矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2025.06.30

普及期に突入した衛星データ活用ビジネス

日本における宇宙関連ビジネスの歴史

日本では、戦後しばらくは非軍事での宇宙開発が国是となっており、1990年代までは軍事/安全保障とは距離を置いた宇宙開発に特徴があった。例えば衛星画像についても、世界的には偵察目的が大きな要素であったが、日本では自然・環境計測や科学技術・アカデミック用途が主目的であった。
しかし1990年代に入り、衛星画像・データの民間利用が拡大。さらに1990年代後半からは、従来は忌避していた情報収集衛星(偵察衛星)などの安全保障目的での衛星データ活用が始まった。加えて従来からの学術研究や科学目的だけでなく、ビジネス用途での衛星データ活用機運が高まり、この頃から宇宙開発/宇宙ビジネスにおける民間企業の立ち位置が確立してきた。

2000年代に入ると、宇宙開発の司令塔が、文部科学省から内閣総理大臣(内閣府)に移行し、2008年には内閣府が所管した宇宙基本法が制定された。これにより、法的に内閣(内閣府)の下での宇宙開発計画の一元管理が確立し、併せて防衛/安全保障目的での宇宙利用の法的根拠が整備された。
宇宙基本法の制定後、内閣に宇宙開発戦略本部、内閣府に宇宙政策委員会と宇宙開発推進戦略事務局が設置され、文部科学省の宇宙開発委員会が行っていた計画管理を内閣府の宇宙政策委員会に移管。この組織変更により、従来の所管官庁であった文科省から、ビジネス用途を重視する経産省への権限移行が一部であった模様で、これが宇宙ビジネスの拡大には追い風になった。

最近の宇宙開発動向

近年の取り組みは、2008年に成立した宇宙基本法に基づき2009年に策定された「宇宙基本計画(内閣府主体で取りまとめ)」が基盤となっている。宇宙基本計画は、10年程度の長期的な展望を示したもので、約3年ごとに改定がなされている。尚、現行計画は2023年6月に改訂したものである。

また日本では2023年11月、JAXA(宇宙航空研究開発機構)に対して1兆円規模(10年間)の「宇宙戦略基金」を設置し、投資を通じて宇宙ビジネスの創出/拡大を目指す方向を示している。そしてここでは、民間活力を生かした事業展開が期待されている。

さらに2024年2月、宇宙通信政策推進を目的に「宇宙通信アドバイザリーボード」が始動。2024年2月26日に開催された第1回会合では、宇宙戦略基金に関する基本的な考え方や今後の方向性などが示された。そして直近では、2025年3月に「宇宙通信アドバイザリーボード(第6回)」が開催され、「衛星光通信を活用したデータ中継サービスの実現に向けた研究開発・実証」など、主に光通信に関するプロジェクトが取り上げられている。

衛星データ活用シーン

従来、衛星データはかなり高額であった上に、品質面/機能面での限界もあった。そのため需要先は限定的であった。しかし近年ではデータ利用料(販売価格)の低廉化が進み、かつ収集データの多様化(光学衛星画像データ、SAR衛星データ、各種センサーデータなど)や、データ品質の向上(解像度の向上)も進展したことから、従来の官公需だけでなく、様々な民需用途の開拓も進んでいる。

時系列的に見ると、2000年頃まではほぼ官需に依存していたが、上述したような背景から徐々に民需が拡大し、現在では衛星データ関連ビジネスの10%前後が民需になったと推測される。また衛星データの活用領域を見ると、概ね以下のようなものが想定される。

【図表:衛星データ活用が想定・期待される分野】

【図表:衛星データ活用が想定・期待される分野】

矢野経済研究所作成

衛星データ活用ビジネスにおける有力事業者

下表では、主な衛星データ活用サービスベンダーの推定売上レンジをもとに、各社の位置づけを整理した。ここでは専業事業者を始め、大手ITベンダーや電機メーカー、通信キャリア、測量会社、建設コンサル、シンクタンクなどを主要ベンダーとして扱っている。尚、大手ITベンダーや電機メーカーの関連売上高は不明であるが、少なくとも中位グループには位置付けられると考えている。

【図表:主な衛星データ活用サービスベンダー】

【図表:主な衛星データ活用サービスベンダー】

矢野経済研究所作成

衛星データ活用市場規模

コロナ禍の影響が強かった2022年度では、既存計画の見直しや案件のペンディングなどの逆風もあったが、衛星データ活用サービス市場は161億円(前年度比8.8%増)と堅調であった。また2023年度では、コロナ禍の影響も残ったものの、主要ベンダーの関連売上は好調であった。併せて需要家サイドでの人手不足や業務効率化志向などもあり、同年度では前年比13.0%増の182億円と伸びが拡大。尚、2023年度では、コロナ禍によるプロジェクトの保留・見合わせが一段落し、既に予定していたプロジェクトの再稼働も追い風になって、全体としてマーケットは高伸長を記録した。

2024年度(見)では、QPS研究所やスカパーJSAT、Synspective、Ridge-iといった有力宇宙ベンチャーが好調であった上に、日立グループやNECグループ、富士通、三菱電機グループなどの大手ITベンダーの取り組みも堅調に推移。さらにJAXA戦略宇宙基金に牽引される形で、周辺領域における衛星データ活用に関わるPoCが進展したこともあり、引き続き高伸長を継続し、同年度では前年比11.0%増の202億円を見込む。

【図表:衛星データ活用サービス市場規模推移(2022~2030年度予測)】

【図表:衛星データ活用サービス市場規模推移(2022~2030年度予測)】

矢野経済研究所調査

今後の衛星データ活用ビジネス

宇宙ビジネス事業者以外でも、既存のIT企業や大手電機メーカー、測量会社、総合商社などで宇宙関連事業の立ち上げが進んでおり、宇宙ビジネスへの関心は高まっている。さらに2024年に宇宙戦略基金(JAXA基金)が設立されたことも、宇宙ビジネスには追い風となっている。そしてこの宇宙ビジネスへの期待、関心の高まりを追い風として、衛星データ活用サービスも伸びると考える。

従来の衛星データ活用サービスでは、官公庁や自治体、公的機関がメインターゲットであった。しかし最近では、民間での衛星データ活用が広がることを見据え、関連各社とも衛星データ活用サービスの強化を加速させている。
具体的な取り組みとしては、自社で人工衛星を運用するQPS研究所とSynspectiveでは、両社ともに衛星の運用機数を増やす考えである。衛星の運用数を増やし観測頻度を上げていくことで、顧客ニーズ対応力を高める考え。またNTTデータでも、子会社「㈱Marble Visions」を通じて、人工衛星開発・製造・運用を含めた垂直統合型の宇宙関連ビジネスの実施体制を構築する方向である。

今後の衛星データ活用サービスでは、「AI活用」がポイントになる。そのため各社では、自社もしくは外部連携も含めて、衛星画像・データ解析をターゲットとしたAI活用を強化しており、従来の衛星画像販売業態から、ソリューションサービス業態(付加価値サービス化)への転換を図っている。これにより、衛星データ活用サービスの適用範囲が拡大し、相乗的にビジネス領域が広がる蓋然性が高いと考える。

早川泰弘

関連リンク

■レポートサマリー
衛星データ活用サービス市場に関する調査を実施(2025年)

■アナリストオピニオン
衛星データ活用がもたらす損害保険業務の革新 ―自然災害対応の効率化と高度化

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早川 泰弘(ハヤカワ ヤスヒロ) 主任研究員
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