矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2020.08.20

コロナ禍での中期戦略はシナリオ作りから

誰もが悩む新型コロナの影響予測

仕事柄、産業の構造や戦略動向、未来像などを研究することも多いが、新型コロナは我々の産業予測の難易度を一気に引き上げている。
産業予測は多面的な検討が必要になるが、マクロ面での経済的なインパクトは、政府や金融系シンクタンクなどが得意とするところで、我々も大いに参考としている。他方、ミクロでのインパクトは、我々が専門とする領域だ。我々の市場調査は、プレイヤーとの対話を重視する。産業の現場、最前線の事実と対峙しつつ、情報を俯瞰し、産業の未来を予測することを主業としている。

とはいえ、新型コロナの影響を予測することは難しい。各企業と情報交換はしているが、明確な見通しを持つことは困難であり、どの企業も様子を見ながらの対応だ。他産業に比べて、ICT産業は明らかに影響が少ないセクターゆえ、強気な声も聞こえてくるが、それでもユーザー企業の景況動向に依存するため、気が気でないという状況であろう。

3つのシナリオ

不透明な未来に向けて戦略を描いていくには、シナリオプランニングという手法が有効だ。自社の外部環境を分析し、影響度と発生可能性の観点で分類、“滅多に起きないが、起きたら大きなゲームチェンジに巻き込まれる”という要素を見極め、シナリオとして描く手法である。

新型コロナにおいても準備をしていく必要があるが、そもそも新型コロナ自体がどのような経過を辿るのか予想することが難しい。そう考えていた矢先、NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)が、「コロナ禍後の社会変化と期待されるイノベーション像」というドキュメントを公表しているのを見つけた。
そのなかで、次のように3つのシナリオが設定されている。

 

【図表:NEDOによる経済見通しの前提となる3つのシナリオ】

図表:NEDOによる経済見通しの前提となる3つのシナリオ

出典:コロナ禍後の社会変化と期待されるイノベーション像(NEDO)

シナリオ①は穏当な内容だ。罹患しても薬で症状が緩和でき、2021年冬にはワクチンも開発される。DXの進展、社会変化は避けられないものの、影響は限定的、経済も復活するシナリオである。

しかしワクチン開発や集団免疫の獲得が遅れる(2~3年後)とどうなるのか。それがシナリオ②となるが、集団感染(いわゆるパンデミック)がたびたび発生し、経済活動の抑制を断続的に継続しなければならない。社会への影響をみると、世界恐慌まで想定されており、かなりのインパクトだ。

薬の開発に失敗するシナリオ③となると、想像するのも恐ろしい。経済低迷、政治体制変容とあり、具体的にどのようなことを想定しているのかは分からないが、暴動、クーデターなどまで想像させられる内容だ。企業活動でいえば、競争のルールそのものが変容してしまうことを示している。

未来へと立ち向かえ

シナリオ①~③を見比べると、切り替わるキーポイントは、薬の開発か集団免疫の獲得ということになるのが分かる。ところがそれは分かったとしても、薬の開発や免疫獲得に成功するのか失敗するのか、それを我々が予想するのは、ほぼ不可能だ。となれば、要するにシナリオ①~③のうち、未来はどれになるのか、悩んでもしょうがないのである。
とはいえ、そこで思考停止してしまっては、未来に挑むことはできない。大切なのは、各シナリオになった場合の身の振り方を積極的に検討しておくことだ。

読者自身の企業への影響はどうだろうか。ICT産業としては、どのシナリオにおいてもDXの進展が含まれているのは追い風ともいえる。ユーザー企業の景況悪化を望んでいるわけではないが、ITを活用したビジネス革新に向けて行動してもらうには、企業に危機意識を持ってもらうことも重要だ。

シナリオ①となれば、だれもが委縮している時期に、積極的にマーケティングコストを投下し、景況回復とともに回収するシナリオが想定できる。シナリオ②では、いくらDXの追い風があるといっても、自社の業績悪化も織り込んで、絞り込んだ投資にしていかねばならないだろう。シナリオ③は現預金を厚めにして(必要があれば調達し)、嵐が過ぎるのを待つ必要があるだろう。
どのシナリオを想定するかは取り巻く環境によって異なるが、例えば、貴社の顧客からのビジネスがあまり減っておらず、当面の現預金もあるならば、シナリオ①のスタンスとなるだろう。もし薬の開発などが遅れるようであれば、シナリオ②に移行すればいい。逆に、キャッシュに不安があるならば、シナリオ②を想定し、投資分野を限定し、主要な既存顧客に対し丁寧な対応をしていく必要があるだろう。

シナリオを作成し、断片的にでもやるべきことを頭に描ければ、前を向いて立ち向かっていけるはずだ。我々も微力ながら、市場調査を通じて、中長期計画策定などの支援をしていきたいと考えている。

なお、最後に参考までに、コロナ関連をタイトルに含むレポートを一部紹介しておこう。これ以外でも、ほとんどのレポートで新型コロナについては記載されている。ぜひ目次を確認したうえで、参照してもらいたい。

忌部佳史

 

■コロナ関連をタイトルに含むマーケットレポート
2020年版 物流ロボティクス市場の現状と将来展望 ~ポスト・コロナはヒトとロボットの協働時代へ~
2020-2021 スマートフォン・移動体通信世界市場総覧 ~中国リスクとCOVID-19を乗り越える5G市場~
2020年版 食品の通信販売市場~コロナショックとサブスク拡大で見直される食品EC~
アフター・新型コロナ~日本産業の構造変化と成長市場~
2020 テレワーク関連ソリューションの実態と将来予測 -ポストコロナの働き方-
With新型コロナ社会直前期の若者の意識・行動に関する調査レポート

関連リンク

■レポートサマリー
DX(デジタルトランスフォーメーション)に関する動向調査を実施(2020年)
テレワーク関連ソリューションの動向調査を実施(2020年)
働き方改革ソリューション市場の調査を実施(2020年)

■アナリストオピニオン
進むオンライン化 4分野にみる新たな社会へのパラダイムシフト
“Withコロナ”で見えてきた個室型ワークブースの大いなる可能性
新型コロナウイルスの影響で拡大した監視カメラの活用方法とは?
新型コロナウイルス対応はユーザー意識の改革とInsurTech 普及のチャンス
COVID-19をチャンスにできなかったドローンデリバリー

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忌部 佳史(インベ ヨシフミ) 理事研究員
市場環境は大胆に変化しています。その変化にどう対応していくか、何をマーケティングの課題とすべきか、企業により選択は様々です。技術動向、経済情勢など俯瞰した視野と現場の生の声に耳を傾け、未来を示していけるよう挑んでいきます。

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