矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2018.09.21

人手不足が深刻化する中で、ITテクノロジーは回答を出せるのか?

現場作業系職種で人手不足が顕在化

ここ数年、様々な産業分野/職業で人手不足が言われており、有効求人倍率で見る人手不足職業としては下表のようなものがある。
ここで明らかなのは、いわゆる事務職に対する求人以外は、いずれの職種でも有効求人倍率が1.0倍を超えており、特にサービス業や建設作業者、ドライバー、保安職に対する求人が高いことがわかる。これを裏返せば、これらの現場作業系の職業は人手不足であることが伺える。
このように、我が国では多様な職種で人手不足が顕在化してきており、その中でも現場作業者不足が、大きな社会問題となっている。例えば、外食産業では人手不足から店舗の営業時間や営業日数を短縮したり、場合によっては店舗閉鎖などに追い込まれるケースも散見する。

【図表:有効求人倍率が高い職種】

図表:有効求人倍率が高い職種

出典:厚生労働省(2018年3月)

人手不足を解消するフィールドワーク支援ソリューション(現場作業をITで支援する仕組み)

前述したように、作業者を中心に人手不足感が強まるなか、近年ではICTテクノロジーを活用して現場作業者を支援する仕組みが登場している。具体的には、工場や建設現場作業者、長距離ドライバー、インフラ保全技術者、医療・介護施設スタッフなど、現場で働く作業者/フィールドワーカー(現場作業者)をサポートするICTベースの仕組みや、各種ロボット活用(作業支援、コミュニケーション、サービス、歩行支援など)の検討・試験導入が始まっている。これを弊社では、フィールドワーク支援ソリューションと呼ぶ。

フィールドワーク支援ソリューションは、「現場作業の支援」「安全管理/健康管理」及び「研修・トレーニング」を主たる目的としており、この中でも‘保全業務支援’及び‘現場作業の効率化’で期待が大きい。

サービス提供方法としては、各種スマートデバイスやロボット(作業支援、コミュニケーション、歩行支援タイプなど)を活用するケースが想定される。この中でも、スマートグラスやHMD(Head Mounted Display)に代表されるウェアラブル端末の登場及び、ネットワーク(IoT、モバイル、LPWA、WifFi、サブギガ帯など)やVR/AR、AI(音声認識/自然言語処理、画像解析など)、センシングといった様々なICT機能の適用領域拡大により、フィールドワーク支援ソリューションの活用機会が急激に拡大している。

製造/建設でのビジネスモデルを変革するフィールドワーク支援ソリューション

製造や建設現場では、2000年代後半から「人手不足」「人材育成(教育・トレーニング)」「ノウハウ継承」「作業者の安全/健康管理」といった部分で、ICT技術の導入や利活用が始まった。そしてここ数年では、IoTの普及及びスマートデバイスの進化により、この両者をベースとした様々な現場作業支援の仕組みが検討、導入されるようになってきた。言い換えれば、IoT&スマートデバイスにより現場でのビジネス構造(事業推進体制)が変化し、ビジネスプロセス全体を変革するモデル構築が可能になってきた。

例えば、製造設備・機器の保全業務において、従来のベテランの経験と勘に頼っていた判断や評価ノウハウをデータ化し、それを可視化することが「見える化」になる。これにより、ベテラン作業者だけでなく、中堅作業者、さらには新人でも保全業務をそつなくこなせるようになると期待され、作業全体の効率化と併せて、継続性の高い事業構造に転換できる。まさにビジネスモデルの転換が実現する。

このように、‘IoT×スマートデバイス’ベースのソリューションは、ビジネスモデル変革の可能性があり、この点は、特に製造及び建設で期待が大きいと考える。

【図表:期待される製造/建設向けソリューション】

図表:期待される製造/建設向けソリューション

矢野経済研究所作成

製造ではセル生産方式でのフィールドワーク支援ソリューションが先行する

多品種少量生産/セル生産方式では、業務支援ツールとしてのIT導入や、品質保証に寄与する現場データの測定・分析が重要である。またセル生産方式では、「作業者が多能工(教育・研修コストが高くなる)」「評価基準の明確化(現場データの収集・分析)」「作業者サポートシステムの必要性(投入・払い出し・トラブルシューティングなど)」といった業務特性がある。  これらのニーズ、特性を満足させる仕組みとして、フィールドワーク支援ソリューションは適している。つまり製造向けフィールドワーク支援ソリューションは、ライン生産方式よりもセル生産方式に適していると言えよう。

建設では様々なデバイスを使った仕組みが検討されている

建設では、現場作業支援と合わせて、安全管理、健康管理及び位置情報での適用が期待される。
現場作業支援では、タブレットを使った進捗管理(日報など)やスマートグラスやHMDを使った遠隔作業支援/作業マニュアル表示などの検証・導入が進んでいる。
 建設現場での健康管理・安全管理では、熱中症対策を念頭においたヘルスケアモニタリング(ウェアラブルデバイス/ストレッチャブルデバイス、各種センサーシステムなど)の導入が始まっている。まだPoC案件が多いが、猛暑が定常化するなかで作業員の高齢化が進む現場では、標準装備化する可能性も否定できない。
また建設現場では、作業支援ロボットの導入も始まっている。現状では、パワーアシストタイプと施工支援ロボットの導入が始まっているが、特に後者では作業工程が比較的平準化できる住宅建設分野などで期待がある。さらに近年では、現場の進捗状況や資材・建機などの位置情報の把握を目的としたドローン活用も検討されている。

フィールドワーク支援ソリューションの本格化は2020年以降

2014~2015年頃から、医療・介護/ヘルスケアや製造、建設、運輸/倉庫・物流などを中心に、徐々にフィールドワーク支援ソリューションの実装も始まっている。しかし、当該ソリューションが本格的に普及し始めるのは、現場での人手不足がより顕在化する2020年以降になると考える。
2020年以降には、団塊世代は全員が70歳台に突入する。
この時期から、団塊世代が作業現場から去っていく蓋然性は高まり(完全なリタイア、引退など)、その結果、経験とノウハウを持った作業者が決定的に不足すると考える。併せて、団塊世代引退の影響が大きな分野では、中堅作業者や若年層の採用を強化すると考えられることから、波及的に他の分野でも作業者の採用競争、人手不足が加速する。
このような見通しの中で、今から人手不足対策、さらにはベテラン作業者の知見・ノウハウの見える化/継承を始めないと、この現場課題が経営危機に転換する危惧があると指摘しておく。

関連リンク

■レポートサマリー
フィールドワーク支援ソリューションシステム設置数を予測(2018年)

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早川 泰弘(ハヤカワ ヤスヒロ) 上級研究員
産業調査/マーケティング業務は、「机上ではなく、現場を回ることで本当のニーズ、本当の情報、本当の回答」が見つかるとの信念のもと、関係者各位との緊密な関係構築に努めていきます。日々勉強と研鑽を積みながら、IT業界の発展に資する情報発信を目指していきます。

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