矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2011.11.29

ITベンダーのグローバル化の道筋を考える

収益性や事業性を本格的に検討しなくてはならならない局面に

ユーザ企業の関心は海外市場にあり、ASEANやインドなどの話題をメディアで聞かない日がない。それに伴い、自然とIT投資は国内より海外に向いている。当社では、国内IT投資は中期的に減速すると予測している。円高、欧州経済の暴落、米国や中国の経済動向など、経済環境は悪化しており、2011年度下期の業績悪化懸念が広がっている。他方、日本企業が海外に活路を求める姿勢は鮮明になっており、タイで大洪水があっても引き返すという道はない、逆に洪水があってもさらに進出するという声を聞く。
内需型の産業として長く存続してきたIT業界も、いよいよ海外にビジネスチャンスを求めざるを得ない時期がきた。ITベンダーの海外事業は、従来「既存大口顧客が海外に進出したため、顧客との関係を薄めないために出て行く」パターンが主体であり、国内で得た利益をトライアルとして海外に投資する、いわばコストセンター的な扱いとなっていた。しかし、企業成長の根源を海外に求めるのであれば、収益性や事業性を本格的に検討しなくてはならならない局面にあるといえる。

しかし、調査結果ではユーザ企業は海外では日系ITベンダーを選択していないことが明らかになった。価格の安さのみならず、海外での実績、現地採用のIT担当者との付き合いやすさ、現地の法律や商習慣に詳しいことなどから、現地ベンダーが選ばれている。ユーザ企業に話を聞くと、日系ベンダーに対しては、「グローバル対応が弱い」「コストが高い」という消極的な意見が目立つ。パッケージ事業においても、グローバル標準となる日本製の製品はまだ存在しない。
昨今IT業界各社の事業戦略に「海外事業の強化」という文字が目立つが、具体的な道筋をまだ見出せないでいる企業が多いように見受けられる。苦労話や試行錯誤の様子を聞くにつけ、「日本の品質なら受け入れられるはずだ」「アジアはまだ日本よりIT活用レベルが低いから通用するだろう」といった発想ではグローバル市場に打って出ることはできないのではないか、と考えさせられる。
海外事業の推進にあたっては、「誰に」「何を」「いくらで」「どうやって」売るかが課題となる。グローバル対応力、サポート力、コストへの対応など、海外で求められるサービス能力のレベルは高く、今後更に高まるであろう。それでもIT業界のみが国内に居座っていることはできず、またそれでは業界の成長も望めない。海外市場の開拓を進めるユーザ企業に倣い、追いつくためには、従来のビジネスモデルをいったん捨てるくらいの発想の転換が必要だろう。

海外事業におけるNTTデータのチャレンジとは

今後のITベンダーの海外戦略の方向性を考えるためのケーススタディとして、海外事業に取組むNTTデータの取組を概観する。

NTTデータの2010年度(2011年3月期)の海外事業の売上高は1,015億円、売上高に占める比率は8.7%である。経営計画では、海外事業の売上高を2012年度に3,000億円(全社売上に占める比率は20%)まで引き上げる計画としている。

同社はこれまで積極的なM&Aによって加速度的に海外事業を拡大してきており、今後も地域的なカバレッジを広げる方針だが、平行してこれまで買収してきた企業群のシナジー創出を図るフェーズに入っているという。2011年現在、グループ会社は130社以上あるが、これをグローバル全体で地域統括会社4社、ソリューション会社1社の合計5社程度に統合する。まずは、米国からスタートし、2年間かけて各地域で統合、再編を進め、2013年度は新体制でスタートを切ることを目指している。オファリングに関しても、SAPなどグローバルで展開するパッケージソリューションや、金融、テレコムなどの業種ソリューションについては、国内外の関連企業が協業して、ノウハウの共有、ツールなどの共同開発、要員の連携などを行う体制を構築しつつある。ターゲット顧客について聞くと、「日系大手グローバル企業との関係はあまり強くないこともあり、アジアを含めどの地域においても、現地企業、外資グローバル企業とのビジネスを積極的に拡大していく。」ということだ。

買収企業のマネジメントは難関であり、先行して取組んだ企業での失敗事例もある。買収先に自社から経営者を送り込み大胆な人員の入れ替えや経営改革を行う欧米企業とは異なり、日本企業は元の企業体を活かした緩やかな融合を目指すことが多いが、経営の甘さや管理の失敗も起きやすい。NTTデータも「未経験の事業であり大きな課題である。」と認めている。
それでもNTTデータは統合後に世界的なIT企業となることを目指している。2010年には同社にとって過去最高規模のM&Aである米国Keane(キーン)の買収を行っており、世界最大のIT市場に乗り込むNTTデータの本気度が伝わる。その他ドイツのitelligence(アイテリジェンス)、Cirquent(サークエント)など、有力なグループ会社を中核として、本格的に現地企業、グローバル企業を顧客に取り込んでいく構えだ。

日本のSIerはグローバル化と称して既存顧客について海外に出ていくスタイルが主体だが、NTTデータにはそのパターンが当てはまらない。豊富な資本力と人材力を持つNTTデータだから可能となったと思われることも多いながら、新しいビジネスモデルを持つ日本発のグローバルIT企業となる可能性を秘めており、今後の取り組みが注目される。

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