矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2026.10.28

「値引き」から「つながり」へ~顧客接点を軸に変化するポイントサービス~

買い物や決済でポイントを貯め、次の支払いに使う」という行動習慣は、私たちの日常生活に定着している。本稿をお読みの皆さまの中にも、日々の生活の中でこまめにポイントを貯め、使っているという方は多いのではないだろうか。

消費者の日常生活への定着に伴い、ポイントサービス市場も堅調な成長を続けている。矢野経済研究所が実施した調査「2025年版 ポイントサービス・ポイントカード市場の動向と展望」では、2025年度の国内ポイントサービス市場規模は2兆9,460億円(ポイント発行額ベース)と推計した。
キャッシュレス決済の浸透や物価上昇を背景とする「ポイ活」の広がりが市場の成長を支えると同時に、企業がポイントに託す役割も「値引きに相当する金銭的インセンティブ」にとどまらず、「顧客との継続的な関係を育むエンゲージメント向上のツール」へと広がってきている。

ポイントを起点に、顧客の「行動」を促す

従来、ポイントサービスは「いくら買えば、いくら還元されるか」という経済的メリットを軸に、小売・流通事業者の集客・販促施策として普及してきた。もちろん、次回来店や再購入を促す機能は現在も重要であるものの、還元率だけで選ばれる仕組みは、より有利な条件を提示する競合への乗り換えを招きやすい。企業には、お得感を入り口として、顧客に自社の商品やサービスを知ってもらい、使い続けてもらう関係を築くことが求められる。

こうした中で注目されるのが、購入や決済に限らず、来店、アプリへのログイン、レビュー投稿など、顧客の行動に対してポイントを付与する設計である。購買の前後にもインセンティブを設けることで、購入前の顧客には商品を知るきっかけを、購入後の顧客には体験を共有し、継続的に関わるきっかけを提供できる。来店は商品との出会いを、ログインは情報への接触を、レビュー投稿は体験の共有を促す。
重要なのは、ポイントの獲得だけで行動を終わらせず、役立つ情報や魅力的な体験につなげ、次の購買や継続利用を促す発想である。

食品・飲料メーカーが求める直接的な顧客接点

ポイントサービスの役割の拡張は、導入業種の広がりとも結び付く。近年は、従来の中心であった小売・流通事業者だけでなく、食品・飲料メーカーや金融機関といった業種においても独自のポイントサービス(ハウスポイント)を導入する動きが広がっている。

食品・飲料メーカーにおいては、エンドユーザーとの直接的な接点の強化を狙いとしてポイントサービスが活用されている。スーパーやコンビニなどの小売店を介して販売する場合、メーカーは「誰が自社商品を購入し、どのように使っているのか」を継続的に把握することが難しく、広告や店頭販促で購入を促せても、その後の顧客との関係が途切れやすいという課題がある。

そこで、自社会員サイトやアプリを通じて独自のポイントを付与し、サイト・アプリを継続的に利用する理由を作るという取組みが増えている。購入レシートや商品パッケージのコードを用いて購買と会員情報を結び付ける方法に加え、レビュー投稿やアンケートへの回答、コミュニティへの参加などを通じて、商品への評価や利用場面を直接知ることもできる。

直近の具体例としては、日清食品が挙げられる。同社は2026年9月に「カップヌードル ポイントプログラム」を開始し、注目を集めた。同プログラムは、カップヌードルブランドの商品に印刷された二次元コードから特設ページにアクセスしてポイントを貯め、貯めたポイントに応じて限定グッズをはじめとした特典へ応募できる仕組みである。累計獲得ポイントに応じて会員ランクが上がり、応募できる特典の種類が広がるなど、継続的な参加を促す設計となっている。
また、購入後の暮らしに接点を広げる事例もある。健康食品・化粧品などを扱うサントリーウエルネスの会員向けアプリ「Comado」は、対象の継続購入者が健康習慣や歩数に関するチャレンジを達成するとポイントを獲得でき、自社商品の購入に利用できる仕組みを提供している。健康行動を支援しながら日常的な接点を持つ設計であり、商品を販売する瞬間から、その後の生活へと関係を広げるポイント活用といえる。

このように、食品・飲料メーカーのポイント施策は、商品購入への還元やブランド体験など、さまざまな形を取る。共通するのは、一度きりのキャンペーン参加者を集めるだけでなく、自社と継続的につながる顧客を育てようとする方向性である。

地銀では「ステージ制」に「ポイント蓄積型」を組み合わせる動き

金融分野、特に地方銀行(地銀)でも、顧客戦略の見直しが進む。「金利のある世界」への回帰に伴う預金獲得競争の激化や、少子高齢化・人口減少による市場縮小といった課題を抱える中で、既存顧客の維持および若年層を中心とした新規顧客の獲得に向けて、ポイントが活用されるケースが増えている。

従来、地銀においては「ステージ制」と呼ばれるロイヤリティプログラムが主流であった。ステージ制プログラムは、給与受取や預金残高などの各種取引を点数化し、その合計点によって判定されたステージに応じてATM手数料やローン金利を優遇する仕組みである。ただし、資産残高や取引項目数を重視する制度では、資産形成の途上にある若年層など、取引の少ない顧客は上位ステージに到達しにくく、便益を実感しづらい場合がある。また、ATMの利用頻度が低い顧客には、手数料優遇を中心とした特典だけでは魅力が伝わりにくい。

このような課題をふまえ、近年は地銀において「ステージ制」のプログラムに「ポイント蓄積型」と呼ばれる仕組みを組み合わせる動きが広がっている。「ポイント蓄積型」では、各種銀行取引に応じてポイントが貯まり、貯めたポイントを商品やデジタルギフト、共通ポイントなどへ交換できる。利用者は、日々の取引を積み重ねるメリットを獲得ポイント数として確認し、自分に合った使途を選べる。ATMの利用頻度が少ない顧客にも便益を伝えやすく、銀行にとっては、口座開設後の継続利用や取引の広がりを促す手段となる。

このトレンドの具体例として「ひろぎんポイントサービス」を開始した広島銀行(2024年4月、旧「トータルポイントサービス」から刷新)、「ひぎんポイントサービス」を開始した肥後銀行(2026年2月、旧「わくわくクラブ」から刷新)などが挙げられる。これらのサービスでは、貯めたポイントを各種共通ポイントだけでなく、地域で利用できるポイントなどとも交換可能であり、銀行取引で得た特典を地域での消費につなげる仕組みとして地域経済への波及も期待される。

ポイントの先にある顧客体験が競争力を決める

上記のとおりポイントが担う役割や活用される領域が拡大している中でも、ポイントの金銭的価値はこれからも商品購入やサービス利用の入り口であり続ける。そのうえで企業に問われるのは「何ポイントを付与するか」だけでなく、「どの行動を後押しし、どのような関係を育てたいか」である。
参加のしやすさと、継続的に関わりたくなる魅力を両立できれば、ポイントは集客と関係深化の双方を支えることができる。「値引き」から「つながり」へ、「購買への還元」から「多様な行動の後押し」へ。こうした役割の拡張が、ポイントサービス市場の次の成長を形づくっていくだろう。

なお、矢野経済研究所では2026年11月に「2026年版 ポイントサービス・ポイントカード市場の動向と展望」の発刊を予定している。本稿で取り上げたポイントサービスの最新動向について、引き続き注視していきたい。

(都築励 )

関連リンク

■レポートサマリー
●ポイントサービス市場に関する調査を実施(2025年)
●ポイントサービス市場に関する調査を実施(2024年)
●ポイントサービス市場に関する調査を実施(2023年)
●共通ポイント・ハウスポイントに関する法人アンケート調査を実施(2021年)

■アナリストオピニオン
●価値向上を図る共通ポイント 他事業者との提携により活用範囲を拡大
●マルチポイント化が進む中、店舗から求められる共通ポイントとは?
●ポイントカード発行の真の目的はFSP実現にあり

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都築 励(ツヅキ レイ) 研究員
ICT・金融分野は技術革新と規制の変化が絶えず、常に新しい可能性と課題が生まれる領域と感じています。調査を通じて最新かつ信頼性の高い情報を提供し、皆さまのビジネスにおける意思決定や課題解決をご支援できるよう、精進して参ります。

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