矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

レポートサマリー
2022.11.10

生命保険領域における国内InsurTech市場に関する調査を実施(2022年)

個人向けに留まらず法人向けでもInsurTech関連の保険・サービスが登場し、増加している。IT面ではクラウド化は徐々に進展もAPI公開は限定的。

株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越孝)は、生命保険領域における国内InsurTech(インシュアテック)市場を調査し、現況、領域別の動向、および将来展望を明らかにした。

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【図表:国内InsurTech市場規模推移・予測】

【図表:国内InsurTech市場規模推移・予測】
  • 矢野経済研究所調べ
  • 注:参入事業者売上高ベース
  • 注:2022年度は見込値、2023年度以降は予測値

 

生命保険領域における国内InsurTech市場の概況

本調査におけるInsurTech市場は、新しい保険商品・サービスの開発や業務の効率化・高度化をサポートするITベンダーやスタートアップの参入事業者売上高ベースで算出している。
2022年度の国内InsurTech市場規模は、前年度比134.9%の2,470億円の見込みである。保険商品・サービス面では、2022年度は個人向け保険商品では特に不妊治療の保険適用なども影響し、生命保険会社が相次いで関連スタートアップと協業したことで、女性向けの健康増進関連サービスが充実してきている。一方、法人向けの商品・サービスも、中堅・中小企業向けの健康経営の推進支援や、経営者を含めた全社員の健康増進を図ることを目的とした商品・サービスが徐々に出てきている。

また、InsurTechを巡る各種環境については、まず法整備の面では、前年から目立った変化は見られないものの、PHRに係る動向を注視していく必要がある。政府の「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太の方針)でPHR推進を明記したこともあり、2022年6月にはPHRサービス事業協会が立ち上がるなど、環境整備が急ピッチで進められている。
次に、支援環境の面では前年と比較して大きな進展があったとはいえず、引き続き積極的な支援環境の構築・拡大を期待する状況にある。
最後に技術的な環境整備については、まずクラウド化への対応は大手生命保険会社を中心にオンプレミスとのバランスを考えた構成に向けて取組みが徐々に進みつつある。一方で、APIの公開は検討を明言する生命保険会社は限定されており、また、ブロックチェーンやメタバースについては各社ともその可能性を見極めている状況にある。

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生命保険領域における国内InsurTech市場の注目トピック

■個人向けに留まらず、法人向けの保険商品・サービスでもInsurTechの動きが勃興
従来、法人向けの保険商品・サービスとしては、中小企業の経営者向けの保険商品が多い。つまり、運転資金や事業承継対策資金、相続対策など、事業継続に活用できる資金対策としての性質を帯びている。こうした保険商品が多い中で、2019年頃から徐々に法人向けにおいても、健康増進から早期発見、早期介入に至るまでカバーした保険商品・サービスの提供を手掛ける事業者が登場し、増加している。

そうした保険商品・サービスは、大きく「法人向け」「経営者向け」「従業員向け」の3つに分けられる。
まず、法人向けサービスとしては、経済産業省の「健康経営優良法人制度」の取得に向けたサポートや健康経営の診断、実践に向けた取組みに加えて、産業医の選任をサポートするサービスなども出てきている。特に健康経営優良法人に認定された法人は、優良な健康経営を実践しているとして社会的な評価を受けられるなどのメリットがあるとされ、急増している。
次に、経営者向けサービスとしては、経営者や役員などの重役に不測の事態が起きた場合、企業経営自体に影響を及ぼすことから、そのリスクを回避すべく予防・健康増進や早期発見、治療後のサポートまでカバーする保険などが登場している。また、保険に留まらず、別途、プライベート看護をはじめとした経営者向けの新たなサービスもみられる。
従業員向けサービスとしては、経営者および従業員を対象とした健康増進型保険が登場している。健康診断結果のウェブ管理や、ウェアラブル端末との連携による運動量管理などを通じた健康経営の推進の他、目標を全社員で共有し楽しみながら健康経営に取り組むなど、ゲーミフィケーションの要素を取り入れた取組みを推進するサービスをはじめ、各社工夫を凝らした取組みを進めている。

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生命保険領域における国内InsurTech市場の将来展望

2024年度の国内InsurTech市場規模は、3,180億円に達すると予測する。

まず保険商品・サービスの開発では、健康増進から重症化予防までトータルでサポートするなど保障範囲を広げた個人向けの保険商品が広がりをみせるほか、大手生命保険会社を中心にヘルスケア関連企業やスタートアップ等とのエコシステムの構築、拡充に向けた動きが活発化していくものとみる。また、大手生命保険事業者を中心に、若年層の開拓に向けて少額短期保険事業者の買収や少額短期保険会社の立ち上げが進み、ミニ保険の開発に着手、話題となるミニ保険商品も出てきている。
一方、業務の効率化についても、従来大手生命保険会社を中心に広がりを見せていたものの、中堅規模の生命保険会社にも波及し、急速に事務手続きの自動化や請求処理の迅速化に向けた動きが活発化していくものとみる。

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参考:このレポートに掲載されている主なデータ一覧

  • 国内におけるInsurTechの定義
  • 従来の仲介業と金融サービスの仲介業の違い
  • データ活用やICT活用の観点からみた保険商品の位置づけ
  • 生命保険各社におけるエコシステム構築に向けた動き
  • 入院費用をまかなう手段
  • 主たる生命保険会社における就業不能保障保険
  • 告知事項は同じでも奥地の中身は全く異なる
  • 主たる保険会社の引受基準型保険
  • 疾病管理プログラムの例
  • 主たる介護保険に関する比較表
  • 健康経営有料法人(中小規模法人部門)認定法人の推移
  • 主たる法人向けサービス
  • 経営者の平均年齢の推移
  • 主たる法人向けサービス
  • 大手生命保険会社における少額短期保険会社の設立・買収の動き
  • 2019年以降に設立された事業者リスト
  • 主たる生命保険会社における2021年~2022年における共同研究の例
  • 主たる国内生命保険会社におけるデータサイエンティストの育成・採用状況
  • 直近加入契約の加入チャネルの変遷
  • 第一生命および住友生命のクラウド化に係る状況
  • 矢野経済研究所が考えるオンプレミスとクラウドの切り分け
  • APIを公開する上での公開範囲
  • パブリック/クローズド/プライベートブロックチェーンの比較
  • 生命保険会社およびITベンダーの見解
  • 生命保険会社およびITベンダー、メタバース事業者の見解
  • 主たる生命保険会社における手続きの電子化状況
  • 生命保険会社のIT市場規模推移予測(2018年度~2024年度、億円)
  • 国内InsurTech市場規模推移予測(2018年度~2024年度、億円)
  • 健康増進型保険および疾病管理プログラム関連市場規模推移予測(2018年度~2024年度、億円)
  • 経常収益の推移(億円)
  • 生命保険協会におけるコロナ対応
  • コロナに伴う保険金などの支払状況
  • 入院給付金におけるみなし入院/みなし入院以外の構成
  • 2021年度におけるコロナに伴う死亡保険金の支払い状況
  • 2021年度におけるコロナに伴う入院給付金の支払状況
  • 入院給付金におけるみなし入院/みなし入院以外での推移
  • 住友生命「Vitality」の各種リワード
  • 主たる保険商品
  • 各社のフェーズ別取組み例
  • 各社のフェーズ別でみた商品・サービス
  • 主たる保険商品
  • 主たる生命保険会社における法人向け保険商品の取組み例
  • SOMPOひまわり生命保険が提供する有償ヘルスケアサービス
  • 生命保険会社における異業種との協業状況
  • 主たる女性向けサービス事業者における生命保険会社との協業状況
  • 生命保険会社におけるスタートアップとの協業状況(期間:2021年2月~2022年9月)
  • 主たる生命保険会社の提供するスマートフォンアプリ
  • 主たる生命保険会社におけるデジタル化状況
  • 保険契約件数の推移
  • 収入保険料の推移
  • 付帯サービス提供企業一覧
  • 商品概要
  • 主たるITベンダーにおける直近の取組内容
  • 大手Sier各社のInsurTechに関する取組み
  • 2021年~2022年のInsurTechに関わる動き
  • 日本IBMのBlueHubプログラム
  • 母集団数の推移
  • データ収集箇所の違い
  • SBIグループとの連携強化について
  • フィナンシャル・エージェンシーの直近での協業に関わる取組み
  • 2020年~2021年における協業等に関する取組み
  • フィットネスジムとの協業例
  • パーソナルスコアに関する提供価格表
  • 健診データを活用した保険商品・サービスに関する主たる取組み
  • 出展イベント
  • 保険適用決定区分と準用技術料
  • ユカシカドの提供するサービス
  • 提供している検査キット一覧
  • 主たるプレーヤー一覧および生命保険会社との協業状況
  • 不妊治療の適用年齢・回数
  • 令和4年度フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金における採択事業
  • スマルナのビジネスモデル
  • 不妊についての心配と治療経験
  • 乳がん受診率
  • ネクイノ社が考える協業可能性の一例
  • 疾病管理プログラムにおけるポジショニングマップ
  • PREVENTの提供サービス
  • 協業している生命保険会社
  • サービス提供事例
  • シンクヘルスのプラン
  • ニューロトラック社の提供コンテンツ
  • 主たるプレーヤ^
  • 各社の主たるサービスの位置づけ
  • 受診勧奨
  • 重症化予防
  • 医療プラットフォーム事業の主要サービス概要
  • メドピアが提供する主要サービス
  • インテグリティ・ヘルスケアの提供サービスの概要
  • 一般消費者向けの主なサービス
  • 生命保険会社との協業事例
  • シフトテクノロジーのソリューション
  • 保険クラウドサービスにおける主たる参入事業者
  • Inspireの全体像
  • 導入事例
  • アクサ生命保険
  • 住友生命保険
  • SOMPOひまわり生命保険
  • 第一生命保険
  • 日本生命保険
  • アイアル少額短期保険
  • NTTデータ
  • 日本マイクロソフト
  • 明治安田システム・テクノロジー(医療査定なび®)
  • asken
  • H2
  • Kids Public
  • シフトテクノロジー
  • simplesurance
  • SEIMEI
  • DeSCヘルスケア
  • Famileaf
  • Protosure
  • hokan
  • ANA NEO
  • InsureDAO

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関連リンク

■レポートサマリー
生命保険領域における国内InsurTech市場に関する調査を実施(2021年)
生命保険領域における国内InsurTech市場に関する調査を実施(2019年)
保険代理店のInsurTechに関する日本・中国での比較研究を実施(2021年)

■アナリストオピニオン
一気呵成に進む巨象の動きを契機に個人領域、法人領域の双方でざわつき、2024年も期待大
新型コロナウイルス対応はユーザー意識の改革とInsurTech 普及のチャンス
InsurTech(インシュアテック)を後押しする法制度面の動きに注目――金融審議会による保険会社の業務範囲規制緩和の影響度合い
「健康先進国」を実現する上でInsurTechの推進が急務――国内におけるInsurTechの現状と今後の方向性
急成長続ける国内FinTechの市場概況と併せて周辺領域にも注目――InsurTechの台頭

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調査要綱

調査対象:国内の生命保険会社、少額短期保険事業者、SIer(システムインテグレーター)、InsurTech関連スタートアップ等
調査期間:2022年7月~9月
調査方法:当社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、電話・e-mailによるヒアリング、ならびに文献調査併用

※生命保険領域におけるInsurTechとは:InsurTech(インシュアテック)とは保険(Insurance)と技術(Technology)を掛け合わせた造語である。従来の生命保険会社では提供できなかった新たな保険商品・サービスの開発や業務の効率化・高度化などにおいてIT技術を活用して提供する生命保険関連サービスを意味する。
本調査における、生命保険領域におけるInsurTechは「パーソナライズ化された(健康増進型)保険商品・サービスの開発」「疾病管理プログラム」「AIなどを活用した保険相談/保険営業支援サービス」「AIを活用したアンダーライティング(引受査定)の自動化」「受診勧奨から受診、異常告知を受けた場合における診療までのトラッキング」「契約者および契約者の家族向けアフターサービス」「支払査定の自動化関連ソリューション」「インフラ関連サービス(保険クラウドサービス/API/ブロックチェーン)」の8領域を対象とする。
*ブロックチェーンとは利用者同士をつなぐ P2P(ピアツーピア)ネットワーク上のコンピュータを活用し、権利移転取引などを記録、認証するしくみ

※生命保険領域におけるInsurTech市場とは:本調査における国内InsurTech市場は、従来の生命保険会社が提供していなかった新しい保険商品・サービスの開発や業務の効率化・高度化をサポートするITベンダーやスタートアップに焦点を当て、当該参入事業者の売上高ベースで算出している。

<市場に含まれる商品・サービス>

  • パーソナライズ化された(健康増進型)保険商品・サービスの開発
  • 疾病管理プログラム
  • AIなどを活用した保険相談/保険営業支援サービス
  • AIを活用したアンダーライティング(引受査定)の自動化
  • 受診勧奨から受診、異常告知を受けた場合における診療までのトラッキング
  • 契約者および契約者の家族向けアフターサービス
  • 支払査定の自動化関連ソリューション
  • インフラ関連サービス(保険クラウドサービス/API/ブロックチェーン)
関連マーケットレポート
山口 泰裕(ヤマグチ ヤスヒロ) 主任研究員
ITを通じてあらゆる業界が連携してきています。こうした中、有望な業界は?競合・協業しうる企業は?参入障壁は?・・・など戦略を策定、実行に移す上でさまざまな課題が出てきます。現場を回り実態を掴み、必要な情報のご提供や戦略策定のご支援をさせて頂きたいと思います。お気軽にお声掛け頂ければと思います。

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