矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2024.01.09

資産運用の強化へ「2023 事務年度金融行政方針」

2023年8月に公表された「金融庁2023事務年度金融方針」において、金融行政における重点課題および金融行政に取り組む上での方針が示されている。ここでは、FinTech領域に関連する内容を抜粋して記載する。
2024年1月より新NISA制度が開始され、それを含めた資産運用国への取り組みや企業のサステナビリティ開示、Web3.0 等の推進に向けたデジタルマネーや暗号資産等に係る取り組みなどが注目トピックとして挙げられる。

資産運用立国に向けた取り組みの推進

成長と資産所得の好循環を実現していく上で、機関投資家として家計金融資産等の運用を担う、資産運用会社やアセットオーナーに期待される役割は大きい。一方で、運用力やガバナンス等の課題も指摘されている。このため、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2023 改訂版」(2023 年6月公表)及び「経済財政運営と改革の基本方針 2023」(2023 年6月公表)に基づき、関係省庁と連携し、資産運用立国に向けた取り組みを行う。そのための具体的な政策プランを新しい資本主義実現会議の下で年内に策定する。

新しいNISA制度の普及・活用促進

2024年1月より開始する新しいNISA 制度に向け、制度の趣旨や内容の周知に努め、個々のライフサイクルに基づいた適切な制度の活用を促す。このため、NISA 特設サイトの利用者目線での抜本的な見直し、幅広い層への分かりやすさを追求したガイドブック等の作成、財務局や業界団体等と連携したイベント・セミナーの開催等を行う。
官民連携によるNISA推進戦略協議会の下、NISA活用の優良事例の蓄積等を通じて、NISA制度の信頼性を浸透させていく。顧客に対する説明態勢の整備や適合性原則を踏まえた金融商品の提供、金融機関による回転売買の勧誘行為の防止等の観点から、モニタリングを実施。投資未経験者も含めた利用者利便の向上、サービスを提供する金融機関や利用者の負担軽減等の観点から、デジタル技術の活用等による、NISA に係る手続の簡素化・合理化等を進める。

スタートアップ等の成長を促すための資本市場の機能強化

スタートアップの資金調達や、非上場株式の保有者の換金と新たな投資を円滑化するため、非上場株式のプライマリー市場、セカンダリー市場双方の取引活性化に向けた環境整備に取り組む。
プライマリー市場については、株式投資型クラウドファンディングの活性化に向けて、必要な投資家保護策とあわせ、非上場会社による発行総額上限の拡充を検討するとともに、投資家の投資上限額を年収や資産に応じたものとすることを検討する。また、特定投資家私募や少額募集のあり方など、スタートアップ企業の資金調達に係る制度について検討を行う。
セカンダリー市場については、特定投資家向けの非上場株式の私設取引システム(PTS)の運営を行う事業者の新規参入を促すべく、事業の特性に応じてPTSの認可要件の緩和等を検討する。
融資を含むスタートアップヘの資金供給やその他支援の状況について、銀行等のモニタリングを通じ、機動的に確認し、フォローする。特にベンチャーデットについては、レイターステージのベンチャー企業を更に成長させ、機関投資家も参入可能な大型IPOにつなげる等の観点からも重要である。そのため、金融機関の審査実務に新たな審査目線等を構築する取り組みを促進、支援する。また、成長に時間を要するスタートアップを念頭に、銀行グループが出資可能なスタートアップの範囲を拡充するための要件緩和を進める。

企業のサステナビリティ開示の充実

近時、サステナビリティに関する取り組みが企業経営の中心的な課題になるとともに、投資家が中長期的な企業価値を評価する観点から、サステナビリティ情報へのニーズが高まっていることを踏まえ、企業のサステナビリティ開示の内容について継続的な充実を図る。
改正「企業内容等の開示に関する内閣府令」(2023 年1月施行)において、有価証券報告書等にサステナビリティに関する考え方及び取り組みの記載欄が新設されたこと等を踏まえ、サステナビリティ開示の好事例を取りまとめて公表する。

フィンテックの推進に向けた取り組み

国内外の事業者の参入を更に促進するため、「FinTechサポートデスク」の機能や体制を強化する。また、フィンテックの魅力発信や国内外の事業者のネットワーキングの機会創出のため、「FIN/SUM」の更なる国際化を図る。加えて、FIN/SUMを中心に複数のサイドイベントから成る「Japan Fintech Week(仮称)」を2024年3月に創設する。
また、金融機関の一層のデジタル化・DXを支援すべく、国内外のフィンテック事業者との連携強化のためのミートアップの開催や、ITガバナンスの向上に向けた対話、デジタル化・DXに係る取組の好事例の発信等を行う。
2023年4月から制度が開始された賃金のデジタル払い(資金移動業者の口座への賃金支払い)については、その適切な運用に向けて厚生労働省との連携を進める。

Web3.0 等の推進に向けたデジタルマネーや暗号資産等に係る取り組み

ステーブルコインの円滑な発行・流通に向け、仲介者に対して迅速な登録審査を行うための取り組みを進めるほか、自主規制団体の設立を促す。また、期末時価評価課税の対象となる発行体保有分以外の暗号資産について、法令上・会計上のあり方を含め、税制上の扱いを検討するほか、暗号資産発行企業等の会計監査の機会確保に向けた日本公認会計士協会の取り組みを後押ししていく。くわえて、投資者保護に配慮しつつ、セキュリティトークンの流通の枠組(PTS 認可のあり方等)や税制上の扱いについて、引き続き検討を行う。
中央銀行デジタル通貨(CBDC)については、日本銀行におけるパイロット実験や財務省における有識者会議の議論が進められており、金融庁としても、金融システムに与える影響等の観点から、この検討に貢献していく。

石神明広

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石神 明広(イシガミ アキヒロ) 研究員
現在の市場の分析だけでなく、それによって何がもたらされるか、どう変化していくかといった将来像に目を向けていきたいと考えております。一歩踏み込んだ調査を心掛け、皆様のお役に立てるよう精進を重ねて参ります。

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