株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越孝)は、生命保険領域における国内InsurTech(インシュアテック)市場を調査し、現況、領域別の動向、および将来展望を明らかにした。
【図表:国内InsurTech市場規模推移・予測】
本調査におけるInsurTech市場は、新しい保険商品・サービスの開発や業務の効率化・高度化をサポートするITベンダーやスタートアップの参入事業者売上高ベースで算出している。
2022年度の国内InsurTech市場規模は、前年度比134.9%の2,470億円の見込みである。保険商品・サービス面では、2022年度は個人向け保険商品では特に不妊治療の保険適用なども影響し、生命保険会社が相次いで関連スタートアップと協業したことで、女性向けの健康増進関連サービスが充実してきている。一方、法人向けの商品・サービスも、中堅・中小企業向けの健康経営の推進支援や、経営者を含めた全社員の健康増進を図ることを目的とした商品・サービスが徐々に出てきている。
また、InsurTechを巡る各種環境については、まず法整備の面では、前年から目立った変化は見られないものの、PHRに係る動向を注視していく必要がある。政府の「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太の方針)でPHR推進を明記したこともあり、2022年6月にはPHRサービス事業協会が立ち上がるなど、環境整備が急ピッチで進められている。
次に、支援環境の面では前年と比較して大きな進展があったとはいえず、引き続き積極的な支援環境の構築・拡大を期待する状況にある。
最後に技術的な環境整備については、まずクラウド化への対応は大手生命保険会社を中心にオンプレミスとのバランスを考えた構成に向けて取組みが徐々に進みつつある。一方で、APIの公開は検討を明言する生命保険会社は限定されており、また、ブロックチェーンやメタバースについては各社ともその可能性を見極めている状況にある。
■個人向けに留まらず、法人向けの保険商品・サービスでもInsurTechの動きが勃興
従来、法人向けの保険商品・サービスとしては、中小企業の経営者向けの保険商品が多い。つまり、運転資金や事業承継対策資金、相続対策など、事業継続に活用できる資金対策としての性質を帯びている。こうした保険商品が多い中で、2019年頃から徐々に法人向けにおいても、健康増進から早期発見、早期介入に至るまでカバーした保険商品・サービスの提供を手掛ける事業者が登場し、増加している。
そうした保険商品・サービスは、大きく「法人向け」「経営者向け」「従業員向け」の3つに分けられる。
まず、法人向けサービスとしては、経済産業省の「健康経営優良法人制度」の取得に向けたサポートや健康経営の診断、実践に向けた取組みに加えて、産業医の選任をサポートするサービスなども出てきている。特に健康経営優良法人に認定された法人は、優良な健康経営を実践しているとして社会的な評価を受けられるなどのメリットがあるとされ、急増している。
次に、経営者向けサービスとしては、経営者や役員などの重役に不測の事態が起きた場合、企業経営自体に影響を及ぼすことから、そのリスクを回避すべく予防・健康増進や早期発見、治療後のサポートまでカバーする保険などが登場している。また、保険に留まらず、別途、プライベート看護をはじめとした経営者向けの新たなサービスもみられる。
従業員向けサービスとしては、経営者および従業員を対象とした健康増進型保険が登場している。健康診断結果のウェブ管理や、ウェアラブル端末との連携による運動量管理などを通じた健康経営の推進の他、目標を全社員で共有し楽しみながら健康経営に取り組むなど、ゲーミフィケーションの要素を取り入れた取組みを推進するサービスをはじめ、各社工夫を凝らした取組みを進めている。
2024年度の国内InsurTech市場規模は、3,180億円に達すると予測する。
まず保険商品・サービスの開発では、健康増進から重症化予防までトータルでサポートするなど保障範囲を広げた個人向けの保険商品が広がりをみせるほか、大手生命保険会社を中心にヘルスケア関連企業やスタートアップ等とのエコシステムの構築、拡充に向けた動きが活発化していくものとみる。また、大手生命保険事業者を中心に、若年層の開拓に向けて少額短期保険事業者の買収や少額短期保険会社の立ち上げが進み、ミニ保険の開発に着手、話題となるミニ保険商品も出てきている。
一方、業務の効率化についても、従来大手生命保険会社を中心に広がりを見せていたものの、中堅規模の生命保険会社にも波及し、急速に事務手続きの自動化や請求処理の迅速化に向けた動きが活発化していくものとみる。
■レポートサマリー
●生命保険領域における国内InsurTech市場に関する調査を実施(2021年)
●生命保険領域における国内InsurTech市場に関する調査を実施(2019年)
●保険代理店のInsurTechに関する日本・中国での比較研究を実施(2021年)
■アナリストオピニオン
●一気呵成に進む巨象の動きを契機に個人領域、法人領域の双方でざわつき、2024年も期待大
●新型コロナウイルス対応はユーザー意識の改革とInsurTech 普及のチャンス
●InsurTech(インシュアテック)を後押しする法制度面の動きに注目――金融審議会による保険会社の業務範囲規制緩和の影響度合い
●「健康先進国」を実現する上でInsurTechの推進が急務――国内におけるInsurTechの現状と今後の方向性
●急成長続ける国内FinTechの市場概況と併せて周辺領域にも注目――InsurTechの台頭
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調査対象:国内の生命保険会社、少額短期保険事業者、SIer(システムインテグレーター)、InsurTech関連スタートアップ等
調査期間:2022年7月~9月
調査方法:当社専門研究員による直接面談(オンライン含む)、電話・e-mailによるヒアリング、ならびに文献調査併用
※生命保険領域におけるInsurTechとは:InsurTech(インシュアテック)とは保険(Insurance)と技術(Technology)を掛け合わせた造語である。従来の生命保険会社では提供できなかった新たな保険商品・サービスの開発や業務の効率化・高度化などにおいてIT技術を活用して提供する生命保険関連サービスを意味する。
本調査における、生命保険領域におけるInsurTechは「パーソナライズ化された(健康増進型)保険商品・サービスの開発」「疾病管理プログラム」「AIなどを活用した保険相談/保険営業支援サービス」「AIを活用したアンダーライティング(引受査定)の自動化」「受診勧奨から受診、異常告知を受けた場合における診療までのトラッキング」「契約者および契約者の家族向けアフターサービス」「支払査定の自動化関連ソリューション」「インフラ関連サービス(保険クラウドサービス/API/ブロックチェーン*)」の8領域を対象とする。
*ブロックチェーンとは利用者同士をつなぐ P2P(ピアツーピア)ネットワーク上のコンピュータを活用し、権利移転取引などを記録、認証するしくみ
※生命保険領域におけるInsurTech市場とは:本調査における国内InsurTech市場は、従来の生命保険会社が提供していなかった新しい保険商品・サービスの開発や業務の効率化・高度化をサポートするITベンダーやスタートアップに焦点を当て、当該参入事業者の売上高ベースで算出している。
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