矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2019.06.25

「AWS Summit Tokyo」

既存ユーザの従量拡大により、AWSは年間平均41%と高い成長率を維持

アマゾン ウェブ サービス ジャパン(Amazon Web Services Japan)は、6月12日~14日にかけて幕張メッセで「AWS Summit Tokyo」を開催した。同サミットは、クラウドコンピューティングコミュニティが一堂に会して、アマゾン ウェブ サービス (AWS) に関する情報交換やコラボレーション、学習を行うことができる場である。

初日、基調講演のホストスピーカーはアマゾン ウェブ サービス ジャパン株式会社 代表取締役社長の長崎氏。同氏によると、2019年は33,000人を超える申し込みがあったという。日本では大阪でも同サミットが開催されることを考えると、国内ユーザの同社への関心は引き続きとても高いことがうかがえる。

参加者の内訳について考えてみたい。本サミットのコンセプトのひとつは、“日本のユーザがイノベーションを起こすための学びの場”にある。そのため、これから新しく同サービスを利用しようというユーザよりも、既に何かしらのサービスを利用中のユーザが、より良いサービスの活用方法を知るため、また、利用したことがないサービスに触れるため、本サミットに参加したケースが多いのではないだろうか。

なぜなら、米AWSの2019年第一四半期の売上高は、日本円(1ドル108円換算)でおよそ3.3兆円(利用料ベース)、年間平均成長率は41%だという。矢野経済研究所の推計では、ワールドワイドと日本の成長率に大きな乖離はなく、だとすれば国内におけるこの高い成長率は既存顧客の従量拡大によるところが大きいと推測する。新規顧客はスモールスタートが多く、また基幹系よりも情報系からはじめることが一般的で、既に大きなシェアを保有している同サービスが高い成長率を維持する上での存在感はさほど大きくなく、むしろ既存利用者が情報系システムだけでなく、基幹系システムでもAWSを利用することが利用料拡大につながる。もっとも、別の視点でみれば、既存顧客が積極的に従量拡大を行うほど、同サービスは利用しやすいということだ。

進化し続ける企業の“変わらないもの”

次々と新しいサービスをリリースし、2018年には前年(2017年)のおよそ1.4倍となる1,957のサービスをリリースした同社だが、創業以来変わらないものもある。そのひとつが、「地球上で最もお客様を大切にする企業」という精神である。この精神が同サービスの利用しやすさにもつながっていると筆者は考える。例えば、「Amazon Redshift」は、費用対効果の高いデータウェアハウスサービスとして知られているが、リリース当初は処理が遅いなど、ユーザからの不満もあったようだ。しかし、米AWSはそうした顧客の声に耳を傾けサービスを改良し、今では8割以上のユーザが満足するサービスに成長したと同社は言う。つまり、ワールドワイドでシェア1位のAWSですら最初から100%のユーザが満足できるサービスをリリースすることは困難な場合があり、クラウドの柔軟性とスピードを活かしたアジャイル型の開発によって満足度を高め、競争力を維持している一面があるということである。近年、市場はめまぐるしいスピードで変化している。その変化(顧客ニーズの変化を含む)に対応するため、また競争力を確保していくためにも、クラウドは不可欠といえる。

クラウド基盤市場の成長に弾みをつける、クラウド・バイ・デフォルト原則

【図表:クラウド・バイ・デフォルト原則に基づく利用検討プロセス】

図表:クラウド・バイ・デフォルト原則に基づく利用検討プロセス

出所:「政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針」各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議決定(2018年(平成30年)6月7日)

クラウド基盤市場は順調に成長している。この成長にさらに弾みをつけるとして期待されているのが、2018年6月に政府が閣議決定した「クラウド・バイ・デフォルト原則」である。これは、政府情報システムは、クラウドサービスの利用を第一候補として、その検討を行うものとする、その際、「クラウドサービスの利用検討プロセス」に基づき、情報システム化の対象となるサービス・業務、取扱う情報等を明確化した上で、メリット、開発の規模及び経費等を基に、検討するものとする、という原則である。クラウドサービスの利用検討プロセスでは、クラウドサービスの利用メリットがなく、かつ、クラウドサービスによる経費面の優位性も認められない場合のみオンプレミスとする、としている。同原則の発表により、公共機関におけるクラウド人材の育成が進み始めるなど、市場に弾みがついた。また、AWSも同原則は市場にとって追い風になるとみており、実際に、公共機関におけるサービスの利用が加速していると言う。同原則により、公共系システムはもちろんだが、民間企業のシステムについても(これまで腰が重かった企業においても)、クラウドがこれまで以上に高い優先順位を持って検討されることになり、市場の成長に寄与していくだろう。

小山博子

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