矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2017.03.01

急成長続ける国内FinTechの市場概況と併せて周辺領域にも注目――InsurTechの台頭

国内のFinTech市場規模について、2021年度には808億円と急拡大を予想しているが、周辺領域でも盛り上がりをみせつつある。そこで今回、2017年2月に発表した国内FinTech市場の概況を見たうえで、特に急速に動き始めている、InsurTech(Insurance(保険)×Tech)の動向について取り上げる。

2015年は48.8億円、2021年度には808億円へと急拡大

市場規模について、当社では、2015年度の国内FinTech市場規模(FinTech系ベンチャー企業売上高ベース)は、48億8,000万円となった。特にソーシャルレンディングやクラウド型会計ソフトが市場をけん引した。また支援環境について、3メガバンクグループや大手SIerによるFinTechベンチャー企業向けイベントが多く開催され活況を呈したほか、ベンチャー企業と大手企業との協業事例などもあり、市場は盛り上がりを見せている。

また、FinTechベンチャー企業への投資は、数億円規模の調達に成功するFinTechベンチャー企業が登場するなど、投資資金が流れている傾向にある。加えて、FinTech産業拠点「FINOLAB」の設立など物理的環境の整備も進んでいる。加えて、管轄官庁側の法環境も急速に整備が進んでいる。銀行法の改正や仮想通貨法の成立、電子帳簿保存法の改正のほか、現在、銀行APIの公開などに向けた議論が進んでおり、更なる成長が期待される。

こうした官民一体となった支援体制を受け、国内FinTech市場規模(FinTech系ベンチャー企業売上高ベース)は2018年度に319億円、2021年度には808億円に達すると予測している。

【図表:FinTech系ベンチャー企業の国内市場規模推移予測】

【図表:FinTech系ベンチャー企業の国内市場規模推移予測】

矢野経済研究所推計
注:FinTech系ベンチャー企業売上高ベース
注:2016年度は見込値、2017年度以降は予測値

周辺領域の中でも特に「InsurTech」が台頭

(1)InsurTechの位置づけ

国内において、銀行を中心にFinTech が急成長を遂げている一方、生損保業界においても技術革新の波が押し寄せようとしている。具体的には、InsurTech(Insurance×Tech)とよばれるもので、既に海外では動きが始まっているが、国内でも2015年後半から徐々に動きが出てきている。 なお、当社では、広義のFinTech(生損保を含む広い意味での金融分野×IT)の中に、銀行や証券など狭義のFinTechと、生損保のInsurTechが含まれると位置づけている。

【図表:広義のFinTech】

【図表:広義のFinTech】

矢野経済研究所作成

(2)ビジネス面――1年で大きく状況が変化

2015年12月に第一生命が専任組織を設置したことを皮切りに、2016 年に大手各社が相次いで専門部署もしくは横断型組織を設置、取組みが始まった。弊社のFinTechレポートにおいて昨年のレポート作成時に実施した国内の生損保会社への電話等によるヒアリングや文献調査では、目立った動きが見られず、協業も限定的であった。
しかし、今回のレポートで調査した際には、まず生命保険領域では、IBMのWatsonの活用や個々人の健康状態のモニタリングなどを活用したパーソナルな保険商品の開発などが始まっている。また、損害保険領域では自動運転に向けた自動車保険やTransLogを活用したテレマティクスサービスの開発が進むなど、両領域ともにより具体的な取組みが始まってきており、1年で大きく状況が変わってきている。

 

(3)技術面――ブロックチェーン周りを中心に

①コンソーシアムの動向
技術面でもFinTechと同様の動きが始まっている。まずコンソーシアムの動きとして、FinTechではメガバンクを中心にR3CEV社を中心としたブロックチェーンに関するコンソーシアムに参加しているが、保険においても独アリアンツやスイス再保険、スイスのチューリッヒ保険などが中心となって、ブロックチェーンの活用に向けた研究コンソーシアム「ブロックチェーン保険イニシアチブ(B3i)」を2016年10月に設立している。国内では、2017年2月に東京海上ホールディングスと損害保険ジャパンがB3iへの参加を発表した。今回、国内2社が加盟し、全15社体制となる。
「R3」は、加盟企業同士でブロックチェーンを活用した実証実験を複数進めており、「B3i」もいずれ同様の動きが出てくることが期待される。
 
②独自の取組み
一方、独自のブロックチェーンに関する取組みとして、NTTデータを中心に貿易保険の領域で実証実験が進んでいるほか、2017年1月末には、東京海上日動火災保険が福岡地域戦略推進協議会と連携し、医療機関などにおけるブロックチェーン技術の活用に向けた実証事業を始めると発表するなど、注目すべき動きが出てきている。

 

InsurTechを後押しする法規制の整備状況に注目

生損保会社からは、「法規制が高く、ベンチャー企業の参入は難しい」との声もあるように、法環境の障壁は非常に高く、InsurTechに参入しているベンチャー企業は、FinTechと比較して非常に少ないのが実情である。しかし、今後の法環境の整備状況によっては既に先行しているアクサ生命など海外勢との差が一挙に縮まる可能性もあるだろう。

FinTechでは、銀行法の改正や仮想通貨法の成立、電子帳簿保存法の改正など、関連省庁の動きが非常に素早かったが、InsurTechは領域によっては利害関係者も多く、同様のスピードで進められるかどうか、注目したい。

個人的には、遺伝子解析サービスや健康関連アプリなど、周辺領域のベンチャー企業は充実してきており、こうしたInsurTechの周辺ベンチャー企業が将来的に生損保会社と協業し、InsurTechに参入していく可能性があるのではないかと期待している。

山口泰裕

関連リンク

■レポートサマリ
生命保険領域における国内InsurTech市場に関する調査を実施(2022年)
生命保険領域における国内InsurTech市場に関する調査を実施(2021年)
生命保険領域における国内InsurTech市場に関する調査を実施(2019年)
保険代理店のInsurTechに関する日本・中国での比較研究を実施(2021年)

■アナリストオピニオン
新型コロナウイルス対応はユーザー意識の改革とInsurTech 普及のチャンス
InsurTech(インシュアテック)を後押しする法制度面の動きに注目――金融審議会による保険会社の業務範囲規制緩和の影響度合い
「健康先進国」を実現する上でInsurTechの推進が急務――国内におけるInsurTechの現状と今後の方向性

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山口 泰裕(ヤマグチ ヤスヒロ) 主任研究員
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