などもひとつの手法になっている。
こうした動きが起きている背景には、自社でのリソース不足から機会損失につながっている案件が増加基調にあることが挙げられる。ここ数年、ユーザーは旺盛なIT投資意欲を持っている。それゆえに案件は多いものの、上流工程を担える人材がいない、下流工程を担える人材が不足している、などを理由に辞退するなど、多くのベンダーが成長機会を逸している。
課題の解決策として、大手ベンダーが大手グローバルコンサルティングファームと協業し、上流工程を任せる例が挙げられる。しかし上流工程は自社で担い、下流工程をアウトソーシングしたいと考えるベンダーも多い。いま増えているのはこの下流工程をグローバルアウトソーシングしたい、というケースである。しかし、これは一筋縄ではいかない。特に現地ITベンダーと協業する場合には、自社が積極的に関わる必要があるのか、コミュニケーション役に徹すればいいのか、など迷うところが多い。言語や文化の違いから現地ITベンダーとはすれ違いが起きてしまうのが現状である。
ジョンソンコントロールズのオフショア戦略が、エンジニアの働き方改革や生産性向上に成果を挙げているという。重要なポイントは、業務への理解や標準化、言葉の壁をなくすことなどであるようだ。日本固有の業務プロセスやフロー(例えば納期に対する考え方など)を理解してもらう時間をできるだけ多く確保することで認識の齟齬が生まれにくくなり、また業務の標準化を行うことで業務範囲が明確になる、誰でも対応できるようになるなどのメリットが生まれる。しかし、これらの前に立ちふさがるのが言葉の壁である。例えばベトナムでオフショア開発を行うとなったとき、英語でコミュニケーションを取ろうとするとどちらも母国語でない言語を使うことになり、行き違いが生じたり、意思疎通に時間を要したりする。そこでジョンソンコントロールズでは、業務の依頼を含むオンライン上のコミュニケーションは基本的に日本語とすることで業務委託をスムーズにしている(同社の業務委託先はインド)。近年は優れた翻訳アプリなどもあり、こうしたことも以前より容易になっている。
IT人材不足ゆえにオフショア開発を検討する企業は拡大している。今後も本社、現地双方のエンジニアが互いの強みを発揮し、競争力の向上につながる事例が増えることを期待する。
ユーザー側では、海外IT投資を拡大する動きもある。この動きに対し、現在弊社では「2025 国内企業のIT投資実態と予測」(2025年10月末発刊予定)の発刊に向け、ユーザーアンケートを実施中である。海外拠点向けのIT投資額や、海外IT投資の地域別比率、IT投資が増えている地域など全7問を尋ねている。矢野経済研究所では2011年9月に『2011 日本企業のグローバルIT戦略』というレポートを発刊した。最新の結果が出る前に、当時の結果を振り返っておきたい。
以下で紹介するアンケートの結果は、次の調査概要に基づいて実施した。
◆調査対象
売上高100億円以上、かつ海外に拠点(グループ会社、現地法人等を含む)を持つ全国の企業から無作為に抽出
◆アンケート実施期間
2011年6月~7月
◆アンケート調査方法
電話アンケートとFAX、郵送アンケートを併用
◆アンケート回収数
212件
当時は、事業拡大や拠点の増設、またIT整備による業務の効率化やガバナンスを目的に海外IT投資が拡大していた。おそらく2025年も同じような理由で海外IT投資が拡大していることだろう。そこで、まずは当時の海外へのIT投資比率をみる。海外への平均IT投資比率は9.0%(対全社IT投資/n=74)で、金額ベース(n=69)では1億2,300万円(平均)となっていた。海外IT投資比率については企業規模との相関関係がさほど見られず、加工組立製造業が際立って高かった。この傾向も2025年でも同様なのではないかと推測する。
また、海外投資の地域別比率では、中国が3割程度、中国以外のアジアが4割程度、米国が2割程度、欧州・その他が1割程度となっており、この結果とリンクするように、IT投資が増加している地域も、中国以外のアジアが6割を超え、トップであった。
【図表:IT投資が増えている地域(2011年)】
最後に、海外拠点で利用しているベンダーのタイプをみる。現地ベンダーが6割を超えてトップであった。しかし日系ベンダーという回答も3割弱ある。
アンケートの結果は少し先だが、オフショア活用、海外IT投資とグローバルITが何度目かの熱視線を集めており、ベンダーにとっては商機と言える。
【図表:海外拠点で利用しているベンダータイプ(2011年)】
(小山博子)
■レポートサマリー
国内企業のIT投資に関する調査を実施(2024年)
国内企業のIT投資に関する調査を実施(2023年)
国内企業のIT投資に関する調査を実施(2022年)
国内企業のIT投資に関する調査を実施(2021年)
国内企業のIT投資に関する調査を実施(2020年)
国内企業のIT投資に関する調査を実施(2019年)
■アナリストオピニオン
●ITベンダーのグローバル化の道筋を考える
●舞台は世界へ 真のグローバル化を目指すITベンダー
■同カテゴリー
●[ICT全般]カテゴリ コンテンツ一覧
●[エンタープライズ]カテゴリ コンテンツ一覧
●[グローバル・海外]カテゴリ コンテンツ一覧
YanoICT(矢野経済研究所ICT・金融ユニット)は、お客様のご要望に合わせたオリジナル調査を無料でプランニングいたします。相談をご希望の方、ご興味をお持ちの方は、こちらからお問い合わせください。
YanoICTサイト全般に関するお問い合わせ、ご質問やご不明点がございましたら、こちらからお問い合わせください。