矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2023.02.16

国策の後押しもあり、建設現場でのテクノロジー活用が急速に進む!

建設業界の現状

国内建設業界の構造は、発注者(施主)と請負契約を締結する建設会社(元請)、さらには工事種別に応じて複数の建設会社が施工を担う体制、いわゆる多重下請構造になっており、建材メーカーなどを含めて多数の関連事業者が存在している。
この事業者数の多さを主因に競争環境は厳しい。また施主意向が反映されやすい商習慣があるうえ、事業者間連携の不十分さもあり、設計変更に伴う工期の遅延や追加コストの発生など、様々な弊害も指摘される。併せて建設投資の減少や競争激化など、建設業の経営を取り巻く環境は厳しい。さらに、現場の技能労働者の高齢化や若年入職者の減少といった問題もあり、中・長期的には建設工事の担い手が不足することが懸念されている。
この課題解決策としては、労働力や収益確保のために、労働環境の改善やITテクノロジーの活用、また生産性向上などによる働き方改革やデジタル技術活用などが急務となっている。

建設現場でのIT活用

前述した建設業界での課題に対し国交省では、i-ConstructionでICT活用を推進。i-Constructionとは、ICTの全面的な活用(ICT土工)などの施策を建設現場に導入することによって、建設生産システム全体の生産性向上を図り、魅力ある建設現場を目指す取り組みである。
具体的には、調査・測量から設計、施工、検査、維持管理・更新までのあらゆる建設生産プロセスに3次元データなどを導入。ICT建機など新技術活用を実現し、コンカレントエンジニアリングやフロントローディングの考え方を取り入れる。そして建設現場を最先端の工場へ発展させることを目指す。
また原材料の調達、部材の製作、運搬、部材組立など、工場や建設現場における作業を最適に行う効率的なサプライチェーンマネジメントの構築もターゲットになる。

【図表:建設現場を最先端の工場へ】

【図表:建設現場を最先端の工場へ】

出典:国土交通省「i-construction委員会 報告書 概要資料」

ここ数年では、ゼネコン大手や建機大手などが主導して、建設現場でのIT活用が進展している。具体的には、通信環境の整備、センサーシステムによる現場の自動認識、IoTによる情報収集・モニタリング、各種ロボットによる施工支援、そしてAIによる施工評価・計画支援(進捗管理など)などである。先行しているのが、建機全般をITで管理・支援する取り組みで、遠隔地から操作・制御するIoTベースの仕組みや、センサーネットワークと連動させた現場情報の収集・遠隔監視の仕組みなども導入されつつある。
また、ドローンを活用した現場データの2次元から3次元データへの移行や位置情報の把握、セキュリティ対応、ドローンとAIを連動させた進捗管理も始まっている。

建設でのIoTポテンシャル

i-Construction推進に向けたロードマップでは、2025年までに建設現場の生産性の2割向上を目指し、新3K(給与が良い、休暇がとれる、希望がもてる)の魅力ある建設現場の実現、Society5.0(サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会)を支えるインフラシステムの構築を掲げている。
この目標を達成するには、IoTをベースとするITテクノロジーの活用が不可避であり、建設現場の高度化はIoTポテンシャルの向上にも直結する。
i-Constructionを進めるための視点として、建設現場の生産工程等と一体化したサプライチェーンマネジメントの導入がある。これは、原材料の調達、各部材の製作、運搬、部材組立などの現場における作業の最適化につながる効率的なサプライチェーンマネジメントの実現のため、設計段階から全体最適設計の考え方を導入するものである。
また建設分野では、建機大手のコマツが主導する、建設・土木における新プラットフォーム「LANDLOG」がある。これは、建設生産プロセス全体のあらゆるモノ(ショベルカー、ダンプカー、ドローンなど)の管理・解析が可能なデータを集め、そのデータを適切な権限管理のもと多くの建設現場ユーザが利用できる(現在では、多くのプロバイダーがアプリを提供)。2020年には、建設DXとICT施工を推進するランドログマーケティングを設立し、スマートコンストラクション・レトロフィットキット販売や、建設向けDXソリューションのマーケティング実施をスタートしている。

5Gソリューションの可能性

建設業界で想定される5Gソリューションとしては、建機・重機の稼働状況把握、作業現場の高解像度/3D画像、(IoT型の)進捗管理情報の一元管理、リアルタイムでの運用管理ソリューション、拠点に依らない作業実現などが挙げられる。
現在、5G活用に関する実証は始まっているが、商用サービス区域外での施工も多い業界特性から、実運用時には、一時的にローカル5G環境を構築するケースも想定される。
5Gネットワークは、従来ネットワークに比べて低遅延接続が可能なため、モニター映像にタイムラグが生じにくく、リアルタイムかつ安全に遠隔での建機操作を行える。このため、作業員の安全確保、現場災害時の復旧作業における2次災害防止などに役立てることも期待される。
また労働環境の観点では、作業員のバイタルデータ収集・分析による体調不良や精神疲労の予兆把握、労災防止(ヘルスケアモニタリング)、現場での書類作成業務の自動化(台帳ソリューション)などの用途も有望である。このほか、建機稼働率の把握/建機の状態監視による保全コストの圧縮などの可能性も考えられる。
以下には、5G型 IoTソリューションイメージを記載する。

【図表:期待される5G型 IoTソリューション】

【図表:期待される5G型 IoTソリューション】

矢野経済研究所作成

今後の見通し、課題

建設業界では、稼動機器全般をITで管理・支援する取り組みが進み、遠隔地から建機・重機を操作・制御するIoTベースの仕組みや、センサーネットワークと連動した情報収集・遠隔監視の仕組みなどが導入されつつある。また近年では、現場データの3次元データへの移行や、ドローンを活用した位置情報/工事の進捗管理、さらにはドローンセキュリティ対応も始まっている。
国交省ではi-Constructionを推進して、ICT活用の取り組みを急ピッチで普及させている。さらに、建設現場の生産性向上に資する革新的技術の公募や技術発表なども行っており、大手ゼネコンや建機メーカーが主導する建設現場のIT化は、今後さらに加速することが考えられる。
ICT活用やIoT導入については、これまで個別システムの導入や技術検証が行われてきたものの、費用対効果面での検証不足、業界での理解の少なさ、デジタルデータの取り扱い経験の浅さ等によって、現場利用の促進につながりづらかった。
しかし既述した通り、建設現場では労働環境の改善・生産性向上などの働き方改革の実現が急務となっていることに加え、現状でも課題の人手不足が、数年後にはさらなる拡大が見込まれる。そのため、いかにi-Constructionを進めることができるかが継続的な業界課題となっている。

早川泰弘

関連リンク

■レポートサマリー
フィールドワーク支援ソリューション市場に関する調査を実施(2022年)
フィールドワーク支援ソリューション市場に関する調査を実施(2020年)
CAD/CAM/CAEシステム市場に関する調査を実施(2022年)

■アナリストオピニオン
IoT関連ビジネスへの参入では、成果を可視化しやすい領域へのアプローチを目指せ
人手不足が深刻化する中で、ITテクノロジーは回答を出せるのか?

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早川 泰弘(ハヤカワ ヤスヒロ) 主任研究員
産業調査/マーケティング業務は、「机上ではなく、現場を回ることで本当のニーズ、本当の情報、本当の回答」が見つかるとの信念のもと、関係者各位との緊密な関係構築に努めていきます。日々勉強と研鑽を積みながら、IT業界の発展に資する情報発信を目指していきます。

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