日本生命による2023年11月のニチイホールディングスの買収を契機として、個人領域、法人領域の双方において動きが活発化し始めている。第一生命はベネフィット・ワンへのTOB、住友生命はPREVENTなど、2023年の師走になってさまざまなニュースが市場を賑わしている。本稿では、従来の競争環境の振り返りと併せて、個人領域や法人領域における今後の市場創出への期待について記しておきたい。
従来は、第一生命のCXデザイン戦略や、住友生命の「Vitality」、SOMPOひまわり生命の「Linkxシリーズ」を中心に競争が繰り広げられてきた。いずれも主に個人を対象としたライフスタイル全体をサポートする戦略であり、従来の保険商品の提供に留まらず、スタートアップを始めとしたさまざまな異業種と協業しながら、私たちのライフスタイル全体を支援すべく、総合的なヘルスケアサポートサービスを手掛けている。
他方、法人向けについて、第一生命は企業健診レポートサービスに加え、2023年4月には従業員向けにメンタルヘルス領域を手掛けるメンタルヘルステクノロジーズと協業するなど、これから取組み始める事業者が多い状況にある。
そうしたなか、いよいよ巨象、日本生命が本格的に動き出した。Nippon Life Xが中心となって取組んでいるとみられ、その動きはかなりスピーディだ。詳細は筆者がFinTech Jornalに寄稿した、拙著「なぜ日本生命は介護最大手を買収した? 非保険領域の「本格競争」が始まった」に譲るが、2023年11月のニチイホールディングスの買収に続き、同年12月にWelbyヘルスケアソリューションズと資本業務提携しサービス開発を開始と発表、生活習慣病領域について未病・予防から治療・予後に至るまでPHRを活用するなど、一気にその動きを加速、本気度が伺える。
しかもニチイホールディングスの買収は個人向け、Welbyヘルスケアソリューションズとの業務提携は産業保健や自治体、健保組合向けのサービス開発や販路開拓を挙げており、明らかに法人向けである。既に同社は法人を対象にニッセイ健康増進コンサルティングサービス(Wellness-Star☆)を手掛けており、今回の資本業務提携はその強化の一環である。一気に個人、法人の双方をカバーすべく仕掛ける戦略である。
拙著でも指摘したが、今回の日本生命の動きは非保険領域に対して総力を挙げて取り組む価値があるとのメッセージを内外に向けて明確に打ち出したといってよいだろう。
特に個人領域は、既に取組む第一生命や住友生命、SOMPOひまわり生命などに加えて、日本生命が加わったことで、一気に競争激化となる見込みである。正確には市場が一気に広がる(=市場創出)とみるのが正しいのかもしれない。まだまだ未開拓の領域は潜んでおり、今後、参入生命保険会社各社が2023年から2024年にかけて協業領域の幅が広がっていくとみる。
ただ、保険会社は業務範囲規制の範囲内で非保険領域を展開していく必要がある点において、2023年11月末に金融庁が「保険業該当性に関するQ&A」として改めて基本的な考え方や解釈について公表した背景には、こうした各社の取組みが加速してきたことを受けてのことであろう(もしくは金融庁に対して非保険領域の展開に際して問い合わせが多く寄せられた可能性)。
今回、日本生命がWelbyヘルスケアソリューションズとの業務提携を契機として法人向け事業の強化を開始したほか、第一生命がベネフィット・ワンを傘下に収めるべく、TOBを仕掛けているが、明らかに法人向けのプラットフォームを傘下に収めようとの狙いがある。ベネフィット・ワンの福利厚生プラットフォームと既に協業しているメンタルヘルステクノロジーズを含めた既存サービスとのシナジー効果も見込まれるなど、手中に収められれば非常に強力な取組みといえる。
その意味では、同じく福利厚生サービスを手掛ける大手のリログループの動向は注目すべきであろう。特に同社はグループのリロ・フィナンシャル・ソリューションズが2023年7月に金融サービス仲介業(証券領域)を取得している点も大きな強みといえる。また、大同生命を筆頭に法人向けを強みとする生命保険会社各社もさまざまな取組みを進めており注目している。
さぁ、2024年は個人領域に留まらず、法人領域についても異業種との協業を通じた市場の拡大に向けてさまざまな動きが出てきそうで、私たちを驚かせてくれそうな気がして楽しみでならない。
(山口泰裕)
■レポートサマリー
●生命保険領域における国内InsurTech市場に関する調査を実施(2022年)
●生命保険領域における国内InsurTech市場に関する調査を実施(2021年)
●生命保険領域における国内InsurTech市場に関する調査を実施(2019年)
●保険代理店のInsurTechに関する日本・中国での比較研究を実施(2021年)
■アナリストオピニオン
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●新型コロナウイルス対応はユーザー意識の改革とInsurTech 普及のチャンス
●InsurTech(インシュアテック)を後押しする法制度面の動きに注目――金融審議会による保険会社の業務範囲規制緩和の影響度合い
●「健康先進国」を実現する上でInsurTechの推進が急務――国内におけるInsurTechの現状と今後の方向性
●急成長続ける国内FinTechの市場概況と併せて周辺領域にも注目――InsurTechの台頭
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