矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2019.05.07

マネージドクラウドサービスが市場拡大に貢献

重要性が増す運用サービス

矢野経済研究所では、2019年3月に『2019クラウドコンピューティング(IaaS/PaaS)市場の実態と展望』を発刊した。2018年の市場規模は前年比133.3%と、市場は順調に成長している(矢野経済研究所推計)。この市場拡大の要因のひとつは、充実しつつあるマネージドクラウドサービスにあると考える。

近年、市場ではハイブリッドクラウド化、マルチクラウド化が進みはじめ、ユーザは用途や目的に応じて最適なクラウドを活用できるようになった。しかし、クラウドサービスの運用は複雑化し、マネージドサービスプロパイダには、単なる運用以上のことが求められるようになってきた。オンプレミスに残すべきもの、クラウドに移行すべきものの目利きや、Amazon Web ServicesやMicrosoft、Googleなどが次々にリリースする最新サービスの効果的な活用方法など、ユーザからのニーズは多岐にわたる。マネージドクラウドサービスベンダも後者については、全方位で追いかけるベンダ、得意分野を追求するベンダなど各社各様だが、運用だけでなく構築からワンストップで提供するベンダ、マルチクラウドに向けて対応可能なプラットフォームの拡大を図るベンダなどが増加基調にある。今後、基盤の運用が複雑化していくことが見込まれる中、マネージドクラウドサービスの重要性はさらに増していくだろう。

本稿では、市場で存在感を高めていくであろう4つのマネージドクラウドサービスについて、取材を行った。簡単にではあるが、以下で、各サービスについてみてみることとする。

NECソリューションイノベータ「マネージドクラウドサービスfor AWS」

NECソリューションイノベータが提供する「マネージドクラウドサービスfor AWS」は、同社独自のクラウド運用基盤とAWSのマネージドサービスを連携し、AWS上に構築されたシステム監視から日々の運用、障害対応等を、MSPを取得したプロフェッショナルが実施するサービスである。同社は、AWSのマネージドツールを積極的に取り込むことで、システム構築と密に連携し、AWS環境に対する高品質な運用サービスを提供する。

同サービスは主にマネージメントサービス、運用サービス、監視・通報サービス、サービスデスクサービスからなる。サービスの主な特徴は、24時間365日有人でのシステム監視・サービスデスクやAWSの各種マネージドサービスを活用したきめ細かい管理、NECの自動化技術を活用した構築と運用の連携による複雑なシステム管理の効率化などである。また、同社はもともと基幹システムの運用に長けており、この経験を活かした運用品質がコアコンピタンスのひとつになっている。なお、この点は同サービスの選定理由として挙げられることも多い。
さらに、顧客に訴求することこそ少ないものの、クラウドセキュリティの第三者認証、ISO27017などを取得している点も他社との差異化要素のひとつになっている。

次に同社のターゲットについてみる。主な顧客は金融業や製造業などであるようだが、最近は金融業、自治体での需要も拡大基調にあるようで、このあたりを注力業種として考えているものと思われる。

また、今後は、AIやRPAなどを活用し、サービスの効率化を図っていくことも視野に入っていると推察する。

拡販戦略のひとつとして、公開事例を増やすことなどが挙げられるが、同社の事例は運用だけに留まらず、設計段階から関わっていくものも多い。同社は全体最適化が図れることなどを顧客に訴求することで、サービスの利用者を増やしていくものと考える。

クラスメソッド「AWS総合支援サービス クラスメソッドメンバーズ」

クラスメソッドが提供する「AWS総合支援サービス クラスメソッドメンバーズ」は、顧客のAWSクラウド環境を総合支援するサービスで、請求代行プランとプレミアムプランから成る。前者は、手数料無料で円建て請求書の発行などを行うプラン、後者はエンジニアの技術支援などが利用可能なプランとなっている。プレミアムプランでは、請求代行プランで受けられるすべての特典にプラスして、リザーブドインスタンスの購入代行や、週次レポートの提出、またオプションとしてコンサルティングや構築支援、運用代行、監視、脆弱性診断、などを提供している。

同社の大きな強みのひとつは、エンジニアの技術力である。この技術力は、同社が発信するメディア(ブログ)「Developers.IO」からもうかがい知ることができる。同ブログでは、エンジニアが自身の取組み等に関し、情報公開しており、それがユーザの「困った」を解決することにも貢献している。そのため、同ブログをきっけかに顧客になった企 業等も多く、同ブログが、同社の技術力の高さや、サービスに対する認知を高めることにつながっていると言える。また、請求代行プランでは、AWS利用料金が定価の5%オフになるなどの特典がある。こうして安価にサービス提供できることも、同社にとって強みのひとつとなっている。

同社の顧客をみると、規模(大手からスタートアップ)、業種ともに様々で、同社自身も明確なターゲットは定めていないようである。

次に、今後のサービスの方向性についてみる。同社は、2018年5月に無料のセキュリティ監査サービス「インサイトウォッチ」をリリースした。同サービスは、現在利用中のAWSのクラウド環境があるべきセキュリティ設定で正しく運用されているか確認を行い、結果をレポート形式で出力するサービスである。「エラー」の判断に対し、自社等で解決ができないユーザが同社に相談し、新規顧客となるケースもあるようだ。

同社は、2019年3月にAWSが選出する「APN Consulting Partner of the Year 2018」を初受賞した。同賞は、年間を通じて営業・技術・マーケティング分野など、パートナーとしての総合力でAWSの国内ビジネスに最も貢献したAPNコンサルティングパートナーに与えられるものである。同社は今後もAWS技術支援や情報発信など、多方面で貢献していく意向である。

TIS「エンタープライズ・クラウド運用サービス」

TISが提供する「エンタープライズ・クラウド運用サービス」は、顧客のプラットフォームの違いを意識せずに、顧客が必要とする運用を、高品質かつスピーディーにサービス提供するサービスである。

同サービスは①クラウド利用ガイドライン、②統合運用管理基盤、③エンタープライズ運用サービスの3つで構成されており、主な特徴は、マルチクラウド対応、オーダーメイドの運用サービス、24時間365日対応のサポート体制などである。同社が得意とする金融業界向けをはじめ、各業界向けのテンプレートがあることは、サービスの利用しやすさや、安心感につながり、他社との差異化要素のひとつになっていると推察する。

次に、顧客が同サービスを選定する理由についてみる。主な選定理由には、これまでの実績はもちろん、クラウド利用ガイドラインの提供なども挙げられる。クラウド利用ガイドラインは、大規模展開を想定したクラウド活用・運用ルール整備のための「クラウド利用ガイドライン」の作成を同社が支援するものである。顧客は、管理基準、セキュリティルールを事前に決めておくことで、展開時の効率性とガバナンスを両立させることが可能になる。また同サービスがマルチクラウド対応であるため、顧客はAWS版テンプレート、Azure版テンプレートなど、プラットフォームごとの特性を反映したテンプレートをベースに、Fit&Gapを行うことができ、ルール決めの工数を削減できるなどといったメリットを享受できる。

同社が提供するサービスは幅広く、既に何らかの形で同社と接点のある企業は多い。しかし、AWSプレミアコンサルティングパートナー、またMSPを取得しているということが、全くの新規顧客を獲得することにもつながっているようで、サービスの利用者は急速に拡大している。

同社は上流工程から下流工程までをすべて提供できる技術力・ノウハウ等が強みのひとつになっているが、工程の一部だけを同社に依頼することももちろん可能である。こうしたカバー範囲、選びやすさが、同サービスが支持される理由のひとつであると考える。

2019年7月にはセキュリティテンプレートも含め「エンタープライズ・クラウド&セキュリティ運用サービス」として現サービスのリニューアルを行う予定となっている。

日立システムズ「クラウド向け統合運用サービス」

日立システムズが提供する「クラウド向け統合運用サービス」は、クラウド、オンプレミスなど環境の違いを問わず、ユーザのビジネスニーズにフィットするIT基盤の構築・運用・保守までをトータルでサポートする運用サービスである。同サービスは、「ガイドライン作成」や「クラウド基盤設計・構築」、「クラウド統合運用」など複数のメニューから成るが、これらを単体で利用することも、いくつかを組み合わせて利用することもできる。

同サービスの主な特長は、20年以上にわたり日立グループのソフトウェアサポートで培ってきたノウハウ・技術力をベースに、ハイブリッドクラウド・マルチクラウドにも対応できること、様々なサービスを組み合わせ、ユーザのニーズにワンストップで応えるオーダーメイドのソリューションを提供できること、24時間365日体制の有人コンタクトセンタがあること、それらを支える多数のエンジニアが在籍していることなどである。

特に、日立グループの一員としてSIを含め、日々、様々な案件に対応し、優れた技術力・ノウハウを培っている同社エンジニアの存在は、同サービスにとって大きな強みのひとつになっている。また、これらのエンジニアがユーザの業務課題に寄り添い、ユーザ目線でともに運用スタイルを作り上げていくことは、他社との差異化要素のひとつになっており、ユーザもこうした柔軟性や日立ブランドに対する信頼感などを理由に同社サービスを選定することが多いようである。例えば、本サービスは、同社が提供するSaaS型サービスなどと組み合わせることもできることは柔軟性を示す一例といえる。

次に、最近のユーザ状況についてみる。同社では、明確なターゲットは定めてはいないようだが、医薬系のユーザが増加基調にあると言う。それ以外では情報通信業や流通業、製造業などのユーザが多いと推察する。また、金融・公共などにも拡大の兆しがあるようだ。同社は、AWSサミットへの出展などで顧客を拡大させ、今後も顧客の導入支援、設計構築・運用をトータルでサポートしていく意向である。

同社は、Amazon Web Servicesなどを中心に認定技術者の育成を強化している。こうして学んだ先端アーキテクチャと、これまで培ってきたノウハウ等の集積を強みに、今後もサービスの利用者を拡大させていくだろう。

小山博子

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