2023年4月に日本オラクルが「Oracle CloudWorld Tokyo 2023」を、アマゾン ウェブ サービス ジャパンが「AWS Summit Tokyo」をそれぞれリアル開催した。前者はおよそ3年ぶり、後者は同4年ぶりのリアル開催である。いずれのイベントも会場内は”待っていた”という空気に満ち溢れていたように思う。Web開催を否定するものではないが、肌で感じるものも確かにあると感じたイベントであった。
筆者が感じた両イベントの共通点は、大きく2点で
①自社(Oracle/AWS)の製品/サービスよりも顧客やパートナーの取り組みを広く伝えることに重きが置かれていたこと
②生成AIに関する取組みについて言及があったこと
である。
まず、①についてみる。
筆者が考える拡販施策のトレンドのひとつが「体験」である。ワークショップなどで、顧客に成功事例やシナリオなどを実際に体験してもらうことで、DX等に対する実感をもってもらう、という取組みである。体験の中で当該企業の製品やサービスは勿論利用するが、ITベンダ等が重視しているのは、製品やサービスを知ってもらうことよりも、効果を実感してもらうことである。
今回のイベントもその流れを汲んでいるように思えた。基調講演においても、多くのゲストが自社の取組みについて語ったが、利用した製品/サービスについて言及するよりも、課題や成功についてより詳しく触れられていたように思う。ゲスト登壇の前後、オラクルやAWSの担当者が事例の中で登場する製品/サービスについて紹介するシーンはない。これが体験をよりリアルなものと感じさせた。
そもそもユーザ企業にはそれぞれ目標や目的があり、それを実現させるために課題はつきものである。この課題を解決するならばAというツールが適している、という形が本来的なもので、Aを使いたい、が先行するのは違うだろう。となればユーザが製品/サービスを詳しく知る必要はなく、〇〇を実現できる製品やサービスがオラクル/AWSにはある、それで良いと思われ、今回のイベントにおいては、それぞれの企業における取り組みが広く伝わることが重要であると考える。となれば、何を提案するか、これまで以上に営業力が試される。
次に、②についてみる。
Oracle CloudWorld Tokyo 2023では、ChatGPTをエンタープライズ領域に持ち込もうとしているという話があった。また、AWS Summit Tokyoでは、基盤モデルについて既に検索機能などに搭載している話があった。例えばAmazon CodeWhispererでは、途中までコードを書けば、その先は提案してくれるという。実際に57%近く、早くタスクが完了した事例もある。
最近は、生成AIに関する報道等を毎日のように見る。横須賀市がChatGPTを試験的に導入する、といったものから、文部科学省が生成AIの活用・禁止をまとめたガイドラインを検討する、といったものなど様々である。
こうした日々の動きを見ると、セキュリティ面に対する懸念の声はあるものの、生成AIをビジネスで活用していく方向性に進むであろうことは予測でき、既に利用の開始・検討を進めている企業等も少なくない。
生成AIの種類は多岐にわたり、デジタルトランスフォーメーション(DX)が最初に盛り上がりを見せたときと同様に”どの生成AIを利用すべきか”、”自社の何に生成AIを使うべきか”、”生成AIを活用できる人材がいない”、などといったことが課題になると予測する。これらを見越し、既にITベンダは動き出している。
日立製作所は2023年5月に「Generative AIセンター」を新設したことを発表した。同社は、生成AIの社内外での利活用を推進し、Lumada事業での価値創出の加速と生産性向上を実現させる意向である。
「Generative AIセンター」は、生成AIに対して知見を有するデータサイエンティストやAI研究者と、社内IT、セキュリティ、法務、品質保証、知的財産など、業務のスペシャリストを集結し、リスクマネジメントしながら活用を推進するCoE (Center of Excellence)組織となっている。今後は、本組織が中心となって、文章の作成・要約や翻訳、ソースコード作成など、生成AIを日立グループ32万人のさまざまな業務で利用を推進し、生産性向上に繋げるノウハウを蓄積するとともに、顧客にも安心安全な利用環境を提供するという価値創出サイクルを回していくという。
2023年6月には、生成AIの利用を検討する顧客に対し、AIの活用に関する知見やセキュリティ・知的財産などの専門知識を組み合わせ、リスクをコントロールしながら、生成AIの先端的なユースケースや価値創出を支援するコンサルティングサービスを提供する。また、Lumadaアライアンスプログラムのパートナーである日本マイクロソフトとの協創により、Azure OpenAI Serviceと、日立グループの強みであるミッションクリティカルなクラウドSI力を連携した環境構築支援サービス、運用支援サービスを提供する予定となっている。
Ridgelinezも同時期(2023年5月)に生成系AIのコンサルティングサービスの提供を開始したことを発表した。本サービスにより、最先端の生成系AI技術の導入と倫理面や正確性、安全性の両立を図りながらクライアントの業務改革の実現や新サービスの創出を支援する。
Ridgelinezでは、すでに全社で生成系AIを業務活用しており、各種社内システムとのAIインテグレーションにより日々アップデートを行うことで、システム運用やセキュリティ対策も含めた実践知を蓄積している。
また、富士通の先端AI技術を素早く試せる新たなAIプラットフォーム「Fujitsu Kozuchi(小槌:コヅチ) (code name) - Fujitsu AI Platform」の展開を進めている富士通研究所の技術や、AIトラスト研究センターのAIの信頼性に関する研究結果、さらにAI倫理ガバナンス室の知見を取り入れ、品質の高いコンサルティングサービスを提供する意向である。この生成系AIコンサルティングサービスは、企業や組織が生成系AI技術を効率的に活用し、企業の競争力向上やイノベーション推進を支援するサービスで、アセスメント、実証実験(PoC)、実装の3つのフェーズから構成されている。
本サービスを提供する専門家チームは、業務デザイン、UXデザイン、AIテクノロジー、アジャイル開発、システムアーキテクチャ、情報セキュリティ、リスクマネジメント、ガバナンス、各分野のプロフェッショナルで構成されている。Ridgelinezは、アジャイル手法を用いたサービス導入により、スピーディに活用可能性を評価し、適用業務スクリーニング、ユースケース設計、PoC設計を行い、実装開発までEnd to Endで支援する考えである。
生成AIについては、ユーザの興味・関心も急速に高まっており、関連ビジネスが短期間に急成長する可能性が大きい。ビジネスに生成AIが利用されるのが当たり前、の光景は想定よりも早く訪れるのではないだろうか。
(小山博子)
■レポートサマリー
●ITベンダーの先端技術活用に関する調査を実施(2023年)
■アナリストオピニオン
●「AWS Summit Tokyo」
●なるかクラウド基盤市場変革 妥協のないオラクルクラウド
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