矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2021.03.22

「使えないシステム」をなくしDXを支える新たなソリューション、ナビゲーションツールの可能性

「ナビゲーションツール」は、日本ではまだ耳新しいソリューションのカテゴリだろう。海外では類似のカテゴリとして「デジタルアダプションソリューション」が成長分野として注目されている。WalkMe、Pendo、Userlaneなど多くの製品・企業が登場しており、WalkMeは2019年に日本市場に参入している。

ナビゲーションツールは、システムの利用者の操作をリアルタイムにガイドしたり、ルールに則った入力制御や自動クリック・入力を行ったりするソリューションである。カーナビを想像するとわかりやすい。自動車を運転する際、以前は紙の地図を開いて予め道順を調べたが、今ではカーナビがどの道を選べばよいか教えてくれる。システムにおいても、紙のマニュアルとシステムを照らし合わせなくても、画面上でガイドを見られるツールが提供されているというわけだ。
企業がシステムを利用する際、「使いにくい」「使いこなせない」という課題はつきもので、その解決には多くの手間や負担がかかっている。情報システム部門がマニュアルを作成し、現場部門は操作習熟のためにマニュアルを参照する。新規システムの導入時には講習会を開く。入力忘れやミスがあれば確認や差し戻しを行う。システムへの入力が負担になり利用率が上がらない。これらは、システム利活用の裏で見えづらいコストになっている。ナビゲーションツールの利用価値を推し量ると効果を発揮できると推測する。

ナビゲーションツールの導入効果は以下のような点が挙げられる。

  • 入力や操作の迷いをなくし、業務生産性を向上
  • 入力チェック機能により入力不備や差し戻しを最小化しつつ、データ品質を改善
  • 新規システム導入時の操作習得~定着(オンボーディング)の早期化や効率化
  • マニュアルの作成や操作研修の負担を軽減
  • システム活用レベルの向上、ポテンシャルを最大限発揮させる効果的な活用の推進

このような要素は、DXに伴うデジタル技術の利用をスムーズに進める上で必要となる。ナビゲーションツールは、DXにおいては言わば「黒子」として、その実現を裏で支える存在となりうる。
さらに、コロナ禍においてはリモートワークの環境で、ニューノーマルに対応するためにデジタル化を推進する機会が増えている。現在の社会経済環境において、ナビゲーションツールの用途は多様化し、有効性は高まると考える。

2020年頃から大手企業を中心に導入が進んでいるものの、課題は依然として認知度の向上である。海外では浸透しつつあるが、国内ではまだこのようなツールがあることが知られていないのが実情である。市場は黎明期であり、プレイヤー各社がともに市場創造に取組むフェーズといえるだろう。
まだ製品や参入企業の数は少なく、本稿では、上述のWalkMeとマニュアル作成ツールで実績のあるテンダ、スタートアップ企業のテックタッチ、NTTグループの技術を活用した製品を提供するNTTテクノクロスの4社を紹介する。

WalkMe株式会社

■「デジタルアダプションプラットフォーム」のパイオニア
WalkMeはイスラエルで設立され、現在はサンフランシスコに本社を置くグローバル企業で、2019年に日本法人を立ち上げた。自社製品を「デジタルアダプションプラットフォーム」と位置づけており、その点で既存のマニュアル作成ツールやユーザガイドのためのツールとの差別化を図っている。
ユーザガイド機能としては、リアルタイムに操作手順を表示する機能や、チャットボットのように一問一答で回答を進めると内容が適切な項目に投入される機能がある。それだけではなく、システム未習熟を原因とした生産性の低下を防ぎ、業務プロセスを可視化する分析機能を提供することで、継続的な業務改善も支援する。また、誤入力や入力漏れなどをなくし、質の高いデータが収集できるようになれば、システムの利用価値を高め、経営における効果的なデータ活用が可能となる。

【図:WalkMeの画面例】

■SalesforceやSAPなど外資系パッケージでの利用でグローバルに実績を持つ
WalkMeの対象システムは問わないが、実績としてはSalesforce、SAP Concur、SAP SuccessFactorsなど外資系パッケージの利用に伴って利用されることが多い。グローバル企業としてそれらの外資系パッケージでの利用に実績を持つことが、日本の顧客にも評価されている。
また、WalkMeはそれらの外資系パッケージの開発元(SalesforceやSAPなど)や提供ベンダー・コンサルティング企業(アクセンチュア、PwC、アビーム、アスタリスト、JBSなど)とのパートナーとの協業で、積極的に日本市場の開拓を図っている。

■DXを実現するための価値訴求
WalkMeは、「システム導入当初の情報システム部門の負担軽減やユーザの習熟度の向上などオンボーディングに役立つ面に関心を持つユーザ企業は多いが、ある程度システムの利用が定着した後でも、継続的な業務プロセスの見直しや改善にも活用できる」という。このように、「デジタルアダプションプラットフォーム」は、情報システム部門、経営者、現場部門のいずれの部門に対しても幅広く価値を提供する。
同社は、提案時に導入効果を試算するなどして効果を提示し、企業がDXを実現するためのプラットフォームとしての役割を訴求していく考えである。

株式会社テンダ

■マニュアル作成ツールの豊富な経験をもとにDojo Seroを開発
テンダは12年以上マニュアル自動作成ツールDojo(ドージョー)事業を行っており、その導入数は2,700社以上、東証一部企業の約2割に導入されている。
同社は、マニュアル作成支援事業を推進する中でニーズの変化に気づいたという。昨今は、複雑な操作の教育をしっかり行った上で使えるようになる業務システムではなく、操作しやすく立ち上げが早いアプリケーションが求められるようになっている。そのため、ソフトウェアを操作しながら直接画面上でナビゲーションを行う「Dojo Sero(ドージョーセロ)」を開発し、2019年にリリースを行った。
Dojo Seroはシステムとマニュアルが一体化し、操作不明箇所のガイドを行う。主な機能として、クリック箇所を赤枠で示し、操作内容を吹き出しで表示できる。その他に注意点を備忘録として残せるふせん貼付け、項目確認のツールチップ、操作検索など、ナビゲーションアイコンから設定できる。

【図:テンダの画面例】

■マニュアルとナビゲーションを併用し、システムの導入・定着を支援
ユーザ企業は、DojoとDojo Seroを併用するケースが多いという。新システム導入時はDojoを使ってマニュアルを作り、導入後の定着のためにDojo Seroを使うという位置づけである。情報システム部門は、Dojoで導入時のマニュアル作成の手間を削減することができ、導入後は社内ヘルプデスクへの問い合わせ対応の工数を削減できる。
「将来的には、マニュアルなしでナビゲーションツールを使うというニーズに変わる可能性はあると考えている」とコメントするが、現時点では有力なマニュアルツールとの併売が同社の強みになっているとみられる。

■展示会などでの反応に手応え
展示会などでDojoやDojo Seroのプロモーションを行っており、反応は良いが、「こういう便利な製品があるとは知らなかった。」という声を聞くという。中堅~大手企業の情報システム担当者は、マニュアル作成のための製品があるという認識がなく、タイトなスケジュールの中、WordやExcelなどで苦労してマニュアルを作っていることが多い。まずは認知度を高めることが必要と認識している。

テックタッチ株式会社

■ナビゲーションツールで創業したスタートアップ企業
テックタッチの代表の井無田氏が、新卒入社した金融機関にて業務遂行のために様々なシステム操作と格闘した経験をもとに、共同創業者の日比野氏と独自の製品を開発。2019年2月に製品提供開始。
テックタッチのナビゲーションの種類には、操作手順を最初から最後までリアルタイムで教えるガイドと、間違いやすい部分に絞り入力補助を行うツールチップがある。システム導入当初はガイドで定着を図り、操作に慣れた後は、実行頻度が低い操作・入力のみツールチップで注意を促すといった使い分けができる。

■日本市場のニーズに合わせた製品開発
テックタッチの最大の特徴は「使いやすさ」と「対象システムの範囲」であるという。日本企業は米国企業と異なり、社内にITエンジニアを置く企業は少ない。ITエンジニアの素養がなくとも、ガイドの設計・導入ができる製品の使いやすさとサポート体制に重点を置いた。テックタッチを導入した企業およそ40社のうちほとんどが自社でナビゲーションを構築しており、ITエンジニアではないシステム管理者や現場部門が担当しているため、簡単で短期間にコンテンツ構築できる操作性が強みとなっている。
また、対応するシステムは、SaaS/パッケージ製品から自社開発システムまで多様である。日本企業に数多存在するIE10以下で稼働するレガシーシステムであっても対応できる。

こうした日本のシステム産業への理解を活かし、コンサルティングなども含めて顧客企業に丁寧に対応することを重視したい考えだ。

【図:テックタッチの画面例】

■大手企業での導入事例を相次いで発表
もっとも利用頻度が多いのは、新規システム導入時の従業員オンボーディング(ユーザ教育コストの圧縮、社内問合せ工数の削減、マニュアルの作成やメンテナンスの負担軽減など)、レガシーシステムの開発代替(問合せ工数、差戻し工数削減や入力データ精度向上を開発費用削減しながら実現可能)である。さらに、同社は「気軽に周囲に質問しづらいリモート時代となって大きくニーズが高まり、生産性や社員満足度への貢献が実感され始めている。」とも指摘する。

このようなニーズを捉え、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社の全社員15,000名への全店展開(2019年11月11日付あいおいニッセイ同和損害保険株式会社プレスリリースより)、三菱UFJ銀行の全行員33,000名向けの導入(2021年2月8日付テックタッチ株式会社プレスリリースより)など、大企業への全社導入が発表されている。

NTTテクノクロス株式会社

■NTT研究所のUI拡張技術を活かして開発されたBizFront
NTTテクノクロスは2019年にUI改善ツールとしてBizFrontの提供を開始した。NTT研究所が特許を取得する「UI拡張技術」を適用している。これは、既存のWebシステムを追加開発することなく、操作の簡易化や自動化などの機能を持つUIを画面に追加することができる技術である。
元は、NTT社内の電話回線に関連して、入力項目が1000項目以上などもあり複雑でマニュアルも分厚いシステムに対して、オペレータの入力を支援するソリューションとして開発された経緯がある。
製品ラインナップには、Webシステムに対応し、システム入力フォームなどに機能を追加しUIを改善/拡張できるBizFront/SmartUIと、全てのWindowsアプリに対応し、画面上に注釈やヘルプ、ガイド、リンクなどを表示できるBizFront/アノテーションの2種類がある。

■高機能と自由度の高さが強み
雛形となる文章の自動挿入、入力漏れや入力忘れなどのチェック、プルダウン制御など様々な対応が可能であり、同社は「ユーザ企業の要望に柔軟に対応することができる機能の高さが強みとなる」という。例えば、稟議書の入力において、購買のための稟議か、契約のための稟議かによって、入力支援の内容を変えるといった自由度の高い制御も実現可能である。
そのため、ナビゲーションはBizFrontの用途の一つであり、入力省力化や入力ミス削減・入力統制など、より幅広い目的で利用可能な点が特徴となる。高度な要求に対しては、NTTテクノクロスやパートナー企業が拡張UI部分の構築サービスを提供する。
導入企業は、現在利用しているシステムについて、マニュアルの作成に手間がかかる、マニュアルを作成しても読まれないなどの課題を解決する目的でBizFrontを利用することが多い。

■他製品との連携も検討、いっそうの業務効率化支援を図る
取りまわしの良いクライアントプログラムであること・API呼出が可能であること・外部実行ファイルの呼出が可能であることから、他製品との連携も積極検討しているという。例えばRPAと組み合わせ、人が判断して入力する部分はBizFrontを使うことで、業務手順全体のDXを進めることができ、いっそうの業務効率化や生産性向上が実現できる。
入力支援のニーズが高いコールセンターもターゲットの一つであるが、今後はより幅広い業務に対してもBizFrontを提案していきたい考えだ。

【図:BizFront/SmartUIの画面例】

関連リンク

■レポートサマリー
ERP及びCRM・SFAにおけるSaaS利用状況の法人アンケート調査を実施(2020年)
DX(デジタルトランスフォーメーション)に関する動向調査を実施(2020年)

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