矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2016.05.25

ERPをクラウド化する3つの理由

ERPにも訪れる「クラウドファースト」の波

ERPのクラウド化が進んでいる。基幹システムはオンプレミス主体の領域であったため現時点ではまだ利用率は1割程度と推測するが、トレンドは明らかに変化している。ERPのリプレイスや海外拠点への導入などの際には、クラウドという選択肢は必ず検討のテーブルに乗ってくるだろう。

これはクラウド基盤の急速な機能向上と低価格化、成功事例の増加に伴う市場成長に呼応している。矢野経済研究所の調査では、2015年のクラウド基盤市場規模は対前年度139.3%となる1,262億円に達したと推計する。クラウドサービスの採用を第一に検討する方針「クラウドファースト」が一般的となっており、ERPも例外ではない。

【図表:クラウド基盤(IaaS)サービス売上高推移(2012年~2018年予測)】

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出所:矢野経済研究所「2015クラウドコンピューティング(IaaS/PaaS)市場の実態と展望」2015年6月発刊

「ERPをクラウドで利用する」といった際には複数の利用形態が含まれる。SaaSは、アプリケーションの種類や利用できる機能がある程度制限されため、日本企業の細かい要求に対応できないこともある。CRMやSFAと比較してSaaSへの移行スピードは緩やかだ。

現在主流となっているのはIaaSやPaaSの利用、つまり国内ベンダーのクラウド基盤またはAWSやWindows Azureをインフラとし、ERPを運用する形態である。

 ERPにクラウド基盤を利用する3つの理由

①資産を持たない優位性を得られる
クラウドを利用する最大の目的は、資産を持たないことの優位性を得ることにあると考える。ハードウェアの管理やバージョンアップ等からの解放、拡張性の向上といったメリットが得られる。クラウドとオンプレミスのコストを比較する場合、運用コストなどを含む総合的なTCO削減効果に注目すべきだろう。

②グループ導入や海外拠点導入の基盤としやすい
クラウドERPはグループ企業や海外拠点への展開にも適している。IT要員が潤沢にいなくてもシステムの導入や運用が可能であり、利用企業・利用拠点の増減にも迅速に対応できる。本社のコントロールが容易なため、企業グループでのコンプライアンス遵守にも貢献する。

③セキュリティが確保できる
クラウドの黎明期には、「セキュリティが最重要のERPを社外に置くのは不安ではないのか」という議論もあったが、現在では外部クラウドサービスの堅牢なデータセンターとセキュリティ専門家による管理サービスを利用する方が安全であると評価されている。災害や事業継続性の観点からも利用価値は大きい。

但し、ERPはSFAなどと比べて標準化しにくく要件が複雑化する上に、クラウド上でセキュリティを担保し最適なコストとパフォーマンスで利用するためには、オンプレミスとは異なるノウハウも必要になる。ユーザ企業にとっては、クラウド運用の経験や支援体制が充実したベンダーのサービスを選択することがポイントとなるだろう。ベンダーが正式にサポートを表明しているサービス以外に利用企業による「自己責任型」のものもあるので注意したい。

IaaSをSAPプラットフォームとしたサービスでみる各社の特徴

ここでは、代表的なERPであるSAPを例にとり、主要ベンダーのIaaSをSAPプラットフォームとするサービスを紹介し各社の特徴を概観する(掲載は50音順)。尚、掲載したのはサービスの一部であり、多くの場合はベンダー固有のクラウド基盤、AWSやAzureなど外部大手事業者のクラウド基盤など複数の選択肢があり、顧客の要件によって選ばれていることは留意して頂きたい。

NTTコミュニケーションズは通信キャリアとして、ネットワークでの総合力に強みを持つ。海外でのサービス展開も進んでおり地域の網羅性も高く、自社がグローバルで展開するクラウドサービスと国内の一体型で信頼性の高い安定したネットワークを提供する。クラウド間通信が10Gbpsベストエフォート無料など、コスト的にも優位であると訴求している。

日本電気(NECは、)自社で大規模なSAPシステムをクラウドにて運用しており、そのノウハウを元に顧客に対してフルレイヤのサービスを提供していることが特徴的だ。自社システムのHANA化にもいち早く着手しており、その経験からS/4 HANAへの移行サービスも提供するとしている。

日立システムズはクラウド基盤として最大のシェアを持つAWSでのSAP運用をサービスメニュー化している。他社が特色を打ち出しているネットワークやセキュリティに関してはAWSのサービスに準じるが、AWSはSAPを初めとするERPの運用で国内でももっとも実績があるIaaSであり、価格、機能共に競争力が高い。

富士通は2015年5月に発表した「FUJITSU Cloud Service K5」を基盤とする。K5は、新ビジネス領域のSoE(System of Engagement)はもちろん既存の基幹システム等のSoR(System of Record)への対応を品質・スピード・コスト耐性の面で強化している。オープンソースのOpenStackをベースにしつつ堅牢性強化などために作りこむなど「SEの知見やノウハウをサービスに埋め込んでいる」といい、そのクラウド基盤上でSAPを初めとするERPの構築・運用を支援している。

各社のサービス概要は以下の通りである。
※掲載順は商号50音順
※記載内容は各社へのアンケートによる回答

関連リンク

■レポートサマリ
クラウド基盤サービス(IaaS/PaaS)市場に関する調査結果 2015
ERP市場動向に関する調査結果 2015

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小林 明子(コバヤシ アキコ) 主任研究員
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