富士通は、フランスの通信事業者Orange S.A.(以下、Orange)との共同実証を通じて、自社の光伝送装置『1FINITY T900』が、約1,600kmの長距離にわたり800Gbpsの伝送速度を維持しつつ、消費電力を150W未満に抑制できることを確認したと発表した。
https://pr.fujitsu.com/jp/news/2025/06/04-01.html
Orangeは、かつて国営企業であったフランス・テレコムから民営化されたフランス最大級の通信事業者であり、欧州・アフリカ・中東にわたる広域通信サービスを展開している。現在は、5G・光通信・DX、持続可能性分野に積極的に投資しており、複数のグローバルベンダーと連携しながら次世代ネットワーク技術の導入を進めている。
本実証は、Orangeの実環境研究インフラにて実施され、富士通は伝送速度条件全てにおいて装置の電力効率が安定していたと説明した。対象装置は、保守性と運用信頼性を確保しつつ、密閉型水冷システムを採用することで冷却効率を向上させる構造を持つ。また、波長あたり最大1.2Tbpsの伝送能力や多様なイーサネット・インターフェースへの対応のような技術的要素は、伝送性能の向上および到達距離の拡大に寄与する可能性があると考えられる。
また、本装置はIOWN Global Forumが提唱する「オール光ネットワーク(APN:All Photonics Network)」構造との技術的互換性を有するとされる。IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)とは、NTT社が主導する次世代通信インフラ構想であり、ネットワーク伝送のみならず、情報処理および制御全体に光技術を適用することで、超低遅延・低消費電力・大容量通信の実現を目指している構想である。APNは、その中核をなす要素技術の一つであり、ネットワークの端点間をすべて光信号で接続することで、従来の電子系ネットワークにおけるボトルネックや遅延の削減を図る構成となっている。
さらに、富士通は、ネットワークプロダクト事業を承継する新会社「1FINITY株式会社」を2024年7月1日付で発足させ、ネットワーク関連事業を統合する方針を示している。今回の実証により、同社装置がIOWN構想の技術的方向性と整合する可能性を示唆する一方で、実際の商用ネットワークへの適用に向けては、ソフトウェア層の統合、他社装置との相互運用性、運用ポリシーへの柔軟な対応など、複数の条件下での追加的な検証も今後の課題であると考えられる。
とりわけ、ネットワーク構造全体の転換を実現するためには、複数機関の協調による実証蓄積と、多様な運用環境における検証事例の積み重ねが不可欠である。また、政策的観点からも、本装置の性能がAPN/IOWNベースのネットワーク転換に実質的に寄与し得るかを評価するための中長期的な視点での分析と検討も、今後の重要な観点となると考えられる。(曺 銀瑚)
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