矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2021.08.16

基幹システムのクラウド化の進展

アンケート調査結果にみる企業のSaaS利用意向の拡大

矢野経済研究所では、①財務・会計システム、②人事・給与システム、③販売管理システム、④生産管理システム・SCM、⑤CRM・SFA、の5つの分野について、システム導入状況と今後の導入予定についてのアンケート調査を行った。(2020年7月~12月)
調査結果で特筆すべき点は、システムの更新予定がある企業における「次回SaaS導入予定」という回答が大きく増えことである。2014~2018年の推移を見ると、比較的比率が高い分野の財務・会計、人事・給与でも10%前後で横ばいであったが、今回の調査では、人事・給与では26.0%となった。過去最高であるのはもちろんだが、9%→26.0%と伸びが大きい。システム更新予定がある企業のうち、実に4社に1社が「次回SaaSを導入予定」と回答したことになる。財務・会計でも18.2%で、2018年までの2倍程度に拡大した。
新型コロナウイルスの感染拡大の影響という観点では、テレワークの利用拡大、オンライン化の進展、非対面・非接触へのシフトなどのビジネス環境の大きな変化が起きている。また、経営環境の先行き不透明感が強まる中、業務の効率化やITのコストダウンの要請もある。様々な観点からクラウド活用が有効であるとしてニーズが高まっている。

【図表:SaaSの利用率と次回システム更新時のSaaS導入予定】

図表:SaaSの利用率と次回システム更新時のSaaS導入予定

注:調査期間、対象、方法は以下の通り。
2020年調査(2020年7~12月)国内の民間企業565社を対象とし、それぞれの業務システムを導入している、及び今後導入・更新予定のある企業(=n)のうち、SaaSを導入している(する予定の)回答比率(%)
郵送アンケート調査、単数回答。
2018年調査(2018年7~11月)国内の民間企業528社を対象、以下同じ。
2016年調査(2016年7~12月)国内の民間企業551社を対象、以下同じ。
2014年調査(2018年7~10月)国内の民間企業617社を対象、以下同じ。
出所:矢野経済研究所「ERP/業務ソフトウェアの導入実態2021」(2020年12月)

販売管理、生産管理含めたSaaS化が注目される

AWSやAzureなど、クラウド基盤の利用は既に一般的になりつつあるが、今後増加が見込まれるのは、アプリケーションをサービスとして提供するSaaSの利用である。昨今SAP、マイクロソフト、オラクルなど、外資系有力ERPベンダーがSaaS製品の提供を強化しており、「ERPを個別システム/パッケージではなくSaaSで利用する」というトレンドの変化が訪れつつある。2021年には、GRANDIT miraimil (開発元:GRANDIT)、ProActive C4(開発元:SCSK)など国産ベンダーによるSaaSの新サービスの提供開始も予定されている。

会計・人事は企業による業務の差が少ないため、マルチテナント型のSaaSとしても利用しやすい。バックオフィス系分野は着実にSaaSの利用が進むと考える。今後の動向として注目したいのは、販売管理、生産管理を含めたSaaS化である。これらの業務領域は企業による業務の違いが大きく、まだ自社開発システムの利用率も高い。クラウドの意欲の高まりは、まずはIaaS・PaaS利用に反映されるだろう。
しかし、既に一部のベンダーでは販売管理、生産管理のSaaS提供の動きが始まっている。エクスの生産管理システム(販売管理機能を持つ)「Factory-ONE 電脳工場」や富士通「GLOVIA きらら販売」はSaaSで提供されている。2021年10月から提供される「GRANDIT miraimil」は販売管理を含む統合型ERPとして利用できることが特徴となる。中小企業向けに、モジュール間でDBが連携されたERPのメリットを訴求することで、会計のみ、人事給与のみを対象とした専用業務パッケージのSaaSとの差別化を図る考えだ。その他にも、mcframe(開発元:ビジネスエンジニアリング)やFutureStage(開発元:日立グループ)などクラウド化に積極的な姿勢を持つベンダーもある。2021年以降、SaaSのサービスの種類は増加していき、企業にとっては選択肢が増えることになることが見込まれる。

SaaSの論点となる個別対応ニーズへの対応

マルチテナント型で提供されるSaaSは、基本的にはカスタマイズなどの個別対応はできない。販売管理や生産管理は、企業固有の要件が生じることが多いため、ユーザ側には「SaaSでは自社の業務に合わないのではないか」という懸念があるだろう。
もっとも、昨今はパッケージの性能向上が進み、幅広い業種で汎用的に利用できる製品として提供するトレンドとなっているため、標準機能の業務適用度は高まっている。また、なるべく標準システムのまま導入し、早期にシステムを立ち上げたいという企業は増えている。カスタマイズにはコストや手間がかかり、導入後はバージョンアップがしづらくなるなどのデメリットが認識されるようになったためである。この状況から、「個別対応なしのSaaS」を利用するハードルは下がっている。初期導入費用の軽減、維持運用の容易さ、モバイルワークなど自由な働き方における使いやすさなどのメリットとの兼ね合いで、SaaSが選ばれる機会は増えると推測する。
ベンダー側にも、SaaSでもユーザの自由度を上げようという動きがある。「プライベート型SaaS」というIaaS/PaaS利用とSaaSの中間のようなサービス形態もあるが、マルチテナント型のSaaSでもある程度の個別対応が可能な場合がある。個別対応といっても、帳票や画面などの軽微なものからビジネスロジックに手を入れるものまでレベルが様々であり、ある程度の個別対応は許容するアーキテクチャを持つSaaSもある。
また、多くのベンダーが外部サービスとのAPI連携に注力しており、足りない機能を独自に開発するのではなく外部システムと連携性することで補うことも可能である。競合に当たる製品とも連携しようとする動きも出ている。SMILE(開発元:OSK)は、2020年12月に「競争から共創へ」と銘打って、SaaSのSMILEとPCA会計DX クラウドとの連携を発表した。SMILEが機能を持たない周辺業務はもちろん、会計など共通する分野においても、ユーザが使いやすいサービスを組合せて利用できるように連携性を高める狙いである。
数年後には、「個別対応ができないからERPはSaaSでは使えない」という議論はなくなっている可能性もあるだろう。

小林明子

関連リンク

■レポートサマリー
ERP及びCRM・SFAにおけるSaaS利用状況の法人アンケート調査を実施(2020年)
ERP及びCRM・SFAにおけるSaaS利用状況の法人アンケート調査を実施(2018年)
ERP/業務ソフトウェアの導入実態アンケート調査を実施(2016年)
ERP/業務ソフトウェアの導入実態調査結果2014
ERP市場動向に関する調査を実施(2020年)

■アナリストオピニオン
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小林 明子(コバヤシ アキコ) 主席研究員
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