矢野経済研究所では、2025年1月に『2024 CAE市場の実態と展望』を発刊しているが、同レポートは主にソルバに焦点を当てた内容となっている。しかし、CAEはソルバだけではなく、前処理と後処理を担う、プリ/ポストプロセッサも欠かせない。
そこで本稿では、CAE業界において世界でもっとも長い歴史を誇るエムエスシーソフトウェアのプリ/ポストプロセッサに焦点を当て、その取組みを紹介したい
Hexagon Manufacturing Intelligenceについて、日本国内では3事業部制を敷いている。「設計&開発ソフトウェア」はエムエスシーソフトウェア社およびソフトウェアクレイドル社が担い、「生産用ソフトウェア」はヴェロソフトウェア社、DPテクノロジー・ジャパン社およびボリュームグラフィックス社、そして「計測機器」はヘキサゴン・メトロジー社が担う。
そうしたなか、エムエスシーソフトウェアは、1963年にMacNeal-Schwendler Corporation(MSC)として設立された。CAE業界のなかで、世界でもっとも長い歴史を誇る名門企業である。1963年に、初の構造解析ソフトウェアであるSADSAM(Structural Analysis by Digital Simulation of Analog Methods)を開発し、航空宇宙業界の初期プロジェクトに深く関わるとともに、初期有限要素解析技術の改善に取り組んだ。
同社は、1965年にNASAから、Nastran(NASA Structural Analysis)有限要素解析ソフトウェアを開発、商品化するプロジェクトを落札した。このときにMSCが開発した数多くのCAE技術は、MSC Nastranとして、現在にいたるまで、幅広い業界において標準的に使われている。
現在、エムエスシーソフトウェアは、ハイエンドかつ多彩な領域に渡る解析ができるソルバを各種用意している。CFDについては、ソフトウェアクレイドルのソルバも早いうえにプリ/ポストプロセッサの部分でメッシュを切るための革新的な技術を組込んでおり、自動車業界を中心に広く使われている。
(1)Patran
エムエスシーソフトウェアでは、プリ/ポストプロセッサについて主にCAE専任者を対象とした「Patran」と、設計者などを対象とする「MSC Apex」の2つを提供している。まずPatranは、有限要素解析(FEA)向けの汎用的なプリ/ポストプロセッサソフトウェア。ソリッドモデリングやメッシング、解析設定、ポスト処理の機能をはじめ、解析対応のモデル作成を合理化する豊富なツールセットを備えている。
MSC NastranなどHexagonグループのソルバはもちろん、Abaqusをはじめ多くのソルバに対応しており、線形から非線形、陽解法動解析、熱解析などが可能となっており、航空宇宙業界や自動車業界をはじめ多くのユーザーを抱えている。
(2)MSC Apex
次にMSC Apexは、エムエスシーソフトウェアが開発した設計開発プラットフォーム。主たる開発背景として、ソルバはデータを流せば問題ないとして、特に最も人手を要する部分であるモデリング部分を効率化しようとした点を挙げる。
こうしたモデリング部分の効率化に向けて、MSC Apexは「使いやすい」「覚えやすい」をコンセプトに、設計者や生産技術、実験担当をはじめ、誰でも使えるように「CAEの民主化」を体現しているとする。
サポートしている内蔵ソルバ機能は、設計者や生産技術などのユーザーが利用頻度の多い解析に限定。具体的には、MSC Nastranのうち、線形静解析や固有値解析、周波数応答解析、座屈解析に機能を限定して対応する形となっている。
機能面での特徴として、ダイレクトモデリング機能を有しており、直接的に形状を触ることができる点は大きな強み。また、CADの形状を変更した際には、メッシュの切り直しや境界条件などを自動更新する。加えて、メッシュが切れないときにアドバイスする機能などがあり、使いやすいとの声も多く寄せられているとする。
このほか、利用言語の面でもMSC Apexは使いやすく、覚えやすくなっている。Patranは基本的に独自言語であるPCLを使う一方、MSC ApexはPythonスクリプトを採用しており、エンジニア自身がプログラムを組み、モデル作成の自動化を行うことも可能。また、世界中のエンジニアが記述したPythonプログラムのツールをインストーラーに含んでおり、MSC Apexの標準機能で対応できない場合には、カスタムツールを活用して対応できるなど、非常に柔軟な仕組みとなっている。
実際にMSC Apexを利用する若手のユーザーからは「ゲームみたい」「使っていて楽しい」とのコメントも寄せられているとする。
【図表:ダイレクトモデリング】
出所:エムエスシーソフトウェア(株)提供資料より抜粋
最後に導入サポートについても見ておきたい。エムエスシーソフトウェアは、Patranをはじめ、多くの製品を対象に有償のトレーニングを用意している。
しかしながら、MSC Apexはトレーニングレスをコンセプトとしており、トレーニングの機会としては、半日程度の無償体験セミナーに留まる。他方、サポートツールを充実させており、日本語のチュートリアルやオンラインヘルプ、動画などを整備。MSC Apexにおいては特定のトレーニングではなく、ユーザーの利用に寄り添う形で自動化やアドバイスツールなどのサポートツールを用意することで、トレーニングレスを実現している。
本田技研工業株式会社は、既存のAdams CarおよびMSC NastranのモデルをMSC Apexに読み込み、Pythonスクリプトによる自動化と組み合わせることで、モデルの作成や解析準備、ポスト処理に係る時間を50%削減できたとする。
また、時間の削減に留まらず、MSC Apex上で設計担当者や実験担当者、解析担当者が共通モデルを利用し、全体像を把握、情報共有できる点も大きなメリットとして挙げている。
本田技研工業では、今後、量産モデルの車両設計開発にMSC Apexを使用していくことを計画している。
【図表:MSC Apex内でのAdams Carによる機構解析シミュレーション結果のポスト処理】
出所:エムエスシーソフトウェア(株)提供資料より抜粋
(山口泰裕)
■レポートサマリー
●機械系CAE市場に関する調査を実施(2024年)
●機械系CAE市場に関する調査を実施(2022年)
●機械系CAE市場に関する調査を実施(2020年)
■アナリストオピニオン
●電通総研が手掛けるCAEソリューションを通じた社会変革に向けた取組み
●日本でも実機試験に加えてバーチャル試験も必須となるか――NCAP におけるVirtual Testingの採用動向
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