矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

Daily column

11 17
2025
【今週の"ひらめき"視点】COP30スタート。パリ協定から10年、多国間主義への信頼回復が急務
当社代表が最新のニュースを題材に時代の本質、変化の予兆に切り込みます。   11月10日、国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)がブラジルで開幕した。会期は21日まで、「産業革命前からの気温上昇を1.5度以内に抑える」との目標を採択したパリ協定(2015年、COP21)から10年、残念ながら各国の取り組みは遅れつつある。国連環境計画(UNEP)は「2024年、温室ガス排出量は2.3%増加した。今後、各国の公約が達成されたと仮定しても世界の気温は2.3℃から2.5℃上昇する」との見通しを発表した。 世界各地で異常気象が“災害化”しつつある中、国連のグテーレス事務総長も「危機が加速している」と警鐘を鳴らす。一方、「気候変動は史上最大の詐欺」などと公言してきたトランプ氏にとってパリ協定からの離脱は既定路線だ。「途上国の気候資金として2035年までに官民あわせて1.3兆ドルを拠出する」とのCOP29における合意の実現を米国抜きのシナリオで描くのは容易ではない。COPは先進国と途上国の立場のちがいが浮き彫りになりがちだ。それだけに資金拠出における先進国間での調整難航は取り組み全体の後退に直結する。 トランプ氏に煽られるようにSNSでは気候変動への疑義が溢れる。しかしながら、今、目の前で起こっている気温上昇は2万~10万年単位の周期で繰り返される気候変動の10倍の速さで進行しており(国立環境研究所)、間氷期から氷期への移行は日射量変動から計算される理論値より5万年以上先になるとされる(A. ガノポルスキー他)。「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)も20世紀後半からの急激な気温上昇は人間活動の関与なく説明できないと結論づけており、気候変動を地球本来のサイクルに戻すための行動に是非はあるまい。 環境問題は国家戦略としての産業政策を方向づける要件でもある。10月9日、中国EV大手「比亜迪」(BYD)はブラジルに建設した新たな工場の完工式典でブラジルが国策として進めるサトウキビを原料とするバイオエタノールを使ったPHEVの導入を発表、環境と経済への貢献をアピールする。日本も「COP30ジャパン・パビリオン」(環境省)を現地に設置、脱炭素や気候変動適応における日本企業の先進技術を発信する。健全な競争は歓迎だ。多国間主義への信頼が揺らぐ中、ローマ教皇レオ14世は「気候は共有財であり、利己主義を排し、お互いの未来世代に対する責任を」とメッセージした。各国の勇気ある譲歩と野心的な行動計画に期待したい。 今週の“ひらめき”視点 11.9 – 11.13 代表取締役社長 水越 孝
11 14
2025
ジャパンモビリティショー2025 注目企業の取組③-T2社が目指すレベル4自動運転による幹線輸送-
前回と前々回に続き、ジャパンモビリティショー2025で注目した企業を紹介します。3社目は株式会社T2です。   ■T2の取り組み概要 T2は、主要物流拠点間を往復する「レベル4自動運転トラックによる幹線輸送サービス」を2027年に社会実装することを目標に掲げています。これは、ドライバー不足や「2024年問題」による輸送能力不足への対応を狙った次世代ソリューションです。   ■レベル4とは 自動運転の基準でレベル4は、特定条件下でシステムが完全に運転を担い、ドライバーが不要になる段階を指します。T2は現在レベル2での商用運行を開始しており、レベル4への移行に向けて実証実験を進めています。同社によると、これまでの実証では無事故を継続しているとのことです。   ■なぜ幹線輸送でレベル4が有望なのか 高速道路を中心とした幹線輸送は、信号や複雑な交差点がないため、自動運転の導入に適した条件がそろっていると考えられます。また、幹線輸送で自動運転を実現することで、長距離運転に伴う残業規制への対応にも大きな効果が期待できます。 T2は「高速道路区間は無人運転、出入口付近の切替拠点で有人運転に切り替える」モデルを採用予定で、三菱地所などと連携し、次世代物流センターの整備も進めています。こうした戦略は、休憩管理や労働時間の制約を解消できる点でメリットが大きいと考えられます。   ■多種多様な企業が実現に向けて協力 T2の取り組みは、単独ではなく多くのパートナー企業との連携によって進められています。高速道路直結の次世代物流センターや切替拠点の整備では、三菱地所をはじめとする不動産・インフラ企業と協力。さらに、通信会社や車両メーカー、保険会社、IT企業など幅広い業種が参画し、レベル4自動運転の社会実装に向けたエコシステムを形成しています。こうした多様なプレイヤーとの連携は、技術面だけでなく、法制度や安全性の確保の面においても不可欠な要素といえます。   ■実現に向けた課題 T2は2027年の実現を目指していますが、展示会で話を聞きながら次のような課題も感じました。 ・ETCゲート通過時の減速や割り込み対応 ・合流時の安全確保 ・法令遵守による速度管理と、周囲の車両との走行調和 また、高速道路では、実際には多くの車が速度を上げがちで、さらに運転にはドライバーの癖や感情も絡みます。こうした環境で自動運転車が自然に溶け込めるかどうかは、今後の鍵になりそうです。   ■展示会での印象 T2の挑戦は、物流危機という社会課題に対し、技術で解決策を提示するものです。幹線輸送という限定条件でレベル4を目指す戦略は現実的で、実現すれば物流業界に大きなインパクトを与えると感じました。(小田 沙樹子)

Main Contents Topics

YanoICT(矢野経済研究所ICT・金融ユニット)は、お客様のご要望に合わせたオリジナル調査を無料でプランニングいたします。相談をご希望の方、ご興味をお持ちの方は、こちらからお問い合わせください。

YanoICTサイト全般に関するお問い合わせ、ご質問やご不明点がございましたら、こちらからお問い合わせください。

東京カスタマーセンター

03-5371-6901
03-5371-6970

大阪カスタマーセンター

06-6266-1382
06-6266-1422