矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2013.12.18

製造業の国際競争力強化をITから支援するERP

タイでのMCFrame、A.S.I.A.の導入事例から見る国産パッケージの海外導入

ERP市場を業種別にみると、製造業の伸びは大きい。2012年のパッケージソフトウェア市場は、加工組立製造業で前年比15.9%増、プロセス製造業で同16.6%増となった。リーマンショックや円高などの難局に立った製造業では、コストダウンや経営基盤強化を進める必要に迫られ、情報システムを活用する意識は高まっている。そればかりではなく、特定顧客向けの取引やケイレツに守られてきた受注が失われた部品メーカーや素材メーカーは、新しい生産形態への対応等によって新市場・顧客開拓を進めるべく、攻めのIT投資を行っている。

【図表】業種別ERPパッケージソフトウェア市場の推移
【図表】業種別ERPパッケージソフトウェア市場の推移

矢野経済研究所推計
注:エンドユーザ渡し価格ベース

今の製造業向けERP市場のトレンドとしては、①海外導入への対応、②原価の管理精度向上、の2点が挙げられる。

①海外導入への対応
海外進出の目的は、安価な労働力の海外調達に留まらず、現地市場の獲得も重要となっており、海外拠点での戦略的なシステム導入意欲は高い。製品選定の段階で、グローバル導入に対応していない国産ERP市場では検討対象にならない案件も増えている。グローバル対応とは、言語対応や通貨対応をしているかどうかのみではなく、導入支援や導入後のサポート体制も重要なポイントとなる。
 
②原価の管理精度向上
原価が“どんぶり勘定”となっている企業は相当数ある。また、原価情報は財務諸表のP/Lに反映させるためのデータに留まり、経営や製造現場では活用していないという話もよく聞く。為替や原料価格の変動、グローバル化、価格競争などの環境変化に備えるためには、コストと収益の情報を正しく把握し、経営や現場の意思決定に活かすことが求められている。
 

これらのトレンドに合致した戦略を進めるERP市場パッケージベンダーの取り組みを紹介する。製造業を主要顧客に持つ東洋ビジネスエンジニアリング(以下B-EN-G)は、「MCFrame(エムシーフレーム)」と「A.S.I.A.(エイジア)」の2製品を提供する。MCFrameは導入社数が380社以上にのぼる生産管理パッケージで、英語版と中国語版がある。原価管理システムの実績も高い。会計・販売モジュールを持つA.S.I.A.は、国産ERP市場としては珍しく海外拠点での利用を目的に開発されたパッケージで、日/英/中/韓/タイの言語及び通貨に対応している。更に、B-EN-Gは、タイ、シンガポール、中国に自社拠点を持ち、SEやサポート要員を置いているほか、ベトナム、インドネシア、シンガポールではパートナー企業によって販売や導入支援を行っている。

筆者は2013年10月にタイのバンコクを訪問し、B-EN-Gタイを取材した。平川社長によると、昔はExcelからのスモールスタートで様子を見るという企業もあったが、最近は工場の立ち上げやM&AのタイミングでERP市場を導入するのが一般的になっているという。現在MCFrameはASEANで20社強のユーザーがあり、ユーザー会も組織されている。A.S.I.A.のユーザー企業数はグローバルで300社、その半数がASEANである。
ERP市場の海外導入の際には、外資系パッケージという選択肢も一般的ではあるが、MCFrameやA.S.I.A.を選ぶ主なメリットの一つは国産パッケージだという点である。企業はITガバナンスを強化しており、グローバルのIT活用を最適化するため、日本本社の承認や指示を必須とするケースが増えている。日系企業の現地拠点と本社の双方にコンタクトして連携を図りつつ、ERP市場導入を支援できるのは、国産パッケージ・日系ITベンダーの強みである。ERP市場は導入後の支援も重要であるため、B-EN-Gタイではサポートにも注力しており、専門のチームを置きいっそう体制を充実させる考えである。
また、タイ現地社会に密着し知名度を得ていきたいとして、2013年10月には現地メディア向けに事業戦略等についての記者発表会を行い、地元紙に記事も掲載された。製造業が集積しているタイで、日本の高度な製造ノウハウが詰まったMCFrameとタイの商習慣と税法に対応したA.S.I.A.を浸透させていきたいと意気込む。

タイのユーザー事例も併せて紹介する。帝国通信工業株式会社は、2012年度の連結売上高が131億円のエレクトロニクス部品メーカーで、海外ではタイ、インドネシア、中国、ベトナム、台湾に拠点を持つ。この度2013年に、タイ工場にMCFrameとA.S.I.A.を導入した。量産品の製造はベトナムにシフトし、タイ工場はITを活用した省力化、効率化が求められるなか、経営改革のためタイの現地法人2社を統合したことが新システム導入の直接のきっかけとなった。MCFrame選定の決め手となったのは、①機能が充実し自社の業務に合わせやすかったこと、②カスタマイズが容易で自社で導入することも可能だったこと、③タイ現地でのサポート体制が確立していたこと、の3点だった。A.S.I.A.は、MCFrame との親和性の高さから選定されたという。

日系製造業が集積しているタイを訪問すると、首都バンコクでは日本車が走り、高層ビルの間をビジネスマンが闊歩し、カフェではビジネスウーマンがノートパソコンを開いているという、東京と変わらない光景がみられる。ASEANでは、「China+1」の動きと域内市場拡大への期待から、製造業の進出の勢いが止まらない。製造業の業態は、タイやマレーシアでは高付加価値化し、ラオスやミャンマーで低コストの労働力を得るといったように変化を遂げていくだろう。日系企業の現地での事業活動は急速に拡大し、また多様化すると考えられる。

日系製造業が経営環境の変化に迅速に対応し、国際競争力を高める上では、ITの活用は不可欠であり、ERP市場はその経営基盤としての役目を果たす。筆者としては、日本発のERP市場パッケージが、ユーザー企業とのパートナーシップのもとでグローバルに活用されていくことに期待している。MCFrameとA.S.I.A.の事例は、日系ベンダー・国産製品の強みを活かしつつ、現地への浸透を図る、国産パッケージならではのグローバル化のチャレンジといえるだろう。

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