矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2025.06.18

2050東京戦略 未来の語り部となった生成AI

東京都は2025年3月に「2050東京戦略」を公表した。2050年代に目指す東京の姿「ビジョン」を実現するため、2035年に向けて取り組む政策を取りまとめた都政の新たな羅針盤とされるものだ。概要版、本編、ポケット版が東京都のWebサイトに公開されているが、本編は464ページにもなる力作となっている。

中身も充実している。第一章では2021年3月に策定した「未来の東京」戦略の振り返りがされている。子供、教育、女性活躍、働き方、共生社会、コミュニティ、都市機能、スタートアップ、産業、観光、スポーツ、防災、ゼロエミ・・・といった分野ごとに政策目標とこれまでの実績が一覧で掲載されている。実績というのは、例えば“待機児童が8,466人(2016年)から361人(2024年)へと95.7%減少した”といったもので、できる限り数字で表現しようとする意欲がうかがえる。

2050東京戦略の柱になるのはダイバーシティ、スマートシティ、セーフシティという「3つのシティ」である。これらの実現に向けて、28の戦略へとブレークダウンされている。スマートシティの枠には、スタートアップ、デジタル、国際金融など10分野が並ぶ。私どもICT・金融ユニットという立場からデジタルと国際金融について描かれたテーマを列挙すると次のようなものとなる。

戦略11デジタル

  • 都民のQOLに貢献するスマートシティの実現
  • デジタルの道「TOKYO Data Highway」の構築
  • 都政のQOSを更に高める構造改革の推進

戦略12国際金融

  • 国際金融都市・東京のプレゼンスを確立
  • グローバルスタンダードな環境づくりと世界への発信

さらにそれぞれの戦略のなかには、戦術にあたるものとしての施策と目標が記載されている。「都民のQOLに貢献するスマートシティの実現」であれば、“手続の基礎情報を一元管理するデータベースを整備”するといった施策を通じ、2035年までに行政手続のデジタル化(オンライン申請等)を100%申請可能にする、といった具合である。施策については3か年のアクションプランも掲載されている。

東京都という巨大行政において、2050年代のビジョンとなれば抽象的なものにならざるを得ない。それを網羅的に、一般にも分かりやすく、戦略―施策と落としていくのは相当な苦労があったことだろう。都民をはじめとしたステークホルダーと対話しようとする意欲は素直に評価したい。

読み物としてユニークなのは本編冒頭にある「はじめに」だ。120年前に書かれた「二十世紀の豫言」という当時の未来予測記事を引用し、一部が実現していることを紹介している。そして、それをならい「2050東京戦略」では22世紀の予言として100年後の東京の予測を掲載している。予言の主は“生成AI”だ。一部を紹介すると「地球の外へお引越し:月や火星、宇宙ステーションなので不自由ない暮らしが可能に」「五感デリバリー:視覚・聴覚、手触り、味など五感をデータで共有」などといった項目が並んでいる。

広報誌として、読み物として、ふぅんという程度に楽しく読むことができる。ただ、近い将来、生成AIは政策の中核を担う可能性がある。さまざまな利害関係者の役割をもった生成AI同士に議論させ、全体最適な政策とは何か導出するような時代がすぐ到来すると考えられるからだ。例えば、一般市民A役、地方出身市民B役、零細事業者C役、上場事業者D役といった役割を数万作り、彼ら同士を瞬時に議論させ、政策プランを3案導きだすというようなイメージである。
だからこそ、100年後の未来について、意思をもって創造性豊かなものを描いてほしかったとも思う。行政のような立場だと、客観的という意味で生成AIの意見の方が載せやすくなるのではないだろうか。まさかと思うが、将来、“あの時代が人の思いを素直に主張できるラストチャンスだったな”などとならなければ良いのだが。

忌部佳史

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忌部 佳史(インベ ヨシフミ) 理事研究員
市場環境は大胆に変化しています。その変化にどう対応していくか、何をマーケティングの課題とすべきか、企業により選択は様々です。技術動向、経済情勢など俯瞰した視野と現場の生の声に耳を傾け、未来を示していけるよう挑んでいきます。

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