矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

レポートサマリー
2024.10.09

車載ソフトウェア(自動車会社、自動車部品サプライヤー等)市場に関する調査を実施(2024年)

2024年の国内車載ソフトウェア市場規模は6,440億円と見込む。2030年には1兆円に迫り、車載IT系の構成比も69.8%と高まっていくと考える。

株式会社矢野経済研究所(代表取締役社長:水越孝)は、自動車会社(OEM)や自動車部品サプライヤー(Tier.1等)が手掛ける国内の車載ソフトウェア市場を調査し、主にOEMやサプライヤー側からみた制御系ソフトウェアや車載IT系ソフトウェアにおけるアーキテクチャの変遷や開発体制の変化、課題、今後の方向性などを明らかにした。
ここでは、2030年までの車載ソフトウェア市場規模、制御系と車載IT系の構成比予測について公表する。

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【図表:車載ソフトウェア(自動車会社、自動車部品サプライヤー等)市場規模推移・予測(領域別)】

【図表:車載ソフトウェア(自動車会社、自動車部品サプライヤー等)市場規模推移・予測(領域別)】
  • 矢野経済研究所調べ
  • 注:2024年は見込値、2025年以降は予測値。
  • 注:ECUなどの制御系やCASEを志向した車載IT系の車載ソフトウエアを対象とし、自動車会社(OEM)や自動車部品サプライヤー(Tier.1等)が自社で開発する。
  • 車載ソフトウェア費用や研究開発費、設備投資費用などから金額規模を算出した。

 

車載ソフトウェア(自動車会社、自動車部品サプライヤー等)市場の概況

車載ソフトウェアは、大きく制御系と車載IT系に分類される。制御系は自動車を電子的に制御するECU※1ユニットから構成され、ADAS(先進運転支援システム)などの高度化に伴い、搭載数が増加している。車載IT系はCASE(Connected、Autonomous、Shared & Service、Electric)を志向し開発されており、クラウドベースでの運用により、エンタテインメントを含むさまざまな車載関連アプリケーションが稼働することとなる。

自動車会社(OEM)や自動車部品サプライヤー(Tier.1等)が自社で開発する車載ソフトウェア費用や研究開発費、設備投資費用などから算出した、国内車載ソフトウェア市場規模は2021年で5,824億円となり、制御系と車載IT系の構成比は制御系が86.6%、車載IT系が13.4%となった。2023年の同市場規模は6,286億円(前年比101.0%、構成比:制御系77.2%、車載IT系22.8%)となり年々、車載IT系の比率が高まってきている。
直近、2024年の同市場規模は6,440億円(同102.4%)、構成比は制御系が71.5%、車載IT系が28.5%を見込む。背景としては、ビークルOSやHAL※2などを中心にOEMの研究開発費が急速に増加し、そのうち一部が協力会社(ソフトウェア開発ベンダー)向けに開発案件として流れている状況にある。他方、制御系は従来のECUが統合していくことも影響し、2022年から減少傾向にあり、車載IT系の構成比が高まっていく要因となっている。

※1:ECU(Electronic Control Unit)とは車線維持システムや車間距離制御システムなどを電子制御するコンピュータで、近年、一台当たりの搭載数が増加しており、搭載体積やコスト増が課題となっている。
※2:HAL(Hardware Abstraction Layer)とはコンピュータのハードウェアとそのコンピュータ上で動作するソフトウェアの間に存在するLayerで、ハードウェアごとの違いを吸収する役割を担う。
※参考資料:「車載ソフトウェア(ソフトウェア開発ベンダー)市場に関する調査を実施(2023年)」(2024年1月24日発表)

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車載ソフトウェア(自動車会社、自動車部品サプライヤー等)市場の注目トピック

■ドメイン型からゾーン型へのシフトに向けたチャレンジ
2020年代前半、OEM各社は車載IT系ソフトウェアの開発を盛んに実施し、特にビークルOSの研究開発を積極的に手掛けてきた。しかしながら、パワトレ系やシャシー系などドメインを重視した制御系ソフトウェアを維持した状態で、ビークルOSを実現するにはシステムが複雑すぎて、“繋ぎ”の段階で頓挫する事例が多く見られた。

そうしたなか、OEM各社は車載IT系との連携に向けてドメインから構成された従来の制御系を再構築、ゾーン型の制御系システムの開発に向けて検討を始めた。ゾーンアーキテクチャを実現するうえでは、従来とは異なる発想で制御系ソフトウェアを設計する必要がある。すなわち、パワトレ系やシャシー系などドメイン毎に括られたECUの束を一旦バラバラにしたうえで、「クリティカルな動作を要求されるもの」「情報量が多いものの多少の遅延は許されるもの」などにパターン化のうえ、改めて括っていく必要がある。
現状ではOEM各社ともに括り方について明確になっていないものの、ISO26262によるASIL(Automotive Safety Integrity Level:自動車安全水準)の考え方で捉えることが多く、クリティカルな動作を求めるものはASIL-D、遅延などが許されるものはASIL-Bなどと3?4区分で括るとわかりやすい。ここで括られた3?4群のECUは、ゲートウェイを介してHPC(High Performance Computer:高性能コンピュータ)に接続され制御される。HPCの上位レイヤにはアプリケーション層があり、求められる機能をアプリケーション上の要求に従って実現していく形となる。
例として、3つのHPCで構成する場合は、3つのOSが必要となる。従来から取組んできた1つのOSで構成する取組みは、多くの場合、成功しなかった。もし、制御系ソフトウェアを複数に区分できるとした場合、開発が簡単な機能から順次実装していくことが可能となる。

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車載ソフトウェア(自動車会社、自動車部品サプライヤー等)市場の将来展望

車載ソフトウェアの開発については、試行錯誤で進めることが多く、実際に国内大手OEMを中心に現在、ビークルOSおよび周辺システムについて急ピッチで開発を進めており、その成果として現れるのは2027年頃とみる。加えて、統合ECUへの収斂と相まって、車載ソフトウェア(自動車会社、自動車部品サプライヤー等)市場における制御系と車載IT系の構成比は2027年には概ね半々程度になるものと予測する。ただし、制御系ソフトウェアもドメイン型からゾーン型へとシフトしていくこともあり、車載IT系の規模ではないものの、継続的に投資が続く見込みである。
こうした次世代の車載ソフトウェアが実際に実車に搭載されるのは、2030年頃と考え、2030年には制御系と車載IT系を合わせた車載ソフトウェア(自動車会社、自動車部品サプライヤー等)市場規模は9,810億円に達すると予測、1兆円に迫る規模になる見通しである。

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参考:このレポートに掲載されている主なデータ一覧

■自動車産業を取り巻く市場の変化

  • 2024年半ばの自動車産業
  • 2027年半ばの自動車産業
  • 2022年主要メーカー別パワートレイン比較(国内)
  • 自動車における外部環境の変化(全体像)
  • MIC(モビリティ・インフォメーション・サークル )
■現在までの車載用システムの概要
  • クルマの研究/開発の一般的なフロー詳細
  • 「電気・電子」を構成するデバイス・システム
■車載用ソフトウェアにおけるアーキテクチャと支える技術
  • 主要OEM別車載ソフトウェアの変遷
  • vol.1のレポートにおいて示した次世代車載IT系の開発に向けたアプローチ
  • 2012年頃までの車載用ソフトウェアのアーキテクチャ
  • 自動車の一般的なECU Stack例
  • 2018年頃の車載用ソフトウェアのアーキテクチャ
  • 一般的なCentral Gateway + Domain
  • 一般的なCentral Gateway+Integrated ECU :(Domain型最終形)
  • トヨタ自動車におけるアーキテクチャ例
  • トヨタ自動車における2023年頃のアーキテクチャ
  • トヨタ自動車における2027年頃のアーキテクチャ予測図
  • HPC+Gateway+Integrated ECU :(Zone型)
  • トヨタ自動車における2030年頃のアーキテクチャ予測図
  • 本田技研工業における2030年頃のアーキテクチャ予測図
  • AUTOSAR Classicのレイヤ構成
  • AUTOSAR ClassicとAUTOSAR Adaptiveの比較
  • QNXのVehicle Platformレイヤにおけるポートフォリオ
  • トヨタ自動車、ウーブン・バイ・トヨタ、デンソーの役割と主な実施事項
  • ウーブン・バイ・トヨタを巡る経緯
  • SOAFEEのアーキテクチャ
  • BlackBerry IVYの概要
  • 自動車用先端SoC技術研究組合(ASRA)の概要
■モビリティサービス開発環境の構築の必要性
  • モビリティサービスによって享受できるメリットの例
  • ネイティブアプリ提供に係る売上高(直近3年の事業年度の平均値)
  • モバイルブラウザ上のウェブサービス提供に係る売上高(直近3年の事業年度の平均値)
■国内OEM3社の比較
  • トヨタ自動車における2030年頃のアーキテクチャ予測図
  • 競争領域と非競争領域の切り分け
■車載用ソフトウェアに関する各種市場規模推移・予測(2021年~2030年)
  • 領域別での車載用ソフトウェア市場規模推移・予測(2021年~2030年)
  • 領域別での車載用ソフトウェア市場規模推移・予測における制御系/車載IT系の折れ線グラフ(2021年~2030年)
  • OEM/サプライヤーなど別での車載用ソフトウェア市場規模推移・予測(2021年~2030年)
■今後の方向性
  • OEMごとの車載用ソフトウェア市場規模推移・予測(2021年~2030年)
  • 従来からのOEMを頂点とするピラミッド構造

 

■OEMにおける車載用ソフトウェア市場規模

  • OEMにおける制御系/車載IT系別での車載用ソフトウェア市場規模推移・予測(2021年~2030年)
  • OEMごとの車載用ソフトウェア市場規模推移・予測(2021年~2030年)
  • 2025年におけるOEMごとの車載用ソフトウェア市場のシェア予測
  • 2030年におけるOEMごとの車載用ソフトウェア市場のシェア予測
■サプライヤーなどにおける車載用ソフトウェア市場規模
  • サプライヤーなどにおける制御系/車載IT系別での車載用ソフトウェア市場規模推移・予測(2021年~2030年)
  • 【制御系】サプライヤーごとの車載用ソフトウェア市場規模推移・予測(2021年~2030年)
  • 【制御系】2025年におけるサプライヤーごとの車載用ソフトウェア市場のシェア予測
  • 【制御系】2030年におけるサプライヤーごとの車載用ソフトウェア市場のシェア予測
  • 【車載IT系】サプライヤーごとの車載用ソフトウェア市場規模推移・予測(2021年~2030年)
  • 【車載IT系】2025年におけるサプライヤーごとの車載用ソフトウェア市場のシェア予測
  • 【車載IT系】2030年におけるサプライヤーごとの車載用ソフトウェア市場のシェア予測

 

■トヨタ自動車

  • トヨタ自動車が取組む戦略的パートナーシップ
  • デジタルソフト開発センターの新設
  • 2018年頃のアーキテクチャ
  • ウーブンが構想したCASE対応
  • トヨタ自動車、ウーブン・バイ・トヨタ、デンソーの連携に伴う役割と実施事項
  • 2023年頃のアーキテクチャ
■日産自動車
  • アリアのコネクテッドサービス
  • 競争領域と非競争領域の考え方
  • 車載用ソフトウェア開発関連組織およびソフトウェア研究開発関連組織
  • OTAのカバー範囲の拡張
■本田技研工業
  • SDV事業開発統括部
  • ソフトウェアデファインドで実現したい世界観
  • ビークルOSが生み出す世界
  • 本田技研工業における2023年モデルのE&Eアーキテクチャ
  • SDVとE&Eアーキテクチャ

 

  • アイシン
  • イータス
  • エレクトロビット日本
  • ジェイテクト
  • デンソー
  • 豊田通商
  • ネクスティエレクトロニクス
  • パナソニック アドバンストテクノロジー
  • パナソニック オートモーティブシステムズ
  • 日立Astemo
  • BlackBerry(QNX)
  • ベクター・ジャパン
  • ボッシュ
  • Linaro(SOAFEE)
  • ルネサス エレクトロニクス

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関連リンク

■レポートサマリー
車載ソフトウェア(ソフトウェア開発ベンダー)市場に関する調査を実施(2023年)

■アナリストオピニオン
SDVを巡る開発競争が益々激化する車載ソフトウェア業界、競争領域と非競争領域の切り分けに注目
モビリティ×IT 自動車産業におけるIT新大陸 MICとはなにか
モビリティ×IT 激震の中核“ビークルOS”とは何か

■同カテゴリー
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調査要綱

調査対象:自動車会社、自動車部品サプライヤー(Tier.1等)、車載用ソフトウェア開発ベンダー
調査期間:2024年6月~9月
調査方法:当社専門研究員による直接面接取材(オンラインを含む)、ならびに文献調査併用

※車載ソフトウェアとは:車載ソフトウェアは、大きく制御系と車載IT系に分類される。
制御系は、「走る・曲がる・止まる」などの各機能を担うECUユニット(CPU)から構成され、自動車を電子的に制御する仕組みを担っている。一方、CASE(Connected、Autonomous、Shared & Service、Electric) を志向したSDV(Software Defined Vehicle)を前提として設計・開発されたソフトウェア群を、本調査では車載IT系ソフトウェアと定義する。

※車載ソフトウェア市場:本調査における車載ソフトウェア市場とは制御系や車載IT系いずれも対象とし、自動車会社(OEM)や自動車部品サプライヤー(Tier.1等)が自社で開発する車載ソフトウェア費用や研究開発費、設備投資費用などから金額規模を算出した。

※協力会社(ソフトウェア開発ベンダー)による車載ソフトウェア市場規模は、以下にて公表している。
車載ソフトウェア(ソフトウェア開発ベンダー)市場に関する調査を実施(2023年)」(2024年1月24日発表)

<市場に含まれる商品・サービス>
自動車会社や自動車部品サプライヤーが手掛ける国内の車載用ソフトウェア

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山口 泰裕(ヤマグチ ヤスヒロ) 主任研究員
ITを通じてあらゆる業界が連携してきています。こうした中、有望な業界は?競合・協業しうる企業は?参入障壁は?・・・など戦略を策定、実行に移す上でさまざまな課題が出てきます。現場を回り実態を掴み、必要な情報のご提供や戦略策定のご支援をさせて頂きたいと思います。お気軽にお声掛け頂ければと思います。

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