矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2020.05.18

COVID-19をチャンスにできなかったドローンデリバリー

活況を呈するフードデリバリー

新型コロナウィルス感染者が世界中で猛威をふるうなか、ドローンによる配送が改めて注目されている。マシーンを介在した自動化で人間同士の接触を最小限に抑制できるうえ、Stay Homeで急増したオンラインショッピングやフードデリバリー需要にも応えることができる。

ライドヘイリングのUberでは、人々が出かけなくなった分ライドシェア配車による収益は減少したが、Uber Eats(フードデリバリー)が減少分をカバーしたという。2020年第1四半期のUberへの配車リクエストは対前年比3%ダウンとなったのに対して、フードデリバリー注文は54%アップとなった。主力であるライドヘイリングは、長引く世界規模の都市閉鎖を受け2020年4月の配車リクエストはグローバルで80%ダウンである。

いち早くCOVID-19の影響を受けた中国湖北省の武漢市は、2020年1月23日に都市閉鎖となり、きわめて厳格な外出制限が実施された。都市間で対応に差はあるが、スーパーへの買い物は3日に1回など外出が厳密に管理され、通勤の必要がある職種には通行許可証が発行された。海外からの帰国者は特に外出が厳密に制限され、毎日の訪問を受けるなどということもあったという。ピーク時には、中国国内7億6千万人が外出制限の対象となった。

中国都市部の居住区(団地)は、外部からの侵入者を防ぐために柵で囲われたゲーテッド・コミュニティになっているところが多いが、今回は逆に居住者を閉じ込めるための柵に役割が変わった。ゲートでは出入りする人々全員の体温が測定され、通行の履歴が管理された。柵で囲われていなかった地方の小規模マンションにも、一夜にして柵が建設された。高速道路を含む主要な道路も正式な許可証なしでは通行できなくなった。
そのため、ネットスーパーでの食料品購入やフードデリバリーが活況を呈した。

中国のフードデリバリーとドローン活用

中国のフードデリバリーでは、テンセントが出資する美団外売(Meituan Waimai)とアリババ傘下の餓了么(Ele.ma)が有名である。外食店にとっては、新型コロナ感染防止の観点から店内での飲食が禁止されるなか、デリバリーが生命線になっている。

両社とも、自走式配送車両やドローンを活用する無人配送は2018年ごろから構想してきた。
そして、COVID-19をきっかけに、中国では上空から人の集まりを監視したり、赤外線センサーで体温計測をしたり、消毒薬の散布を行ったりといった用途にドローンが活用されている。

中国でデリバリードローンを展開するANTWORK(迅蟻)は、COVID-19の拡大に伴い、医療機関への医薬品やテストサンプルなどの輸送を行っており、浙江省の病院で300回以上の輸送を実施したという。同社でも、当初はフードデリバリーなどの日常的な配送に着目していたが、医薬品輸送に求められるタイムリー性などの面でよりドローンによる配送に相応しいと判断した。昨年2019年10月に、中国航空局から都市部でのドローン輸送の許可を取得し、奇しくも今回のCOVID-19流行が初めての実用の場となった。
ANTWORK社は、日本のブルーイノベーションと開発で提携、テラドローンとはパッケージシステム販売で提携している。

Huaweiは、最新スマートフォンP40を2020年4月8日に発売したものの、小売店舗は軒並み営業停止中であった。そこで、美団外売と連携して、最短30分で近くの携帯電話ショップからデリバリーする方法をとった。

通販大手の京東(JD.com)でも、3月に新発売となったApple製品の販売に合わせて顧客の玄関口で旧品の下取りサービスを行っている。京東もまた、早くからドローンデリバリーに着目している企業の一社でもある。

米国では規制が障壁に

米国でもまた、レストランの多くが営業停止に追い込まれ、それまでデリバリーを行っていなかったレストランでもデリバリーサービスに対応するようになった。
米国のデリバリードローンは、マターネット(Matternet)やジップライン(Zipline)が有名だが、前者はスイス、後者はアフリカと両社とも活動の場は米国以外であった。中でも、ジップラインは、アフリカのルワンダやガーナで医薬品や輸血用血液などのドローン輸送ですでに実績がある。

そんななか、ドローンの実用化に積極的に取り組むノースカロライナ州では、病院間の医療用資材輸送にドローンが活用されつつある。一方で、2019年にはフードデリバリーのパイロットテストが行われているが、まだ実用化には至っていない。

さらに、宅配大手のUPSは、医療従事者の接触拡大を防ぐ目的で医薬品のドローン配送に乗り出している。ドラッグストア大手のCVSと組み、処方箋薬などの医薬品をフロリダ州の大規模リタイアメント・コミュニティThe Villagesの住民に届けるもの。The Villagesは、自動運転バンタクシーVoyageの走行でも有名である。

米国連邦航空局(FAA)が人々の頭上を飛んでモノを輸送することを許可するのは、緊急時のみである。例えば、災害で分断された人々への医療物資供給や人命救助等であって、ハンバーガーとドリンクではないのである。また、全ての機体に識別番号を割り当て、どこを飛行しているかを把握するためFAAが目指すRemote IDもまだ整備されていない。
本来であれば、ソーシャルディスタンスを保って人間同士の接触を最低限に抑えたいこんな時期こそ、ドローン活躍の場となるはずである。しかし、米国では規制が障壁となって医薬品以外を運ぶドローンデリバリーは許認可が取得しにくい状況である。

そして、米国内でフードデリバリーを実現しているのは米国のドローン企業をではないフライトレクス(Flytrex)である。同社はノースダコタ州でドローン配送サービスの開始を発表している。DaaS(Drone-as-a-Service)企業のEASE Dronesやグランドフォークス市等との連携で、食品や医薬品などを提携店から家庭へとドローンで配達するものである。フライトレクスは、本国のアイスランドで家庭の裏庭まで直接届けるドローン配送サービスを提供している。米国ノースダコタへの進出は、COVID-19感染拡大に対応するものである。飲食店の多くが、デリバリーやテイクアウトでの提供が求められ、ドローンによる配送は不必要な接触を減らし、感染抑制に繋がるとする主張はまさに米国内企業も訴えるところである。
まさにその観点から、ドローン事業者側では、テクノロジーを活用することでもっと多くのことが可能だと考えており、障害物検知・回避機能を伴った自律飛行(操縦自動化)など日々テクノロジーのレベルアップが図られている。

他方、規制側は、デリバリーで肝要となるBVLOS(目視での視界を超える範囲外)飛行には依然慎重で、夜間の飛行も制限されている。

ドローンはフードデリバリーを担えるか

世界の主要経済圏を巻き込んだCOVID-19感染拡大で経済活動が停滞する中、マスクや消毒薬などの感染予防アイテムはもとより、世界的に小麦粉とイーストが品薄になり、米国では銃と弾薬がバカ売れするなど、思わぬ波及効果も及ぼしている。

これまでの生活様式に変化が訪れる可能性を示唆視する「アフターコロナ」「ウィズコロナ」が言われているが、フードデリバリーにとっては特殊なブースト期であり、ほとぼりが冷めれば需要が減退するとみる人々もいるが、一度デリバリーの利便性を経験した人々は、頻度こそ少なくなってもまた利用するだろう。少なくとも、今回のStay Homeを機に初めてデリバリーサービスを利用した人々は増えている。また、従来は来店客のみを対象として料理を提供していた店舗がデリバリーメニュー開発のきっかけを与え、顧客のデリバリー慣れを促したことから、拡大したフードデリバリーはある水準で定着すると思える。

しかし、そのデリバリーをドローンが担うようになるまでには、視界外飛行での安全性など、まだまだクリアすべき課題は多い。そして何より、フードデリバリーでも利益が出るような仕組み必要になるだろう。

関連リンク

■レポートサマリ
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