矢野経済研究所 ICT・金融ユニット

アナリストオピニオン
2020.01.14

産業向けIoTの本命は「製造」or「運輸・物流」or「自動車」?

IoTとM2M

M2Mは比較的投資規模の大きなビジネスである。そのため投資体力があり、投資効果が比較的明確な領域で展開する大企業/公益事業者が主体となっている。このためM2Mビジネスは、展開分野の広がりは限定的で、中小・零細事業者への浸透には課題がある。

一方、IoTではM2Mと比べてスモールスタートが容易で、相対的な投資規模が小さくてすむ。そのため、トライアルユーザを含めてビジネス領域は多岐に渡る(ターゲットが多岐に渡る)。

さらにIoTでは、スマートフォンやタブレットを活用したシステム構築が可能であるため、投資面やシステム構築面から見たハードルの低さといった特徴がある。この両者の差異点は以下の通り。

【図表:IoTとM2Mの違い】

図表:IoTとM2Mの違い

矢野経済研究所作成

IoTは回線ビジネスからソリューションビジネスに転換

ここ数年での「M2M⇒IoT」シフトにより、展開領域に変化が起きている。中でも大きな変化は、従来の「機器・設備の稼働状況の把握/見える化」が、IoTシフトに伴い「データ収集/収集データの分析」に力点が移った点がある。

つまり従来の回線ビジネスから、ソリューションビジネスへのシフトが進み、一部では量を求めないビジネス構造に転換している。そのためIoTビジネスは、大企業ベースのM2Mから、中小・零細、個人事業者も対象となるビジネスになった。

さらに近年はIoTとM2Mの垣根が低くなり、M2MはIoTにおける主要要素の一つといった位置づけになっている。これに合わせてITベンダー/SIerや通信キャリアでは、M2Mの名称を冠した組織が消える傾向にある。

IoT普及での課題

IoT社会の実現には、技術面や法規制・制度面などに加えて、社会的(人の意識)な面での変化も必須である。

現状では、社会や企業、個人がIoT社会(データが取られ、流通し、蓄積・分析される)を受容するか否か不明瞭である。例えば、自動車で注目される自動運転やコネクテッドカーでは、「人が運転しないことを社会が許容するのか」「運転情報が第三者に見られることを厭わないか」「商用車ドライバーが過剰管理と感じないか」などが問われてくる。さらに自動運転タクシーとなった場合は、運転手の雇用問題なども出てくるであろう。

この他にも、工場IoTでは「工場外に製造データを出したくない」「工場内では無線は使いたくない」といった意見も根強くある。また工場では、システム投資に数百万円~数千万円を投下することを許容するのかといった疑問もある。

IoT社会の実現には、このような社会的要因や社会の構成員である‘人の意識’の変革も必要となってくる。IoTによる社会変化を受容し、IoTのイノベーションを実現していくためには、技術革新とともに社会制度の変革、さらには意識変革が必要であろう。言い換えれば、IoTの進歩と併せて社会の仕組み/人の意識を変革するアプローチも併用しないと、本当の意味でのIoT社会は到来しない。

産業向けIoTの本命は?

IoT/M2Mでは、ソリューションビジネスへの転換を伴いつつ、本格的に普及する兆しも出ている。

現状でも確実にIoT/M2Mマーケットが存在するのは、「製造設備の状態・稼働監視」「エレベータ/建機などの状態・稼働監視」「エネルギー設備の状態・稼働監視」「自動車の状態監視・運行監視」「業務用機器(自販機、MFP、医療機器など)の状態・稼働監視」「機械警備/セキュリティ」「インフラ設備の遠隔モニタリング)」などである。

この中で本命視されるカテゴリーはどこであろうか?
「製造/製品?」「自動車?」「スマートシティ?」「運輸・物流?」「建設?」「防犯・セキュリティ?」「流通・サービス?」・・・いろいろ考えられる。この命題を考える上で、IoTが生み出す価値、並びにその価値がどの分野・用途で有効であるかを整理してみる(下図参照)。

【図表:IoTが生み出す価値と用途】

図表:IoTが生み出す価値と用途

矢野経済研究所作成

全体を俯瞰してみると、「製造/製品(大型機器)」及び「運輸・物流」におけるIoT普及可能性が高いと判断できる。

特に工場では、基本的に毎年の設備保全予算を用意しており、この部分をIoTシステム運用コストに転換することで、安定的にIoTシステムの維持管理が可能になると考える。つまり産業向けIoTの本命は、「製造/製品(工場)」になると考える。

尚、コネクテッドカーをIoT機器(デバイス)と考えると、「自動車」も本命の一つになる。

5Gの登場が、産業向けIoT拡大での転機になるか?

日本でも産業分野における5G活用が加速する見通しで、2020年代の中頃になると、既存4G/LTEや有線ネットワーク、無線LANなどの既存ネットワークを代替する形で、産業用「5G×IoTネットワーク」が普及してくると考える。

5Gに関しては現在、通信キャリアを中心にITベンダー/SIer、各種研究機関、ユーザ事業者などが連携して様々な実証を行っており、課題抽出や検証が進み、PoCに入る案件も少なくない。

しかし従来と変わらないモデル/価値であるならば、あえて5Gネットワークにする理由がない。むしろ信頼性やコスト面では、レガシーネットワークシステムに優位性がある。

このように考えると、IoTでの5G活用を促進する上では、既存の仕組みを上回る価値を創出することが必要であり、ある意味では「アイデア勝負」の部分がある。そうなると、既存ベンダーとは全く違ったレイヤーが登場する可能性がある。つまり「5G×IoT」は、IoTマーケット構造、特にベンダー構造を変革する可能性を秘めたテクノロジーと言える。

この点を背景に、現在、様々なベンチャー企業が5G系ソリューション開発に注力しており、数年先には、今とは全く違った景色になる可能性もあろう。

早川泰弘

関連リンク

■レポートサマリー
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