矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2020.09.04

現場の人手不足を解消するITソリューション市場が442億円規模に拡大、withコロナ時代でも遠隔/リモートをキーワードに拡大基調を予測!

コロナ禍の逆風はあるものの、人手不足は日本経済の構造問題

昭和から平成、令和にかけて、現場作業者の中核を担っていた団塊世代が70歳代に突入した2017年直前から(多くの現場作業者が離職すると想定される年齢)、様々な産業分野で人手不足が顕在化した。特に、「勘と経験」による部分が大きな職人の世界でこの傾向が強まった。そして団塊世代が後期高齢者(75歳以上)になる2025年頃にかけて、さらにこの傾向は加速する。

現在、国内での就業者数自体は拡大しているが、これは女性及び65歳以上の前期高齢者の就業が伸びているためで、現場作業者の中心となる「15~64歳の男性就業者数」は、ここ10年では微減基調が続いている(総務省統計局:労働力調査)。

今回のコロナ禍により、一時的には人手不足の緩和(有効求人倍率の低下など)が起きたが、基本的に少子高齢化をベースとした日本の人口動態は不変で、中・長期的に人手不足は避けられず、この点は依然として日本経済のアキレス腱になっている。

各種テクノロジーの進展で、人手不足の解消や就労環境を改善する試みが広がる

日本では、2015~2017年にかけて現場(フィールドワーク)での人手不足感が強まり、業種によっては「給料を上げても人が集まらない」「若手が入ってこないため、年々、平均年齢がアップする」「技術継承が出来ず、廃業せざるを得ない」といった悲鳴も聞かれるようになった。

この点はコロナ禍の中でも続いており、例えば、介護や生活支援/生活衛生関連のサービス業や警備員、建築・土木系の技能工などは、有効求人倍率の高止まりが起きている。

そのため、このフィールドワークで顕在化している課題を解消する取り組みとして、ITや通信、デバイス、ロボット、ドローンを始めとしたテクノロジー活用機運が高まってきた。これにより、作業効率/生産性の向上や就労環境の改善、健康経営/安全な職場環境の実現、研修/トレーニング体制の高度化などが実現してきた。

ここで、上記のフィールドワーク向けソリューションで注目される用途と実現する成果、利活用する技術などを纏めてみた。

①入力作業のデジタル化(台帳ソリューションなど)
例えば、日報や台帳作成を、従来の「紙と鉛筆」からデジタル入力化するソリューション。また、スマホによる介護記録や介護情報の伝達・確認など、チャット感覚で記録や情報伝達を行うソリューションもある。

②作業手順の提示/マニュアルソリューション
例えば、設備・機器/施設などの保全作業手順(作業マニュアル)を、作業者が持つスマートグラスやHMD、タブレットに表示する。また、画面表示に加えて、音声を使った工場での組み立て作業の遠隔指示ソリューションなどもある。高度な保全業務がある業種や、比較的頻繁に作業者が変更する業種などがターゲットになる。

③遠隔作業支援/リモートサポート
現場で問題が発生した際に、現場画像・データや音声、テキスト情報などを遠隔地にいる指示者(ベテラン作業者)が見て現場作業者に助言・指示する。主にメンテナンス業務において利活用される。 HMD&スマートグラスを使うと現場作業者はハンズフリーで作業を行え、作業中の視点移動が大幅に減ることで作業効率が向上する。

④安全・安心サポート
スマートデバイスを使って作業者の転倒/転落、危険な場所への立ち入り警告など、安全な職場環境づくりをサポートする。特に、高齢作業者や夜間・閉所・高所での単独作業者の行動をモニタリングし、転倒信号を検知してアラートを発するなどで、安全環境を実現する。また、ドローンを使った危険箇所での作業者の安全管理もある。

⑤遠隔健康管理/ヘルスケアモニタリング
過酷作業現場での熱ストレス(熱中症の危険性、高温下作業など)や身体的負荷(心拍数/心拍間隔、脈拍、体温など)をウェアラブルデバイスなどで測定し、事前設定した通知条件に該当した場合、管理者にアラートを出すような仕組み。近年は、特に熱中症対応で注目される。

⑥ドライバーの健康管理
ドライバーのバイタルデータ(心拍数、体温、心拍間隔など)をウェアラブル型センサーなどで把握し、日常的な体調管理を支援する。また、飲酒運転や眠気防止といったドライバーの安全運転を支援するソリューションもある(飲酒や居眠りの有無を検知・アラート)。

⑦位置情報をもとにした作業効率化
作業者や資材・原材料などの位置情報を把握し、作業手順の効率化やスペースの有効活用を実現。また、危険箇所への侵入監視など、位置情報を基にした作業者の安全管理ソリューションもある。

⑧ビジュアルツールを使った業務効率化
現場でのレイアウト変更や増改築時に、3D CADデータやAR・VR/MRなどを使って、設計段階から具体的イメージを実寸大で体感して、業務効率の向上を図る(導入前に模擬練習/研修を行える)。

⑨ロボットによる作業支援(協働ロボットなど)
業務用/協働ロボットなどを活用して、現場作業者の業務負担(単純作業、長時間作業、重い資材の運搬・危険物の運搬・危険個所通過、介護業務など)を低減する。他にも、床下や狭い場所での設備点検など、作業者が入りづらい箇所をロボットが点検する。

⑩コミュニケーションロボット/業務用サービスロボット
病院や介護施設などでの入院患者/入所者と会話を行うコミュニケーションロボット、流通やアミューズメント施設などでの案内ロボット、イベント紹介を行うコミュニケーションロボット、店舗でオーダーや配膳を行う業務用サービスロボットなどの普及が加速し始めている。特に、withコロナ時代での対人接触を忌避する上で、ロボットの再評価が進む。

⑪ドローンソリューション
主に現場監視/点検支援となる。広い建設現場での作業者の位置把握や進捗管理支援、インフラ設備点検支援、防災用途(河川やダム、のり面などの危険個所監視)、作業現場での安全管理支援などでの活用が期待される。

⑫フィールドワーカー向けの研修/トレーニング支援
ベテラン作業者が担っていた、新人研修の全部もしくは一部を代替するソリューションがある。これは、遠隔地から新人作業者への指導・指示(HMD&スマートグラスなど)を行ったり、新しい機器の導入時にAR/VRを使って操作方法を教えたり、ベテラン作業者が持つノウハウや知見の可視化/継承ソリューションなどが代表例である。

現場作業者支援とテクノロジーの融合とは

前述したように、フィールドワークで顕在化している課題を解消する取り組みとして、ITや通信、デバイス、ロボット、ドローンを始めとしたテクノロジー活用機運が高まってきた。

このような取り組みを行う事業者としては、スマートデバイスメーカーやITベンダー/SIer、通信キャリア/MVNO、ロボットメーカーなどが主なプレイヤーである。また、マーケットの特徴としては、特定業態が主導するといった構造ではなく、需要先や用途によって主導するプレイヤーが違ってくるといった点が指摘できる。そのため、各プレイヤーが有機的に結びついた展開が一般的になっており、全体的には緩やかな連動性を持ったビジネス構造が多い。この全体像は下図の通りである。

【図表:「現場作業者を支援×ICTテクノロジー」の構造】

矢野経済研究所作成

コロナ禍もフィールドワーク支援ソリューション※1には追い風になる。そのため当該市場は2022年頃から急拡大する見通し

矢野経済研究所では、上述した仕組みをフィールドワーク支援ソリューションと呼び、そのマーケットを調べた※2

前述したように、フィールドワーク支援ソリューションは、人手不足対応やベテラン技術者のノウハウ継承、さらには働き方改革/ワークスタイル変革の対応といったニーズを受けてマーケットが立ち上がった。現在でもこの背景要因に変化はないが、結果的にコロナ禍の影響もフォロー風になると考える。

コロナ問題に関しては、いずれワクチンや治療薬の開発に成功すると見られるが、短期的には‘リモート/遠隔’といったキーワードが、社会・産業活動でのバズワードとして訴求する。特に労働集約的な産業・業務においては、このキーワードが訴求する蓋然性は高く、幅広い業種・業務でコロナ禍に対応した‘リモート/遠隔’をベースとした取り組みが進展すると見る。

従来、フィールドワーク支援ソリューションは先進企業や大企業を中心に普及していたが、ここ1~2年はPocも含めた導入先の拡大が進んでおり、併せてコロナ禍に伴う特需見通しから、2年後には拡大基調が加速し、2025年度には1,700億円規模に急拡大すると考える。

※1:フィールドワーク支援ソリューションとは:フィールドワーク支援ソリューション(現場作業支援サービス)とは、スマートデバイスやタブレットを始めとしたIT機器/ITテクノロジーを活用した、「現場作業者(ユニフォームを着て作業する就労者イメージ)」の業務をサポートするシステムと規定し、作業者の業務負担の低減や作業効率の向上、働き方改革対応、作業者教育・トレーニング、ノウハウ継承支援などを目指している。
※2:「2020 フィールドワーク支援ソリューション市場の実態と展望 ~人手不足対応、働き方改革、ノウハウ継承/教育・トレーニングに向けたICT活用~

早川泰弘

関連リンク

■レポートサマリー
フィールドワーク支援ソリューション市場に関する調査を実施(2020年)
フィールドワーク支援ソリューションシステム設置数を予測(2018年)

■アナリストオピニオン
人手不足が深刻化する中で、ITテクノロジーは回答を出せるのか?

■同カテゴリー
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早川 泰弘(ハヤカワ ヤスヒロ) 上級研究員
産業調査/マーケティング業務は、「机上ではなく、現場を回ることで本当のニーズ、本当の情報、本当の回答」が見つかるとの信念のもと、関係者各位との緊密な関係構築に努めていきます。日々勉強と研鑽を積みながら、IT業界の発展に資する情報発信を目指していきます。

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