ERPのクラウド化が進んでいる。基幹システムはオンプレミス主体の領域であったため現時点ではまだ利用率は1割程度と推測するが、トレンドは明らかに変化している。ERPのリプレイスや海外拠点への導入などの際には、クラウドという選択肢は必ず検討のテーブルに乗ってくるだろう。
これはクラウド基盤の急速な機能向上と低価格化、成功事例の増加に伴う市場成長に呼応している。矢野経済研究所の調査では、2015年のクラウド基盤市場規模は対前年度139.3%となる1,262億円に達したと推計する。クラウドサービスの採用を第一に検討する方針「クラウドファースト」が一般的となっており、ERPも例外ではない。
【図表:クラウド基盤(IaaS)サービス売上高推移(2012年~2018年予測)】
出所:矢野経済研究所「2015クラウドコンピューティング(IaaS/PaaS)市場の実態と展望」2015年6月発刊
「ERPをクラウドで利用する」といった際には複数の利用形態が含まれる。SaaSは、アプリケーションの種類や利用できる機能がある程度制限されため、日本企業の細かい要求に対応できないこともある。CRMやSFAと比較してSaaSへの移行スピードは緩やかだ。
現在主流となっているのはIaaSやPaaSの利用、つまり国内ベンダーのクラウド基盤またはAWSやWindows Azureをインフラとし、ERPを運用する形態である。
但し、ERPはSFAなどと比べて標準化しにくく要件が複雑化する上に、クラウド上でセキュリティを担保し最適なコストとパフォーマンスで利用するためには、オンプレミスとは異なるノウハウも必要になる。ユーザ企業にとっては、クラウド運用の経験や支援体制が充実したベンダーのサービスを選択することがポイントとなるだろう。ベンダーが正式にサポートを表明しているサービス以外に利用企業による「自己責任型」のものもあるので注意したい。
ここでは、代表的なERPであるSAPを例にとり、主要ベンダーのIaaSをSAPプラットフォームとするサービスを紹介し各社の特徴を概観する(掲載は50音順)。尚、掲載したのはサービスの一部であり、多くの場合はベンダー固有のクラウド基盤、AWSやAzureなど外部大手事業者のクラウド基盤など複数の選択肢があり、顧客の要件によって選ばれていることは留意して頂きたい。
NTTコミュニケーションズは通信キャリアとして、ネットワークでの総合力に強みを持つ。海外でのサービス展開も進んでおり地域の網羅性も高く、自社がグローバルで展開するクラウドサービスと国内の一体型で信頼性の高い安定したネットワークを提供する。クラウド間通信が10Gbpsベストエフォート無料など、コスト的にも優位であると訴求している。
日本電気(NECは、)自社で大規模なSAPシステムをクラウドにて運用しており、そのノウハウを元に顧客に対してフルレイヤのサービスを提供していることが特徴的だ。自社システムのHANA化にもいち早く着手しており、その経験からS/4 HANAへの移行サービスも提供するとしている。
日立システムズはクラウド基盤として最大のシェアを持つAWSでのSAP運用をサービスメニュー化している。他社が特色を打ち出しているネットワークやセキュリティに関してはAWSのサービスに準じるが、AWSはSAPを初めとするERPの運用で国内でももっとも実績があるIaaSであり、価格、機能共に競争力が高い。
富士通は2015年5月に発表した「FUJITSU Cloud Service K5」を基盤とする。K5は、新ビジネス領域のSoE(System of Engagement)はもちろん既存の基幹システム等のSoR(System of Record)への対応を品質・スピード・コスト耐性の面で強化している。オープンソースのOpenStackをベースにしつつ堅牢性強化などために作りこむなど「SEの知見やノウハウをサービスに埋め込んでいる」といい、そのクラウド基盤上でSAPを初めとするERPの構築・運用を支援している。
各社のサービス概要は以下の通りである。
※掲載順は商号50音順
※記載内容は各社へのアンケートによる回答
■レポートサマリ
●ERP市場動向に関する調査を実施(2024年)
●ERP及びCRM・SFAにおけるクラウド基盤利用状況の法人アンケート調査を実施(2022年)
●ERP及びCRM・SFAにおけるSaaS利用状況の法人アンケート調査を実施(2020年)
■アナリストオピニオン
●ERP市場と「2025年」を巡る問題
●「次世代ERP」のリリースラッシュが起きているのはなぜか
●戦略的な経営を実現するクラウドERP NetSuiteが支える企業変革
●ERPパッケージの顧客ロイヤルティ調査で人事・給与分野において最高評価を得たZeeM
●ERPパッケージ顧客満足度調査結果 総合満足度でトップとなったのはSuperStream
●製造業の国際競争力強化をITから支援するERP
●成熟したERP市場で求められる経営支援力
●厳しい環境下で高まるユーザ企業のERPへの期待
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