矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2009.02.10

ポイントカード発行の真の目的はFSP実現にあり

顧客情報収集の手段としての「ポイントカード」の優位性とは?

小売業/サービス業などリアル店舗における顧客情報の収集方法には、おもに以下のような手法が存在する。

図1 リアル店舗におけるおもな顧客情報収集法一覧
リアル店舗におけるおもな顧客情報収集法一覧

このうち、顧客情報を広く収集しやすいのが「ポイントカード」と「会員カード」である。ただ、会員カードについては、一律値引きを実施するカードに陥りやすいというデメリットがあるため、顧客情報取得手段としてロイヤリティマーケティングも実施しやすいポイントカードが採用されるケースが多いと考えられる。

「ポイントカード」発行の利点と問題点

【ポイントカード発行の利点】
ポイントカード発行によって得られる利点としては、おもに以下の2つが挙げられる。

【ポイントカード発行の利点:1】
カード発行の宣伝効果とディスカウント(ポイント還元)による顧客流出防止

【ポイントカード発行の利点:2】
顧客データ収集/データ分析後の効果的なマーケティング活動/優良顧客の囲い込み

また、近年はこれらに加え、ポイント交換サービスの活性化に伴い、顧客の送客効果、という「ポイントカード」のメリットも注目されている(ただし、ポイント交換サービスでは、人気のあるポイントに交換が集中するケースもあるといったデメリットもある)。

【ポイントカード発行の問題点(デメリット)】
ポイントカードシステムは、おもに上記に挙げたような目的をもって導入されてきた。しかしその一方、「ライバル他社が導入したから」という理由から競うようにポイントカードを導入し、結果として「ポイントカード発行自体が目的」となってしまった事例も多く見られる。
この場合、ポイントカードは「ディスカウントによる販促目的のカード」となり、ポイントカード発行の最大のメリットである「顧客データ管理・分析による効果的なマーケティング活動の実/優良顧客の囲い込み」ができない事態に陥ってしまう。そしてディスカウント合戦の結果、利益を圧迫するケースも多々見られるのが現状となっている。

ポイントカードは、ディスカウントカードのみでは十分な役割を果たせず、顧客分析を活かしたFSP(フリークエント・ショッパーズ・プログラムカードであることで優良顧客の囲い込み(=売上げUP)を実現し、ポイントプログラムを提供するメリットを最大限に享受できると考える。

※FSP(フリークエント・ショッパーズ・プログラム:既存顧客のロイヤリティーを高めることにより、自社にとっての優良顧客を囲い込むマーケティング手法のこと。

ポイントカードを利用したFSP実現のための2ステップ

【「パレートの法則」とポイントカード、FSPとの関係】
小売店やサービス業がポイントカード発行で囲い込むべき「自社にとっての優良顧客」とは、具体的にはどのような客層のことを指すのか? この点は、以下のように「パレートの法則」を当てはめて考えると分かりやすい。

図2 「パレートの法則」とFSPの概念
「パレートの法則」とFSPの概念

ポイントカードは、上記のFSP概念の実現に寄与する道具のひとつである。つまりFSPポイントカードの最大の目的は、顧客情報の収集にあるのだ。
顧客へのポイント付与は「ディスカウント」ではなく、「情報提供に対する謝礼」である、という考え方が基本となる。

【FSP実現のために必要な2ステップ】
ポイントカードを利用したFSP概念の実現ステップには、大きく分けて以下の2ステップが必要となる。

【ポイントカード利用によるFSP実現:ステップ1】
まず、ポイントカード発行により、会員・非会員の差別化を図り、会員にのみポイント付与や各種特典を発行することで、店舗における会員比率を高めていく。これにより顧客データの収集を進めていくこととなる。
会員比率の目安としては、一般的に、60~70%が必要とされており、これを目標にポイントカード入会・買物ごとのポイントカード提示を勧めていくのが第一ステップとなる。

【ポイントカード利用によるFSP実現:ステップ2】
第2ステップでは、ポイントカードにより集まった顧客情報を分析し、利用金額、利用来店頻度などにより顧客ランクを設定する。さらにこの分析結果に基づき、より貢献度の高い優良顧客に還元サービスを手厚く施していくことにより、優良顧客の囲い込みを進めていくこととなる。
この作業のためには、より詳細な情報が求められるため、ポイントカードの魅力を高める取り組みも引き続き必要となる。そこでポイント還元率を単純にアップするのではなく、各種イベントと連動したポイントキャンペーンや交換商品の充実、等々の施策により、買物の際にポイントカードを毎回利用させる工夫も必要となる。
また、ポイント還元のメリットだけでなく、優良顧客にのみ無料ウォーターの提供を実施するなど「特別感」を提供することも囲い込みに重要な施策となる。

この上記2ステップにより、おおむねFSPの概念は達成されるが、真のOne to Oneマーケティングを目指す企業には、さらなる高度な分析や施策が必要となる。

FSP実現の「次のステップ」とは?-真のOne to Oneマーケティングを目指すために

真のOne to Oneマーケティングの実現には、ポイントカードで得られる顧客データと、何を買ったかがわかるPOSデータの連動分析により、第3ステップに移行することが必要となる。つまり、ここからはPOSデータも必要となるため、システムは大掛かりとなり、第2ステップまでと比較して投資費用負担は大きなものとなる。

【ステップ3:顧客データとPOSデータの連動分析】
第3ステップでは顧客データとPOSデータの連動分析により、顧客の購入品目が判明するため、顧客の生活背景まで推測することが可能となる。たとえばキャットフードを購入していれば猫を飼っている、おむつを購入していれば乳幼児がいる、といった分析である。このように部門単位の購買動向を把握することで、顧客をさらにカテゴライズし、第2ステップまでより顧客に関連性の高い、顧客グループごとへのより絞り込んだDM送付といったマーケティング活動を可能とする。

【ステップ4:個々の顧客のニーズに合った品揃え・価格・サービスの提供】
最後の第4ステップでは、第3ステップの深耕により、個々の顧客までのニーズを把握していくことで、一人ひとりの顧客行動に店舗の品揃えや価格、サービスを一致させることを目指す。
最終的には第四ステップの取り組みの中で、メーカー、卸、小売業(プライベートブランド商品)の新商品開発や共同販促プロモーションなど、ディマンドチェーンマネジメントにまで発展させる取り組みを目指すこととなる。

どこまでのステップが必要であるかは、各企業の方針・投資体力などに左右されることとなるが、ポイントカードを発行するのであれば、少なくとも第2ステップまでの発展が望まれるのではないだろうか。

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