矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2026.03.30

SDV時代におけるモビリティサービスはどのように立ち上がるのか――甘い果実と味わううえでの注意点

CASEからSDVへとシフトし数年が経つ。SDVが登場した当初の盛り上がりに比べると、大分落ち着き、今では「もしかして収益化につながらないのでは?」との指摘も出てきている。そうしたなか、SDVのなかでも特にOTA(Over The Air)に焦点が当たるなか、自動車向けにスマートフォンのようなアプリケーションの提供を目論むスタートアップなどもおられるのではないかと想定する。ただ甘い果実には、毒が潜んでおり、食べ方を知っておく必要がある。そうした方々にとって本稿が有益(と思われる)な情報になれば幸いである。

期待高まるモビリティサービス

今回、取り上げるのは、まさしく収益化に絡む「モビリティサービス」である。本稿における「モビリティサービス」とは、OTA(Over The Air)を通じて車両の状態や周囲の道路状況など多彩なデータを取得、分析を通じて生み出されるサービスをさす。
同サービスは大きく分けてBtoB領域とBtoC領域に区分できる。まずBtoB領域として、例えば損害保険会社がOEMの保有するデータを活用し、パーソナライズ化された自動車保険の開発を進めることが可能となる。他方、BtoC領域は、OTAを通じて、車室内空間におけるエンタテインメントの充実、いわゆるIVIに絡んだサービスが想像できよう。もしくはナビなどに飲食店やパーキングの混雑状況を表示するなどのアイデアもあるかもしれない。

サービス開発の前に知っておくべき制約条件

このようにサービス面からみると、スマートフォンアプリなどを提供する事業者を中心に参入を狙っている事業者も多いのではないか。しかし、急ぐなかれ、自動車である以上、安心・安全の観点から幾つかの制約条件が設けられており、そうした条件を踏まえて要件定義が必要となるため、事業展開にあたっては、こうした規制を調査したうえで展開の有無を判断する必要がある。
本稿では、主たる制約として、日本自動車工業会による自主規制やデータプライバシー、ドライバーディストラクションを挙げておく。

(1)自主規制
まず「自動車工業会による自主規制」として、アプリケーション上、クラウドと繋がる画面を自由に表示しようとした場合には、アニメーションや広告の表示を含めて制約が設けられている。
例えば「画像表示装置の取り扱いについて 改訂第3.0版」において、表示機能のうち、視覚情報の表示機能および情報の内容として、「走行中に表示する視覚情報の内容は、運転に関わる内容にとどめ、かつ注視し続ける必要がないものであること。」と規定したうえで、附則において、走行中表示を禁止すべき情報の内容として、「①案内情報としての住所、案内情報としての電話番号は、走行中の表示を禁止、②レストラン、ホテル等の内容紹介は、走行中の表示を禁止」とある。
また、動画を使って情報を提供する場合には、「テレビジョン放送およびビデオ,DVD 等の再生により表示される動画を表示しないこと。」などとある。こうした規制内容を踏まえると、行きたい店舗の混雑情報などの表示は難しいほか、通常の広告をベースとした事業展開は成立しにくいといえよう。

【図表:静止画における走行中の表示可否】

日本自動車工業会「画像表示装置の取り扱いについて 改訂第3.0版」より、矢野経済研究所作成

(2)データプライバシー保護
次に「データプライバシー保護」に際しては、OEMが責任を負う形となるうえ、蓄積しているデータを活用したビジネスの展開も想定されるため、OEMによるプラットフォーマーへのデータ提供はGPS位置情報やパーキングブレーキのオン・オフなど、提供可能なデータはかなり限定される可能性がある。

(3)ドライバーディストラクション
そして、「ドライバーディストラクション(運転中における集中力の欠如により、運転の安全性が損なわれる状態)」に関する取り決めは、エリアごとに異なっている。自動車工業会の自主規制では「タスクが完了するまでの画面視認総時間が、8秒を超えないこと」と規定している。なお、米国では20秒などエリアごとに基準が異なっている。こうした取り決めからも、広告や混雑情報など集中力の欠如に繋がる情報の表示は難しいと考えられる。

まずはBtoB領域から立ち上がり、BtoC領域はLevel.3以降に本格化

(1)先行するのはBtoB領域
こうした規制の多くは自動車事故を抑制するためのものである。このため、モビリティサービスは、データを活用したBtoB領域から立ち上がると考えるのが妥当であろう。他方、BtoC領域は「直近では」なかなか難しいと言わざるを得ない。
もちろん中国のように「出社した際、自分の車内で映画などを見ながら食べる」「子どもを迎えに行った際に、早く着いた場合には路肩に止めて映画を観ながら時間を潰す」「車内でカラオケをしてストレス解消をする」など「車内で過ごす文化」が根付いていれば、エンタメ系のアプリケーションの提供などが考えられよう。しかしながら、日本では自動車は移動手段であり、中国のような文化が浸透しているとはいえない。

(2)Lerel.3を契機にBtoC領域が本格化
「直近では」と但し書きを付けたのには理由がある。運転手がハンドルから手を離しても自動車が動く状態、つまり自動運転レベルでいう3(条件付自動運転)以降になると話は全く違ってくる。
Lerel.3はシステムによる運転操作を一定の条件下で実行しつつ、作動継続が困難な場合は、システムの介入要求等に運転者が適切に対応するレベルである。つまり作動継続が困難な状況でない限り、運転手は目を離したり、ハンドルから手を離した状態が可能となる。
こうした状況になって初めて、安心・安全を保ちつつ、エンタメなどのアプリケーションに興じたり、運転手自身が走る車内で仕事ができる状況が成立するといえよう。そうした状況が成立したことを契機に、エンタメを含めたアプリケーションによるBtoC領域が日本において立ち上がり始めるものとみる。

(3)さいごに
モビリティサービスはスマートフォンと異なり、安心・安全にかかわる規制が加わるため、サービス展開に際しては、こうした規制を調査、把握したうえで、要件定義を進めていかなければ、特にBtoC領域は規制の網にかかりサービスインすることが難しい状況に陥る。これからモビリティサービスが立ち上がっていくなか、我々が持っている「自動車=移動手段」との認識をどのように変えていくのか楽しみでならない。

【図表:BtoB領域とBtoC領域の立ち上がりイメージ】

矢野経済研究所作成

山口泰裕

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■レポートサマリー
SDV時代における車載関連アプリケーション市場に関する調査を実施(2025年)
車載ソフトウェア(ソフトウェア開発ベンダー/IT系半導体メーカー/マイコンベンダー)市場に関する調査を実施(2025年)
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■アナリストオピニオン
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山口 泰裕(ヤマグチ ヤスヒロ) 主任研究員
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