生命保険の販売チャネルは、ここ十数年で大きく変化してきた。かつてはいわゆる生保レディと称される営業職員が中心だったが、現在では銀行窓口や来店型保険ショップ、オンライン完結型まで、顧客が保険に触れる入口は確実に増えている。
こうした動きを受け、「消費者が自分にあった保険を選びやすくなった」「販売の形が多様化した」という評価を耳にすることも多い。一方で、保険業界側に目を向けると、依然として販売における課題が残されている。人口減少による新契約の伸び悩み、募集人の高齢化、多様化する商品の説明責任、個人情報保護の厳格化など、生命保険の販売を取り巻く悩みは、形を変えつつ存続している。
今回は、近年の生命保険の販売チャネルの動きを整理した上で、最近報道等で話題となっている販売チャネルの課題を振り返り、今後の生命保険のチャネル戦略について考えてみたい。
生命保険の販売チャネルが広がってきた背景には、いくつか要因がある。1990年代の金融ビッグバンによる自由化や銀行窓販の解禁が代表例であるが、顧客のニーズの多様化や営業職員の確保が難しくなってきたことも無関係ではないだろう。
また、複数社の保険商品を比較できる乗合代理店や来店型保険ショップは、「中立的な立場で説明してもらえる」という安心感から支持を集めてきた。近年では、シンプルな保障内容を中心に、オンラインで完結できるチャネルも徐々に存在感を高めている。
こうして見ると、生命保険の販売チャネルは「営業職員か、それ以外か」という単なる二分では片づけられないほど多様化してきたといえる。
販売チャネルが多様化しても、変わらない側面がある。成果に応じた報酬体系を採用するフルコミッション型のモデルは、高い意欲や専門性を持つ募集人が力を発揮しやすい一方で、募集人の行動や判断が、良くも悪くも報酬追及に寄るリスクをはらんでいる。
営業の裁量が大きいからこそ、提案内容や情報の取り扱い等は個人に委ねられやすい。実際、2026年に入ってからフルコミッション型を採用する生命保険会社において、顧客からの多額の不正受給や金銭トラブル等が相次いで報じられ、世間を賑わせた。稼ぐための意欲が個人の裁量を広げた結果、コンプライアンスが後回しになった側面は否定できない。また、代理店や銀行チャネルへ出向するケースも保険業界ではよくあることであるが、そこでの情報の持ち出しを巡る事案も相次いで保険会社が公表している。
これらニュースとして報じられた事案について、特定の企業や社員など個人の問題だけで片づけるのではなく、個人の力に過度に依存する販売モデルそのものが内包するリスクとして捉える必要がある。
生命保険は、長期間に渡って保障が続く商品であり、契約時に顧客のライフプランを踏まえた丁寧な説明が求められる。そのため、必然的に説明能力と提案力が高い人間に成果が集中しやすい。
しかし、この構造は「売れる人に会社が依存している」状態でもある。管理を強化すれば「自由にやれる他社へ移る」という懸念があり、顧客も担当者についていってしまうリスクがある。営業職員の高齢化や、若手のなり手不足が指摘されて久しい中で、個人の力量に依存し続ける販売体制は、いよいよ限界に近づいているといえる。
ではこの個人への依存を、デジタルの活用で解消できるか。近年は、デジタル活用への期待も高まっている。スマホ完結型の保険商品がその代表例であるが、こういった保険はあくまで比較的わかりやすく、リスクも限定的な商品が中心である。死亡保障等の比較的高額であったり、保険金支払いの条件が複雑な商品については、依然として人を介した説明や相談のニーズは根強い。かといって人任せでは前述した通り利益重視の勧誘に偏るリスクもある。つまり、デジタルは万能の解決策ではなく、募集や申込、アフターフォローといったプロセスごとに、人による対応とデジタル対応をどう最適に組み合わせるか。その一連のプロセスの設計が今後のカギになるかもしれない。
さらにいえば、人であれデジタルであれ、その販売プロセスをどう統治(ガバナンス)していくかという視点が不可欠である。フルコミッション型のような、募集人の裁量が高く稼げる販売モデル自体を否定するわけではない。それがモチベーションとなり、これまで業績を支えてきた面もあるだろう。
ただし、その自由度を前提とするのであれば、行動規範や情報管理、説明責任など、「守るべきルール」を徹底していく必要がある。裁量があるからこそ、コンプライアンスの再徹底や他の仕組みとの組み合わせによる補完など、企業はこれまで以上の対応が求められる。
生命保険の販売チャネルは、「多様化する(増やす)」段階から、「どうガバナンスしていくかを考える」段階へと移行する時期に来ている。どのチャネルが正解という単純な答えはないが、少なくとも個人の力に過度に依存する構造を見直す必要性は高まっている。
募集時の一連のプロセスにおいて、何がどのように行われ、会社はそれをどう管理するのか。こうした販売プロセスの透明性を高めていくことが、今後の保険販売に求められる重要な視点といえるだろう。
※関連調査レポート
生命保険の販売チャネルに関する詳細な調査・分析については、以下のレポートを参照されたい。
「2025年版 生命保険の販売チャネル戦略と展望 -直販、Web、来店ショップ、訪問販売の実態-」
(小田沙樹子)
■レポートサマリー
●生命保険の販売チャネルに関する調査を実施(2025年)
●生命保険の販売チャネルに関する調査を実施(2024年)
●生命保険の販売チャネルに関する調査を実施(2023年)
●来店型保険ショップ市場に関する調査を実施(2022年)
●来店型保険ショップ市場に関する調査を実施(2021年)
●来店型保険ショップ市場に関する調査を実施(2020年)
●来店型保険ショップ市場に関する調査を実施(2019年)
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